あっぷりけさんの「花の野に咲くうたかたの」感想です。
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2015年3月発売作品。

あっぷりけさんの「花の野に咲くうたかたの」は、”絆と想いを刻む純愛ADV”。
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――この世界は、多くの”色”でできている。

新堂道隆は、進級にあたり、親から急に独り暮らしを言い渡された。
条件は破格だが、場所の指定がある。
親戚で幼馴染みの管理する物件で、幼い頃はお化け屋敷と呼んでいた家だ。

長らく人が住んで居らず設備も含めて古い建物。
誰も住んでいない広い物件で、古くは料亭だったともいう。

移り住んだ翌日。それが姿を現した。
風に揺れる長い髪、色彩鮮やかな着物、整った顔立ちに微笑みを浮かべている。
はっきりした、いや美しい姿で……。
「昨夜は驚かせてしまいましたね。――私は、桜花とでも名乗りましょうか」

それでは感想です。
ネタバレは少しだけあります。


素晴らしく良かったです。
要素が見事に同じ方向を向いていて、力を合わせている。
結果、良い物語が味わえる。
そういうことなのですよね。素材って歩調を合わせる必要がある。
この物語に、揃えて組めた。
そのことが、とても素晴らしいと思っています。

システムは吉里吉里Zベース。
バックログジャンプ機能は無いのですが、一節が細かく分けてあって、
すぐに該当の箇所に辿り着けます。
セーブファイルも当時としては多いのでしょう。180箇所。
省力化していったので、なんとか180箇所全てを埋めることで、足りました。
特徴的なのは、節分けもそうですが、フローチャート進行があること。
そして、余談とする話は、フラグメントとして別添えされています。
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ただ、この表現が全く分からなかったです。未読です、とだけ表記すれば誤解がなかったかも。

あと、コンフィグ等を操作した直後、プレイ画面に戻る演出がすごく良い。
何気ない画面切り替えではありますが、これと同じ画面演出がミステリを盛り上げている部分もあります。
そしてシステムSEがすごく良いですね。ここまで整えてあると感じます。


要素、素材が合わさっているというのは、先述の通りですが、
同じ方向性、この「花の野に咲くうたかたの」という書を綴るため、
きちんとここまで意志統制ができているのは珍しいと思います。

キャラクタ設定、キャラクタデザイン、声の割り当て、背景、音楽、そしてシナリオ。
しっかり打ち合わせをしたのか、細かく指示をしたのか、それとも最初のキャラクタ設定構築が良かったのか。
多少の遊びが見られることから、構築が強かった可能性が高いと感じます。

そして産み出された桜花という存在、キャラクタの強さ。
物語は、桜花荘に住む自称幽霊と出会うところからはじまります。

が、新堂道隆は、その桜花荘に独り暮らしをするだけの理由があったわけですが……。

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「わたしも麗奈ちゃんも、よく分かってなかったから知りたかったんだ」
藤宮汐音(秋野花さん)

新堂道隆の幼馴染みのうち、おっとりしている方。従妹でもある。
藤宮の祖父が桜花荘の管理をしていたが、住む人も居なくなったため、
独り暮らしを希望していた道隆が住むことになる。

過去、事故に遭った道隆のフォローをずっとし続けていた。

刃物が苦手で、料理はできない。怪談も苦手。
気持ちの細さを秋野花さんがうまく演じてくれています。
それでいて頑なに譲らないところもある。
雫あたりに、新堂道隆の姉(麗奈)と母(汐音)と思われてしまうような距離感。
この二人は、ベタベタしすぎない幼馴染みなのですよね。

ルートでは、幼い頃に桜花荘で見掛けた、変わった石が話題に上ります。
気があまり強く成さそうに見える汐音が、ぼんやりし出した……というのが、
いつもの印象と変わらないところにズレを持たせる形で面白い。

他ルートでは、単にメッセンジャーとなって、少し損な役回りをすることも。
それも、汐音の無垢さゆえ。

フラグメントでは、実は麗奈にも嫉妬していた時期があった、という話も。

汐音と麗奈、失明した道隆を支えてくれ続けたのですね。
道隆が、足を向けて寝られないどころではない気持ちになるのもわかります。
しかも、二人はそれを恩に着せるつもりなど微塵もない。
例えば、麗奈だったら「私はそんなつもりないのだから、あなたもそんな態度はしないで頂戴」と言いそう。
汐音だったら「いいよそんなの~」と返しそう。
だからなおさら、背中を向けられないのですよね。
ああ、関係性、良く伝わります。そういうことなのですね。

