tone work'sさんの「銀色、遥か」感想です。
『銀色、遥か』応援中!

2016年8月発売作品。
tone work'sさんの「銀色、遙か」は、冬から始まる”恋愛アドベンチャー”。

新見雪兎は、北里中学で二年になった。
進級すると、周囲にいる人達も変わってきていた。

義理の妹になった雪月が同じ中学へ入学し、ベスリーという留学生がクラスメイトになる。
上級生には、幼い頃に仲良くしていた如月瑞羽がいる。
有名なフィギュアスケーター。だが本人は友達ができないことに悩んでいた。

妹の雪月も、引っ込み思案。
ベスリーは、日本語が流暢でないこともあり、奥手に見える。

新見雪兎は思いつき、教育実習生の西園百々花に申し出る。
学年の垣根を越えた、”ワンルーム学級”を。

そこに、雪月と友達になってくれた蒼井雛多、
クラスメイトの名白椛も加わって……。

それでは感想です。
ネタバレは少しだけあります。


体験版は2つリリースされていました。

素晴らしい。
ここまでやってくれたことに、感謝しています。


物語は冬から始まりますが、季節や時間、場所の移り変わりを、
長く過ごしていくことができるのです。
時間が経つということは、生活も変わるし、身体的にも成長していく。
それを味わうことができます。

また、誰か一人のヒロインと仲良くなっても、他のヒロインたちが登場しなくなりません。
ワンルーム学級を形成した仲の良さが、未来でも継続されていきます。

だから、ヒロインはどこまでもヒロイン。
別なルートではオチ担当になってしまうとか、そういうこともありません。
それでいて、リアリティというか、現実感がある進行なのです。

何より驚くのは、ヒロインによってシナリオが弱くなることがありません。
特定のヒロインのシナリオは良かったけど……ということがないのです。
非常に珍しく、本当に力の掛かった作品です。

成長していく様を見せる。
恋愛アドベンチャーですから、恋愛が主体とはなりつつ、ヒロインの未来への志向が提示されます。
登場時点の思いが、どんな風に昇華されていくのか、楽しむことができるのです。
生きていけば、うまくいかないこともありますが、
乗り越える過程がきちんと用意されていて、
そう、例えば、挿入歌『夢の季節へ』の流れるタイミングが秀逸。


この曲、本当に良い曲ですね。(FULLMOON PARTYでも聴きたかったです)

シーンもなかなか。濃厚な仕上がりですが、恋愛が主体。
例えば椛ルートでは、独占したい、独占されるのが嬉しい、そんな気持ちが入っていたり。
お互いの信頼感だからこそできる濃厚さがあるんですね。


そういう流れを持つ作品ですので、公式サイトのコンセプトにもあるように、
プレイ時間は長めに設定されています。
十分に堪能できる時間があった。やっぱりこれが良いですね。

地に足の着いた進行で、少しずつ花が開くように魅力を広げていくヒロインたち。
ある日の出来事は、プレイ時間としてはほんの少しの体験かもしれません。
けれど、登場人物たちにとって、大事な思い出なんですよね。
それが良く伝わります。


では、作品全体の印象を交えながら、個別の感想を。

gh5
「またきらきらした思い出、出来た…」
ベスリー・ローズ・ディズリ―(橘まおさん)

ブロンドのロングヘアとブルーの瞳が印象的。
父の仕事の都合で日本にやってきた、カナダはアルバータ州出身の女の子。
日本語は喋ることができるが、堪能とは言い難い。
数年後に帰国が決まっている。

体験版で登場した印象は、なんとも儚げな雰囲気。
それは、ベスリーが抱えた心細さなのでしょう。

この作品の良いところである、人との繋がり。これがしっかり表現されています。
ベスリーでいえば、亡くなった母と、パイロットをする父。
そしてカナダと。
雪月でいえば、亡くなったお父さんと。
瑞羽は、幼い頃の主人公と。
誰かが誰かと繋がっていることを肯定し、一歩ずつ進んでいるのが分かるのです。

