Namelessさんの「Deep One」感想です。

2018年10月発売作品。

Namelessさんの「Deep One -ディープワン-」は、”新本格バトルビジュアルノベル”。
do10
上水流という、深い山野と新都心が併存する土地で、
古い歴史を持つ斎野家の双子の兄妹、尚哉と九花は、
商店街や学園の人たちにお屋形様と慕われながら過ごしていた。

しかしある日。
ニュースからウェンティゴ罹患者が人を襲った事件を聞く。
それは、人をバケモノに変えてしまうもの。
尚哉と九花も、十年前に大きな被害を受けていた。

時同じくして、斎野の分家である文示宮が、反旗を翻す、”屋形倒し”を宣言する……。

そんな導入でした。

制作総指揮・脚本を堀ノ内遊女さん。
原画を、夏彦さん。劇伴としてOffshoreさん、斎藤悠弥さん。
背景美術に、ゆうろさん。そして映像制作にgram6designさんがクレジットされています。

それでは感想です。ネタバレは多少あります。


うん、面白かったです。

体験版は2つリリースされていますが、それをプレイした限りでは、
どっちとも取れないし、公式サイトの情報を見ても同じでした。

しかしプレイし終わると、”新本格バトルビジュアルノベル”として、
かなり納得できる出来になっていました。

前半のうちは、どうしてこんなバットエンドが用意されているのか?
そこが理解できなかったところでもありますし、
斎野尚哉ぼんくらというか鈍いし、敵として立ち塞がる文示宮篤はいけ好かないやつでした。
でも、ちゃんと納得できるようになるのです。ああ、そうか、と。

バトルも、ものすごく熱いです。
画面演出も相当がんばっていて、ハイレベル。
この辺りが納得感を生み出しているのでしょうね。


この作品は、フローチャート式の進行です。
バッドエンドに至った場合にもヒントが提示されますが、これは物語へのスパイスの提示。
読まずとも分岐に簡単に戻れ、集中力を切らすこと無く再開できます。
tipsも搭載されていますが、進行を妨げるような文言の置き方がされておらず、
スムーズに進めることができます。


何よりも、画面演出です。

こんな素晴らしい画面演出を行ってくれているんですね。
これが、バトルごとに毎回搭載されているんです。
しかも、ほぼ同じ動きがない。当然ですよね。同じ戦いなどないのですから。
でも、それをできるかどうかといえば、なかなか手を掛けているなと感じられるはずです。

他にも、公式サイトのギャラリーに豊富に公開されていますが、注意がひとつ。
できればこれ、公式サイトで観る前に、製品版で観た方が楽しめます。
というのも、ムービーの一つを紹介していますが、これ、音が入っていないんですね。
すると、片手落ちなんです。迫力が足りない。
ここに音楽とSE、そしてセリフが入って完成するんです。

しかもこのムービーになっているバトル場面は、かなり白熱した魔法バトル。
佑姫カスミ(神代岬さん)の見せ場でもあります。

というか、そういうことやっちゃうんだ、とシナリオには思いましたね。


そう、シナリオです。
体験版2では、上水流の双子の姉弟から物語が始まっていましたが、
意外にも、物語の幕開けは、英国から。
佑姫カスミの卒業試験として立ちはだかる、
魔術結社”鐘撞き堂”の最高位、サミュエル・ハーウッド(井出五郎さん)との戦いでした。

do12

この戦いは、この作品はこういうものなんですよ、と視聴者に宣言するものだと思います。
こういう魔法があるもの。こういう兵装があるもの。こういうバトルがあるもの。
登場人物たちはこういう会話をするもの。
そして、こういうテキストが綴られる作品であるということ。
「あら、まだわかりませんか先生。
 ――もう勝負はついたと申し上げているのです」
「……なんだって?」
珍しく眉をひそめる先生。
いや、もしかしたらその表情は、アタシがはじめて見る、先生の素の表情だったのかもしれない。
やや恣意的なイベントの置き方とは思うのですが、何より、バトルの構成が、
威力の大きい技を最後に出した方が勝ち、という決着になっていないのですよね。
チェス盤が演出で表示されますが、似た巧緻を感じます。

そして、佑姫カスミというキャラクタがどんなものか、
これから、どんな活躍で魅せてくれるか、期待が出来る第一印象でした。


そうなんです。
今回、体験版2つリリースされていましたが、体験版の切り出しはそこなのかな?と。
どう考えても、プロローグから1日目の同床異夢までを引っ張ってきた方が良かったのでは?と。

というのも、確かに登場人物の印象は掴める、かもしれませんが、
体験版の斎野尚哉のバトルでは、明らかにインパクトに欠けるし、ウリの演出も抑えめ。
印象付いたのは、ヴィクティムという存在が闊歩すること、
斎野尚哉が鈍感なこと、文示宮篤は何だってこんなに目の敵にしているのかな?という疑問。
やっぱりそれよりは、プロローグの魔法バトルのほうが良かったはず。
まず、そこがもったいないリリースの仕方だったかなと。


