CLOCKUPさんの「Erewhon」感想です。

2018年7月発売作品。

CLOCKUPさんの「Erewhon」は、”因習の村でマレビトとして奉仕されるADV”。

手記を元に、地図にない村を探し歩き、
紅い椿が咲き誇る場所へ迷い込む。

そこで楡井田幸仁は来訪神として歓待される。
村は、来たるべき二十年に一度の大祭を迎えようとしていた……。

という導入です。
体験版では、とにかく怪しい雰囲気に飲まれそうでした。

それでは感想です。ネタバレは少しあります。



CLOCKUPさんが、またすごい作品を生み出しました。
最後まで終えると、そういう感慨があります。

ただ……何というか。心臓に悪い作品でもありました。最後に到達するまでは。

怪しい雰囲気を感じさせられた体験版と書きましたけれど、
全体的に、怖いんですよね。何が起きるか分からなくて。
正体の分からない怖さ。

その雰囲気、怖さは本編で増していき、
いくつかルートを終わっても続いたまま。
つまり、全容が全く見えないままルートがいくつか終わってしまう。

こういう時、安心させて欲しくて、ついクリックを早めて進めてしまうんですが、
なかなか安心させてくれない。恐怖が続きます。
モラルのない閉鎖空間で“神”として美女たちを自由にすることが許される酒池肉林の舞台。
公式サイトの特徴には、こんなことが書いてありますが、
ポジティブに受け取れないタイプの舞台でした。

地図にない村。村の因習。
この村の常識が、プレイヤーも含めた外側の人間には異常であり、
その異常さを感じ取って怖さに繋がる。
様々な設定と、古語や祝詞にあるような細かい詰めまでされています。
それを活かした物語作りが、怖いと受け取れるのですね。

さらに雰囲気作りとして、
音楽にメロディをあまり持たせてないんですよね。
代わりに、太鼓であるとか、笛などの雰囲気重視の音楽作り。

そしてグラフィック。
彩色が本当にすごいですね。
鮮やかな紅だと思える椿咲く村の景色もそうですが、それが一面に囲まれた時の雰囲気。
これが実にすごいですね。見応えがあります。

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これは背景の一部ですが、夜のぼんぼりをここまで怪しく描いているのはすごいです。
実際にそこでぼんぼりのある社を見ているような雰囲気があります。

キャラクターデザインはジェントル佐々木さんですが、
ほんと、キャラクタって彩色で印象が全く変わりますね。
マットで怪しくも美しい。

グラフィックと音楽、作品設定に沿っていて、本当に素晴らしいと思います。


物語の都合上、面白くなってくるまで時間が掛かります。
最初の方のルートでは、見ている側がやきもきしてしまいます。

主人公、元々社会生活に疲れてドロップアウト、
山奥にあるという手記の村へ行ってみようという人物なので、
ちょっと精神的に弱いところはありますが、
この雰囲気なら、飲まれてしまうのも仕方ないかなと思えます。

例え御廻様と歓待されたとしても、主人公のような人物が、
全ては誰かの手のひらの上……になってしまうのも無理もないと納得できます。
それくらいの過去が、この地にはあります。

ということで、恐怖が薄れてくる、
物事が分かってくる最終ルートになると、面白くなってきます。
安心して楽しめていきます。

そこでも、新たな恐怖を生むことに成功しています。
得体の知れない恐怖から、人が持つマイナスの感情が陥れる事態。
そしてさらに、最初に感じた恐怖が、それ以上の大きさで迫ってくる……。
これが本当にうまいですね。素晴らしい。

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シーンを見ていて。
声優さんが大変そうだな、という印象です。
1ワードで隠語盛りだくさん。それが連続する。また、当然のものとして発声できる。
声優さんは本当にすごいです。

