Whirlpoolさんの「pieces/渡り鳥のソムニウム」感想です。
『pieces/渡り鳥のソムニウム』を応援しています!

2019年3月発売作品。

Whirlpoolさんの「pieces/渡り鳥のソムニウム」は……。

毎朝、時計台から天使へ捧げる子守唄が流され、天使が眠る町といわれるミッテベル。
オステンシュタット学園に通う高坂燕は、他人の夢へ入る能力を持っていた。

ある日、森の中の洋館で、窓辺に佇む女の子を見た高坂燕は、
一目ぼれをしてしまい……。

という、不思議な雰囲気を持つADVです。
それでは感想です。ネタバレは、ほぼありません。
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うーん、素晴らしかったです。
Whirlpoolさんからこういう作品を出してくれることを、待っていたのかもしれないです。

Whirlpoolさんって、プレイした限りですが、どのルートを通っても、
ホッとするようなシナリオが多かったと思うんです。

でも、この作品はちょっと違います。
最初から、どこか不穏な空気をはらみながら物語が進行していきます。
というのも、このキャッチフレーズがまさに。
この果ては、君と落ちる微睡みの国。
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(ちなみにこれは緊急回避画面の一つです)

果て、だなんて。ちょっと気になるフレーズですよね。

その、ちょっと違う雰囲気を支えているのは、魅力的な音楽と背景美術。

天使伝承を感じさせるフルートが前面に出た『太陽は昇り』がすごく良いですね。
他の曲も落ち着いていたり、ポップで明るいものだったり、コメディだったり、
それでいて雰囲気をかきたてるところがすごいなと思っています。
ヒロインキャラクタ四人のテーマも、それぞれの特徴がしっかり出ています。

背景は、自然と人工物が非常によく噛み合っていることと、
時間の変化で差分が複数あるのですが、同じ場所でも4枚あったりするんですよね。
朝、日中あるいは夕方、夜、深夜というふうに。
夜と深夜を別に設定しているのは、眠りを物語の題材としているからでしょう。
もちろん、深夜には夜と違った光景が見られます。
夕方はきれいな夕陽を映していた雲は消え、星空になるし、
細かいことをいえば、夜と深夜の空の色だって全く違う。
誰かの部屋であれば日中空いていたカーテンは閉められ、ベッドライトは消えるのです。
そして当然ながら、眠りの物語には、目覚めの時間があります。
朝のビジュアルには、目を開けたばかりのような光の眩しさ。
素晴らしい。

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ちなみにこれ、夜のオステンシュタット学園です。明かりが点くんですね。
で、窓に教室内部が映る部分と、透けて木々が見える部分があって。
ニス仕上げの机にも、弱くですが映る。
ものすごく細かいですよね。
画面から受ける情報量がとても多くなっているのです。
こうして、物語の密度を高めているんだなと、すごく感じます。

この背景、minoriさんが手掛けているようでクレジット記載があります。

もちろん、Whirlpoolさんならではのドタバタなギャグも、ヒロインの魅力も満載です。
相変わらずグラフィックが美しいのと、水鏡まみずさんのデザインが素晴らしくて。
ちょっとした差分がかわいらしいし、
というか、作を重ねるごとにかわいらしさが増していますよね。

音声が豊富で、最近の作品では減ってきている、システム音声が登場人物すべてで搭載。
「アイキャッチまで進んだよ」なんてボイスまで登録されていて、
その豊富なボイスで、さらにキャラクターを深めている気がします。

体験版プレイ時点からとても気になっていたストーリーは、いわゆるTrueルートが配置されました。
そのため、ルートによっては、後の物語に預ける形となり、
スッキリとエンディングを迎えられないこともあります。
それでも、徐々に分かっていく構成と、最後のルートの重みがとても良く、
用意した素材に負けない物語となっていました。

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「今までずーっとねぼすけだったせいで、ちょっとくらいは損してたかな~って最近は思うの」
藍野深織(そよかぜみらいさん)

オステンシュタット学園の昼寝部部長。
寝ながらにして様々な依頼を鮮やかに処理する”眠り姫”という状態を持っている。
昼寝がライフワークの高坂燕は、入部を嘆願し何度も昼寝部へ訪れていたが、
その流れで、何かと手伝ったりと距離が近くなって。

