FluoriteさんのMissing-X-Link〜天のゆりかご、伽の花〜」感想です。

2019年4月発売作品。

Fluoriteさんの「Missing-X-Link〜天のゆりかご、伽の花〜」は、
”未来へと口づけるADV”。

近未来、オートマタが身近にある世界で、
攻撃衛星の暴走事故で姉を喪った珠木正伍が、
ある日、送られてきたオートマタ姫風露と過ごしていくなかで、
新たな事件に巻き込まれていく……そんな物語です。

それでは感想です。
ネタバレが少しあります。



何よりも、ボリュームが適切で、満足できたと思います。
そのボリュームで、しっかり語り尽くした物語を提供してくれたと思います。

体験版でも印象の良かった姫風露というキャラクタが、とにかく魅力的で。
ビジュアルデザイン、声、描かれ方、全てが良かったと思います。

決して完璧ではないのです。
大偽典図書館という、膨大なデータベースに常時アクセスが可能で、
元々は宇宙渡航を目的に造られた頑丈なボディ。
組み合わせれば、戦闘用オートマタとも張り合えるし、美味しい塩おにぎりも握れる。

一点ものだとはいえ、そんな存在が登場するわけですから、それなりの世の中になっています。
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国がどんどん解体され、細かくなっていき、国力は低下する。
国では行えない戦争は、PMCが行う。
台頭する強大な力は、PMC。けれど四大PMCと呼ばれていても、入れ替わりもある。
地上では別な企業、分業分社化しているオートマタメーカーがあって。
この世界背景の広がり。良く描いてくれたなと思います。
このバックボーンがあるからこそ、彼らの置かれた今が分かるんですよね。

しかし、それに庇護される対象の珠木正伍は、なんだかパッとしません。
姉が亡くなり塞ぎ込んでいた、のは仕方がないとしても、
たまたま姉がエディテット、遺伝子操作を受けた秀才の姉に好かれた。
そのことは確かに希有ですが、物語が始まる前に持っていたものであって。
物語の中で、珠木正伍は、姉の代わりに守ってくれる姫風露によって、
コミュニケーションを取れるようになる、というだけで。
彼だからこそできたのではなく、彼が持っている繋がりだからできたように思えてしまうのです。
珠木正伍の成長があるわけでなく、存在として少しの憧れも抱けない。

ちょっとシステム的なことを書いておきますと、いくつかバグを確認できます。

バックログで戻ると、あらぬ背景画像に変わったりしてしまいます。
それがそのまま、何度バックログを行ってもロードをしても戻ることが無い。
これは困ったバグですね。
もう全てが喫茶店背景に固定されてしまっていて、物語がよく分かりません。
ご覧のように散桜花が喫茶店で暴れています。
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また、音声が二重に登録されていたり、テキストの重複が見られたりと、
徹底はできていないところもあります。
表情差分指定が合っていないなと思うところも。
とはいえ、ほんの僅か。

システム的には、何よりもセーブしやすいところ、
その数に制限を感じないところを褒めたいと思います。
ボリュームもそれなりにありますし、気になる場面や良いセリフも多いので、
ついセーブを使ってしまうわけです。
セーブ数は、400超にもなりました。良い場面が多かったです。

また、E-moteを使用した動画シーンがすごく良いですね。
晶さんとの初めてのシーンが、なんか晶さんらしいというか。
ビジュアルもいいし、かわしまりのさんの声も良い。
攻めてきたかと思ったら、いざとなるとビビってしまう晶さんがかわいいというか。
そんなシーンを、単に揺れている、動いている、だけじゃなく、
晶さんの鋭い反応を、動かして表現しているんです。良いですね。

通常は動くといっても、目元や口元が少し変わるだけ、ですが、
「Missing-X-Link」の場合は動きも多彩で、
自然な動きで、これまで見たこと無い表現。非常に魅力的なシーンに仕上がっていました。
水城遊離は首を傾げ、こちらを観察するように反応を伺ってきたり、
姫風露とお風呂シーンでは、頭をイヤイヤするように振ったり、
久遠寺ひなが受け入れるように頷いて、そして笑顔をみせたり。
動きの指定が素晴らしい。
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そして、キャラクタがどこを見ているのか、
視線を大事にしたシーン動画作りになっていると思います。

