劇場アニメ「青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない」感想です。

2019年6月公開作品。
正確な公開開始日は、2019年6月15日(土)からであり、そろそろ1カ月。
上映館も上映回数も減り、そろそろ上映終了が迫ってきたため、
良い作品なので触れてほしくて記すものです。

ネタバレのない形で。



――3年前。
4年生の教室。授業でプリントが渡された。
”将来のスケジュール”。
クラスは沸き立って、あんなことをしたい、こんなことをしたいと書き綴る。
「先生、書けました!」
子供たちの元気な声があがりはじめる。

そんななかで、牧之原祥子の手にした鉛筆は、全く動いていなかった。
記されているのは最初の数行だけ。
難しい表情、プリントをじっと見つめて……。

――現在。
様々な思春期症候群を抱えた少女たちと出会い、一緒に乗り越えてきた梓川咲太。
だが、妹の梓川かえでの快復の折に、憔悴しきっていた。
それを救ったのは、大学生となっていた牧之原祥子。
咲太に寄り添ってくれ、やっとのことで咲太は眠ることができた。

祥子は、2年前にも不意に現れて咲太を慰めていた。
咲太は憧れを抱き、だから進学先を峰ヶ原高校に選んだが、
牧之原祥子という生徒は存在しておらず、再会できていなかった。

ロケ先の金沢から咲太に電話を掛けた桜島麻衣は、
咲太に何かがあったことを見抜き、僅かな待機時間に新幹線で会いに訪れる。
しかし、咲太の家に残された牧之原祥子の伝言メモを見て、
支えになっていたのは自分ではなかったとショックを受け、そのまま金沢に戻ってしまう。

折しも、12月2日は麻衣の誕生日。
そのことを豊浜のどかから知らされ、咲太は会いに行き……二人は、寄り添って言葉を交わす。

そんな上旬を過ごした二人だが、次第に高校は学期末。
「その前にクリスマスがありますよね。麻衣さんとケーキ食べたいな」
「今年は花楓ちゃんと過ごしてあげなさい」
「妹とクリスマスって……」
麻衣は映画の撮影もあり忙しく予定が見えない。

今、咲太の家には、妹の花楓と、猫のなすの、それから、預かっている猫のはやてがいる。
預かっているのは、中学生の牧之原祥子から。
「はやてのこと、まだ両親に言い出せなくて」
「ご両親は、厳しい人?」
「とても優しいです。言えば反対はしないと……だから、言い出せなくって」

そして夜。
麻衣が咲太の部屋に来て、鍋物を作ってくれていた。
せっかくだからと、こたつを出す咲太。
そこへ、インターホンが鳴る。
「こんばんは、私ですっ! 今晩泊めてもらえないかと思って」
インターホンの画面にいたのは、大学生の牧之原祥子で……。

果たして、彼女の思春期症候群とは。そして、何のために。




この作品は、2014年に著者を鴨志田一、イラストを溝口ケージさんによって生み出された、
青春ブタ野郎シリーズ」を原作とするものです。


それを、増井壮一さんを監督に据え、ANIPLEXによって映像化、
テレビアニメ「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない」として13回放送されたもの、
その、14回目にあたるストーリーといってよいでしょう。

つまり、いきなり劇場で観るよりも、TVシリーズを観てから行った方が良いと思います。
TVシリーズに惹かれた人ならば、必ず満足できます。
それもこの、DVDないしBlu-rayの5巻目、妹の「梓川かえで」の物語までを見た後で、がお勧めです。

その上で、原作本を改めて読むと、すごく楽しめるはずです。


さて、劇場版ですが。
アニメーションになって、目を見張るのはシナリオのまとめ方。
それと、演出です。
この演出を、劇場版でも見所としてほしいのです。

舞台が江ノ島近隣であるため、その土地ならではのものが多く描かれています。
具体的には、こちらの「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない 舞台探訪」(天狼星さん)を。