ある日、眠り姫状態のまま、燕のクラスに訪れる。
不意に目覚めて、いつの間にここへ来たのかと自身で驚くが、
眠り姫の極意は、眠る前にやることを考えておくこと、のはず。

寝るのが大好き。けれど、起きている時にも大事な時間があると知り、
「今日みたいな時は起こしに来て」
笑顔を見せる深織は、とてもとてもかわいらしいです。
すごくいい差分、声。

しかしその頃から、ミッテベルには地震が頻発する。
さらに君原結愛が指摘する。
「ねぼすけとかのんびりとか、そういう次元じゃないわ」
深織は過去、長い期間にわたり、眠り続けていたことがあり……。

メルヘンな部分と、それで過ごしてしまった時間を突きつけられるセンテンス。
眠りの理由。
眠りの中は、どうなっているのかを描いていて、非常に興味深かったです。

そよかぜみらいさんって、姉系ヒロインが合っていると思います。
「えいえい」とか「よいのです!」とか「むにゃ?」とか、ちょっとした一言も良いですね。

お菓子はエクレア派。シュークリーム派の美城ありすとは意見が合わないことも。

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「この町に生きる人たちは、子守唄をこんなにも大切に思ってたってことですよ」
美城ありす(鹿野まなかさん)

天使への子守歌を流す時計台の前で出会う女の子。
時計台で歌いたがっている。それは、夢に見る、”もう一人のありす”を元気づけるため。
が、歌が下手。そこで、高坂燕はコーチとしてサポートするが……。

ありすは、とにかくかわいいですね。
水鏡まみずさんのビジュアルも冴えていますが、鹿野まなかさんの演技もすごいです。
ありすは、感情表現が豊かな子です。いつも全力。
その目まぐるしく変わる感情とリアクションを、声で見事に表現してくれているんですよね。

感情が高ぶり、恥ずかしがりながらも、かろうじて伝えるとか。
コミカルなところは、よりコミカルに楽しむことができます。上手いと思います。
なので、ありすのボイス登録がずば抜けて多いです。
「ぎくぎく」「ありすジャッジ」「ぷふ~っ」「忘れ物ないよね」「そ、その件については」
などなど。
鹿野まなかさんって、こんなに上手い方だったでしょうか。ハマりすぎです。
お陰で、どこでありすが登場しても、”みんなの妹みたいなところがありますから”、に同感。
魅力的なキャラクタになっています。
膨れ顔差分が複数あるのも、ありすに合っていますし。

この小さなヒロインに、何をさせるかという部分も秀逸。
「おにーさんと一緒にごはん食べたり、遊びに行ったり……そ、そんな一日になると思ってたのに」
乗り越え、徐々に上手くなっていく過程が良いですね。

ありすのエンディング直前のイベントCG、髪に陽の光があたっている表現、
鮮やかで綺麗ですね。
これ、キャラクタへの彩色だけではなく、背景の部分が活きてますよね。

ラスト、子守歌を歌うのは、ありすだけが歌っているのではない、
あっちのありすも一緒に歌っている、そんな声に聞こえます。素晴らしい。
素敵な物語です。

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「あたしにしかできないことなんだもん。あたしが勇気を振り絞らなきゃ……」
小鳥遊紬(鈴谷まやさん)

高坂燕の幼馴染み。夫婦みたいな扱いを周囲からされているが、本人は保護者目線。
常識人ポジションで、クラス委員。
乙女の勘と言いながら、行動予測めいた先回りをすることが多い。

「チャンスをもらったってことかな……」
体験版中から意味深な独り言を呟いていましたが、大事なことほど言えない紬が抱えていたこと。
それを明かしても、でも関係はうまく進まない。まだ踏み切れない。
言えないことは、まだあるから。

どのルートでも、高坂燕のサポートをしたり、距離感の近い立場で居ますが、
執着を持つというか、ヤキモチを焼くところとか、かわいいですよね。

紬が先読みで身構えているところに、燕とタイミングが合わずすれ違って錯綜するところ、
勘違いしたまま突っ走ってしまうところ、
土壇場でへたれてしまうところ。紬は魅力的ですね。

「ハート泥棒」って。「でへ」って。
なかなか鈴谷まやさんが「でへ」ってデレてかわいいのも珍しいです。
紬のぐるぐる目差分がすごくかわいい。辛そうに目を伏せる差分も。
IFの追加シーンがお気に入りです。あんな紬もかわいいですよね。