その声優さんを使った、集団の表現がすごいです。
人をしっかり多数描いている。それが何カットもグラフィックが用意されている。
そこに、多重に音声を重ねています。
BGVも複数、ボイスはさらに別。
それを同時に鳴らして、集団がここで蠢いていると表現しています。
なので、オススメはオーバーヘッドのヘッドフォンでプレイすること。
その方が良いです。
臨場感でしょうか。すごいです。

ただ、ウリのひとつ、隠語盛りだくさんなところは、あまり好みではなかったようです。
そもそも、この閉鎖的な村が、どうしてそんな語句を知っているのかな、
やっぱり村の教育でなのかな、みたいなことを考えて、
でも、そういう場面ではこういうことを言うものだと、
未経験者に教え込んだところで、そこまでズバリ適切に言えるだろうか?
あるいは、閉鎖的な村なのだとしたら、他の祝詞のように、
もっと小難しい名称で呼ぶものではないかなとか。
(このあたりは最近プレイした作品に引き摺られている様な気がします。申し訳ないですが)

そんな余計なことを考えてしまったのと。

あと、音としてそのセリフを聞いていて、そこまでバリバリに言わなくてもいいかな、とか。
好みの問題でしょう。

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構成は、鑑賞モードの~編という表記で、
ルートが設定されているのが分かるかと思いますが、
実は先にシーン鑑賞が埋まって、CGも埋まっているように見えても、
さらにエンディング分岐するんです。
具体的には、鑑賞モード画面左下に、総数から残り30%程度の未回収CGがあると表示され、
立ち絵が表示されない状態を指します。

CGが埋まっているように思えたし、タイトル画面は爽やかに変わるし、
立ち絵鑑賞が出てこないバグかと誤解しました。
残りがあるのなら、明示して欲しかったかなと思うんですね。

振り返ってみたら、救えてない物事もあるし、
明かされていないことも残ります。
が、この主人公で、この環境だったらこれが精一杯だろうかなと思ってしまうわけです。

辛い展開続きで、気持ちが終わりを求めたのかもしれません。

また、別ルートへの入り口も分かりづらい。
選択肢が幾つか増えるタイプなのですが、進めても未読箇所が差し込まれるタイプ。
同じ進行で何も変わらないように思えてしまいました。
なので、ルート進行は全て制御されていても良かったんじゃないかと思います。

本当は、シナリオ進行率をロード画面で確認できますが、気付かなかったのですね。
細かく詳細も表示できるのに。

そこから先に進めば。
ここまで来るとやっと、村の人はどういう教育を受けてきたのか分かって、
多少シーン中の言葉に納得いくようになります。
「椿の花を……貴女の体に咲かせましょう……赤い赤い……ひたすらに赤い……あの花を……」
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そして何より、戦慄、します。
体験版ではその予兆すら見せなかったけれども、これこそがこの作品の本質なのでしょう。

脅かす時の、惨劇を歩む時の王道。
一歩ずつ。です。

そうです。ここまで、無かったんです。
この設定項目を活かす場面が。
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しかしまだ、これでも最後にはたどり着きません。
悪夢を喰まねば、ならないのです。
そして。主人公だって、果たしたい望みがあるはずなのです。


怖さと凄惨さ、不自然さなどが気になって、シーンは楽しめませんでしたが、
いや、この作品ってサスペンスホラーですから。
かなり満足しました。怖かった。プレイしたのが夏で良かった。悲しくもなった。
しっかりしたボリュームの作品でした。

村のことが好きだと言って、誰かの幸せを願った十子の気高さが、
プレイヤーにとっても心の支えでしたね。
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すごい作品でした。うん。また希有な作品を生み出しましたね、CLOCKUPさん。


パッケージがDVDサイズだったのですが、
テーマカラーの赤で、映画のパッケージみたいに外装がきれいです。
盤面もオシャレです。
パッケージ外装と、内パッケージで衣服が変わるのも素敵。
箱じゃなくても、良い外装はデザインできるのですね。



ダウンロード販売もあります。
Erewhon

8,424円