戯画さんの「キスアト」感想です。
戯画「キスアト」応援中!


発売は2014年1月。
戯画さんのキスシリーズ(?)作品、「キスアト Kiss will change, my relation with you」。
感想です。

どんな物語だったかといいますと。
美術学園に通う浅間真は、年度末製作の環境を何とか手に入れた。
その作業場に入ってみると、見入ってしまうほどのタッチで描き出す姿が。

それは、学年きっての天才児といわれる女の子で……。

という感じですが、もう少し詳細には体験版の感想でご紹介をしています。

それでは感想です。ちょっとネタバレ多めかもしれません。

うん、面白かったです。
戯画さんの作品で、納得できたのは久しぶりかもしれません。

体験版の時よりも、さらにテンポよくいろんなイベントが進んでいきますが、
決して駆け足というわけでもない。ボリュームが少ないわけでもない。

何をどのように思っていたのか、心情吐露がきちんとあるし、
その心情吐露の前段階、何か抱えているなという予兆を見せている。
それは、ほんの少し、さりげなく。

そして、キャラクタの心情に踏み込んがシナリオ、
感情部分が描かれているんですね。

例えば……。
ゲームスタートすると、才能の話が始まります。
果たして、才能があるのか、ないのか……。

「……月夜には、言えないし、きっとわからないものね」
棗梓(ヒマリさん)

天才児、星見月夜との関係性を軸にしたシナリオ。
そして、才能があるのか、ないのか……そういう話。

学科は得意で優等生。努力で勝ち取るタイプ。
真逆で、絵の才能は凄まじい月夜の面倒を見ているような間柄。
……ですが。

ものを作るクリエイターとしての劣等感。
月夜はコンクール入賞常連。でも、梓は無冠。
それとは別に、友達だという強い信頼性を向けてくる月夜。

いい子だといのはわかる、好かれているのもわかる。
でもそれとは別に、その腕に嫉妬する。
そのことに、申し訳なく思う。
だから、苦しい。

「……そこは、私も一緒だから。感性に頼れないから、ね?」

恋にしたって、実は月夜が彼のことを好きだったのではないか。
そんな事を思う。
その上で、主人公が選んでくれたこと。
優越感を持つ所が無いわけではない……。

すごく重く描かれてはいませんが、これはなかなかないシナリオでしたね。

それはそれとして。
恋人同士になってからの梓のかわいいこと。
「『あ』と『さ』が多すぎじゃない? とか考えなかったわけじゃないけど!」

だからこそ、梓が選ぶ道は……。

他のルートでも、梓と主人公の距離感って、ちょっとうらやましく思うくらい、良い関係です。

「わたしのほうが『綺麗な物』は描けるかもしれない。だけどね、わたしだって二人の事が羨ましいんだよ」
星見月夜(遠野そよぎさん)

学年トップの天才児ならでは、のトラブル。
学園からは期待をされるし、学生からは妬まれることもある。
お金、コネ。どちらも持っている。
その上で、さらに美人でスタイルが良い……となれば、近づく男性など警戒対象でしかない。
そういった事柄の対処が苦手で、だからこそ一人で過ごすことが多かった。

そうして季節が過ぎ、恋心の発露。
「……女の子の、やりかた……教えてください」は名セリフでしょう。

そうして仕上がった、女の子デビューの月夜。
しかし、そのかわいさ、女の子であることを愉しむ間もなく、
招かれざる客は現れます。

周囲は、いつだって勝手。
直接聞いたわけでもないけれど、外側からあれこれ想像して、
そして、決めつけていく。
それに巻き込まれた側は……。

そうして、ぼろぼろになっていく月夜。
直前に、おしゃれになったこともあって、
こう、登ってから落ちていく、というのはダメージありますよね。
せっかく整えた髪型も。
以前のように、きちんと食事を取らなくなっていたりして、
輝きがくすんできてしまっている……そんなイメージが湧いてきて、
ああ……、と。

結局、彼女は彼女の立ち位置に戻ります。
いいシナリオでしたね。

主人公は、スタート時点で、ほとんどのヒロインに顔も知られていないというのが、いいですね。
知っているのは、 藍川有紗(あじ秋刀魚さん)だけ。
ヒロインの行動範囲にどう放り込むか?
違和感なく行われていると思います。

一緒に過ごす内、徐々に好感度が上がっていったのか、
先輩の卒業では「連れて行ってもいい」と言われるほどになっていきます。

作るものが面白く、その上で、胃袋を掴んでしまったから、だったり、
そして、何か遭った時に隣にいたから、恋になっていく……。

自然な恋の始まり。
きちんとコンセプトそこまで落としこんで作られているのが、よくわかりますね。

だからかな。
きちんとキャラクタの魅力を感じる。

作品の展開としては王道だと思うんです。
ヒロインの集団に、主人公を放り込む。
そこにいたヒロインが、何らかの葛藤を抱え、あるいは事態に巻き込まれて、
過程をユーザーに見せつつ、解決していく。
その過程で、どこまで新鮮味を、共感を得られるか。
それはなかなか、難しいところだと思うんですよね。


よく、ゲームだと、優秀な結果を出しているキャラクタが登場しますよね。
いわゆる、優等生とか。天才とか。
けれど、それがどれくらい優秀なのか、今ひとつわからない事が多いです。
それは、周囲が画面の中に存在していないからだと思っています。

この作品の場合は、集団にいるという表現がきちんとなされています。

周囲にしたって、扱いが難しい存在だと思っているのか、
外側から推察して方針を決めてしまうとか。
その他、周囲の生徒からのやっかみ。
残念ながら順風満帆な制作環境ではありません。

単に、ガヤを入れている、という伝わらない表現でなく、
周囲の感情が漂っている。

こういう事柄が表現されてはいても、よく考えると、というレベルで、
ギスギスした感覚も薄くはなっています。

そして、表現されることによって、キャラクタの立ち位置というか、
キャラクタたちの存在している環境が分かる。
厚みを持って理解できますよね。


ファンタジー要素がなく、突拍子もない事態が起こらない。
この作品は、リアルよりほんのちょっと上、という身近感が、いいのかもしれませんね。
その上で、題材の選び方がうまい。
他の戯画作品とは、やっぱりキスシリーズ、違うと思います。

今月、「ハルキス」が発売されます。
そちらも期待したいですね。

それはそうと京子さん……、ちょっと残念でした。惜しいなぁ。


ダウンロード販売もあります。