姉の藤宮千歳(花斗詩さん)がどのルートでも世話を焼いてくれます。
過去の道隆へもかなり優しく接してくれて、桜花のことも以前から知っていたし、
うん、体験版の時にも思いましたが、サブキャラクタも魅力的なのにルートがないなんて、と。

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「信じるか信じないかは私が決めるわ。今後は話す前に見くびるのはやめてちょうだい」
井之上麗奈 (二戒堂文乃さん)

新堂道隆の幼馴染みのうち、ビシッとしている方。
家は不動産会社で社長令嬢。きっちりした性格だが義理人情の篤さを見せる。
冒頭、桜花荘に引っ越した新堂道隆に対し、「何故うちを使わないのか」と食ってかかるのが印象的。
できる世話なら積極的に関わろうとするタイプ。

道隆とは二歳からの幼馴染みで、関係は汐音よりも先。

ルートでは、桜花荘と、道隆の事故についての話が展開されました。
麗奈の父役の方、とても良いお声なのですが、クレジットがないのが残念です。

雫のフラグメントで、汐音が新堂道隆との付き合い、恋の話題を楽しんでいるのに対し、
麗奈は「先輩自身はどうなんです?」と挑むような問いをするのです。
道隆が決めた相手だと分かりつつも、雫は本当に道隆のことを好きなのか。
きちんと聞かないと納得できない。
自分のルールがあって、気遣いも見せるけれど、決めて動く。
麗奈ってちょっとしたところがかっこいいんですよね。

二戒堂文乃さん、やっぱり良いですね。
麗奈って立ち絵でも睨んでいる差分が多いのですが、いわゆるデレて見せないだけで、
新堂道隆のことを照れずに「一番の親友」とも言えてしまう。ルートに入らずとも。
この篤い信頼、絶対を感じさせるところ。すごいです。
また、例えばシーンになると、途端に声優さんの元になってしまう、そういうことがありません。

ルートでの、「私って女だったのよね……」から始まる会話がとても良いですよね。
何かを隠して話さないのは、信用されていないと感じる。対等で公平に接して来たから、
その意識がなかったのかもしれません。

感情をぶつけ合う過程で、サブキャラクタの波多野美奈(奏雨さん)とも誤解が解け、
フラグすらありそうな気配があったのですが……こちらも残念ながら。
波多野美奈とは、あってしかるべきだと思いますよね。

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「……わたし、嫌な子の所があるんです」
薬師涼子(相葉美鳥さん)

新堂道隆の後輩。
陸上部で真面目に活動している上で、さらにファミレスでアルバイトしている。

進学前、困ったことが起き、道隆たちに助けてもらったことがある。
そのことがルートでも基点となっていました。
陸上部は後輩が更衣室を利用できるルールがあるが……。

健気さがあるから、過去でも助けることできたのかもしれないなと思えます。
相葉美鳥さんはこういう年下キャラクタを演じると合いますね。

幽霊は苦手。

薬師涼子のルートに大きく関わるわけではないのですが、島津恋 (白月かなめさん)先生、
本当に魅力的ですよね。
授業もそうだし、それ以外で会っても。
コンビニであれこれ買ってて言い訳しちゃうところとか、本当に魅力的。
どうしてサブキャラクタ扱いなのでしょう。
実は、藤宮千歳と知り合いだったそうです。
七不思議を追いかけているところでルートに入っても良いと思います。

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「新堂くんは、本物の神秘と暮らしているのよね」
鵲雫(くすはらゆいさん)

道隆たちが通う学園の生徒会長。
チョークが箱ごと紛失する事件があり、関わることになる。
全校集会で汐音に話しかけられて応じていた道隆を目ざとく見つける。
幽霊と暮らしていると知り、深く関わっていく。

ルートでは、生真面目な性格が神秘を求める理由が明かされます。
昔見ていた、古ぼけた手鏡。

犯人にすごいことをされても攻撃し返さない。すごいですよね。
一見、融通が利かないが、きちんと話をしたら分かってくれる、とは道隆の評。
堅物に見えても、いえ、だからこそ見えるかわいらしさ。

いやー、くすはらゆいさんすごくいいですね。
こうやって静かに語るキャラクタだと、すごく映えます。
雫の、「明日でいいかしら」は最高でした。
雫の感情が詰まってます。
このデザインで、くすはらゆいさん。最高ですよ。

