PULLTOPさんの「さくらいろ、舞うころに」感想です。
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2019年3月発売作品。

「さくらいろ、舞うころに」は、
五年ぶりに帰国した日野真也が、
心に残る、かつてのような卒業式をしたいと委員会を立ち上げる水城みなと、
他のメンバーと共に卒業式を盛り上げる、そんな物語です。

それでは感想です。ネタバレ少しあり。

 

全体的に良かったと思います。

卒業式を題材に持っていますが、
卒業というイベントが持つ要素を、しっかり考えられています。
これまでの生活に強制的な変化が与えられること。
そのイベントが持つ意味。

過程の中で、人との関わり、何かを見つけ先へ進むことが描かれています。

期待と不安があった、儀式的でない魅力的な卒業式を見せてくれるのかも含めて、
良かったと思います。
というよりも、物語に織り込めたネタに新鮮味があって、楽しめました。

一方で、演出の部分が非常に弱い。
ストーリーの流れの補強、重みを持たせ膨らませるといったことをして居らず、
プロデュースまたはディレクション、あるいは予算の問題なのかなと感じています。
折角のネタがあっても、掘り下げが弱く、
いいイベントとして受け止められるよう、仕上げられていないように思います。
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ちょっと不思議なのは、製品版には無く、公式サイトにしか無いものが複数あること。
例えば、クロエの歌詠みこ~な~。
HPコンテンツとしては面白いのですが、本編でクロエが歌を詠む場面が一切ないのです。

HPコンテンツ、どれもこれも良いものばかりで、
宣伝をしっかりしていることは好感持てるのですが、
キャラクタの特徴に関する事柄は、製品側でもしっかり搭載して欲しい。

全体的に、予算をもう少し掛けて欲しかった作品だといえます。
恐らくキャラクタが多くて、こうなってしまったところもあるのかな、と思います。

このような場合、通常であれば、キャラクタを減らしヒロインを3人くらいに絞って、
フォーカスするほうが満足できる構成になる印象ですが、
清風学園に関わる人々は、減らしてはいけないと感じます。
それくらい、サブキャラクタも魅力的に作られているんですよね。減らしたくない。

とはいえ、体験版時点で引きが強かったかというとそうでも無いので、
そこも、もったいなかったです。
体験版では入寮騒動に悪いインパクトだけが残って、不安に感じてしまっていましたから。
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なので、これだけ魅力的なキャラクタを、しっかり魅力的に彩って欲しかったかな。
そんな風に思います。

本当はこの作品、ensembleさん向けの企画を作り替えたものだったりしないでしょうか。
女装ネタとして展開されていた可能性を感じます。
もっといえば、PULLTOPさんらしくないんですよね。

不整合。
テキストと音声が明らかに違う箇所もいくつかありますし、
どんどんとドアを叩く音がする。音はこんこんという汎用ノックSEだったり、
店内に入って注文前なのに、CGは既に食べていたり。
あと、一番不思議なのは、ヒロインとの初回シーンでこの音楽を指定した理由はなんでしょう?
『なんだかてれちゃうね』は到達感のある音楽ですから、
お互い照れや恥ずかしさ、ぎこちなく手探りで進めるこのひとときとは合わないと思います。
音楽が悪いのではなく、指定が悪いです。3シーン目に使うなら分かるかなと。

と、惜しいところばかり書いていますが、決して内容は悪くないです。
目を見張ることの方が多かったです。

ヒロインは4人+1人という扱いです。
4人は、公式サイトのOUTLINEページに出てくる4人。
+1人は、そこに出ていない、けれどパッケージにいる脇池恋先生です。
こういう構成も、なんとなくensembleさん見たいですよね。
恋先生、特典キャラクタではなかったですけれども。


北美凜(花園めいさん)

テニス部の特待生で1年生。
成長期の真っ最中で身長が伸び、身体を上手く使えなくなったこと、
安定化を図るために練習を制限されており、
上手くできていないのに練習もできなければ特待生で居られなくなると焦りを持っている。
実家が町工場で経済的に苦しいことも焦りの一因。

体験版では、普通の卒業式だって、ちゃんと心は込められている、
ここ数年普通の卒業式だったことを鑑みるべき、とストレートにぶつけてくることも。
良くも悪くも真っ直ぐで、それが周囲にも分かってもらえています。

意外に良いルートでびっくりしました。
作品の構成として、一人のキャラクタを支える、多くのキャラクタが居るんですね。
それを実感できたルートです。

卒業式実行委員会には、テニス部の先輩や顧問からの指示で行かされることに。
北美凜を休ませようと指示しているのに、負荷の高い練習を勝手に行ってしまう。
そして快復が遅れるというスパイラルに陥っていて、強制的に休ませるためでもある。

真面目で本当に良い子です。
やるからには腐って手を抜いたりしない、という宣言の通り、
すぐに過去の卒業式がどう思われていたか調査してきたり。
その行動力の良さを褒められると素直に受け取れない、そんなかわいらしさもあります。

