CLOCKUPさんの「DEAD DAYS」感想です。

2019年6月発売作品。

CLOCKUPさんの「DEAD DAYS」は、”生と死の境界線で戦う日常ADV”。
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表面上は人当たりの良い三枚目。
しかし口で言うことはすべて計算。嘘つき。暮坂照は、そうやって過ごしてきた。
その口が禍して、ヤクザの事務所でクリスタルの灰皿に頭を割られ、死んでしまった。

次に目が覚めると、貨物コンテナの中。
他に男女数名が閉じ込められており、互いのことは知らない。
入れた覚えのないスマートフォンのチャットアプリが通知音を立てる。
「あなたたちは残念ながら死んでしまいました。しかし死から蘇生したのです!」
「”作業”をしてもらいます。ターゲットは俗にいう”幽霊”になります」
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という導入でした。
それでは感想です。ネタバレは、ちょっと強めにあります。


修正ファイルが出ていますが、適用前に最後まで読み切ってしまいました。

ハードでダークな展開は、これぞ年齢制限作品だと、気持ちを掴んで離しません。
また、入り込みやすい現代風なセッティングがすごく良かったと思います。

様々な理由で死んでしまった登場人物たちが、
生を人質に、よくわからない幽霊狩りをさせられる日々……それが「DEAD DAYS」。

その日々をどう描くか。
招集をかけられ、幽霊を狩るという作業をさせられるが、
一日のうち、ある特定の時間だけで、他はそれまでの日常生活に戻るのです。

死んでいる。
その実感はあるのに、事実だけが無くなっている。
人によっては地面に血痕が残っても。死が他人に観測されていても。
日常生活を、そのまま過ごす。
でも自分は死んでいる。社会に死人の自分が入り込んでいる……。
この自己認識の不一致、奇妙な感覚を、上手く表現してくれていたと思います。

例えば、ダークな色調彩色で。
ちょっとした場所のチョイス。シーンの内容であるとか。
キャラクタの設定、隣人たちであるとかで。

例えば。
三峯あいらは、見た目は分かりやすいギャルですが、家族仲が割と良く、
朝食は家族揃って取るのがルール。学園でも友人が多かったりもする。
でも、死んでいる。
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現場に来てみれば、アスファルトに未だ残る、濁った長広い染み。
ガードパイプは拉げて、衝突の後を物語る。

今、生きてるように思うのに。この身体は動くのに。
目の前には事実がある。

この、突きつける場面がすごく良いなと。物語の重さががグッと増しています。
(しかもこれが、別なことの仕掛けにもなっている)

拾った生を生きる彼らに起きる事件は、とても暗いもの。
それでいて、現代的、現実的。
例えば、SNSのこと。猫を虐待する人。人の噂。
それこそ、布良麻奈美の死因とか。
あるし、ありそう。そう思わせる。だから重みを感じるのでしょうね。

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シーンは退廃的で、どのシーンにも重みがあります。
死人は生の実感を求めるという設定が素晴らしく、
その設定を実感させるようなシーンシナリオになっていて、非常に素晴らしいと思います。
必然性があるんですよね。

たぶん、物語の主軸に、生きることがあるから。
そこに繋がっているから、なんでしょうね。
他の要素で死をとにかく意識させ、だから生の実感を求める。

シーン中のテキストにも目を見張るものがあります。
誰かのルートに入ると、同じシーンであっても、
ヒロイン側の気持ちが近くなっているセリフが追加されています。
あるいは、選ばれなかったヒロインが他で生の実感を求めて……というのも、
なかなか良かったと思います。

雑な表現をすれば、必死なのです。
だからといって理性のすべてを捨て去れるわけでもない。日常はそこにあるのだから。
薄暗い死人としての生活の隣に。
そのせめぎ合いまで表現してくれていて。
行為って元々生殖で、生を繋ぐ本能で、生を実感するためのものだと改めて感じさせてくれます。

さらに重たさを感じさせるのが、
暮坂照をして、シーン中に受け入れたくないものを見せつけられている、そんな描写があることです。
悔い。選択の責任。
それは、嘘で誤魔化せないもの。
読んでいて、痛みがありました。