どのキャラクタも原画が元々良いのですが、
魅力的なままに動いてくれたのが、良かったのでしょうね。
E-mote、見直しました。

シーン中は、地の文による描写が丁寧。
会話も良いです。単なる行為でなく、つながりを意識したものになっていました。

テキスト面もかなり良かったと思います。
途中、別な人が書いたのかなと思う箇所もありましたが、
セリフ回しが独特で、笑いも随所に差し込まれていますし、粗筋はかなり満足できました。

音楽も良いですね。
『Zwischenzug』に始まるのは、舞台世界の広さだと思います。
『Brilliancy』では少しミステリアスを感じさせますし、
『Smothered mate』は雨が降る灰色の街並みが似合います。
OP曲の『Missing-X-Link』も作品に良くあって、非常に良い曲です。

好きになれなかったところもあります。
この場面をここに差し込んで良いのかなと思うところもあります。
例えば、体験版の箇所で、棋譜をなぞることを提示した理由が分かりません。
珠木正伍のチェス棋譜解説を聞いてくれた水城遊離が話したいことは、
また久遠寺ひなの見舞いに出掛けるのか、ということ。
チェスとは無縁です。何のために差し込まれた場面なのか分かりませんでした。

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物語は、一本の大きな本筋ルートが用意され、
どのヒロインを選ぶかによって、派生するように事態の進展が掴めていきます。
決してそれぞれのヒロインルートが寄り道ではなく、
本筋ルートに集約されていくようにうまく要素が散りばめられています。

逃げ出した軍事オートマタ、散桜花。
それが、様々な事柄を実験と称し行ってきた八郷藍視に取り込まれるところで、
体験版は終わりましたが、そこから少しずつ分岐していく形式です。
ですので、弦間晶、久遠寺ひな、水城遊離、姫風露という進行になると思います。

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”Buddy Film”

刺激的な出会い方をした弦間晶は、珠木正伍の学園へ教育実習生として現れた。
珠木正伍を動かし、姫風露や水城遊離を組み入れ、ニューロハッカーの犯人を追い詰める。

篠月市に訪れた当初の任務、散桜花を捕獲、属するシンギュラリティガードへ移送する。
その旅に、弦間晶は隣の座席へと誘ってきた。

珠木正伍は、姫風露を置いていく。
弦間晶と一緒に立ち向かった時に感じたのは、同じリスクを背負って立つ、対等ということ……。

体験版の時にあったように、
殻に閉じこもっているのなら、多少強引に引っ張り上げてくれる人が必要なのかもしれませんね。
それが弦間晶。

傭兵をやっていた過去と、任務のために教職に就く姿と。
ガードが甘いのが晶さんの良いところ。
さっぱりした気風の弦間晶らしく、爽やかな物語。

格好つけた感じのセリフが、かわしまりのさんによって見事に表現されていました。
どの場面で出てきても頼りになる弦間晶は、QPが姐さんと呼ぶのも理解できるほど。
最終局面で、お約束のために貴重な火力を使ってしまうのはすごく良かったです。
CG用意するか立ち絵のバックで爆発演出を用意して上げて欲しかった。

弦間晶のトラウマ解消は、もう少しボリュームがあっても良かったかな。
あと、やっぱり珠木正伍を見初める理由が分からない。

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”Heavens Exists”

散桜花を追って、弦間晶が去った。久遠寺ひなを頼む、そう言い残して。

病院へ通い、徐々に打ち解けていくが、久遠寺ひなは、不治の病、コッペリア症候群だった。
筋萎縮性側索硬化症の変異といわれ、運動神経系が老化し、全身が硬化していってしまうもの。
せめてものケア知識を、姫風露の持つ大偽典図書館から引き出し、見舞っていく珠木正伍。
しかし、第二世代オートマタ、エリーゼたちが変わったことを口にする。
「それでは神の思し召しに敵いません」……。

必死に生きようとする気持ちと、その気持ちを捨ててしまおうとする気持ちが併存していて、
何か目の前で起きると、急にシフトしてしまう。

この映画のような物語はなかなか面白かったです。
が、電脳空間チェスで戦うところがもう少し、かな。
あと、人を殴れるくらいには珠木正伍が回復した、と思えば良いでしょうか。