海外に持っていっても良いんじゃないかと感じたのは、このルート。
神秘と七不思議、日本らしさ。そして見せ場。うけるのではないかと思いました。

これまたサブヒロインなのですが、杜氏優枝(ヒマリさん)も、他の学園生ながら、伝わる七不思議と、
雫が引き取ることにした猫のことと、定期的に出番があって嬉しいです。
ヒマリさんだからより可愛らしく感じますよね。

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「いいよ。ボクになら大歓迎だ」
桜花(有栖川みや美さん)

桜花荘に住む幽霊。
最初は桜花荘の中、しかも道隆のみに見える存在。

とにかく桜花の会話が小気味良い。
頭が良いのが分かる会話なのですよね。しっかり把握、言い換えても良く分かる。
すごいなぁ。こういうの読んでいて気持ち良いです。

それを有栖川みや美さんが演じていて、オダワラハコネさんのビジュアルを備えていて。
桐月さんが語る言葉を綴り、鷹石しのぶさんが彩る曲を書く。
この作品の根幹と成る存在です。
が、物語上だけでなく、桜花という存在をこの組み合わせで産み出せた、
その時点で、この物語は完成しているのだともいえます。

桜花から全く目が離せません。
他のヒロインも相当に魅力的なのですが。

桜花を中心に進む物語は、安楽椅子探偵のような趣きもあり、
不思議を少しスパイスに、ミステリを味わえる名作だと思います。


さて、これらの登場人物との関係性を前に置いて、物語は桜花に集束します。
それぞれのルートで断片が残されていました。

鵲は、この街に古くからあった古物、鏡のような石。
それに、見せられたものがあること。

汐音は、その鏡のような石はひとつではなく。あるときはナイフめいた欠片になっていて、
傷を付けることで、ある現象を引き起こすこと。

麗奈は、桜花荘と色が見える道隆の目は、何ゆえか。

桜花は、そして、道隆の見える世界を重ねると……。

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物語の冒頭、体験版中に語られますが、
新堂道隆は、幼い頃に事故に遭い、暫く失明して過ごしていました。
治った目は、色の洪水を映す。人の痕跡めいたものを映すようになっていました。
その目を用いて、桜花と共に事件に関わる道隆でしたが。

時には、危ない事件もある。
道隆は、できることはやってしまおうとする。
――必要があれば、その能力は限界まで酷使する。
そして道隆は昏倒し、桜花も疲労で倒れてしまう。

不調は一時的なものに思え、桜花のルーツ探しに付き合うことに、
というのが流れなのですが。
プレイヤーは、改めて桜花と向き合う、味わうことができるのです。

桜花……本当に素晴らしい。
これ、じっくりじっくりテキストを読み、音楽を味わいながら、進めた方が良いと思います。
クリックして進めてしまったら、伝わらないと思います。

二歳から一緒に過ごしてきた麗奈には、やっぱり伝わってしまっていたのでしょう。
二人が気持ちを確かめ合う前に、道隆の気持ちが桜花に向いていることが。

二人の告白場面。
そして、「未練が欲しい」。
素晴らしいです。
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気持ちが重なると、ものすごーくかわいらしい。
びっくりしますね。びっくりですね。なんてかわいらしい。
はにかみ。はにかみがとくにかわいいのです。

有栖川みや美さんの演技の素晴らしいところは、
桜花ルート以外とでは、感情の入り方がハッキリと違うのですよね。
問題解決には桜花の知恵を借りる場合が多いのですが、
例えば、奇縁だと納得するところがあります。他ルートですので、字面通りに深く感心しているのですが、
これがルートに入るとがらりと変わる。繋がりがある喜びが入る。
でも、どちらも桜花なのです。

その桜花は、ずっとずっと考え続けていたのでしょう。
何故、あんなことができたのか。
そして倒れた理由は。何がどんな影響を及ぼしていたのか。
仮説が正しいなら……選択すべき事があることも。

それが、存在原理に関わるのであれば。

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新堂道隆が、しっかりした人なのですよね。
幼い頃に事故に遭って、助けてくれる人がたくさんいて、恩義を感じている。
だから迷わず手を貸す。
でも、それだけではなく、生来、そういう子だったのだと思います。
そういう風に、道隆の両親は育てたし、接してきたのでしょう。

道隆の父による、冒頭の言葉は、一見身勝手に決めてしまうようにも思えるかもしれませんが、
それがお互いのコミュニケーションで最適だと長年分かっているのでしょうね。
後半、電話を掛けるあたりでも、そのように感じられます。
道隆が誰かと付き合う報告をしたら、簡単にリアクションが想定できるあたり、
ブレずに道隆に接してくれてきたのだと思います。

