Qruppoさんの「抜きゲーみたいな島に住んでる貧乳(わたし)はどうすりゃいいですか?」感想です。
Qruppoさんのデビュー作「抜きゲーみたいな島に住んでる貧乳はどうすりゃいいですか?」は、
この作品、全てが映画的なんですね。

”0に至る道”

ヒナミを守る、ひとつの加護と、ひとつの守りと。





身体的特徴のため、過去に傷を負い、
条例に対し、ただ反対を唱えるだけで無く、様々な角度から反対だと確信していくところや、

「じゃあ……その価値観に汚染されてない人も、いるかもしれないね……?」
「わたしは、ただ自分の居るべき場所に帰っただけなのですから」

2018年7月発売作品。
Qruppoさんのデビュー作「抜きゲーみたいな島に住んでる貧乳はどうすりゃいいですか?」は、
”ビッチなんかに絶対負けたりしないスタイリッシュ逃亡&バトルADV”。
過疎化の進んだ青藍島が、新たな県知事の条例によって”性乱島”へと変貌を遂げた。
両親の事故死により孤立無援となった橘淳之介と麻沙音の兄妹は、しかし、この条例による島の変化を受け入れることが出来なかった。
逃げ回っていたある日、学園の地下に秘密基地としか思えない場所を発見する。
「この島が生んだ誤謬を正し、救民済世の志を持った戦士――そのための秘密基地なのだ」
スクリーンに映った老人の話では、あの条例と戦える者を探していたという。
淳之介は、叫ぶ。
逃げるのでは無く、共に戦う仲間を集め、条例をぶっ壊す、と。
それでは感想です。
ネタバレは少々あります。
いやー、すっごく面白かったです。
体験版も大分面白かったですが、製品版ではパワーを落とすどころか全方位全力で。
こんなに堪能できるとは思いませんでした。
ちょっとおバカなタイトルと、いかにもという印象の島の設定。
橘淳之介が発足したチームNLNSは、望まない行為から逃れ、
無事に帰ることを目指すエクストリーム帰宅部。
おバカなアイディアの機材を整え装備し逃亡という名の戦いに挑む。
一見、おバカな争いなのだけれど、橘淳之介のトラウマを考えると、
それは生死を賭したものであると理解できます。
この作品、全てが映画的なんですね。
場の環境の派手さ。
仲間と団結して挑む戦い。
敗北。再起のための克己。育む愛。
敵にもある戦いの理由。
そして気持ちを新たに戦いに挑む。ドラマティックな戦いの末……。
戦いながら様々な相手と解り合っていく。
この流れも非常に映画的で、だからこそこんなに楽しめたのかなと思っています。
しかしながら、表面上はおバカなゲームに擬態しているんです。
いや、その擬態こそがスパイスになっているといえるのかも。

「ロリじゃないですけど!」
渡会ヒナミ(飴川紫乃さん)
適齢以下との行為は条例違反として教育されているため、
周囲から歩く条例違反と思われており、誰からも誘われない。
本人はそのことに悩んでいる。
パイプ椅子が相棒。
お姉さん振るところも含めて、容姿通りのお子様。
腹芸などはできないし、思ったまま素直に言葉を発してしまう。
飴川紫乃さんのハマり役といえるでしょうね。
羽目を外せるように思える青藍島でも、条例によって保護される存在がある。
それが年齢制限。
しかし、その年齢制限を破っても構わないと何者かに唆されて渡航した旅行者たちがいる。
SSも警備に目を光らせてはいるが、数が足りない。
再び、ヒナミも襲われそうに……。
NLNSは、組織の存在意義に合致すると動き出す。
そのために橘淳之介は、SSの増員募集に乗る。情報を得るためのスパイとして。

「――橘……あまり、ヒナミを巻き込むようなことはするなよ」
新入隊員を鍛えるのは、SS風紀委員長の糺川礼(水野七海さん)。
SSの訓練に圧倒されながら食らいつき、治安維持活動の成果から糺川礼にも認められていき、
ついには心を通わし始める。
しかし、糺川礼とNLNSの淳之介は、敵同士。いつか来るだろう対決の時。熱かったですね。
ヒナミを守る、ひとつの加護と、ひとつの守りと。

