KAIさんの「青い空のカミュ」体験版プレイしました。

KAIさんの新作は「青い空のカミュ」。

ak10
「たっぷりストロベリーにチョコレートソースも追加。アイスも増量で」
「りょーかい。じゃあ、今度それで埋め合わせするね」
そんな冗談まじりのやり取りをしながら列車に乗ると、二人は眠ってしまった。
夏の夕方、冷房が効いている車内で、ほっとしたのかもしれない。
込谷燐は、隣で同じように寝ている三間坂蛍の体温が心地よく感じるほどであったし、
何より、列車の振動が眠気を誘った。

「んあ……あ、あ……れ?」
燐が寝ぼけ眼をこすると、列車が止まっていた。
駅に着いていたようで、車内に他の乗客の姿は無い。
駅の看板を見れば、寝過ごしてしまったことに気付かされる。
単線であり山間の駅でもあるため、この時間では一気に本数が減る。
燐の家は途中の駅にあるが、戻るのはなかなか厳しそうだった。

その蛍はまだ隣で寝ている。疲れてしまったのかもしれない。
それでも流石に起こしたほうが良いかと思った時、ふと違和感がした。

それはぞわぞわとした冷たい感触で、燐が身につけているアンダーシャツの肌の上を登ってくる。
燐はゆっくりと周囲を見回す。
燐の手は握りしめられ肩に力が入っている。
ゆっくりなのは、何かを見つけようとしているからだ。
力が入っているのは、警戒しているのだ……無意識に。
ak14
静かすぎた。

いくら終点だからといって、なぜ乗客が一人もいないのだろう。
普通、寝過ごしていたら、車掌や駅員が声をかけに来るのではないだろうか。
それどころか、ホームにも駅舎にも明かりが付いていないのは、何故なのだろうか。
まるで、燐と蛍の二人だけのように。

「蛍ちゃんっ、おきて……蛍ちゃんっ!」
「ん……んにゅ……あれ、燐……もう着いたの?」
「しいっ!」
急に起こされ、まだ眠そうな声で蛍が答える。
それを、声を潜めながら強く制止する蛍。
まるで周囲に気付かれることを恐れるように。
「ど、どうしたの……ここは……?」
「小平口駅、だと思うよ……あの看板が間違ってなければ」
怪訝に思いながらも、燐の態度から何かが起きたことを悟った蛍は、周囲を確認する。

たしかに看板は小平口と書いてある。
でも、どこか違う。何かを取り除いてしまったような感覚があった。

小平口は、決して山間の寒村ではない。
小さいながらタクシーやバスが停留するロータリーがある。
駅周辺には居酒屋や商店がある。……しかし、明かりが点いていない。
「この町ってこんな風に静かになることあるのかなぁ?ほら、お祭りとか行事とか……」
燐が少し茶化した風な口調なのは、声が震えているからに違いなかった。
少しでも和ませようとしてくれているのに違いない。
「こんなこと、初めてなの……誰もいないなんて……」

ぴたん。
二人だけが音を立てていた世界の近くで、奇妙な音がした。
「な、何の音?」
車内を見渡す。何が出す音なのか分からないが、繰り返し聞こえてくる。
「ひいっ!?」
そして、蛍は見つけてしまう。

ぬるりとした白い手が、窓ガラスに貼り付いていて……。
ak15
体験版は、830MBでした。

原画は、〆鯖コハダさん。

システムは吉里吉里でこれまでと変わらないはずですが、
テキストウィンドウから呼び出しボタンなど今作の雰囲気に合わせており、
味があります。

まず。是非作品公式サイトを見て欲しいと思います。
その公式サイトを見た雰囲気では、こんな作品だとは思わなかったのですが、
意外性がありながらも、気になってしまう物語でした。
むしろ、びっくりしました。

何よりもビジュアルです。
在りし日の情景、水たまりに映る透き通る青空、
不可思議な木々の森を貫くレール、慄く戦く少女達を包む蠢く闇。
KAIは全てのビジュアルに明確な意図を持ち
細部までこだわりぬいて表現します。
これ、本当に公式サイトのコンセプト通りなのです。

プレイヤーは、開始数クリックで、目を見張るビジュアルを味わうのです。
ヒロイン立ち絵のディテールの細やかさ。
例えば、込谷燐は制服姿ですが、足元はトレッキングシューズ。
背負っているリュックサックにもバンドがあります。
また、お守りまで付けて、登山に向いていそうなスタイルです。
ak16
ビジュアルから受け取れる情報量がとても多いのです。

クオリティは、間違いなくトップクラスといえます。
これは時間掛かりますね。
またそれが、相当な枚数用意されているのです。

明確な意図を持ち、という一節は、納得レベルで留まらず痛感させられます。

恐らくこんな説明をしようと決めて、その通り表現しているから伝わるのでしょう。
目を見張ったのは、今の現象を説明した、テーブルクロスの場面。

原画だけでなく、シナリオも、〆鯖コハダさんが担当されています。
強い本気を感じますね。

ADVとしてのシステムは、グリッチというものがあります。
ノイズが走ると、画面右側に矢印がでることがあります。
これをクリックすると、込谷燐と三間坂蛍以外の何かを映り、サイドストーリーが展開されます。

そう。
〆鯖コハダさんの描く少女たちは、とてもかわいらしいです。
が、この作品は、ホラー寄りなのです。

いつの間にかどこかに迷い込んだのか、しかしいつも降りる駅のはず。
真っ暗な駅、やっと会ったと思った人は、人とは思えない存在になっていて。
見たことも無い妖物からも追いかけられ、二人は逃走します。
電気が使えず、夜が明けても陽が昇らない。
追い詰められた二人が、ふと、世界の隙間に入り込む。

そこで出会ったのは……オオモト様。

オオモト様は、今の現象を二人に伝えます。
「この布が世界だと考えるの。町があって人がいて、つまり、時間と空間がそこにある」
ak11
この場面、ものすごく良く伝わりました。
テキストとCGとが良い仕事をしてくれています。


ただ、明かしすぎていないかなと思います。
もう今の世界の在り方まで教わって、残るは脱出するという行動のみ。

また、体験版開始冒頭で、三日間の物語と示され、体験版では二日目に入っています。
ループせずそのままストレートに進むことは無いと思います。
あるいは、サイドストーリーで、込谷燐の従兄、高森聡も登場するはずですし。
ヒヒとの対峙、サトくんのこと、気になるところは残っています。

また、シーンも選択肢型のバッドエンドによるものがほとんど。
そこは以前のKAIさんらしくもあって良いのですが、
もう少し味があってもよいかなと思ったりします。
最近の作品は、もっと長く責めているものもありますし。

とはいえ。
このクオリティを見せてくれるとは思ってもいなくて、
ものすごく感心しましたし、結末が気になりますよね。

文学のお話なども出てきて、ディテールがまた楽しめます。
明かりが無かったところから出てきた二人が、明かりを実感持ってまぶしく思う。
テキストでしっかり伝えてくれています。

SEもなかなか良いですね。
ラジオを聞いているときのワイパーの音、車のルーフに跳ねる雨音。
こだわってるなと感じます。
ak12

すごく、びっくりしました。
ここまで伝えようとしてくれているとは思わなくて。
画面を見ているだけで引き込まれる、どういうことなのか知りたくなる。

事態に巻き込まれた二人を、どこか、応援したくなったりもして。


2019年3月29日(金)発売予定です。