シルキーズプラスさんの「バタフライシーカー」感想です。
シルキーズプラス A5和牛 『バタフライシーカー』

2018年3月発売作品。

シルキーズプラスさんの「バタフライシーカー」は、”クライム・サスペンスADV”。
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北国の大都市、白織市。
季節によって染められる白さ
夏も冬も白く煙るこの街は、異常心理犯罪多発都市でもあった。

警察の不足を補うように学生捜査員が前市長の代に始まり、
遠野圭介は、その捜査員の一人だった。
学園では、ムシクイこと昆虫美食部という部活を隠れ蓑に、
顧問を含め5名で活動している。

遠野圭介は、6年前に白織を震撼させた”蜘蛛”の被害者でもあった……。

という導入でした。
体験版でも充分に、おお、と思えるような驚きがあって、
これはこの先どうなるのかと、期待していました。

それでは感想です。
ネタバレは、まあまああります。



企画・シナリオは海原望さん。
原画は羽鳥ぴよこさん、でした。

うん。改めてジャンルの”クライム・サスペンスADV”というのを見て、思いました。
この作品は、上質なクライム・サスペンスです。

どちらかに寄っていってしまうんですよね。
惨劇の酷さをどんどん深く入れていくのか、
惨劇を忘れていってしまうのか。
どこかの要素は軽重が出てしまうものです。

ですが、「バタフライシーカー」。
バランスが良く、非常に読み応えのあるラストが待っています。
ああ、そうだ。これで良かった。
そんなエンディングまで、用意されています。

一気に進められてしまう量とスピード感もあって、中だるみもありませんでした。
間違いなく良作です。

雪が降り、池が凍る白織の白い景色と、そこで起きる凄惨な事件。
巻き込まれた人々が、遺された人々が、その犯罪にどう向き合っていくのか。

登場人物は、過去、様々な形で事件に巻き込まれていることがほとんどで、
その感情を様々な形で事件にぶつけながら進んでゆきます。

続く事件の最中、遠野圭介は誰かと関係を築いていきます。
その組み方も非常に良かったと思いますね。

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事件進展に必ず使われる、
遠野圭介の持つバタフライシーカーと呼ばれる能力が、
遠因しか見えないというところも、これまたサスペンス要素が高くて良かったと思います。
探査の映像は、そのものだけではよく分からない。
事件が終わると、本当に繋がっていると分かる。
これは上手い要素でした。

その探査の映像の紬ぎ方も良いのですが、
演出がすごく良いと思ったのは、何より、バッドエンド、でしょうね。

それなりの数のバッドエンドが用意されていますが、必要なバッドエンドになっています。
このバッドエンドって、演出だと思うんです。
物語においての演出。
ちょっとしたきっかけが、壊れやすい人の心には影響するという説得力。
だから、些細に見える選択肢は、こうした終わりが表現されるのでしょうね。

そしてそのバッドエンドは、楽曲『バタフライシーカー』が
タイトル画面にシームレスに移行するまでずっと流れるという、
ニクい演出。素晴らしいですよね。

続きがあるときの移行のさせ方は本当に上手いと思います。


さて。ヒロインごとの印象を。

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早乙女羽矢(あじ秋刀魚さん)

下級生ながら、身体能力に優れ、ムシクイでは荒事担当。
犯人を追いかけ、特注で補強された傘で刃物相手にも怯まない。
交友関係も広く、スマートフォン持った立ち絵がキャラクタをよく表しています。
過剰に犯人を懲らしめた過去があり、その流れでムシクイへ。

実は、過去に家族を事件で喪っているため、荒事に力を入れてしまう原因となっている。

体験版でもありましたが、意外にもこ利口なところがあり、
独りで捜査するため圭介を騙そうとしてみたりも。

遺族って、そういうのものなのかもしれませんね。
ただ昇華なんて、簡単にできない。
どんなに日常が楽しくても、やっぱり軸は変わらない。
そのためなら、どんなことだってやる。
歯を食いしばっているようなセリフが、あじ秋刀魚さんすごく良かったです。


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天童優衣(花澤さくらさん)

被害者遺族が多い学生捜査員において、例外。
温かい家庭があり、誰も喪われていない。
異常に高レベルの共感能力を誇る。
ルートでは、その共感能力が見事に発揮され、犯人を追い詰める活躍も。

この共感による洞察能力、少し怖いなと思ったのですが、
その怖さは、遠野圭介や桐生梓先生が感じたように、
九重透子と共通する要素だったから。
遠野圭介が抱える昏い部分に惹かれ、事件と向き合ううちに、いつか染まってしまうのでは。
染まって、優しいままに人を手にかけてしまうのでは、と。

だから、バッドエンドの時も、なぞらえた、なと……。

いやあ、でも桐生梓先生とのことまで見抜くのはちょっと怖いですよ、ね。
日頃は事件の話を聞いて貧血を起こすくらいなのに、
優しく静かに責めてくるのは、回避しづらい強さがありました。


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桐生梓先生(御苑生メイさん)

学園担任ではあるが、本来、白織警察異常心理犯罪対策係の一員。
遠野たち学生捜査員メンバーを監督する。
体験版で明かされていますが、遠野圭介の義姉、九重透子の友人でもあった。
学生捜査員として事件解明に没頭する圭介のことを心配してくれた人。
足りない推理を導き、フォローし、いざという時には白織署とのパイプになり、
あるいは奔走し、そして危険な目に遭うこともある。