「……そうよね、やっぱり。アンタって、ずっとそういう人間よね――昔から」
片桐奈々瀬(柳ひとみさん)見た目がビッチ。その姿はこの島で優等生。
実際は転校してきた際に誤解されたままの状態を、保身のために維持している。
時折、大事なことが聞こえなくなる体質を持っている。
言ったことは守る。
察しが良く、下手な詮索もしない。
優しさ、と淳之介は理解していたようですが、
実際のところは、踏み込めない弱さを抱えているともいえるわけです。
だから、大事なこともルートに入るまで全く聞けないまま。前半でも、何か言いたそうでも言わずに飲み込んでばかり。

”ペーパー・アイランドから”
NLNSを反勢力と断定、調査追尾を指示するのは生徒会長である冷泉院桐香(花澤さくらさん)。
何も欲することができない。常に無欲で通してきた。
しかし彼女は、本来であれば即報告、拿捕できる立場にありながらも、何故か放置し続ける。
その理由は。
「私は……そんなこと、生まれてはじめて思ったんです」
本当に欲しがっていたのだとして、ここだけは描き切れなかったところだと思います。
仕方ないです、冷泉院桐香のルートではないので。
そこは続編に期待したいですね。
ただ、
昔から、何かを諦めて、受け入れてしまうのは得意だった。
これは奈々瀬の心情ですが、桐香にもつながるところがあるんですよね。
どのルートでも奈々瀬は、いつでも察してくれて、尊重してくれて。
そして、手が届かなくなってもそのまま、何も言わずに。
それと、彼女面、しても良いと思います。十分な繋がりがありますから。
あと。
「……アタシも運んで」からの「ばんざーい……」がとてもかわいらしかったですね。
さすがは柳ひとみさん。

「……! 愛で……道理を引っ込ませたんですね?」
畔美岬(こはる凪さん)
自分が太っていると感じ、それを見せたくない。同時に、自身を地味だと考えている。
誰からも認識されない達人級の気配遮断能力があり、これまで誰からも誘われなかった。
特殊技能として、運転カテゴライズされるものは何でも乗りこなす。
青藍島の特殊なレンタルサイクルも、サドルに座らず山道を疾走できる。
他のルートではギャグ担当になっていますが、地元民だけあって行為にかなりの興味があり、
それが主人公に向けられるとこんなにも素晴らしくなるのだなと。
このキャラクタにこはる凪さんをあてたのがすごく上手いと思いましたね。
食べ放題しててもアレなこと言っても、声に品があるのでヒロインポジションをキープできています。
ちょっとズルい。

”天の光は全て美岬”
「…………SS……クビになっちゃったぁ……」
雨の最中、SS戦闘部一番隊隊長を務めていた女部田郁子(倉田ありあさん)が、
雨に縮こまっているのを見かける。
――今でも、この島の人たちが嫌いですか?
敵として向き合ってきた淳之介だが、美岬の言葉が蘇り、手を差し伸べる。
そして、この島の、条例を享受している側の人間でも、色々な事情があると気付く。事態は急変していた。
SSは島の外部組織から攻撃を受け、洗脳されていた。
家族同然だった仲間にも、従わなければ刃を向けるようになってしまっていたのだ。
その洗脳を解く鍵が、淳之介に……。
かなりエンターテイメントなシナリオでした。
美岬の運転で乗り込むところ、飛び出すところ。
『非実在系女子達はどうすりゃいいですか』を流すというセンス。
こういうの好きです。
全シナリオで一番派手で映画的かも。また、女部田郁子もかわいい。
狂気を見せる場面の強さ。
というか倉田ありあさんだからこそのかわいらしさもあって。
弱った時の素の郁子もまた、魅力的でしたね。
そして、美岬も。
地味で大人しいと思われていた美岬が、どんどん魅力を発していき、
威勢良くハンドルを駆る様は非常に格好良かったですよね。
そして大空へダイブするのも、またドラマティック。

「純愛を歌っていながら、告白したらすぐエッチシーンに入りやがって」
橘淳之介
身体的特徴のため、過去に傷を負い、
さらに話を聞いてくれた人に疵を負わせることで負い目を感じ、
そして支えになってくれた人は島の条例のために死んでしまう。
良い思い出がない青藍島に戻って、ここで生きていかなければならないと悟ったとき、
妹を守ることと矜持のため、条例に反抗するNLNSを組織する。
NLNSとして使う武器制作は全て淳之介が担当。
戦いに掲げるのは主義だけれど、ベースとなるのはトラウマだったこと。
仲間たち、敵、どちらもが、淳之介の矜持について問い掛けてくるところは、
とても良かったですね。