実際にある場所が描かれるのは、
作中人物がここで何かをしていたと思わせてくれるのが良いのですが、
それが、電車内の吊り広告にまで及んでいたり。
Webラジオ(最終回)でも語られていますが、
時刻表への登場人物の映り込みを始めとした、細やかな描き込み。
江ノ電の窓ガラスの四隅が結露している、なんてところもあります。冬場ですし。

また、作中の環境音も非常にこだわっています。
劇場版では、梓川咲太が病院にいるときの音と、桜島麻衣と傘を差して歩いている時の音と、
双葉理央に追いつかれた踏切前の場面で聞こえてくる音は、全く違うんですよね。
踏切といって想像するのは江ノ電が通る音などだと思いますが、
遠くに車が通っていれば、その音までも聞こえてくる。

分かりやすいところでは、冒頭で物理実験室にいる双葉理央と梓川咲太のところへ、
いつものように国見佑真が窓を開けて現れますが、
窓を開けた時から、外の音が聞こえてくるのです。

通常、環境音って人が多く居る場所で盛り込まれることが多いのですが、
室内だと示す環境音が素晴らしいです。
梓川咲太のマンション内、牧之原祥子の病室といった、通常は静かで環境音を出さない状況において、
しっかり環境音がして、素晴らしい演出になっているのです。


そして、環境音はするものの、音楽は聞こえてきません。
一番最初に10秒程度流れた後は、ずっと音楽のないまま。

そう。TVアニメシリーズからそうでしたが、印象的で良い音楽はあるものの、
全く音楽を流さない場面が多いんですよね。
こういう演出の良さ。
セリフと、キャラクタの動きで表現し、進行していくのです。

青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない Original Soundtrack
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印象的で良い音楽。
例えば、劇場版では冒頭に、ある音楽が流れ、砂浜を裸足で歩く、制服姿の少女の姿が映ります。
この時に、劇版31曲目『初恋の人』の冒頭が流れるんですよね。

思い出しても、この場面にピッタリで。
最後まで見終わって、色々と考えると、絶妙なコンテ、プロット、演出だと思うのです。

ライナーノーツによると、fox capture planさんのところへ、
普通の劇番にはしたくないと依頼があったそうです。
この『初恋の人』という曲は、他の曲のベースにもなっています。

そういった音と、音楽によって描かれる作品ですので、ポップコーンと相性が非常に悪い作品です。
ポップコーンのカサ……という音すら、その演出を拾いにくくなってしまうのです。
セリフは多めなので、見落とし難くなってはいるのですが。


スクリーンもそうなのです。
キャラクタが大きく表示され、すっきりした画面が多く、情報量が少なそうに見えますが、
カメラワークも含めて、そんなこともないんですよね。
意図的に見せる画面もあるのですが、情報量は多めです。

そういう意味では、息をつく暇が、あまりない作品です。
違った姿勢、違った座席で観ると、新たな発見があるので、複数回観るのもお勧めです。



劇場版でもエンディングに流れるのは『不可思議のカルテ』ですが、
不可思議のカルテ movie ver.』となっているんですね。
確かにこのCDだと、桜島麻衣が最初に歌い始めますが、
劇場版では牧之原祥子さんが歌っているように聞こえます。
このmovie ver.は、配信限定となっているようです。

この曲に限らず、TVシリーズサウンドトラックに未収録で、劇場版用の曲があります。
何とか手に入ると嬉しいのですが。


ストーリーは。
TVアニメーションでも、それぞれの思春期症候群、
いえ、ヒロインにしっかり向き合ってきた梓川咲太は、今作でもそのように動きます。

明かされる事実に、何を選ぶのか。

この作品は、誰かが誰かに、哀しまないでほしい、そのために奔走する物語です。
出来る限り良い選択をしたくて。
でも、全員が救われる道がない場合に、
何かと何かがが天秤に乗ってしまう場合に、どちらを選ぶのか。

ネタバレのない形で、と先述しましたので、以下は観た人向けに。


TVシリーズで、それこそ13話のような展開でも、ピタリとくっつくのが精一杯だった桜島麻衣。
でも、あれほどまでに、言葉通りだとは思いませんでした。
あの場面、何回観てもぐっときてしまいます。
だから、止めにいった咲太にも強烈に反発するのでしょうね。
本当に咲太のことを理解しているから。大事だから。

