きゃべつそふとさんの「アメイジング・グレイス」感想です。

2018年11月発売作品。

きゃべつそふとさんの「アメイジング・グレイス-What color is your attribute?-」は、
記憶を無くし、外の世界からきたシュウは、
違和感を抱きながら”町”で生活し、そして1ヶ月。クリスマスを迎える。

クリスマスは、通うことになった聖アレイア学院の文化祭でもあり、
みんな、美術制作の発表をするのだ。
そして、仲良くなったユネの誕生日に、サプライズパーティを開く予定でも居た。
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しかし訪れたクリスマスは……炎に包まれた。
キリエが買い物をした商店街も、コトハ先輩が寮長をしていた寮も、
サクヤとかまくらを作った公園も、ユネと飾りを付けたツリーも……。

目の前の災禍を拒絶するようにユネが叫ぶと、
シスターリリィに案内された美術回廊の景色に移動していた。
そこにあった青いリンゴをシュウに差し出すユネ。
先ほど挙げた叫びのように悲愴な感情はなく、笑顔を見せた。
「私たちがここにいるのはね――やりなおすため、だよ」
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それでは感想です。
ネタバレはしないように気をつけます。

体験版をプレイされた方は分かると思いますが、
この作品は、この先どうなっているのかが、肝です。
ですので、ネタバレだけは気をつけたいところです。

その体験版。2つリリースされていましたが、
現在は後発のフルバージョンのほうだけ配布されていますね。
もしこれからプレイされる方は、こちらだけで大丈夫です。
いきなり製品版に行っていただいても問題ありません。

けれど、その体験版をプレイした当初、というより購入直前まで、
見送ろうかどうしようか悩んでいました。

というのも、フルバージョンの後半、第四章くらいにならないと、
物語が動き出さないのですが、そこに行くまでがあまり楽しめなかったのです。
この、彼らの日常みたいなものがどうも楽しめなくて。

この作品、企画シナリオを冬茜トムさんが担当されています。
他ブランド作品ですが、「もののあはれは彩の頃」を担当されていた方なので、
そこに期待を掛けました。
どう考えても話が広大そうだけれど、多分大丈夫だろうと。
ええ。
疑ってすみませんでした。本当に面白かったです。

仕掛け、尽くし、でした。
確かに、「もののあはれは彩の頃」と近い構造を持っています。

前半に散りばめたあれこれを、後半にどんどん巻き取っていく。
この時点でだいぶ痛快なのですが、その数が多いので、
巻き取っても巻き取っても、でもアレは?となる。
これを繰り返され続けて、気持ち良くなってしまうほど。
この感覚がすごすぎて、後半はぼーっとしてしまいましたね。

他の作品だったらここで終わるかも、というところで、でも終わらない。
隅々まで納得させ尽くすように、とにかく攻めてきます。

いわゆるTrueがあるストーリーですので、一本道……のように見えて、
違う構造も、意外性がありました。
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ただ、手放しで称賛するには、物足りないところもあります。
それは、演出面。

白い季節に映える見せ方で、悪くはないし、印象的ではあるのですが、
出来ることが限られているようにも、
ちょっと前の時代の作品のような演出に思えてしまったんですね。

確かに、キャラクターデザインは、梱枝りこさんお一人の担当のようですし、
これ以上CGボリューム増やすのは難しいかもしれません。
しかし物語の都合上、どうしても強い演出が欲しい場所が多かったんですよね。

それと、この物語ボリュームなら、どうしてもセーブファイル倍は必要ではなかったですか。


さて、物語について少しだけ。
舞台となる場所は、オーロラに囲まれた”町”です。
オンネトーと呼ばれる、見た目は美しいが、強い酸性湖の畔で目覚めたシュウ。
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記憶を失ったシュウは、オンネトーに隣接する、
町を覆うオーロラの外から来たのではないかと周囲から考えれます。

確かに、この町では、シュウが語る、これはこういうものという常識が通じないことが多く、
自身も何となくそんな気がします。
ところが、外の話題はこの町ではタブー。
記憶を取り戻したいと思うシュウは、もどかしさを感じながら生活します。

とはいえ、聖アレイア学院に転入、入寮し、
生活費も与えてもらえるような保護を受け、何より周囲から受け入れてもらい、
楽しく過ごす。

この学園の特徴は、誰もが美術制作をすること。
ところ構わず脱ぎ出す寮長のギドウ先輩など、年に数回ある文化祭で賞を取り続けているらしい。
変人だけど天才という雰囲気。
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ちなみにこのチェスも手慰みといいつつ造形に凝った手作り。
但しルールは壊滅的なオリジナル。