主人公もかなりイケメンですね。
西園百々花先生が、本当に中学生か疑うくらいに大人の対応ができる。
気持ちで当たるべきところも、きちんとできる。イケメンすぎます。

そんな主人公だって、悪い対応をしてしまうときだってある。
うまくいかなかったベスリーを、プール掃除から外すように距離を取ってしまったり。
この場面、すごくすごく好きです。
恋愛っていうのは、思い出の積み重ねなんだと、強く伝わりますね。
二人は後に会話をしたことでしょう。この時こんなことがあったねと。

主人公がイケメンなだけでなく、有能すぎると思うところもあります。
例えば企画を思いつくところが一番難しい。なのに、あっさり乗り越えてしまう。
けれど、万事がそうではなく。
悩みがよく分からないところから始まって、答えを見つけ、
それでも自分の今の立ち位置から、決断できなくて改めて悩んだり。
これ、すごく大事なところだと思います。
作品の全てが、経験や繋がりを重ねていくことだから。

中学、高校、大学生活やアフター編まであって、
想いを伝え合ってからも過ごす時間があるからこそ、
お互いのことを本当に理解し合っていく流れがすごく良いですね。

サブキャラクタだったり、サブキャラクタとなっていく人のことを忘れない。
人と人との繋がりをしっかり描いて、そこで楽しませてくれます。
なので、カナダ編もとても楽しかったです。

キャラクタのデザイン、成長していく姿も秀逸。
ベスリーなんか、どんどん大人になっていくのが分かるし、
それでいてカレッジ生らしさもあったりして。
基点にあるのは、ベスリーの、母への想い。

ベスリーは、登場時点では、知っている人が誰も居ない、
言葉もよく分からない土地での海外生活が、口を重くしているのかなと思ったのですが、
元々、引っ込み思案なところがあるんですよね。
カレッジ生になってもそれは変わらないのを見て、ベスリーを誤解していたと気付きました。

何よりも、ベスリーのエンディング。
こんな凝ったエンディングもそうないですよ。
素晴らしいです。このエンディングを好意的に受け止められる。
最後まで通してプレイしてほしいですね。

ベスリーとの物語、とにかく推したいです。
最初にプレイできて良かったと思っています。

gh8
「わたしの夢。将来、こうなればいいなぁって…色々考えて、書いちゃった」
名白椛(鈴谷まやさん)

演劇をやりたいと、空き教室で台本を片手に演じる女の子。
実家は洋食店。

いやー、中学時代から、大人まで、鈴谷まやさんの演技が光りますね。
本当に成長していっているのが、聞いていてよく分かるんです。
中学から高校も変わりますが、高校から大学になってから。
成長した後だというのがわかる、急激な変化ではない、でも差の伝わる。そういう成長。
声で演技できる人は本当にすごいです。
かわいいのはかわいいまま。その上で雪兎くんと呼ぶ声にしっかり差が出せるのがすごいです。

それに、バナーの表情。なんて魅力的なんでしょう。
体験版の時、つい惹かれてしまったのはこの表情のせいですよ。
このヒロインとは、どんな日々が過ごせるのだろう。
どんな時に、こんな表情を浮かべてくれるのだろう。すごく期待してしまいました。

中学時代の動物マフラー手袋セットもかわいいですよね。
ちょっとした身につけているものにも、キャラクタが宿っています。

名白椛が、自分の恋を見つけていく流れがとても魅力的。
過去も、すごく納得します。
そんな二人だから、近づいていく様が少しずつなのも、なお。
おずおずとチョコレートを渡す場面とか、本当に、本当に。
大事にしたくなるヒロインですよね。
椛の告白、素敵でした。

進級してクラスが別々になったことを、うまく使わなかったのはもったいないですが、
成長につれて、ワンルーム学級とは別な人間関係が育まれていくのが、
大人になっていくんだなと感じられて良かったです。

風邪の場面。すごくすごく良いですね。
心がほっとするというか、気付けば笑顔で画面を見ているのがわかります。
朝、起きられなかった彼女が。あんなふうに。

エンディングも、やっぱり素晴らしい。

gh2
「大人になったねって言ってくれるかな?」
新見雪月(くすはらゆいさん)

