minoriさんの「その日の獣には、」感想です。

2019年1月発売作品。

minoriさんの「その日の獣には、」は、演劇を題材にした作品。
”じゅうぶんな、はずだった。”がキャッチフレーズ。

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親が著名な脚本家。
その劇を見たときから虜にされ、同じ道に憧れを持つ友瀬律希は、
元子役で妹の瑠奈と演劇部に所属していた。

一年である彼らは、全国大会参加の部内選考会にも出ることができない。
その方針に反発し直談判、選考会前の舞台演目披露の許しを得る。
チームとして組んだのは、同じ一年で幼馴染み池貝舞雪。
そして、身体が弱くクラスでも独りで居る深浜祈莉。

著しく演技力が増した池貝舞雪のお陰で、部長のウケは良かったが、
何故かまた演技力が元に戻り、チームの雰囲気も良くない状態に。

そこへ、深浜祈莉が新たな台本を持ってきた。
そのタイトルは、「ソノヒノケモノニハ」……。

それでは感想です。
ネタバレはほぼありません。

minoriさんがどういう組み方をして作品作りをしているのか、よく分かりました。

今作は、演劇を題材として扱っているため、
誰かの主観で物語が進むのでは無く、台詞で進行します。
つまり地の文やモノローグは少ない。

それだけでは通常、説明台詞が多くなるはずです。
ところが、そうならない。

それは、豊富なビジュアルが用意されているからです。
ちょっとしたモノローグに合わせ、天井を見せたり、キャラクタを様々な視点で見せたり。
そもそも、立ち絵を並べるときがすごく興味深いですよね。
場を見ている感じが、とてもします。

以前からそうでしたが、ビジュアルで押すんですよね。
そして、音楽をしっかり合わせる。

当然ですが、音量が小さいとか、台詞が聞こえない、なんてことはありません。

一箇所だけ、この音楽ではないのでは、というところがありますが、
本当にそれだけ。
きちんと通して、監修しているのでしょうね。
だからか、デフォルトの設定が全く悪くない。


不満が無いわけではありません。

「想いを叶えるということ / 誰か・何かを好きになるということ」を映す、
“ 18禁PCゲーム ” という名の物語に、どうぞご期待ください。
また、この箇所が弱かったのでは無いかと感じます。

想いを叶えるためにクロガネが提示するのは、トレードオフ。
何かを得たら何かを失う、いや、何かを賭しても得たいかという問いです。

ところが、登場人物の全てが、そうではなかったと否定してしまいます。
あの時苦しかった、それしか無いと思った。だからクロガネに手を伸ばした、その時の思いさえも。

そこに賭けるまでの重さが足りず、それしか無いとは伝わらなかった。
天秤にのせたものの重みを無視したり、見ようとしなかったり。
土壇場になって反故にしたくなってしまう……。

試してみないと、分からない。得てみたら違う、だから元に戻してくれるよう願う。
それは童話のように思えました。

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こうなると、一番魅力的に見えるのが、理解を示してくれたり心配してくれたりする、
佐伯つばさ部長(要しおりさん)になってくるわけです。
グッジョブポーズが妙にかわいいですよね。

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謎の存在、クロガネ。
存在の興りは分かるのですが、ハッキリ明示されたわけではありません。
何故、演じて欲しかったのでしょう。
何故、その力を得たのでしょう。
そこまで深く欲していれば、自らの矛盾に向き合えたはずなのに。

また、力を貸す道化となったのも、演じてもらえれば良く、
演技に必要なのは環境情報だと言っているようなものです。
同じような生を得ていなければ、同一化が図れず、満足な演技ができないはず、と。
逆にそれさえ得ていれば、技術的なことは二の次……というようにも思えてしまうのです。
そこがすごくもったいなかったです。
それとも、技術的には満たされていたのでしょうか。

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でも、友瀬瑠奈(灯里さん)もすごく良かったのです。
瑠奈のルートではどうかな、と思ったのですが、他のルートでは全てにおいて一変。
頼りになるし、頼れるし、相談してくるし、相談に乗るし、
友達のために懸命になるし、サポートしようとするし……、別人じゃ無いかと思うほど、
すごく良い人物になるのです。
体験版で、舞雪に平手打ちされた瑠奈は、どこにも居ないのです。

ヒロインルートで、それをやってくれても良かったのですが、
他のルートでツンケンしてしまうと、そこで物語が進まなくなってしまうから、なのでしょうか。


この作品、音楽が本当に素晴らしくて、
ビジュアルとのマッチングが恐ろしいほどの仕上がりでした。
『Beast』ではドラマティックな弦楽を主体に、『sadness』ではピアノ主体に寂しさを匂わせ、
コンセプトは当たり前なのかも知れませんが、圧倒的な音作りでした。