あざらしそふと+1さんの「アイコトバ」感想です。

2019年12月発売作品。

あざらしそふと+1さんの「アイコトバ」は、”マッチングアプリではじまる兄と妹の純愛AVG”。
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大阪で文具メーカーに勤める水上拓未は、同僚の薦めでSNSアプリのアイコトバを使い始める。
アカウントは”タクミ”として登録した。
同僚との飲み会の連絡などにも使いながら、当初の目的、マッチングによって、
一人のアカウントとやり取りをしていた。

”夜空”さん。
仙台に住んでいる彼女に求められ、出張を機会に会う。

待ち合わせの日、そこにいたのは。
七年前に生き別れた、妹の卯月だった。
「そうだよ、卯月だよ……『タクミ』さん」――。

それでは、感想です。
ネタバレは、ありません。

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ここまで満足させるロープライス作品、かつてあったでしょうか。
ちょっと記憶から出てきません。

題材が良かったのもあるでしょう。
その題材を余すこと無く描こうとしてくれた。だから良いと感じられていると思うのです。


離れている間にも、気持ちを育んできていた二人。
でも、兄と妹。そして親戚たちから離されてもいた。七年という月日。
お互いの間に立つ壁は、固い。

突きつけられるのは選択です。
どうするのか。どうしたいのか。気持ちを問う。

例えば、理性や倫理を盾に、突き放すのは構わない。
けれどそれで本当に離れて……やっていけるのか。
少なくとも会いたいと。どうしているだろうと思いながら過ごしてきたのに。
また、離ればなれになることができるのか。

卯月はこんなにもまっすぐに気持ちを向けてくるのに。
そんな卯月に、葛藤が見え隠れするのに。恋人でいたい、妹でいなければ、と。

(……っ、苦しい――辛いよ。でも……)
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それを描く、このテキスト、シナリオ。
卯月の気持ちも、拓未の葛藤も、良く伝わります。
かわいい妹なのか、運命の恋人なのか。本当にいい流れです。

モブで声もない、ちょっとした登場人物のセリフにグッときたりするのは、
そういう思いがプレイヤーにあるかどうか、なのかもしれません。
運転手のセリフで、ちょっと気持ちが揺らされました。

それにしても、卯月ですよ。
卯月が”夜空”を演じるところも、覚悟を決めてグイグイ来るところも、
成り切れなくて卯月に戻るところも。
悩みと切なさとがあって、でも目の前にあなたが居ることを嬉しいと思う。

これは、実羽ゆうきさんの声によるものでしょう。

「――やっぱり、足りないからだ」
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ちょっとしたセリフが上手いのです。
誤魔化して、セリフだけはギリギリ言えるところ。キャラクタが伝わります。
真っ直ぐ育ったんだなと感じるところ。この声の質です。
”タクミ”の名前を何度も呼ぶ機会があるのですが、感情の乗せ方。
気持ちの届かない切なさも、抗議の呼びかけも。
セリフひとつひとつが素晴らしくて。説得力に変わっていきます。
卯月の魅力の発揮は、体験版以降が本番です。

選択肢の妙といっていいでしょうか。
面白く思えたのは、徐々に自分の気持ちを定めていくのが分かること。
テキストで随所に見えるんですね。
妹としてしか見ない側の選択肢を選ぶと。

男女でするようなことをしても、違和感が残るような形に仕上げていき、
お互いが思う。恋じゃないのかもしれない……、
そう感じているようにみえて、このままだと二人はどうなっちゃんだろう?と心配しました。

でも、卯月は。ずっと、ずっと待っている。
どこでも、いつでも。逢えなくても。

「……すっとこのまま一緒にいられたらいいのに」
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それくらい、色んな卯月を見ることが出来るわけです。
単体作品で、こういう描かれ方をしたヒロインは居なかったから、なのかもしれません。
ボリュームに納得もしようというものです。

タクミだって同じ。
迷うから。迷い続けるから。
だから問いが多くなる。選ばなくてはならない。

二人のエンディングは、これまでのあざらしそふとさんの作品とは違っていました。

だからかな。哀しませても、卯月をある意味大事にする進行のほうが好きです。
そちらのほうが、二人の壁のことをよく表現できていると感じるから。
切なさが活きるから。


CS2、ういんどみるさんのシステムは軽くて利便性が高いです。
が、1点だけ。
SAVE画面を開いたときに、最終セーブ箇所にカーソルがポイントされるんですよね。
次の空欄にカーソルされると非常に良いと思います。
セーブしたくて画面を開いているのですからね。

演出のタイミングは、もうちょっと合わせて欲しかったかな。
駅前で、ぶつかって倒れた夜空さん、卯月の不意打ち。表情差分を変更させるところとか。
さらに、全く手を出さないで進んだ後。
服は確かに思い出のものですが、一緒に選んだはずの下着が違うところとか。
まあ、一年経てば、身体も成長するから、違うものを身につけているのも当たり前なのかな。


シナリオ、雰囲気の良さがまずあって。

おりょうさんの描く卯月の良さをはじめ、背景の良さ、
彩色が凄まじいのは相変わらず。あざらしそふとクオリティです。
そして、切なさを感じるいいBGMでした。優日のすたるじっくさん。
『月と夜空』、『ロンリー・ラビット』、『99%の運命』、『アイノコトバ』。
良い曲が多いです。
そして、音声制作の皆さんの仕事が素晴らしいですね。
セリフのおかしいところがなく、音も良い状態で、きちんと伝わるように仕上げてくれました。


いい作品でした。うん。お勧めです。
あ、畜生あざらしも面白かったです。
(スタッフロールにお名前がないのは何か理由があるのでしょうか)



ダウンロード販売もあります。
限定ボイス付き版だそうです。