そして、雷を恐れる紬が向き合うべき相手に、意外性がありました。

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「……臆病なのよね、わたし」
君原結愛(夏和小さん)

洋館に変わった鳥と一緒に住む少女。

誰かが悪夢を見ていると、その悪夢を見させられてしまう体質。
場合によっては強制的に眠りに落ちてまで、悪夢に引き摺られる。
元々はオステンシュタット学園生だが、その体質から通うことを断念。

他のルートでは、人の気持ちを感じ取って上手く回すようなことをしたりもします。
紬の背中を押したり、深織の会話を伝えたり、ありすの苦しみを見抜いたり。

ルートに入ると突然ツンデレ度が増していきます。
それは、人と触れ合いたい、けれど怖いということ。
その理由となったのは……。

前半で萌やし、後半で向き合う。かわいいが先という構造がすごく良いですね。
結愛はヒロインらしいヒロインでした。
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公式サイトにも掲載されていますが、超肉さんの描くSD結愛がかわいらしいこと。
なんでくまのぬいぐるみ抱えてるところ描いたんですか。かわいすぎます。

高坂燕は、ところどころで強く出られないというか、へたれてしまいますが、
過去の記憶や痛みを伴う思い出、自覚のある”してしまったこと”などが、
その理由なのでしょうね。
それを超えて、迷い込んだ森の中にあった洋館で、窓越しに佇む姿を見て一目ぼれしたところから、
この物語が始まりますが、相手の夢に入り込む特技で、結愛が悪夢を見ていることを知り、
「君を悪夢から救ってみせる」と伝えます。
その気持ちを通すのが、この結愛のルート。

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そして、Trueルートも、ここから始まります。
天使は、この町にとってどんな存在だったのか。
他作品のTrueルートだと、真実が明かされるルートという面がありますが、
全く描き方が違っていて、他のルートで明かされていた内容と、そうでないことと。

紬はどこまでも幼馴染みの紬で。
どこまでも優しく、最後に励ましてくるあたりがすごく……すごくて。
それでも、言えないことは言えずに。
ありすはやっぱり笑顔が似合うありすで。
そんなありすでも不安に落ちてしまうことがあっても、ありすは最後まで素敵でした。
ありすの歌はきっと、遠くまで届くのです。
深織は、優しさ満ちた深織のままで。
こんな存在だったんだと、このルートならではの深織を感じることができました。
すごく大人っぽいんです。高坂燕を撫でることができるくらいに。
たくさんのことを分かっていたから、昼寝部へ連れて行くんですね。

伊集院貴美香(水野七海さん)だって、吉川晃司(芦久比剥巳さん)だって、
カステラ(北都南さん)だって。
すべての人が、そこで活き活きとしていました。

そして、結愛は。
「楽しいことばかりで……胸がドキドキして、最後は……うん、とっても悲しくて……」

Trueルートに至る前の時点で、満足度がとにかく高くなるよう設計されていて、
さらに終わりの流れをきちんと時間を掛けて見せてくれたことが、特に素晴らしかったと思います。

きちんとした人間同士のドラマが用意され、
その上で、もっと大きなものが襲いかかるという、きちんと見ている側を惹き付ける構造。
間違いなく、物語を追いかけるように見ていました。

Trueルートでまとめ上げられたものの素晴らしさ。
これぞ、エンディングへ続く道。そして、描き出されたエンディングの素晴らしさ。
本当に良かった。そんなエンディングがあるのです。
もらい泣きしてしまうほどのものが。


パロディネタもあるにしても、テンポの良い会話だけで笑わせてくれる作品ってすごいと思います。
萌えもたくさんたくさん詰まっていて、ボイス登録は気付けた93個もしていました。
さらに、どのシーンも、これは本当に恋人同士だなって感じがして、良かったです。

繰り返しますが、「pieces/渡り鳥のソムニウム」は、ややシリアス寄りになっていました。
が、見合った素材の量と質、変わらず続くキャラクタの魅力を用意して、
最後の最後の最後まで、楽しめた素晴らしい作品だったと思います。

こういう作品があるから、このジャンルは辞められないのかも。




ダウンロード販売もあります。
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