「じゃあ……その価値観に汚染されてない人も、いるかもしれないね……?」
橘麻音(そらまめ。さん)
ソフトウェア製作が得意。
アリアドネープロトコルへ統合された様々なアプリは、全て麻音のもの。
実は声真似が得意。声帯模写レベル。
基本的には自堕落な引きこもりで、淳之介にべったり。
色々と特殊な事情を抱えていて、青藍島は生きづらくなってしまっている。
何より長尺早口セリフが凄まじいですよね。

淡色の髪の少女(沢野ぽぷらさん)
どのルートでも気になるフェイドアウトをしていった、重要な存在。
その豊玉の瞳が傷つくこともあり、あるいはその後の姿が見えなくなることもある。
そのスナイピング能力は凄まじく、歴戦の射手。
”我が誉れ”
SSやSHOを出し抜き、島の外部組織の追撃も躱し、老人からの依頼、”琴寄文乃”を奪取、
送り届けた橘淳之介。
しかし、島の変化は、望んだ通りにはならず……。
最終話は、淡色の髪の少女を中心にしながら、未解決だった全てに決着を付けていきます。
NLNSメンバーもSSメンバーもみんなかわいくなってしまって大変です。
そういう意味で、やっと橘淳之介が主人公ぽくなったかなって気もします。
エンディングあたりのことですけど。この淡色の髪の少女を中心とした物語が、いわゆるTrueのような扱いになっています。
満足度が高い理由として、通常、Trueが用意されている作品では、それより前に公開されるルートの扱いが軽くなることが多いです。
この作品の場合には、そういうことが全くないんですよね。
各ルートに目を見張る展開と、このヒロインを選んだからこそ見られる物語が用意されていて、
出し惜しみを感じない。
その上で、各ルートで散りばめた要素を統合し、さらにグイッと引き込む流れがあるんです。
ここが素晴らしいですね。

キャラクタ設定の味付けとして、口調がありますが、自然過ぎて気が付きにくかったりします。
程良いアクセントになっていますよね。こういうさじ加減もすごいなと。
音楽が素晴らしいです。
これはそういうオーダーなのでしょう。けれどそれに満遍なく答える楽曲が素晴らしい。
『盛』は開放的な娯楽島。
『AM』『wavelet』はそんな島を、横目で見やる印象。どこか背筋を丸めるように。
『Helter Skelter』は追い立てられるような戦いの幕開けで。『繰り返す』は追憶。『胸臆の扉』は吐露。『Sentence know』は夕暮れを振り返って。
『Dancer』は、胸に熱を閉じ込めて赴く戦い前。
何より2nd OP『THE APPLE IS CAST!』がとても格好良い。
なかなかこういうオシャレな曲は、ありませんよね。
また、何気にSEが豊富ですね。
ちょっとした動作に付けられているので、非常に場面が伝わりやすくなっています。
なので、会話主体の進行とはいえ、何をしているのか理解できるのがありがたいですね。
秘密基地に火が入る瞬間のイメージ音。
歩行音は洞窟内なら反響するし、海に続くのなら水音混じり。
橘淳之介たちNLNSの武器製造の過程に入っていたり、
ちょっとしたドアの開閉音も複数ありますし、足音パターンも多い。
怪我をした仲間に駆け寄る時に布を取り出す音が入っていたり。画面にビジュアル的変化がなくても伝わりやすく仕上げられています。
よく、地の文があるとスピードが落ちるという考え方もありますが、
それをうまく乗り越えているといえます。
音周りという意味では、ドア越しに声をかけている、セリフへのエフェクト。
そういったものも含めて、徹底しています。
音を発するタイミング、曲をオフにしたり、流したり。
そういうところもしっかり合わせていて、素晴らしいなと感じます。
体験版の時には、シナリオのサブタイトルによる遊びでクスッと笑わせてもらいました。
けれど、それを忘れてしまうくらい、この物語はどうなってしまうのか?
この先はどうなっているのか? 気になってついクリックを早めてしまいました。
おバカなゲームの皮を被った、エンターテイメントストーリー。
そういうものがお好きでしたら、ぜひ。
初回版は完売。通常版が販売中です。
あっさり1カ月後に通常版販売ってすごいですよね。
初回版だと色々と付いていて、青藍島観光案内もなかなかに楽しめました。