そして、周囲が色々手を焼いてくれて、神を突破し、閉鎖区域から救助し、
久遠寺ひなを本当の意味でも救うことが出来る……のですが、
それを実行する駒でしかないんですよね、珠木正伍が。
父の関与を知って、だけれど意図的にそこを解決しようとはしないまま。
意思を感じないかな。

久遠寺ひなのデザインって素晴らしいですよね。
派手ではないのに存在感がある。
また、立ち絵で頬を両手で挟み込んでいるのがすごく良い。
病院の外へ出ると、メガネが掛けられているのも妙に合っている。

それに要しおりさんの声がピッタリです。
どのルートでもかわいらしいキャラクタになっているのですが、
場合によっては物わかりが非常に良く、珠木正伍の背中を押したりもするし、
大事な局面で大事なことを伝えてくれるのです。

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”Zwischenzug”

エディテットは、遺伝子操作を受けて誕生した子どものこと。
水城遊離はエディテットで、天才。そして珠木優灯と同じ容姿だった。

人工知能すら騙せる知能で、後のオートマタの基幹技術となったバイオピクセルを産み出す。
しかしそれが、学園内で電子ドラッグ化して蔓延したため、その犯人を追う。

幼い頃から未来に起きることが知らされていた。そう造られるのがエディテットだから。
何もかも幸せすら約束されていた……、そう思っていたのは、珠木優灯という存在を知るまでのこと。
それからの水城遊離は歪んでしまい、周囲の嫉妬に対して全力で反発していくようになる。
だから、その弟、珠木正伍のことは複雑な気持ちを抱いて……。

最初、なんて過剰な攻撃をしてくる存在だと思っていました。
仕方ないとは思うのです。
自分が万能だと思っていたらその先に必ず同じ存在が座っている。
それが守り続けてきたのは、カメラから脅えるように逃げる珠木正伍。
つい攻撃したくなる、ということなのかなと。

ただ、そのためなら手段を選ばないキャラクタなのが、肯定しづらい。

物語中に、珠木優灯との思い出が語られるのですが、比較されてしまうわけです。
「ラッキーだと思うな!! 私は!!
 たとえ未来が見えてたとしても、私は何度だって、この花火を綺麗だと思うよ」
この場面、イベントCGが欲しかったくらい珠木優灯を表現している良い場面なのですが、
とにかくポジティブに、一生懸命過ごしていると思える珠木優灯と、
悪意を持たない姫風露にすら、消えない傷をつけてみせる水城遊離では……。

テキストを読みながら、セリフを聞きながら、何度となく突っ込んでいました。
これで水城遊離に絆される読み手はいるのか。
水城遊離が気になる人は、NTR資質があるのではないか。

最後でやっと理解できたのは、水城遊離は八郷藍視と同じだということです。

ミスリードを優先させて、水城遊離の複雑な気持ちを複雑なまま表現しなかったのは、
ヒロインに仕立てていないと思います。
明かすのが遅くなってしまった。
自分の気持ちを、ただ述べるということが難しいキャラクタでもあるので、無理もない。
自分自身に嘘をついてないと、色んなことができなかったのでしょうから。

何より、珠木正伍があんな存在ですから、水城遊離がこういうキャラクタで、
ほとんどのことをやってくれた、役割を担ってくれたからこそ、生き残れたのだとも。

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”Prosopopoeia”

大偽典図書館にアクセスでき、様々な知識を引き出し、それを行使できる。
料理からバイクの運転、ネットワークでの戦闘まで対応可能。
オートマタが奉ずる倫理原則はロボット三原則に準じるものとして設計されているが、
姫風露の場合は、珠木正伍が上位に置かれている。というか置いてくれている。

姫風露の成長を見ることが出来る作品なのですよね。
世界にはたくさんの悪いことや辛いことがあるけれど、
それに汚されてしまうこともあるけれど、
全力で、大事にしよう。自分が思う、大事なものを。
姫風露からはそんな意思を感じます。

気に入った音楽があったり、意思の発露があったり、はしゃいでみたり。
もちろんオーナーの志向に合わせて反応しているという可能性も無くはないのですが、
これまでのアンドロイドとして描かれるものとは少し違っています。

