シルキーズプラスさんの「缶詰少女ノ終末世界」感想です。
シルキーズプラス『缶詰少女ノ終末世界』

2019年4月発売作品。

「缶詰少女ノ終末世界」は。
ks7
南域で国籍不明の大型潜水艦侵入、地震、台風。
様々な脅威が、個々の印象が弱くなるくらい日常的にある日本。
不謹慎だとは思いつつも台風を楽しみにしていた小海雅孝は、
その台風の最中、コンビニで、鯖の缶詰を堪能していた少女、更紗サリに出会う。
彼女はプレッパー、様々な要因で起きる世界滅亡に備える人であり、
缶詰への興味もその一環だという。

レスリング部の部室問題を抱えていた嶽山照男から、相談を受けていた小海雅孝は、
先輩の八乙女華江、アウトドアショップの辻花咲を加え、プレッパーズ部を立ち上げる……。

という導入の、”終末に立ち向かうプレッパーズADV”、です。

それでは感想です。
強いネタバレが、多めにあります。


うん、渡辺僚一さんの味がある作品です。
(なので、これだけ色々書いてもネタバレ耐性があります)

当初、体験版をプレイした時には、その可能性だけ感じさせてくれていましたが、
体験版以降は、設定のてんこ盛り。それが納得感になっているように思います。

その設定や作風は、
すみっこソフトさんで発売された「はるまで、くるる。」のようで、「なつくもゆるる」。
そんな雰囲気がありました。

けれど、今作では引っ張るところが少なく、
中盤以降になると登場人物が自動的に明かしてくれてしまうのです。
今の状況であるとか、誰も見ていないこれまでのことなどを。

これは今の時代に合わせたのでしょうか。
今の時代はそこまで密度のあるものを求めてないという判断を取ったのか。
というのも、前述した2作は、もう少し尺というか密度があったように思うのです。

語るべきものが少ないとか、駆け足だとか、そういうことはありません。
この物語のスタートとエンディングならば、過不足はないといえるでしょう。
でも、どこか物足りない。そして終わりに納得がいってないのもあります。


登場人物は、それなりの物量で様々なことを語ってくれますが、
プレイしていると、あることに気付きます。
重要なことを自動的に明かしてくれるけれども、そこになかなか辿り着かないと。
ks8

例えば、更紗サリの口調。
一見、好きなもののことになると、話しすぎてしまうということに見えますが、
どうしてこんなにも、遠回りしてから進むのか。
それは、彼ら自身が持つ性質のせいです。
何か特異性のあるキャラクタばかりなのは、その理由です。

作品で語られる竜生九子は、このように登場しています。
ヒキ、重きものを背負う。
チフン、果てに向かう。
ホロウ、猛々しく吼える。
トウテツ、飲食にこだわる。
ハカ、水を愛す。
サンゲイ、炎を好む。
ジョトク、閉所に入り込む。
ヘイカン、悪を裁くを好む。
――ヤズは殺人を恋しく想う。

この作品は、性質に引き摺られた、狂わされた者たちの物語。”くるる”、です。
ks11
八乙女華江は、トウテツかサンゲイだったんじゃないかと思いますし、
常時吠えてる嶽山照男がホロウだったんじゃないかと思ったりも。
全員が業を背負っているわけではないのは、少しそぎ落としたのかなと考えています。


ただ、それがこの作品の本質かというと違います。

あきゆめくくる」で、永崎サリというキャラクタがいて、
声の担当も藤咲ウサさんだったんですよね。
原画も、イチリさんが担当されていました。企画・シナリオは、渡辺僚一さんです。
だから、何らかの関連性がある、少なくとも作風が似通っているに違いない。
そんな期待を持っていました。
ks10

更紗サリは、何故終末に惹かれているのか。
体験版で、更紗サリは終末を思う理由を聞かれ、八乙女華江に言われます。
「プレッパーズを始めたのに、たいした理由があるわけじゃないんです」
「愛されたいんだと思います」
「なんか、もう!終末を考えないと自己肯定できないなんて、悲しすぎるよ!」
辻花咲にも終末を生きる意味を聞かれ、
「意味は、ないんです」
と答えながらも、
「みなさんのこと好きって気持ちと一緒なんです。」
「一緒? 何が一緒なのですか?」
「世界への気持ちです。一緒じゃないのかもしれないけど、似てます」
触れあうことで、誰かと話すことで、少しずつ自分を見つけていって居るように見えました。
だから、プレッパーズ部の活動を通して、少しずつ見つけていく物語なのか、と思ったのですが、
そうも、なっていません。