物語は、テニスのこと。
違う部とはいえ、運動部の先輩でもある堂上理子に、実行委員活動の合間に聞いてみる。
身体作りのこと、つい不満をぶつけてしまうことがあっても、
受けたアドバイスを素直に取り入れていく。

親のことも。小さい頃は良く思えてなかったところもあるけれども、
今では立派な親だと感じるし、卒業式参列できるようにしたいと、口にできるようになる。

苦難は、周囲の人の助けを得て超えていく。
人から助けられることが苦手だったことも、素直に頼っていけるようになる。
そんな凜の成長は、周囲に良い影響を与えていくのです。

一番直接的に面倒を見てくれるのは、
同じテニスで渡米が決まっている真田佳美先輩(あじ秋刀魚さん)。
勉強を厭う北美凜を諭し、人から助けられることの意味を伝え、迷いも見抜いて。
だからこそ、愛情を持って言うのが、このセリフ。
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「ばーかばーか」
めちゃくちゃ愛情ありますよね。良い場面です。

そして北美凜は、真田佳美先輩から受けたものを継いでいくために、
卒業式実行委員として、新たな案を出していくのです。

このルートをプレイして思ったのは、本当に人が人を支えていくんだということ。
そして、人との距離は離れていっても、継がれていくものがあるんだろうこと。
いい物語です。

だからこそ、演出とかボリュームとか、がんばってほしかったです。

このキャラクタデザインは、あなぽんさんなのだと思いますが、
全てのCG原画を担当されているわけでもないのかな、と少し感じたり。
あるいは、彩色の問題でしょうか。

あと、公式サイトのキャラクタ紹介ページのセリフ。
挙げるのは、それじゃないんじゃないかな、と思いますね。
「小さい頃は嫌でした」とか、「あの、切ってください」とか。
ああいう一場面と音声を絡めて紹介ムービー作っても良かったのでは。
体験版でも引きが弱すぎてもったいないです。
せっかくの花園めいさんなのに。


クロエ(百千るかさん)

本名は、クローリス・クリストファラ・立花。
イギリス人の父と京都人の母の間に生まれたハーフで、見た目はすっかり外国人。
その銀髪に反して喋るのは京言葉。関西弁やあらへん。
英語が喋れないのに、英語で喋り掛けられたり、母の経由で和服を着ていた時に、
いじめられた過去があり、すっかり男子が苦手になってしまった。

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一番の親友は、堂上理子(かわしまりのさん)。
バスケット部で、レギュラー入りは厳しかったものの、抜擢される。
トーナメント初戦でオールラウンダーとして力を発揮し勝利を掴むが、
二戦目で敗れ、本戦進出を逃す。

そのことで、思い知ったからか、
好きで仕方ないバスケット。そのプロ選手になる夢を諦め、新たな道を進む。

その涙も汗も苦悩をも、ずっと傍で見ていたクロエは、堂上理子の選択を上手く受け止められず。

それでも、親友で居たい、という気持ちを見つけ出したのか、強くなろうと考える。
「そやけどな、カッコ悪いままやとあかん思てん。こんなみっともないまま……」

他の委員会ヒロインよりも成長がゆっくりめ、ではあるんですが、
やってのけたことは派手です。

ただ、予算と労働力と時間が間に合うのかな、という仕掛けの実現可能性、
他のルートでは私物化として差し止めを受けた催しが山場として展開されていて、
好意的には見送れませんでした。
一例を挙げると、花びらは100万枚あるはずなんですよね、一本の樹って。

百千るかさんは器用ですね。
セリフを聞いていると、京言葉が心地よい。妙にクセになりそうです。
だから歌詠みこ~な~自体は良いと思うんですけどね。


戸間里茉莉子(桃山いおんさん)

日野真也の幼馴染みで、戸間里弥生先生の妹。
昨年まで学年主席。しかし、災難が続き体調悪化に見舞われ、卒業が危ぶまれている。

入院中や、その後の復帰を支えてくれていたのは、親友の二人。
元々は、一緒に勉強しようと式見良子(ももいろまりあさん)が戸間里茉莉子を誘い、
さらに笠原環(猫屋敷舞さん)を誘ったことから、関係が始まった。

勉強漬けにしながら、少しでも遅れを取り戻そうと一緒に頑張ってきて、
そして最上級生の二学期へ。

一番根幹になりそうなキャラクタだと思ったので後に回しました。
そしたらシナリオもすごく好みでした。
親友たちと、クラスメイトたちと思い合う、仲間としての気持ち。
お互いがお互いのことを向かい合っている。
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「同じ場所に留まり続けるのってね、思っているより、苦しいものなのよ。
 もちろん人によるだろうけど」