とはいえ、暮坂照がそこに辿り着くまで、他の日々を辿らないといけません。

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「こんなの、言い訳にもならないって分かってるけど……」
布良麻奈美

既婚者。昼間は子供を保育所に預け本屋のパートに出掛け、
子供を迎えに行き食事の支度をして夫の孝之を待つが、夫の帰宅が遅い、そんな生活。
夫婦仲は良い。
争いごとが苦手で、”幽霊狩り”では遅れを取りがち。
DEAD DAYS、蘇生生活でアリバイがどうしても必要で、
夫は淡泊だというのが描写として良かったです。
そして、不満というか要望はあっても、家庭を本当に大事にしているのがよく伝わります。

この生活では、手塚りょうこさんも、「ごめんね、孝ちゃんてなると思うんですよね」とのこと。
ビジュアルと声とで非常に色っぽかったです。
髪型、パーマかと思ったのですが違うのですね。

そんな布良麻奈美の選択は……。

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「実感がないのが一番やばいんだよ。それって何も体験してないのと一緒じゃん」
三峯あいら

家族仲も良く、読者モデルもやっており、誰とでも仲良くなれるタイプ。
曲がったことが嫌いで、熱血漢。死因もその性質によるもの。
すごく良い子だなと思ってます。

暮坂照が、やや下に見ていた三峯あいらに翻弄されるというか、
気にしているけど、はっきり聞けないところまで見抜いてしまうの、良かったですね。
つまり、本質をどこかで感じ取ってしまうタイプ。
それは、彼女のセリフにあるように、本当のことを求め続けていたから、なのかもしれませんね。
言葉だけじゃないです。芯のある選択をし、やってのけてみせます。

青葉みづきさんは、三峯あいらのような語尾をしていたことがあったとか。
幼少期の照も演じていただいたようです。

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鮫肌キルル
ゴシック・アンド・ロリータに眼帯。
”情緒不安定で凶暴なメンヘラ”、と公式サイトには書いてあるのですが、
それを葵時緒さんが見事に仕上げてくれています。
能力は確かで、状況判断もできる。
「だって、自分も今きついっしょ?」と照に声をかけたのは、共感からだったと思います。
態度がアレですけど、ちゃんと見ているんですよね。

上久保珠璃亜
いつか女優になることを夢見たジュニアアイドル。
公式サイトに、”計算高くタフな性格”とある通り。
演じた梅木ちはるさんによると、「お友達には成れそうもない」。
何としても生き抜く意思は強かったですね。そして、望みを目の前にして……。

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犬童瑛太
暮坂照をヤクザ運営カジノに送り込んだ張本人。
演じられた綾野綾斗さんが「こういう奴がモテる」、というのも分かる気がします。
振り返ってみれば、行動ルールが違うだけですよね。舐められることは駄目だ、という。

天願壮吉
暮坂照たちと行動を共にするが、過去の記憶が全くない。
しかし実は死刑囚。何故、天願壮吉だけはこの事実が世間から消えていないのか……。
作中はすごく格好良かったですが、野☆球さんのスタッフコメント、ほんと器用ですね。

ノーバディ66
実は、幽霊に該当する存在。バックボーンがあるため非常に強く様々なことができる。
蒼依ハルさんって、66のようなタイプの声を出す時には、
コメンタリーまでその声でやるのですね。すごい。
時代劇どうでしょうね。


登場人物は、ほとんどが蘇生死体または幽霊です。

この蘇生技術は何故在るのか?幽霊の発生は?という部分についても、
腑に落ちやすい仕組みが置いてあります。
それを取り巻く環境も含めて、よく考えられているなと思います。

全体的に、仕掛けがすごいです。
それをじっくり感じさせる、あっといわせる演出がなかったり、
伏線というほど匂わせたりしないのは、展開が怒濤だからということと、
見せたい主軸はそこではないからなのかもしれません。

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「こうなったからって……変わらなくても。照は照のままで、いいと思うよ」
安宅真魚(相模恋さん)

”嘘を嫌い、弱きを助け、曲がったことを許さず、これを声にすることを恐れない”。
公式サイトのキャラクタ説明には、こんなことが書いてあります。

この安宅真魚を語るときに、暮坂照を外すことはできません。
真っ直ぐ、一生懸命に生きて、輝いているように思える安宅真魚。
嘘をついて、相手の隙間に入れるよう伺って、表面上は人当たりよく接する暮坂照。

