劇場アニメーション「空の青さを知る人よ」感想です。

2019年10月公開作品。


幼い頃、姉のあかねが仲良くしていた人達がバンドを組んでいて、一緒に過ごしていた。
「あおいも、やりたい」
「じゃ、あお。でっかくなったら、お前ウチのベースな」
その一言で、ベースを背負い続けている相生あおいは、卒業後の進路を特に決めていなかった。

歳離れた姉の相生あかねは、市役所勤めで、気遣いができ、周囲の評価も高い。
あおいにとっては、両親が亡ってからずっと育ってくれた人。
感謝をしなければいけないのだとは思っても、
周囲からそう言われ続けると、素直にはとても出来ない。

「盆地ってさ、結局のところ壁に囲まれて……私達は、巨大な牢獄に収容されてんの」
「でた~、あおいの中二リリック」
「とにかく私は、ここから出て行くから」

姉からは進学を奨められていたが、東京に出ようとだけ決めていた。
言い放って、いつものようにお堂に向かい、ベースにプラグを差し込む。

ここは、姉とバンドメンバーがいつも集まって演奏練習していた場所。
今はもう、あおいしか使っている人はいない。
嫌な気持ちになったせいか、いつも以上にベースをかき鳴らすあおい。

「うるせぇーっ!なんだ突然!」
「しん……の?」
怒鳴られたのと、誰も居ないと思っていたのに誰か居たことと、
そしてそれが、姉と一緒に過ごしていた、金室慎之介であることに驚く。
しかも、金室慎之介は、13年前の、あの時のままの姿で……。

いつも、探してる。ずっと探してる。
どんな夢も、叶う場所を――。



原作を超平和バスターズとし、脚本を岡田麿里さん、キャラクターデザインを田中将賀さん。
そして監督を長井龍雪さんが担当する作品です。

ものすごく面白かったです。
CMを見た限りでは、面白いのだろうけれど、観に行こうとは思っていませんでした。
でも、すごく面白い。

前提となる知識が不要で、いきなり観ても問題無いです。


時間が経って動き出す物語。
しんの、と呼ばれていた金室慎之介は、大人になり、すっかりやさぐれてしまっていて。
演歌歌手のバックバンドとしての職を得ているけれども、
そんな自分で居たくなかった、こんな自分で帰ってきたくはなかった。
だから、あおいにも冷たく当たろうとする。
だから、あかねには、それでも認めてくれるだろうかと……。

弱音を吐いてみたり、突っ張ってみたり。
今の自分を認められないからこそ。

それでも「空の青さを知る人よ」とタイトル付けたのは、ずっと、大事にしていたんですね。


のんびりしていそうなところはあるが、人当たりも良く、しっかり日々を過ごしている、けれど。
自分の気持ちを見せることの無い、相生あかね。

あおいは、姉の卒業アルバムを見る。
相生あかねのコメントは、「井の中の蛙大海を知らず、されど空の青さを知る」。

相生あかねのことを、段々知っていく。
ずっと過ごしていたのに。知らなかった姉のことを。
姉が、本当はどんな風に過ごしていたのかを。

それでも、知っても。直接は伝えられない。
時が止まったような金室慎之介に、ストレートに伝えてくれるその言葉に、心惹かれてしまったから。
あかねに、好きに過ごして欲しいという気持ちも。

姉が、本当はどんな風に笑うのか、誰によって笑顔になるのかを。
知ってしまったから、なお。

デコピンの場面は、音楽もそうでしたが、見ている側の気持ちも高ぶりましたね。


相生あかねは、がっかりさせられて、でも、金室慎之介を信じているのですよね。
軽くいなしても。その後の大人の付き合いを見せられても。
でも、ちょっとはショックだったから。あおいと一緒に寝ようとしていたわけです。

あおいに感情をぶつけられた時に、泣きそうな笑いを見せたのが、
画面で見せた、初めての感情。
「バカみたい、かぁ……」
あの場面は、すごく素敵でした。

二人の気持ちは、ずっと同じ方向を向いていて。
でも、できなかっただけなんですね。

あおいが言うから、あかねが握るおにぎりの具は昆布になる。
けど、慎之介が、バンドメンバーではないあかねに練習メニューを聞く……、
「あかねは?」
「いつもの!」
この冒頭のやり取りが、二人の関係の全てだったんでしょうね。


こういう過去があって、今がある。
回想を表現するときが特徴的です。
自分がその過去に思いを馳せるように、同じ場でその過去を見ているような。
舞台演劇などでは使われる表現ですが、それをアニメーションに用いたのは上手いですよね。


昔のままの、生き霊みたいなものが登場するけれど。
ファンタジー要素はそれだけ。
あとは、美しく描かれた秩父の風景を舞台に、
少女は少し大人になって、大人も少し解り合って。
そんな、素敵な物語です。

感情の高ぶりも、手に汗握る瞬間も、アニメーションだから出来ることでやってくれます。
今の季節に見るのが、最適。


いや、それにしても種﨑敦美さんは本当に巧いですね。
完全にキャラクタに合ってるというか。合わせる技。
大滝千佳役も、良かったです。

中村正嗣も、すごく大人びた子で、苦労しそうだけれど、
進学していっています。きっと彼は着実に進んでいくでしょう。
落ち着き払って、まずは電話をするよう指示した姿が印象的でしたね。

あと、新渡戸団吉役の、松平健さん……素晴らしい。