PULLTOPさんの「さくらいろ、舞うころに」体験版プレイしました。
PULLTOPさん23作目の新作は「さくらいろ、舞うころに」。
じめじめしていると思った日本の晩秋は、意外にもひんやりとした空気で日野真也を迎えた。
日本は、五年ぶり。
母親の仕事の都合でカリフォルニアに転居して、妹の都合で日本に戻ってきた。
カリフォルニアへは半ば状況に強制されたが、日本へ戻ったのは真也自身の意志あってのことだ。
妹の雪を一人で日本に戻らせたくなかったのだ。
経緯を思えば、妹離れできてないかのようではあった。
ここでは、家族ぐるみの付き合いがあった、戸間里弥生の世話になる。
今では清風学園の教師になっている戸間里弥生の車に乗り、
学園で転校手続きという名の面接を受けた。
学園長先生はおおらかな印象だった。
妹の雪が導火線の短いところを見せたが、優しく諫めてくれた。
そして雪は戸間里先生に連れられ部活見学に行き、
真也は学園パンフレットを手に校舎内を歩いてみた。
清風学園は、校舎自体がとても大きい。廊下や教室から広めに設計されており、
グラウンドに至っては、野球部と陸上部とサッカー部が休日なのに活動していた。
さらにテニスコートも別にあるようで、これだけの部活が一度に活動できる環境はそう無いだろう。
窓を開けてみると、パンフレット通りに港町らしい海風を感じる。
どこからか軽音学部が奏でているらしい、クラシックなロックも聞こえてきた。
「ねえ、そこのあなた」
不意に声がかけられ、振り向くと、感極まったような声の主は女の子だった。
「わざわざ休日に学生会室まで来てくれたってことは、そうなんでしょ?」
視界の端には、確かに学生会室とプレートがある。
「ようこそ、卒業式実行委員会へ。私は委員長の水城みな。あなたの入会を歓迎するわ」
満面の笑みを浮かべながら、軽やかに手を差し出してきたのだった……。
SD原画に、鳥取砂丘さん。
シナリオは、桃ノ雑派さん、若葉祥慶さん、甲二さん。システムは従来のPULLTOPさんのものです。
ウィンドウサイズ調整ができず、セーブファイルが少なく、
AUTOモードの調整もしっくり組めないのですが、安定しているシステムです。
さて、この作品体験版では、
水城みながやろうとしている卒業式実行委員会に関わる、というのが流れです。
清風学園の卒業式は、実行委員会主動の、多彩な式が行われてきました。
仮装したり、映画を撮ったり、胴上げを空撮したり。
しかしここ数年は、そういう卒業式は行われず、一般的な式に留まっているのだとか。
過去に行われてきた、関わる人みんなの心に残るような卒業式がしたいと発起したが、
未だ誰も参加者が現れない……という状態で、物語が始まります。
最初に、ensembleさんでよく使われる、あの駅の背景が映るんですね。
同じ場所なのかと、ちょっと楽しく思ったりしますよね。
タイトルの出し方や、作品の流れも近いところがあります。
その、近いところ。少し気になるところがあります。
物語は、人がどのように動くかによって進み方が決まります。
変なハプニングが無いことは好感を持てたのですが、
けれど、登場人物たちがどうも魅力を削ぐ行動をされてしまうんですね。
早とちり、冷静でない、伝達不足、価値の押しつけ……。
それが最初の山場に集積して現れます。
日野真也が日本に転校してきて入る寮が、実は女子寮で。
学園の認可は受けているものの、既に入寮している女子たちに伝えられておらず、
満場一致の反発を受けるわけです。
しかも、一部の入寮者は男性を信用していない発言を、直接ぶつけてきます。
女子寮だと思ったから入寮した人たちにとっては、反発するのも無理もありません。
しかし、用意された住む場所がここだと思っている日野兄妹と、
学園の認めを受けた寮長の戸間里弥生先生にとっては、納得して貰わないといけません。
既入寮者と希望者が対立する流れになり、お互いヒートアップして、
妹の雪は、日野真也の過去を叫んでしまいます。
「確かに一回手錠嵌められたことあるけど、それだってちゃんと理由があるんだから!」
男で犯罪者。このことで、反発はさらに強まります。
雪は、自分が招いたことなのに、癇癪を起こします。
後に、日野雪から語られるエピソード、「あんたなんか、あいつらと一緒じゃない。そんな人達と暮らすのなんて、こっちからお断り。野宿の方が百倍もマシなんだから」
雪を守るための結果が、日野真也の暴力沙汰となったというのは良いのですが、
そのエピソードを信用しないのが、こういう拒否反応を持つ方たちだと思うんです。
なんで信用するのでしょう。
うーん。
雪にしたって、あそこまで反発したんだから、
受け入れを許可されても、雪側は受け入れられないのでは?
