Navelさんの「君と目覚める幾つかの方法」感想です。
2018年5月25日発売のNavel新作『君と目覚める幾つかの方法』を応援しています!

2018年5月発売作品。

Navelさんの「君と目覚める幾つかの方法」は、
アンドロイド。ロボット三原則こそあるものの、人と変わらぬ外見を持ち、
身近な隣人となったオートマタ。
そのメンテンスを営む伊奈宗介の店の前に、少女が置かれていた。
少女の足は、オートマタの足になっていて……、という導入でした。

それでは感想です。
ネタバレは、少しだけあります。
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この作品は、Navelさんの15周年記念作として発表、リリースされました。
体験版をプレイした際には、期待できそう、だけどどうだろう。そんな印象でした。

ただ、うっかり他の方の感想を見てしまったんです。
ボリューム不足、あっさり終わってしまったと。

否定します。魅力的で、引き込まれる物語でした。
体験版をプレイされた方なら分かるように、または作品タイトルでも感じられるでしょうか、
ストーリーがきちんと軸にあって、それで惹き付けるタイプの作品です。
提示されたエンディングも含めて、良かったと思えています。

この作品は、サスペンス寄り。
謎で惹き付けつつ、ちょっとずつ傷ついている伊奈宗介やヒロインたちが、
事件を乗り越えることで、自分たちの現在を守り抜く……そんな物語です。

メインヒロインは3人と設定されていて、バランスが非常に良い。
さらに、どのヒロインもきちんと見ている先が同じだということ。
プレイした方同士なら、どのヒロインが良い、なんて話題ができそうな気がします。
関わり方の明確な違いがあるのです。

面白いのは、同じ方向の到達点にありながら、各ヒロインとのエンディングを迎えられること。

声の配役も、絶妙です。
きちんとキャリアのある方ばかりでも、あるんですよね。



3点ほど気になったことがあります。

まず1点目。舞台設定。
技術レベルが足並み揃っていないこと。

例えば。
人形課所属の刑事、清里菜々子は、連絡先を伝えるのに、メモ帳にペンで書いてちぎって渡します。
そっちのほうが場面がイメージしやすくはあるし、捜査っぽくは思えますが、
アンドロイドが町を歩く技術レベルがあるのにな、と。
これはまあ、そういうものだと納得するしかないのですが、納得するまでに時間が掛かりました。
もしかしたら規制などがあって発展できないのかもしれない、と強引に納得するまでに。
物語なので、疑問が解消しなくても事態は進んでいきますから。


2点目。セリフ。
発声が違うような気がしてしまう、セリフの言い回しがあること。

これは、パッケージ化された時点で、自分の勘違いである可能性が高いのですが、
繰り返しを使うセリフが多いのですね。
「素敵ね。また歩けるようになるなんて、とっても素敵」
または、セリフの途中にクエスチョンマークが入っていたり。
「あれじゃないの~? ドラマとかで良くある、管轄がどうとか」
挙げた両方は、違和感ありません。

前半をプレイした限りで、この繰り返しまたは途中で問いが入るセリフ、
うまく発声できてるように思えないものがあるんですね。テンポが悪いというか。
これは声優さんによるのかもしれませんし、収録時に指定がなかったのかもしれません。

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「だっ、ばっ、なんでみんなそうやってからかうんスか!
  違うってば! 自分、別に、ないッスから!」
というのは、八雲由里花役の沢澤砂羽さん、やっぱり上手いんですよね。
こういうセリフで巧さが分かります。
さらに、八雲由里花の場合は、ビジュアルが弱いこともあり、さらに目立つのです。

だからなおさら、良く分からないのです。
物語のテンポを決めるのがセリフだったりしますし、指導がないはずもない、
けれどキャリアのある方ばかり、ですから。


3点目。構成が少しややこしくなっていること。
例えば、選択肢に首を傾げます。
因果が見えないんですよね。選択肢と結果の。
主人公もプレイヤーも介入していない選択肢。なのに、道は大きく分かれる。
アイルの申し出を受けたら、バッドエンドになってしまう。

エンディングを示すスタッフロールが何度か見られる作品です。
完全解決にはならないけれど、エンディングが流れる。
けれど、蛇足に思えてしまう予告がある。
ここで終わった方が綺麗だと思える流れがあります。

そして最終章の構成。もう少し改良の余地がありましたね。
既読判定によって、見ることができる展開に差があります。
仮に、そのルートを進行していないと、最後の最後でみんなが伊奈宗介の元に集まった場面で、
安心が全く出来ないんですよね。
また騙されているのでは?と気になりながら、事態の進行を見守れない、戦いの応援ができませんでした。


それでは、ヒロイン個別の印象を。

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「これからは……自分で、決めないと……いけないんですよね。全部……」
枚方初音(夏和小さん)

伊奈モータース前に、病衣のまま置かれた少女。
家は洋食店だったが、二号店を出した頃から経営が傾き、多額の借金。
両親は不仲となり、最終的に初音の足を売ることで資金を得たが、殺されてしまう。
警察にとっては人身売買事件の重要参考人。
昔は優しかった両親。家計が危うくなってからは虐待も受け、人に対して良い子であろうとする。
自己主張せず、聴かれても選択すら出来ないようになっている。
ろくに食事を取ったことがないため華奢、という設定がありますが、スタイルは良いままです。