だからこそ、災難は苦しい。

妹の日野雪が唯一、日野真也の彼女として推したヒロインです。

あるルートだと、全く登場しなくなってしまうのも仕方ない展開。

卒業式の仕掛けはもう少し魅力的なグラフィックが欲しかったです。
それと、折角の卒業式を超えた後、シーンが入るの不自然かなと、何となく思います。
もうちょっといえば、最初のシーンも寮のお風呂という、声が響きそうな場所。
公式サイトのお風呂ドラマでも、声や歌声は響くと言っていましたよね。
体調も含めて、ヒヤヒヤしました。
でも、この環境で二人きりになろうとすると難しいですよね。

米白粕さんのキャラクタデザインは良いですね。
マスク差分があるヒロインって珍しい。
桃山いおんさんの年上キャラクタって、ハマると怖いですね。


脇池恋(くすはらゆいさん)

大学卒業したばかり新任教師。
ゲーム全般の腕前が凄く、特にFPSではチートコードでも使っているのでは無いかと錯覚するほど。
そして酒乱。共通パートで戸間里弥生先生(星リルカさん)に襲いかかる。

あれだけ一緒にお酒を飲むことを回避していた弥生先生、
なぜか恋先生ルートだと一緒に楽しく飲んでました。
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実は卒業式に参加したことが無い。そういう意味で、日野真也と共通点がある。

「そんなの、午前中のうちに治っちゃいましたよーだ」「それがなんだってーの?」
という拗ねるようで距離を取るような、でもできてないセリフが逐一かわいい。
あとゲームしている時は、超暴れん坊。発言が日野雪並みに。
褒められ慣れていなくて、頼られると弱くて、だからこそ背負い込んでしまう。

このシナリオでは、先生側視点で、生徒を見送る気持ちを知ることができました。

終始笑っていられるシナリオでした。
るちえさんのふわふわヘアスタイルキャラクタいいですね。
エンディングの恋担任先生、とってもかわいい。
あと、ren_renの活き活きした姿も。


水城みな(花澤さくらさん)

得意が無い。勉強も運動もスタイルも、何もかもが平凡だと思っていて、
だからこそ、ファッションでは攻めることもある。
普段着は攻め2割王道8割のバランスをキープ。
ストレスが高まると一人ファッションショーで全開の攻め。
意外にもピアノが上手で、ショパンもプリティー&キュアキュアも人前で弾ける。

そんな、水城みなが、実行委員会として、何故卒業生を送り出したいと思うのか。
この作品の起点となる物語だろうと考えて、一番最後にしました。
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誰か、送り出したい人が居るらしい。
その人に恩返しをしたい。だから立派に送り出したい。

このルートでは、部活動が活発な大型学園らしく、様々な部活が登場します。
当初、勧誘はしないが来る者拒まず、だけれど誰も来なかった卒業式実行委員会として、
独りで活動しようとしていた水城みなが、自分から部活動を回っていく流れで、
多くの助けを得て、やりたかった”立派に送り出したい”を満たしていきます。

それが、水城みなの送り出したい相手が、見守っていきたかった部分でもあり。

なかなか良いシナリオなんですよね。
水城みなの成長と、みんなが力を合わせる展開が見られて。
物語としては一番良かったと思います。
本当に本当に、立派な卒業式を見せてくれました。

が。
冒頭に書きましたけど、やっぱりイベントの記号化があるんですよね。
面白い要素ですけど、ファッションショーと初詣って何か関連性を産みました?
仮に、普通すぎる自分からの脱皮として用意されたとします。でも、そこから発展しない限り、
いつまでもそれはそのままですよね。
さらにこの卒業式をやり抜いた水城みななら、もうファッションショーしなくなると思うのですが。


それと、日野真也が、恋愛の相手となる理由が弱いところが見受けられます。
たまたま傍に居たから、になりがち。
確かに重要な要素ですけど、ややインスタントな恋愛に見えがちで、
日野雪の発言が説得力を増していくように思います。
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それは、幼馴染みの茉莉姉でも同じだというのがもったいないですね。
何かぐっと来そうなエピソード、探せばあるのだと思うのですが。

日野真也の魅力が、人当たりが良いこと以外に見当たらないんですよね。
例えば、水城みなルートで、ギスギスした展開になっても、何も解決を示さない。
口が上手いのみ。
決してコミュニケーション能力が高いわけでは無いです。
じゃあ、口が上手ければ良いのか?というと、そうでは無いらしく。
茉莉姉の親友、式見良子と笠原環によると、かなりイケメンなようです。
画面のこちら側にも、イケメン具合が伝わるようだと良かったですよね。


キャスティング、すごく良かったと思いますね。
外したところが無いと思います。
メインヒロインはパーフェクトだし、サブヒロインにしてもそうです。
せっかくこれだけの人を集めたのだから、もっともっと見せ場を用意して、
楽しませてくれても良かったかな、なんて思ったりもします。
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それでも、今作で見出した卒業式。
どこか現実の学園でも、やっても良いんじゃないか。
そう思うくらい、ハートフルな展開があって、良かったです。

一歩前に進む。この先を選ぶ。一緒にいる仲間たちと共に。
こうやって、登場人物たちががんばろうとしている物語は、勇気をくれるように思います。