KAIさんの「青い空のカミュ」感想です。

2019年3月発売作品。

KAIさんの「青い空のカミュ」は、”新しい形の美少女ゲーム”と呼んで良いと思います。
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いつもの電車に乗って、眠ってしまった込谷燐と三間坂蛍は、
目覚めると、いつもと全く違う雰囲気の終点駅に着いていた。
人気が無い。明かりも無い。鳥の声も聞こえない。
まるで二人だけの、夜の世界のよう。
そして、やっと見えた人影は……。

それでは感想です。
ネタバレがありますので該当箇所は伏せています。



すごく、すごく納得感があります。

宣伝が上手いブランドさんもいますよね。それ自体は力で才能だと思います。
けれど、宣伝の力で、作品に引きつけたとしても、
作品そのものが良くなければ、ブランドに良いイメージを持ち続けることはないでしょう。
この作品は、公式サイトで発表されたイメージそのままだったのです。
まず、ここが素晴らしいですね。

ここまでのレベルの作品には、出会えないと思います。
企画、シナリオ、原画、グラフィック、Webサイト。
イベントのレイアウト、音楽の依頼……などなど。
ディスク盤面も青であるところも、もしかしたら。
これらを、〆鯖コハダさんができる限り執り行っているとのこと。

だからこそ、この統一感、完成度なんだろう。すごく納得しています。
世の中には、自分が多く手掛けているけれど、それでもクオリティが到達しないこともあります。
そうはならなかったこの作品に、どれだけのものを投下したのだろう、
苦労したのだろうと考えてしまいます。

全ては、このブランドタイトル画面にもあるように、”l'art da fille”のため、なのでしょう。ak18
短い。確かに短いかもしれません。
使用したセーブファイルが、余っていることを考えると。
体験版をプレイした時も、これで日程の半分が進んでしまっているのではと、
不安に思っていました。

けれど、製品版では大幅な追加がなされていて、
あれは体験版仕様だったんだなと振り返りながらプレイしていました。

何より、密度の異常な高さが、短さを感じさせません。

これ、プレイにはデフォルトのテキストスピードで、AUTOモードが良さそうです。
じっくり見ながら進める。
それと、ぜひヘッドホン、それも質の良いものでプレイして欲しいです。
こだわりを、細大漏らさず受け止める環境を整えて、プレイした方が楽しめます。

まず、テキスト。
非常に視覚的です。

セリフだけでなく地の文に、キャラクタのパーソナリティが豊富に綴られています。
最初から決めたものも、制作上で追加されていったものも多くあるのでしょう。
仕上がりは、一文一文が大事に見えるテキスト。見逃すのはもったいないです。

誤字は3つくらい。
人物、視点が急に入れ替わり違和感がある箇所もありますが、
そんな風に、細かいところに気付くほど、集中してテキストを見てしまっていました。

シーンのテキストだろうと、示唆的というか、暗示的というか、
教訓めいたものを感じさせます。
怒っているようには見える。
だけど、本当は自分たちが間違った答えを出したことに対して、
罰を与えることを楽しんでいるのではないだろうか。
こんな一文があるんですよね。
なので、やっぱりAUTOモードでじっくりプレイするのが良さそうです。

グラフィック。
緻密なキャラクタデザインは、シナリオとデザインとを、
同じ〆鯖コハダさんが担当されているからだと思うのですが、
それにしたって親和性が高すぎます。
そのレベルの高いグラフィックが、豊富に用意されていて、燐と蛍の三日間を描き出しています。

また、背景グラフィックもそうなのです。
で、シナリオに合わせ、グラフィックを本当に上手く差し込んでくれています。
ピッタリ、なんです。

そして、音。
体験版の時にも味わいましたが、製品版はよりすごかったです。

テキスト、グラフィック、音といえば、もうゲームの要素ほとんどになってしまうわけですが、
相互作用がすごい。
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例えば雨の表現。
作中で、雨が降る時があるのですが、まずその雨の降らせ方が上手い。
小雨から大雨に。きちんとグラフィックを分けて、音も分けて。
さらに、その時の山間や稜線の配色。

で、体験版でも味わえる、ルーフに跳ねる雨音。
車内に居ると伝えてくれます。

車の中に居るときのSEはすごいです。
雨音、エンジン始動音、アイドリング音、シフトレバーの音、ワイパー。
ラジオの音をさせているからといってエンジン音はそのまま。
停車の音もそうだし。アイドリングの音も。
タイヤが水たまりを通過した音。
運転中の音は一定ではありません。だって車は進んでいくんだから。
ほんと、こだわりのこだわりを感じさせます。