これは、夏和小さんのハマり役といえるでしょう。
日頃から声量は小さいキャラクタですが、その初音に合わせ、
囁くようにポツリと呟くセリフも上手いですね。
ちょっとした発声が、初音のキャラクタに仕上がっています。
テキスト上は「……」としか書かれていなくても、反応する声こそが。
収録状態も良いと思います。他のキャラクタとのバランスも良いですから。

どれだけ進もうとしても、植え付けられた性質はなかなか変えることができない。
詰め寄られる場面なんて、そんなに無いですから。
でも、そんな初音も、そんな初音だから、誰かを支えるのが良かったのだと思います。


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「だから、逃げちゃった。私、そばにいない方がいいよな~って」
京橋みこと(桜川未央さん)

伊奈宗介の幼なじみで、義肢装具士。
フリーでやっていけるだけはある、と周囲に認められる腕前。
しばらく会っていなかったが、一年前に戻ってきて伊奈モータースの一角を作業場として使用している。

人をからかったり、煙に巻くような言動が多く、本気で心配してもイタズラだったりする。
食事を集りにきたり、あげても要らないといわれたり、猫のような性格という公式紹介文がまさに。
良いことをした後に、意図的に悪いことをして、バランスを取ろうとする。
輪を掛けてゆるく感じるのは、桜川未央さんの腕といえるでしょう。

後半になると分かりますが、自分の本心を全く語ることができない。
そういう事情があるから。仕事の都合で、だけではなく、元々の性質と、そんな大人になったから。

京橋みことは、「秘密主義」なんて、所有しているオートマタのあかさかくんにも言われるくらいですが、
それでも、まっすぐで、魅力的でしたね。
元々、本音を隠すのが上手になった理由は、何なのでしょう。
きっと、秘密主義になった理由は、人一倍、事情に詳しかったから、なのでしょうね。
伊奈宗介のことも、伊奈宗介を取り巻く家族の事情も。

それと、シーンの会話がとっても良いですね。地の文も含めて。
俺は、この匂いが好きだった。
ふわりと鼻先をくすぐるこの香りに、いつも胸をときめかせていた。
これぞ、必然のあるシーン。
掴み所の無い、京橋みことという女性だからこその物語。
いいなぁ、これ好きです。

これだけ見せてくれたから、蛇足に思えてしまったんですよね。その後の物語が。


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「大丈夫。あたしが全部覚えてるから」
八雲舞花(瀬在角蒼さん)

伊奈宗介の幼なじみ。
ホームズに憧れて探偵……にならずに警察官に。
これだと思ったら突進するタイプで、探偵にはなれないと父によくいわれたらしい。
機械の扱いが致命的で、携帯電話も上手く操作できない。

高い洞察力と共感力が魅力的で、様々な物事を見抜く。
が、思い込みが邪魔をしてしまうので、全てはうまくいかなかったり。

始まり方がかわいいんですよね。
酔った拍子で何をするのかと云えば、ただ酔うだけ。
少しの過去を自爆するだけ。それだけです。
でも、改めて、酔ってないときに話をし合う。
これが良い流れです。
大人だ。とっても大人だ。恋愛を通り越して成長してしまった男女の物語です。
色々なことをぶっちゃけることができるのは、やっぱり、幼なじみならでは。

まっすぐ、魅力的なまま成長すると、こんなヒロインになるんですね。
「彼女なんだから当たり前。幼なじみなんだから当たり前」
このフレーズがすごくお気に入り。


こうして三人のヒロインを眺めてみると。
恐らく、八雲舞花と一緒になるのが一番平和で幸せに過ごせそう。全力でサポートしてくれますし。
京橋みこととは、やや仕事に軸を置いた生活になってしまいそう。色々やっていますから仕方ない。
この二人は、過去、伊奈宗介が事故に遭った時の接し方にも違いが現れています。
幼なじみならではのエピソード。
でも、枚方初音は、誰かが居ないと救われないから。誰かが隣に必要だから。
やっぱり、物語として、良いバランスだと思います。

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その他のキャラクタも、すごく魅力的。
その一因として大きいのは、声が良いこと、繰り返しになりますが配役が良かったと思うのです。
オネエになってしまった三鷹弥彦(KNOCK永街さん)、病院理事の上大月誠一郎(赤木文太さん)も。
アイル(森谷実園さん)、マキノ(時雨しょうこさん)のコンビはとても良いですね。
こんなオートマタなら欲しいかも。
また、アイルとマキノと八雲由里花がいたお陰で、肩の力の抜ける展開もあって、
それが無理矢理でもない、そんなところも良かったです。

Arte Refactさんの音楽も素晴らしかったですね。
どの場面をも盛り上げる、見事なBGMでした。鑑賞画面がないのがとても残念です。
それで、音楽のタイミングもばっちり。

ああ、そうだ。
ver1.1でも、細かいテキストミスや、音声の重複再生があったりしますので、
修正パッチは必ず当てましょう。
一部、八雲舞花のセリフが割れていますが、これは収録上の問題かな。


体験版以降も描かれるサスペンス進行がなかなか良くて、二転三転させます。
エンドロールが複数回見られるのも、最後まで進めると納得感高いです。
最後の最後は、全く予測が付かなくて、とても楽しめました。

だから、他の方の感想は、他の方の感想。自分でプレイして感じないと。



ダウンロード販売もあります。
君と目覚める幾つかの方法君と目覚める幾つかの方法