万能でありながら隙があるという設定が非常に良くて、

体験版でも感じましたが、姫風露がずっとかわいらしいのです。
そこは本編でもずっと変わらないというのが、何より良かったと思います。
甘やかしてくれるから良いわけでなく、肯定してくれるから良いわけでもなく。
きっと姫風露は、きちんと向き合ってくれるから良かったんじゃないかと。
月野きいろさんは幅が広い、のにそれぞれのキャラクタにあった演技ができるのがすごいですね。

常時かわいい姫風露ですが、喜びに満ちて踊っている姫風露は最上級のかわいらしさ。
報われても、いいと思うのです。

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”Absolute and Limitless”

だというのに、珠木正伍は最悪の行動をします。
恐らく数時間前の自分の行動を、そのために練ってきた数時間と、
それまでずっと傍に居て支えてくれていた人の気持ちを、全て投げ捨てて。

姫風露とのクロスリンク、他の人ともできてしまった、という流れが、
やっぱり嫌でしたね。
また、目的のためなら久遠寺ひなだって汚すこともできる水城遊離。
彼女だからできたこと、ですが、ますますヒロインから遠ざかる印象があります。
仕方ないとは思うのです、珠木正伍がまた悪手を指したから。

電脳空間でのチェスバトル。
見応えのある動画的演出が使われています。
伝奇バトルでもそう無い画面作りで、素晴らしいです。

けれど、本当に思うのです。チェス、必要でしたか?
戦いを回避することが最善手のはずで、この事態は珠木正伍の悪手が全ての悪因ではないですか?

「もう必要ないかと思った矢先に、君は僕から離れていったからね」
「僕を裏切ってこんなところまで来たのかよ!」
「そんなに辛いのに、苦しいのに、どうして戦おうとするんだ」
このセリフ、どの面下げて言ってるんでしょう。

姫風露を追い詰め、姫風露自身が傷つく言葉を吐かせ、身勝手な言葉をかぶせて投げつける。
指輪を置いていけ? いや、本当に……。

その次手だって、周囲に止められなければ姫風露を消そうとするのです。
どうしようもなくて、ではないです。やる理由はなかった。
大事な相手だなんて気持ちは残っていない。

何より、珠木正伍はこんなことを言いながらチェスをしていました。
「棋譜を読むとき、いつも負けた方の気持ちになって考えてみるんだ。
 最善手を打ちつづけられなかったほうの。
 歴史に残る名ゲームで、一歩届かなかったほうの気持ちをさ」
しかし対面した相手のことを考えるといった応用は利かなかったようです。

しかもこのチェス戦、緊迫してぶつけ合う、最後の一戦のような曲まで入れ込んでいるのに、
実は意味を成しません。

さらに最後の最後まで、選択を他人に委ねようとする。
「……君は答えをくれないの?」

姫風露が反省しているのが不思議でなりません。
嘘つきで裏切り者は珠木正伍で、そしてそんな彼だから、最後の選択を誤るでしょう。

八郷藍視が、どうして君は主人公なのか?という問いかけをします。
その問いかけ自体が、この物語の主人公は珠木正伍だと押し上げたいための文句だと分かりますが、
何故主人公なのか全く納得できなかったので、
舞台芝居の問いかけを見ているように感じました。

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とはいえ。
かなり満足しています。期待以上でした。

描き込まれた魅力的な近未来世界と、
たくさんの魅力的なキャラクタたち。

どのヒロインも、主人公のことを想ってくれていて、
他のヒロインに懸想しそうな時には、こっちのことも見てくれと主張するのですが、
それもまたかわいらしい。
例えば、久遠寺ひなに、お兄ちゃんと呼ばれることになったと報告した時には、
姫風露どころか水城遊離も、試しにお兄ちゃんと呼んでみたりする。
その時のQPの反応ではないけれど、クラッときますよね、魅力的で。
シリアスな事態進行の合間に、こういった良い場面が盛りだくさんなのです。

大掛かりな舞台には、見合った事態が必要で。
優しくない世界には、優しさがあって良くて。

あと、タイトルが作品をあまり表していないように思うので、
そこも損しているところかな、なんて思ったりしました。
もうちょっとフォーカスさせた方が良いですよね。



ダウンロード販売もあります。

そうそう、クレジットを見ていたら、
チュアブルソフトさんでお見かけした方も多く参加されていて、
それがちょっと嬉しかったです。作る側で居てくれて。