この二つは、このセリフが思い出されます。
「咲太が思っているよりも、私は咲太の事が好きなのよ」

今年は、こんなことをしよう。
そう語る時だって、本当はどうしたら良いんだろうと考えながら言葉を綴っていたのかもしれない。
振り返ると、そんな風に思います。

そして、麻衣は本当に、周囲に愛されていたなとよく伝わります。

その上で、それでも、「二人で幸せになる」。
どんなに不確定でも、そこは変わらない。その、覚悟。

牧之原祥子、祥子さんも、祥子ちゃんも、どちらもが、ずっと恋心を抱えていて。
祥子ちゃんのかわいらしいところは、大ヒット舞台挨拶レポートでも挙げられています。
サッと隠すところ、「クリスマスじゃなくていいので」と遠慮するところ、
でも次は、最初から点滴を見せ匂わせてから言う場面も含めて、
祥子ちゃんもすっかり女性なんだなと感じました。

でも、だからこそ、祥子さんが冒頭でこたつ越しに麻衣をからかうようなやり取りは、
半分本気だったのでしょう。デートの誘いだって。
下見に行ったのだって、遠慮こそしたけれど、憧れはあったでしょう。
扉を開けた時の瞳の輝きは、まさにそれでした。

でも、そのままでは駄目で。
大きくなっても駄目で。伝える相手がいなくなってしまうから。
だから、うまくやりたくて。
「ありがとう」と「がんばったね」と「だいすき」。
そして、
「昨日のわたしよりも、今日のわたしがちょっとだけやさしい人間であればいいなと
 思いながら生きています」
あのラストは、夢を見ないことに同意したから生まれたのかもしれません。
保健室での会話を受け入れた、からこそ。

双葉理央がどうして踏切まで追いかけてきたのか、
咲太がいない間に、部室で考察を続けていたのか、
「だいじょうぶ、じゃない」といって、ぽすっと力の抜けた拳を放ったのか。
TVシリーズを観ないと、伝わらないですよね。
「もう逢えないんだと思ってた」と涙するのは、本当に咲太を理解しています。

いいところで豊浜のどかも出てきて、麻衣を大切にしているからこそ、
咲太に麻衣のことを伝えます。TVシリーズでもそんな役回りでした。
「咲太がお姉ちゃんを守って」なんですよね。信頼しているんですね。

そして、古賀朋絵は本当に良い役どころです。
重いドラマの中で、所々登場する朋絵は、クッションになっていたし、
”尻を蹴り合った仲”だからこそ、通じ合ったのかなと。
拳を打ち合う場面がお気に入り。

花楓は、一歩ずつ前へ進もうとしています。
TVシリーズで「ひとりじゃないから」と言った通りに。

咲太の良さって、自分のできることはきちっとこなそうとするところなのでしょう。
大事なことははっきり言う。やる。だから、主人公なんですね。
自分が背負わなければいけないと思えば、背負う。
それで大切な誰かを哀しませてしまっても。傷を負おうとも。

最後の最後でも。
海岸で、咲太はある名前を叫びます。
それは、”ゆめみる少女の夢を見ない”としても、それでも咲太は約束を守ったんですよね。
竜の灯籠の傍で、祥子と手を繋ぎ、言った通りに。


でも、七里ヶ浜駅の近くで見た映画のポスターに、”春を待つ、冬が去る”ではなく、
ハルノミライ」というタイトルが書かれていれば、なお分かりやすかったかも。
さらに、TVシリーズで「ハルノミライ」がどんなストーリーなのか、ほんの少しでも触れていれば。


先述したように、そろそろ鑑賞が厳しい公開状況ではありますが、
できるかぎり、あと1回観ておきたい、そんな風に思います。

それほどにまで、心に響いた作品です。


#追記
合計、9回観たようです。堪能しました。楽しませてくれたことに感謝を。
本当にありがとう。