分かりやすく引っ込み思案で、照れや恥ずかしさがあって、
なかなか雪兎のことを兄と呼べない、年齢が一つ下の妹。

最初は、仲良くしたいという気持ちだったのだと思います。
その関わり方は、普通の兄妹ではなくなっていく。

本来は家族ですから、それを父や母といった血縁者が、ふたりの関係を認められるのか。
あるいは、仲が良いとはいえ、友達たちに認められるのか。悩ましいところです。

以降も都合の良い展開が続きますが、それも好意的に受け止めることができる。
人と人は繋がっているのだと、感じられるからでしょうか。
幌路フェス。近いからこそ向き合えなかったこと。
イタリア。思いの強さは正しい形に成るとは限らない。
どちらも良い時間を味わわせてくれました。
なんかこう、取材の力がすごいですよね。舞台を描こうと思ったときの素材集めが。

気持ちにくるのは、オルゴール館へ向かうところですよね。
なんだろう。愛おしさを感じます。

雪月が仕上げた飴細工は、ビジュアルで見たかったかも。

他のルートで、義理の兄となった雪兎の、誰かへ向ける恋の気持ちに気付くことが多く、
言葉では伝えられないけれど、距離が近いからこそ、よく見ているのかなと感じました。

gh6
「雪兎は優しいもの! 私、雪兎が優しいこと、いっぱい知ってるもの!」
如月瑞羽(風音さん)

幼い頃から、家族ぐるみの付き合い。
一緒に遊んでいた新見雪兎が、スケートリンクのチケットをもらったことから、
初めてのスケート体験をする。スケート教室に通うようになり、選手への道を進む。
胸に抱えているのは、果たしていない約束。

あまり学園が主体とならず、やはり彼女の舞台、スケートリンクを主体に描かれます。

どこにいる二人の場面を見せるか。よく考えられていて、
そのために素材をしっかり用意しているのが伝わります。
何気に下着が毎回違うのも、きちんとしていて素晴らしいですよね。
一人のヒロインを描くために必要なこと、なのでしょう。

実は、怪我をするのですが、リハビリが必要な期間が作中で描かれます。
そこを、全く手を抜いていない。よく描いてくれています。
多少、感情の沈みが軽くなるように調整はされており、気持ちの部分は描かれていませんが、
きちんとスポーツと怪我を学んだ上で、物語に落とし込んでいると感じました。
他のルートで扱われるイベントもそうなのです。
勉強になる、興味を持てるレベルで認められています。

体験版で、幼い頃の雪兎との思い出が登場しますが、
その全容が分かっていくと、こんなドラマみたいなことがあったのか、と。
もうこの時点で、雪兎は他のヒロインのところに行くべきではないように思ってしまうほど。
大事にしたいと、画面のこちら側にも伝わる思い出なのです。

成長してからが本番みたいなところもあって、
幼い頃のデザインも、大人になってからもかなり魅力的。

エンディングの感情昂ぶりが最高潮。

gh10
「できる自分より、なりたい自分の方が夢、広がんね?」
蒼井雛多(柳ひとみさん)

新見雪月と友達になった、明るくポジティブなムードメーカー。

前向きで、前向き。本当に。
「やりたいことが多すぎる。人生一回じゃやりきれない」
かと思えば、何かには迷わず手を差し伸べる。動いてしまう。
ちょっとしたアドバイスも、雛多がしています。
この子は、眩しいです。

雛多は、どのルートでも、何かの声があがると最初に反応しているんですよね。
これ、すごいことですよ。
なんて真っ直ぐで、なんて温かい子なんでしょう。
セーブした場面は、雛多が一番多いです。

雛多の告白、すごく胸にきました。
テンション高くて勢いばかりが良さそうだけれど、きちんと相手を見ている。
分かってる。見てくれている。その上で一緒にいたいと願ってくれる。

興味が全方位なことも、誰かのことをよく見ているのも、幼い雛多の経験から。
誰かにされて、嬉しかったから。
それを自分もしようと考え、直進できる雛多は眩しい。

ある意味、主人公クラスの力があるんです。
誰かを応援したら、本当に応援し尽くす。
他ルートですが、たった数日でも、雪月のためにイタリアへ行ったり。
場合によっては主人公を叱咤します。これは複数場面ありました。
そして、進路に迷う主人公に、考え方の提示をすることも。