更紗サリは、終末を迎えることで、愛されたいし愛したい、とも言っていました。
これは、烏森亜実花の望みと同じです。
ツバキを取り込んだ更紗サリと烏森亜実花が戦う場面も、本当はあったのかもしれません。
ks12

物語の秘密を明かすのが自動的なように、意思のある行動が少ない。

幽霊やウィルスのようなものとツバキは評価しましたが、
人を振り回すほど強い呪縛を持つ性質と、
明確に戦うべき場面が用意されたのは、最後の最後なのかもしれません。

ただその抗い方がぐちゃぐちゃです。
小海雅孝は、相手の性質を押さえ込むのに、説得と性質を選択しました。
説得したくないと、感情で会話したいと小海雅孝はいっていましたが、
やっているのは自身の性質をうまく宥めた上での説得です。

そうしないと、自身の性質に振り回されてしまって、抗えず終わってしまう。
どちらかといえば説得相手、更紗サリの望みと近いところがあるらしく、流されてしまう。
それも分かるのですが、持ち出したのが説得です。
辻花咲にそう宣言されて、ずっこけたはずの手法です。

その説得内容も、更紗サリは、最初から気付いていたし、
最初から周囲に問いかけられていたことで、かつ、当たり前のこと、でしかない。
全くそのことに思い当たらず、ただ終末の本を蒐集していた、となってしまいます。
まるで考えることがなかった。

なのに問いかけの場だけは体験版時点でも用意されていて、
それが茶番になってしまうようで、少し残念です。

ただ、それほどまで強力な呪いめいた性質なのだということは伝わります。
何なのかは分からないが、考えすら、選択すら制御されてしまう。

ある意味、いつも暴発の危険を抱えている爆弾といえます。
というのも、感情や説得といったものが無効化される自動的な性質であるわけで、
本人の意思を塗り替えています。

だから本当の解決とは、思い難い。

というか、もう少し納得できる終わり方があったのではないかと思います。
衝動に近いものを、消すでもなく宥める。威力を逃がすでなく逸らすでもなく。
一瞬の隙を作るのには向いているとは思いますが、解決とは……。


演出が足りないと思います。
ちょっとしたことで良いのですが、SEに拘っても良いと思うんですよね。
地下施設、場面がかなり短くはあったのですが、電気系の何かが動いていそうな、僅かな振動音。
台風の音はそんなに短く切るべきではないと思います。
SFって、それをかきたてる音をしっかりしていかないといけないと思うんですよね。
もっと、終末感が欲しい。
あるいは、動的な演出が必要なのかなと思うところもあります。
ks15

それと、ラスト。
その場所に行った、という形になってしまっていて、盛り上がりに欠けるかな、と。

あと、手を伸ばしても良かったですよね。
八乙女華江のように、捨て犬を拾う選択をしても良かったはず。
手元にツバキが居れば、更紗サリが暴走しても何とかできる、ヤズの衝動ではない選択も生まれる、
そんな可能性にも賭けてほしいという気持ちもあります。

というかツバキが魅力的に思えたかな、と。

役割上、ヒロインの魅力を引き出しが難しかったところもあります。
それでも、引き出しをやってくれているのは、イチリさんの原画にあると思います。
やっぱりイチリさん、かわいいキャラクタ描いてくれますよね。素晴らしかったです。

まあ、辻花咲の良いところは、性質と違って強制されることを望むところ、だったように思いますが。

ということで、グラフィックには相当満足しました。
作風も好きでした。終わりと演出が物足りなかった、という印象でしょうか。
伏せどころが分からずそのままですが、
のめり込んでプレイできますし、楽しめたには、かなり楽しめたと思います。



ダウンロード販売もあります。
缶詰少女ノ終末世界缶詰少女ノ終末世界