そして道隆は、事故に遭った境遇は嘆いても、捨て鉢にならなかった。
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原理的には、過去の色を掴むことができた能力の発露と、桜花に関わった人による記憶の結びつけによって、
存在を固定化させたのだろうと思います。
力の源は、人の記憶を覗き込み映す鏡のもの。
鏡の世界に自分以外の誰かを映し引き込む力があるわけですから。

桜花が、最初は姿を消していたけれど、足音を立てられるようになっていくのは、
道隆の中で投影する情報が増えていった、イメージが増していったからなのでしょうね。
道隆が完全に意識を失った時は桜花も寝ていたことから、
桜花は道隆の脳の冗長部分を利用した投影という表現でしょう。

初期の頃、桜花荘に引き戻されるのは、存在の発現がそこだったからでしょうね。
最初に逢えた、あの場所。

原理を考える前よりも前に。
道隆と逢えたことを、桜花は純粋に喜んでいました。
はしゃいでいた、とも。
「ボクがはっきりと見えて会話できる人間なんてこの先訪れる事は無い。
 自分自身の事を調べる機会は、これが最後だと思っていた」
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深く深く考えながら、しかしその桜花が辿り着いた解に絶望の表情を見せる……。
すごくよかったです。ぜひ、最後のフラグメントまで読み通して欲しいです。


桜花荘を中心に、様々な人が関わります。
いい人は善いし、悪い人は悪い。
オダワラハコネさんの原画キャラクタからは、悪い人が登場しなさそうな印象もありましたが、
ミステリに落とし込むことができているのは、この部分。
世界の色は、綺麗な色ばかりではないことをきちんと表現していること、でしょうか。

その中で、汐音や麗奈、千歳さんがいたから、道隆は立ち直れたこと。
その後も、クラスメイトにも支えられていること。
仲の良い、赤城修平(ういろうさん)とは、最後まで貸し借りをし合う良い関係だし、
その妹の赤城美緒(てんぐまいさん)とも多く関わる。
立花和泉(愛羅咲香さん)とは度合いがぐっと下がりますが、間違いなく汐音の友達だなと感じる存在感。

たくさんの人と関わることが出来たから、
道隆の目に映る世界は、桜花は、様々な色で彩られたのだと思います。
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上手いなと思うのは、化け物の正体見たり枯れ尾花、なんて一節がありますが、
虚と実をしっかり組み立てていることですね。
ミステリ、サスペンスはこれらをうまく使うことですが、まさに。
虚と実、さらに実。これはシナリオを担当する桐月さんの腕でしょう。

そして、見せ場への強い演出。
雫ルートで見せた、ここぞという時に流れる、鷹石しのぶ節!
『今在るがままに』。
本当に良かった。ドキドキしました。ぐぐぐっと惹き付ける力強さ。
暗がりから、真っ白な桜吹雪が舞うように。何かを打破する白い意志。
切なさが残る。その切なさは、柳のようで、しかし芯にある意志の強さを描き立てる。
和テイストはそのままに、ここぞを演出する。本当に見事です。
音楽に力がある。しっかり場を支えている。
そういう作品は得てして良いものになりますよね。

そうなのです。
音楽が全体的に良いのです。しっとりしていて落ち着く。花びらが舞う雅さと広がりがある。

タイトル画面で流れる『彩の花』。
曲名がそもそも雅ですが、曲調も雅で壮大さを感じさせますよね。
この物語は、懐が深いよと教えてくれているようです。

そして物語が始まるとすぐ流れる『波紋-心たゆたう-』。
ノスタルジーを感じさせ、ハープをはじめとした弦楽が、
そのまま新堂道隆の過ごしてきた時間と、見えている”色のある世界”を表現してくれているようです。

『桜花荘-白練-』は、桜花荘の佇まいを。
各ヒロインキャラクタの曲も、それぞれの特徴を彩ってくれています。

音楽だけでなく、SEが非常にリッチです。
臨場感ってこういうことを呼ぶのだと思えるほど。
車、人がいるざわめき、などなど。ちゃんと調整してくれています。


唯一もったいないと思うのは、シーンが軽いことでしょうか。


強いキャラクタを産み出しながら、ストーリーが命を与える。
舞台や音楽がこれでもかと雰囲気を伝える。
素晴らしい作品だと思います。

桜花のような存在と逢いたかったなと、強く感じます。


「あっぷりけコレクション2」だと、他の作品もセットになっています。




サウンドトラックもダウンロード販売があります。