このあたりは、統括している人がどれだけ画面に落とし込もうとしたのかと、
気概や労苦を感じさせるところです。
どこまで、画面を見ている人に伝えようとするのか、その意気込みというか。
ここが希有な作品と呼んで良いところだと思うのです。
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細かいところでいくつか気になるのは、
最初の、電車の窓に手がいっぱい付けられるところは、
テキストと同じように、SEも繰り返しびたんびたんさせてもよかったかもしれません。

AUTOモードとグリッチシステムの噛み合わせが悪い。
AUTOを解除しないとグリッチに入れない。
これは上手くないなと思いますね。

シーンがあるのは、バッドエンド時なのですが、噛み合わせが悪いと思います。
示唆的なテキストがあって理解が進むので、シーン自体はあっても問題はないのですが、
見てしまうと、ストーリーが追いかけ辛くなります。
なので、ザッピングをバッドエンドにしてしまった方が設計としては良さそうです。
そのほうが、綺麗なものをそのまま大事にできる気も、します。

そうして、燐と蛍が体験する三日間を、画面越しに追いかけることができるわけですが、
内容は、公式サイトのMESSAGEにもあるように、伝奇の皮を被ったSFといえるのかもしれません。
ジャンルも不明、キャラクター説明も簡素、そしてコンセプトはアート。
商業的には非常に難しいスタイルですが、あえてこの内容での企画にこだわりました。
新しい”美少女ゲーム”というものを創作したかったからです。
(公式サイト MESSAGE 第31回2019/3/29更新より抜粋)
こんな作品無かった、という意味では、間違いなく新しい形を示したといえます。

同じ方向性にあるものを、継続を期待されると思うのですが、
こういう作品は、次回作を作るのが難しいです。
蓄積こそが糧になるものだから、ですね。

でも、また何か、見せて欲しいと思ってしまうのは、欲張りでしょうか。


では。
プレイしていて幾度となく気になるのは、
どうしてこんなことになってしまったのか、だと思うんです。

因果はある。
けれど起きたのは、圧倒的な事象であり、不条理なものである。

作品が繰り返し伝えているのは、これなんです。

ただ、自分の場合、これが提示される前に、
この事象の形は「サイレントヒル」だと思っていました。
それをポジティブな類似と捉えながらプレイしていたので、
不条理については、すんなり受け入れることができました。
ただ選択肢を一つ選んだだけなのにバッドエンド、とも、思いませんでした。

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そしてエンディング。
これは、あくまでもプレイした視点での解釈です。
ですから、〆鯖コハダさんは、そんなつもりで描いていない、ということもあるでしょう。
多くの方が考えついている程度のことで、考察と呼べるものではないのですが。

オオモト様は、今の世界の流れでは、蛍に選択権があるように伝えていました。
けれど、蛍は最初から最後まで同じ事を考えていたわけです。
元に戻すこと、切符の行方は分からないけど、それでも電車に乗ること。
全ては、燐と一緒に。
蛍からすれば、選択もなにも、既に選び終わった後にこの事態が起きているだけです。

ただ、燐はスタンスが違っていた。

時間が進むに連れ、向き合っているモノへの理解が進み、
その度に、今の自分の状態を識ってしまう。
その過程は、あの青いドアの家がある世界で、現れています。

燐には見えたモノが、蛍には見えなかった。
燐がおいしいと笑顔を見せたお茶は、蛍には全く味がしなかった。
手を出していたら、恐らくケーキも同じだったでしょう。

初めて訪れた時、あの桃は、全く味がしなかったのに……。
燐は様々なことを知って、変わっていってしまった。
そして囚われた。あの夜のことに……聡に。

だから振り返ってしまった。
蛍の青いドアの家の世界への切符は、蛍にしかなかった。
燐には、無かった。

振り返ったのは何故か。
一緒にいると信じ切っていた蛍。あの草原に囚われたままの燐。
しかも燐は、これまで、どんなことをしても蛍を守ろうとし続け苦難に立ち向かい続けた燐は、
ああ、そうかと。これで良かったのかもしれないと。納得しきってしまった。
だからこその、笑顔。
あの笑顔には、納得がありました。
そしてもう一つ。きれいなものをきれいなままにしておけるという、安心が。

だから、抗わなかった。
自覚と安堵が、抗う必要を感じさせなかった。

燐は、決定的に識ってしまった。
蛍のいる世界は、別なのだと。

青いドアの家の世界で過ごす資格は、燐にはないのだと。
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全ては、このエンディングのためにあります。
辿り着いて、プレイが終わって、シーンを全く通らなかったので、
エクストラページには空欄がたくさんありましたが、
それでも、二人をそのままで置ける道があるとは思えないほど、納得させられてしまいました。

素晴らしいエンディングだったと思います。
 Qui a tué fille
誰が美少女(ゲーム)を殺したの?

Tu m’aimes?
私(美少女ゲーム)の事を愛してる?
だからこそ、この言葉の意味を考えてしまいます。