ココア抱えているイベントCGがとってもかわいい。

でも。体験版の時に予想したように、ルートは……。
そんな回避の仕方あるか、と思ったんですが、
本当の意味で梓先生は圭介のことを心配していたから、でしょうね。
年頃らしい反応で、安心したのでしょう。

でも、ココア飲みにくるのって絶対に様子見だけじゃなくて平穏を求めてだと思うんですけどね。
そういう意味では大人に描きすぎかもしれない。


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氷室千歳(くすはらゆいさん)

他のムシクイ部員と同様に被害者で、
直接事件に遭ったという、遠野圭介と同じタイプ。
しかしそれとは別に、縛られているものがあり、感情がうまく理解できたり表現できない。
上級生であり、卒業間近。
プロファイリングに取り組み、データ分析等が非常に得意。

純粋な激情。喪失と忘却。
そして、自身を縛るものからの脱却。
感情が無いと自身を規定したものは、蜘蛛に看破される。

ある意味、同類と出会ってしまうわけで、
この人の儚さをなんとかしてあげたい、なんて思いながら進めていました。

いちばん、幸せそうなエンディングを見せてくれたのが、氷室千歳だったと思います。
同時に、バッドエンドの凄まじさもいちばんでした。


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どのキャラクタもブレがないのもすごいですよね。
例えば、天童優衣が共感力が高く、まるで義理の姉の九重透子のようだということは、
どのルートでも出てくるんですよね。
これだけのボリュームで、それほど重きを置く設定でなくともブレがないのは、
素晴らしいと思います。
少しずつ何かを残していき、次に繋げている。

明らかな伏線としては、各ルートで、蜘蛛のことが少しずつ明かされていきます。

6年前の事件のことを明かそうとするのを拒む蜘蛛。
視力はよくないが嗅覚が鋭いのではないかと明かされる。
そして、本当は、遠野圭介を護ろうとしていた結果ではないのか。

終局へ向かっていくという物語構成なのですね。


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九重透子(かわしまりのさん)

体験版で分かりますが、事件解明のヒントをもらいに行ってるのは、
連続殺人鬼・蜘蛛こと、九重透子。
訪問しても支離滅裂な会話になる。
かと思えば、凄まじい洞察力を発揮し、まるで全てを見てきたかのような発言は、
面会に来た者を当惑させ、激昂させ、……しかし突然に何かを恐れ、
責められていたはずが……と、当惑させて終わることになる。

どのルートでも、訪問したヒロインを見事に見抜き、抉っていくのも、
連続殺人鬼の蜘蛛らしい雰囲気を保っていたと思うのですが、
何より、最後まで、蜘蛛が謎の存在として置いておいた、というのが非常に上手い。

だからこそ、どんどん引き込まれるし、最終章が楽しめるのです。

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TRUEは、選択肢が増える形です。
が、これ、単に差し込まれただけじゃないんですよね。
改めて事件の流れを読み直す。そのことで、因果が繋がっていくのです。
差し込まれた選択肢があっても不自然じゃない構成。
むしろ、行動も遠野圭介らしい形になっています。

これだと、救われないヒロインが出てくるかなと思ったのですが、
何かの切っ掛けで、”嵐がやんだ”ようです。

最終的に、殺人鬼”蜘蛛”が生まれた理由は、
羽矢ルートで明かされたように、幼い頃の圭介が、騎士道精神を発揮させて、
捕まえた赤い蝶を逃がしたから、になるわけですよね。

そうだとしても。
白織の犯罪の多さ全てが、同じ切っ掛けで理由づけられていなくて、
本当に良かったと思います。
どんな理由だろうと、自分からやろうとする人間は、いる。

凄まじい構成力だったと思います。


そうそう。
正直いいますと、クライム・サスペンスで、
羽鳥ぴよこさんの起用は、キャラクタがかわいらしすぎるんじゃないか?と思っていました。
でも、体験版であっさり払拭、だけでなくて、デザインと動きの良さが光ってましたね。

例えばこれです。
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事件が終わって、プレイヤーとしてもほっと一息。
ムシクイでのクリスマスパーティの場面です。

このイベントCG、特に真ん中の天童優衣を観て欲しいんです。

当たり前の動きをデザインしたように思うのですが、
それだけ、天童優衣にとって自然な仕草を表現しているということ。
ちょっとゾッとするくらいハマった仕草なんですよね。素晴らしいです。

制服も、無理のないデザインで。
九重透子の私服デザインも、よく考えられていたんだなと。


不満なところを挙げるとすると。
気付けばシルキーズプラスさんも、もう5年が経過しているそうですね。
と、考えると、そろそろお願いしたいのが、システム面の刷新です。
ウィンドウサイズは調整がきくものの、バックログジャンプの搭載と、
セーブファイルもう少し枠が欲しいです。

でも、これだけなんですよね。


最初のバッドエンドあたりまでは、
バッドエンドになってしまったもどかしさもありました。

しかし、このテキスト運び。シナリオ運び。
本当に素晴らしいと思います。
これ、本当に完成された作品ですよね。美しいです。
シルキーズプラスさんは、素晴らしい企画とライターさんを擁していて、
これからも目が離せないブランドさんですね。

できればまた、良質のサスペンスを読ませて欲しいです。


ダウンロード販売もあります。