そして、斎野尚哉の声がパートボイスの理由って何故なんでしょうか。
これは最初から最後まで入れて置いて良かったのではないかと思います。
do16
ラストバトル近辺がちょっと良くないところがありますね。

まず、一気に深階層に潜ってしまうのがもったいないですよね。
考えてみれば、彼の武器は3種類あったわけです。”必要可決”あたりの人間としてのもの。
比奈森の魔導書こと”明鏡止水”。そしてこの”深層”。
彼の場合、他のキャラクタと違って、毎戦闘ごとに新たな力を付けていくわけです。
もうちょっとゆっくり成長しても良いのかな、と。
最初に獲得していたものは全く役に立っていないとも見えますし。

ラストはそれだけの相手、ということになるのですが、
果たしてその相手は、あれで良かったでしょうか。
相手の側は、誰でも良かったのではないですか。

必然の無い戦いに見えて、戦いのための戦いに思えて、覚醒させるための戦いに見えて、
到達点という感じを引き出せていなかったかなと、思ったりしてしまいます。

それでも、十全の状態で活躍できたキャラクタって、斎野尚哉以外では佑姫カスミだけに思えます。
云ってみれば、どこまで行ってもお家騒動に収まってしまう印象があるのは、
やはりバトルキャラクターが少ないのだと思うんですよね。
英国魔術結社でも災害指定級であるのなら、もっと関与する存在があっても良いはずです。
相手が少ないから、1回で役目を終えてしまう。すると活躍が物足りなくなる。

それと。
少し考えておかないといけないのは、この謝辞。ものすごくもやもやするんです。
do14
これは、声の大きい人に対する対応だったりは、しませんか。
その、声の大きい人は。プレイしていなかったりしませんか。
元々、出されたものに対して、斜に構えている方だったりは、しませんか。
仮にそうで無かったとしても、作品をクリックして進めるのは自分自身です。
そういう人の声に流されず、ただ真っ直ぐ、作品と向き合うべきです。

善い印象を持てない作品だって、確かにあります。
騙された経験もあります。直接嘘をつかれたことも。

元は同人作品だったとはいえ、こうしてここまでブラッシュアップされた作品は、
見事だったと思います。
少なくともバトルにおいてはハイクラスなのは間違いありません。


特典を見て期待を持った方が居たこと、気持ちはわかります。
個人的には柚原亜希をどう見せるのかが気になっていましたから。

次作で何かシーンを入れたとしても、ある程度全てが明かされた状態で、
同じような期待を持って見ることができるか。

難しいところもあって、このシナリオでは、入れ所が他にあまりないんですよね。
せいぜい、泡沫夜仔か、あるいは一葉だったかな、と。


とはいえ、ボリュームに関しては順当かなという印象です。
期待していたルートがないのは残念ですが、予想していたとおり
2作目も作るのであれば、早めにリリースされると嬉しいです。
だけど、その苦しさは。
この身を蝕む苦しさの元凶は。
むしろ苦痛(イタミ)の体現(アラワレ)ではなく、この身を焦がす寂寥(サビシサ)の塊――。
このタイプのテキストを産出するのは本当に難しいと思うからでもあります。
産出し続け、同調使役し、一作終えるだけでも大変です。
だから、今は数が少ないのでしょうか。それとも、ウケ難いから減ったのでしょうか。
ともかく、作る側に大きな負担があるのは間違いないです。
だから、期待も大きくなってしまうのでしょうね。

do13
例えば、体験版にあった、文示宮篤の柚原亜希に対する態度が首を傾げますが、
これから明かされる部分も多いのではないかなと思います。


不満はゼロではありません。
公式サイトの情報の出し方や、応援メッセージ動画もそうですが、
違和感は感じたものの、こうしてどこかに期待して買ってしまっているわけですし。

ある意味、情報の扱い方が上手かったともいえ、それに翻弄された形になりますが、
それは、ユーザーから見ると、裏切られた気持ちになっても無理はないわけです。
もう少し、販売店の先、ユーザーのことも見て欲しかったなと思います。
そうでないと、次回作を企画しても、お蔵入りになってしまうと思いませんか。

でも、それでも、そういう作品の外側情報を排除すれば、
バトルものとして良作であることは間違いないと思います。


プレイされる際には、必ずスペシャルパッチを適用しましょう。
Tipsも演出も、万全な状態で挑むのが、今回の”屋形倒し”です。



ダウンロード販売もあります。



次は佑姫カスミ。流刑に処された家と云われる佑姫の本流。
英国での戦いに場を移すことになりそうな印象です。