ビジュアルも、柳ひとみさんの声も、素晴らしく合っていました。
目を開いている差分も、すごく雛多に合っていて。

アフターの名前呼ぶ流れがすごくかわいいですよね。
名前を呼んだのに、恥ずかしいの満載で、とぼけて惚けきれない「幻聴だと…思いますです…」。
すごいトーンを作ってくれていますよね。
大人になった雛多が、かける優しい声。柳ひとみさんで良かった。

どんどん大人の魅力を重ねていく。
落ち着きがプラスされて、でも元々の明るさは変わらずに。
そういう声の変化を聞いていると、成長を耳から感じることができますよね。

どんなことがあっても幸せになるべきヒロインだし、
ちゃんと、基点となる、強い想いがあるから。明るいのには、前向きなのには、理由があります。

派手目の外見と違って、そういう場面になると照れが入って、素直にいえず、敬語になるところ、
少しずるいくらい、かわいい。
それでおねだりされて抵抗できる人は居ないと思います。


最終的はルートに入って、誰か一人にフォーカスされていくわけですが、
その前段階も本当に素敵。
例えば、椛ルートで、まだお互いに気持ちがはっきりしていない時。
椛の進級した制服姿を見たいよね?と雛多に聞かれ、
新見雪兎が全員の姿を見たいと優等生発言をしたときの5人それぞれの反応。全く違うんですよね。
雛多は、全く分かってないと呆れ顔で。
椛はムッとして。
雪月は期待されて嬉しそうで。ベスリーも。
瑞羽は、分かってないのを理解しつつも、それでもいわれて嬉しそうで。
こういう5人のバランスなんですよね。
誰もが必要で、この5人で良かったと思います。
gh1
小さなイベントでも、すごく大事にしているのが分かります。
物足りなさを感じさせない終わり方。それでいて冗長にならないところで切り替えている。
この間の感覚、素晴らしいと思うんです。

だから、こんな魅力的なヒロインがたくさんいたら、大変なんです。
セーブファイルが足りない。足りません。
今作であれば40ページは必要だったのではないでしょうか。


音楽も素晴らしいですよね。

音楽は、どんまるさん、MANYOさん、水月陵さん、しょうゆさん、Meeonさんと、
名だたる方が作曲してくださっていますが、この日常曲の厚み、良さというのは、
他の作品では味わいにくいものがあります。
みな、一様に冬が身近にある土地なのだと感じさせます。

体験版で、タイトル画面で流れる、どんまるさん作曲の『雪降る街』。
ピアノが奏でる、優しい雪のようなメロディは、
タイトル画面からゲームを初めていっても、シームレスに流れていくのです。
この展開は芸術的。
さらに、『冬の朝』で、寒い幌路の街にいるような雰囲気を与えてくれて。
そうそう、『喫茶hololo』。この音楽と、桧崎まりあさんのおかげで、
すごく良い喫茶店になっていると感じられますよね。
自室で誰かに思いを馳せる『恋人たちの時間』。
気持ちの沈みを感じさせる『灰色の世界』。
年代を超えた冒頭でかかる『夢の扉』。彼女たちの世界が広がったことを伝えてくれるし、
過去を思い出す『小さな足跡』。シーン中に流れる『確かな絆』。
良い曲が多すぎると思うのです。

こんな曲たちで物語を彩ってくれて、だからこそ、
より良い物語だと受け止められたのかもしれません。
優しい物語進行と、良く合っています。

もちろん、歌曲も素晴らしい。


こういう作品は、本当に希有です。

物語の開始から終わりまで、続いているのは、オープニング曲『銀色、遙か』の優しい雰囲気。
これが作品の空気であって、”心から笑顔になれる物語”。
本当に素敵な恋愛物語ばかりなので、是非。

”冬が巡る。また君と、巡り会う。”
そして、彼女たちの人生を、一緒に読み進めていくことのできる作品です。



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