実は、8年前にあった出来事が、その後の二人を決定づけてしまっていました。

だから、安宅真魚は曲げることができない。
正しいからやるのではなく……、それでも自分はそうしなきゃいけないだけ。

暮坂照が陥った事態が元で、すれ違った二人が、
8年越しに根本から向き合うことになるのが、「DEAD DAYS」。

暮坂照は、お膳立てされても手を出せないのではと思っていましたが、
安宅真魚とあっさり関係を持った印象がありました。
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でも、その後は。
エゴに気付きながら、相手に苦しみを与えると感じても、それでもその道を選ぶ。
そして変わってしまう相手に、変えてしまった悔いを感じる。

暮坂照も、安宅真魚同様に、自分のことを気付いてしまいます。
やっていることは悪く、何故そんなことをしているのか分からない、
クソダサい奴らと同じだ、と。
追い詰められて選択してしまうのは、結局同じだと。……8年経ったとしても。


この作品で唯一良くないと思うのは、安宅真魚へのルートに入っても、
そのまま最終エンディングへ向かえない場合があること。
事情や秘密が一番明かされ、心を揺らす物語も進行するのに、まだバットエンドがあるんですよね。
あのLEDエンディングは好きですが、その前に明かす密度が高いので、
バットエンドへ流れてしまうのは良くないと思います。

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古き良きミステリ風、と呼ぶのでしょうか。
実存風景写真を加工したような背景は、すごく重み付けになっています。

舞台として挙がっている池袋などは、作中テキストにもあるように、
本当に海外の方が多く、その言語が分からないのであれば、
もしかしたらものすごい悪企みをしている可能性だってあるわけです。

リアルを理解しているからこその、怖さの育て方。
それがすごく上手いなと感じています。

音楽もそうです。ミステリ、SFっぽさを育ててくれています。
鑑賞画面で音楽再生モードがないのがもったいない。

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そうそう。安宅真魚を演じた相模恋さん。
「明日……代わりに、いっぱいしよ?」
よし。照れずに言えた自分をほめる。
何とか照れずに言えてはいる、けれどこの年頃らしく、すべては隠せてない。
そういう演技ができるのは素晴らしいと思います。

暮坂照を演じた、柊唯也さんも良かったですね。
ト書きのほうの本心もしっかり喋りたかった、とのことで、アニメ化でしょうか。
12話分くらいにちょうどなりそうな感じもありますね。
ただアニメとなると、下着までこだわってるCGをどこまで反映できるでしょうか。


というわけで、ものすごく堪能しました。
プレイ時間を見ると、それほど長くはないのですが、密度が凄まじくて。


安宅真魚は、胸に抱えた様々な思いを閉じ込め、日々の行動に移しているのですが、
そのうちの一つとして、保護猫を飼ってかわいがっています。
その理由を暮坂照に問われて、こんなことを答えます。
「かわいそうな猫ちゃんは、でも死にませんでした。
 助かって、毎日おいしいご飯を食べて元気に暮らしています……」
「っていう結末を、私はみんなに見せたいの。
 かわいそうな猫がかわいそうなまま死んじゃう。悪趣味でつまらない結末じゃなくて」
これが、「DEAD DAYS」そのものです。
こういう作品は、本当に希有だと思います。


Mr.FanTastiCさんが奏でるOP曲『Liar Liar』は不思議な曲です。
合わせたビジュアルが絶妙だというのもあるかもしれませんが。

OPムービーバージョンだと、暗い展開が待ち受ける予感をさせているのに、
エンディングテーマとして流れると、ものすごくポジティブな曲に聞こえます。

これは、載せている歌詞が、実は深い求愛だから、
そして曲調も合わせてもエモーショナルかつストレートに伝えようとしていくから、というのがあると思います。


ハードな曲調をベースにしながらというのが、この「DEAD DAYS」にすごくマッチしています。
鑑賞画面で、歌詞を組み込んでくれているのがすごくありがたいですね。
葵時緒さんがライブに行かれていました。ライブも格好良いです)



ダウンロード販売もあります。

あと。
世界中の猫が幸せでありますように。