コトハ先輩はギドウ先輩と競うように絵画を、
キリエは映画製作(爆発があるもの)、サクヤは服飾、ユネは声楽と、
皆なにかの専攻制作をしています。
ただ全体的に美術が多く、服飾や声楽は殆どいません。

美術を尊ぶ文化があるようで、その最重要施設が美術回廊になるわけです。
聖アレイア学院の敷地地下全域の広さがあり、
様々な、シュウも知っている画家の絵画が収められている。
ただ、ピカソはこの町では知られていないのか、無い。

この町の人々は、この美術回廊で美術作品を知り、学ぶといいます。
そのせいか、図画から何かを読み取ることに慣れている、
長けているのが、この町の人々ともいえます。
読み取り……アートにおける約束事、それがアトリビュート。
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101年前にこの町を除く外の世界は滅んでおり、
そのアポカリプスをオーロラが救ってくれた。
そんなアメイジンググレイスが訪れたのがこの町の興り……なのだという。

文明レベルが低いわけではなく、寮の鍵は生体認証だったり、
鳩時計も音声応答だったりと、非常にレベルの高い部分もあります。


という、舞台作りがもう素晴らしいところ。
舞台における謎は、そのまま物語の謎でもあり、
けれどシュウたちの前にまず立ち塞がるのは、
そんなアメイジンググレイスの訪れによって生き延びたはずの町が、
どうして災いに落とされるのか。誰によってされてしまうのかということ。

これを探すためにシュウは幾度もクリスマスまでの1ヶ月を繰り返します。

ユネは、美術回廊めいた場所で待機。弓のような役目で、
矢となるシュウを12月2日に送り届けます。
回数制限があるのかと思いきや、そうでもなさそうで。
やることは、総当たり。
もたらされる原因を突き止め、それを解除する。または誰がやっているのかを探す。

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これ、選択肢画面です。
キリエだけしか選べなさそうに見えるかも知れませんが、
左右に送って別な絵画を選ぶと、別なキャラクターをマークする進行になります。
名画が選択肢って、オシャレですよね。

ここの選択肢は、とりあえずどうするかを聞いている、進行選択なのですが、
終わってみて考えたら、なのですが、各ルート後半の選択肢に意味を感じてしまいます。
「シュウは、どうするの?」
そんな問いかけに思えたりもするのですね。

True、一本道となってしまうと、最後に辿り着くまでにヒロインのルートがあって、
そこでヒロインの物語は終わってしまうように思えますが、そうではない。
最後の最後でも素晴らしい活躍をしてくれて、
かっこよさのあまり「よっ!アレイア1!」なんて声をかけたくなります。


大事なところでかかる音楽が、ピアノ曲『覚えていてね』なのは、してやられたなと。


コトハ先輩、というか、よもぎすふれさんが魅力的。
ですが、キリエ(桜田紅さん)もサクヤ(藤咲ウサさん)も良かったです。
それでも、やっぱりユネ(月白まひるさん)は妙にかわいらしかったです。
これはシナリオの巧さもあるんですが、ずるいけど、かわいらしく思えるのは仕方ないです。
梱枝りこさんのキャラクタデザインと、ものすごく合っていましたし。

でもね、でも、どうしてシスターリリィ(桜上水琥珀さん)と仲良くなれないのかなって。
休みの日、意外とぐーたらしてるとか、お肉好きとか。お酒飲むと笑い上戸とか。
良いと思うんです。
ある人には、いつまでも子供扱いされてしまう、とかね。
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冬茜トムさん、しげたさん。
シナリオ素晴らしかったと思います。
ミステリでも、ここまで組み上げた作品は珍しいですよ。

終わってみれば、冒頭数十クリックの間に、既に仕掛けが施されていて、
視聴者はもう、罠に落ちている状態。
それが、最後に分かるというのも、本当にすごい作品ですね。

いわゆる犯人当てを愉しむも良し、Why done it?と愉しんでも良し。
でも少なくとも。
”エンドレスクリスマスADV”、繰り返した先、
最後には、アメイジンググレイスを得ることが出来るのか。

「――もしかしたら、シュウがサンタさんなのかも……って」
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そんな、ユネの願いはオーロラの向こうに届くのか。
ぜひ、見届けてあげて欲しいと思います。

もののあはれは彩の頃」と同等、あるいはそれ以上の作品と感じます。
ある意味、今だからこそプレイした方が良い作品ですね。オススメします。


ダウンロード販売もあります。