雪にしたって、あそこまで反発したんだから、
受け入れを許可されても、雪側は受け入れられないのでは?
雪が傷ついた、雪が反発したポイントは入寮を認めないことではないのだから。
この解決では、お互いに認め合った部分のズレを感じます。
水城みなさん、クロエさん。理子さんもそうですが、
これで埋め合わせって酷いと思うんです。
また、雪は三人に礼を言っていますが、三人のお陰では決してないですよね。
というか、日野兄妹や戸間里弥生、脇池恋にしても、
最初から目的を意識して居た行動には思えないのです。
こうなってきますと、感情が爆発すると何でも言ってしまう雪も、これでいいのかなと。
他のキャラクタより感情表現豊かなことと、最初から味方で居てくれるだけ、魅力的には思うのですが。
この流れの予兆は、日野真也を卒業式実行委員会参加希望者だと思いこんだこと、
クロエを助けたのに、泣かせたと早とちりする堂上理子にも現れては居たのですが。
これ、ensemble作品でしたら女装しているので回避される拒否反応ですよね。
そもそも、強引に女子寮に入れる理由ってありますか?
入れないと今後の運用が困るのだとは思うのですが、
それ以外に見せたいポイントが、主人公への好感なのでしょうか。長々書き連ねましたが、この場面、
間違いなくキャラクタが物語の都合で喋らされているのです。
キャラクタが悪いわけではないのですが、良い印象は持てないなと。
それ以外の面は目を見張るものがあります。
たとえば、キャラクタのバックボーン。
クロエがどうして苦手になってしまったのかと、そこから一歩踏み出すまでの流れは、
良かったねという気持ちで見ていられます。
がんばれ、名前で呼ぼうと、仲良くなろうと決めたことを……!みたいに応援できます。
他のキャラクタも、つい応援したくなるバックボーンがあります。
また、アメリカでの生活やエピソードの選び方がなかなか良いのです。
それらを地の文でうまく取り扱っています。
そう、地の文がすごくしっかりしているんですね。
例えば主人公がどんな風に思っているか、その思いにどういう動きをするか。
読ませてくれるテキストがあるんです。
登場するキャラクタたちはうまくいっていないことが多いです。
クロエは、人付き合いの苦手を何とかしたい。
北美凜は、部活のテニスがスランプ。
戸間里茉莉子は、主席から不意の体調不良で卒業が危なくなっている。
そして、水城みなが卒業式実行委員会を頑張りたいのは、自分も何かができると証明したいから。
自分は何ができるのか、何をしたいのか。
そこから一歩歩み出すのが卒業だとしたら、問いかける時期でもあるのでしょう。
場合によっては人につい当たってしまうこともある。
迷ったとき、人は人とつながることで、道が見えることがあります。
道に気付けることがあります。
最初はそれこそ、水城みなの考えた卒業式企画は、
インパクトを残すことが重点となっていました。
見かねた日野真也の作った夜食で、気付くこともある。気づきで一挙解決に至らない。
けれど、不器用な彼女が、自分の足りないものを少しずつ少しずつ見つけていく、
そんな流れがとても良いと思います。
物事を簡単に解決させず、一歩ずつ登っていくのが良いですね。
成長は、育っていくのは、少しずつ。
また、委員会全てのメンバーが、
水城みなの思うような卒業式を求めていなかったりします。
どうやって意志統合していくのか、楽しみですね。
こういう描き方だと、やっぱりどういう卒業式を作り上げるのかが肝になると思うので、
画面のこちら側から見ても素晴らしいと思える卒業式を作り上げ、
妥協せず徹底的にその過程をしっかり見せてくれることを願います。
気になるところはありますが、
どのキャラクタの物語も応援したくなる状態なのと、新鮮な雰囲気のあるテキストなので、
候補にしておきたいと思います。
公式サイトのつくりがなかなか良くて。
他の作品であればサンプルCGを掲示しているページが、ALBUMとなっているんですね。
マウスなどでALBUMをめくるように操作すると、CGが見られる。
コメント付きで、付箋も貼ってあり、巻末には編集中!と書かれています。
こういうところも、良いですね。
2019年2月22日(金)発売予定です。
PlayDRM搭載とのことです。
ダウンロード販売もあります。