JADEさんの「LOVE・デスティネーション」感想です。

2020年2月発売作品。
JADEさんの「LOVE・デスティネーション」は、
”死に戻れた2周目でモテモテライフ♥を夢見たら、そこは全員バッドエンドのハーレムルート♥だったADV ”。

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いつからこう変わったのか。
弥刀凉佑が昔、事故に遭った頃には、こんな国ではなかったとも思う。

公的機関を使うのには申請とお金が必要。人の食レベルも格段に落ちた。
それは眞優梨が接待した相手から不満顔をされるくらいでのもので、
過去は美食の国だったといわれても思い出せない。
そもそも、意志や欲を薬物で制御しているのが今の国民に対する施策。
国に不満を言うと老害罪という罪になったりもする。

弥刀凉佑は、現在を生き抜くのが精一杯で、幼馴染みの眞優梨ほど反発する気概もない。
せっかくのハレの日衣装に身を包んだというのに、諦めたような表情の眞優梨を見ながら、
呼ばれた披露宴で深酒をし、ひとしきり人生を悔いてもう一度頑張ろうと思い立ったら、
自動運転のトラックに轢かれ、人生が終わっていた。

ところが、それは人違いだというのだ。
巫山戯た対応の天の声により、弥刀凉佑は甦る。

そして、気付けば過去の分岐点、眞優梨に勧められた女学園唯一の男子学生となっていた。

という導入でした。
それでは感想です。
ネタバレはほぼありません。
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楽しむことができました。
いくつかもったいないと思える箇所がありますが、それ以外は。

この作品は、ループではなくやり直しモノ。
導入は酷い有様となってしまった世の中を、そして描かれなかった過去の人生を進めていく物語です。

色々な意味で、体験版をプレイされることをお勧めします。

まず。
改めてプレイすると、システム調整は本当に上手いですね。
同じSiglusを使っている作品をプレイしたことがありますが、
ここまで独自性の高いUIを用意した他ブランドは無いと思うほど。
セーブファイルはもう少し用意してくれて良かったと思います。

そして、グラフィック面。
本当に凄かったです。線画部分、彩色、差分も。グラフィック面は凄く良かったと思います。
ちょっとしたことですが、画面演出も。
さらに、音楽も良かったと思うのです。声の音質も含めて、素材は一級品。
デビューブランドで、ここまで組み上げることができたのはすごいと思います。

ストーリーは、面白いものが多かったです。

嵐の日に事故に遭ったことで入院、人生のその地点に戻った弥刀凉佑。
しかしその嵐の日が、登場人物たちのほぼ全てにとって、分岐点。
そこから関わるキャラクタによって、見ている事情が違うため、
少しずつレイヤーを変えて明かされていく、というのが面白さのひとつ。

世界そのものが悪くなっていってしまった未来。
様々な情報から耳を塞いで過ごしていた弥刀凉佑は、未来の情報を活かすこともないまま、
でも選ばなかった選択肢、格式ある女子学園の一人目の男子学生となります。

未来では、この学園に所属していた人たちは皆不幸になっていた、
けれど、その未来には居なかったと思う、アイ(歩サラさん)とのルートを選ぶことが、
弥刀凉佑も、プレイする人も幸せにすると思います。

不思議な存在。
体験版をプレイされていた方は分かると思いますが、そうです。透けています。
ここで弥刀凉佑と会えなければ、存在は時間に溶け込んだ。だから未来に居なかった。

このルートは、独立しています。そして一番安定していると思います。
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「幸せな終わり方を諦めたら……また口説いて」
体験版でも味わえるこのセリフが、単なるアピールではなく重さを表したものだと、理解できるルート。

過去に戻ったところで、弥刀凉佑は普通の一般人。
さらに、人生に負けた未来の経験を持ったまま。
やり直しがプラスに働いているわけでなく、マイナスを加算して戻っているといえます。

弥刀凉佑そのものは大きな力を持っていません。
各ルートで、何かを為すのは、いつも弥刀凉佑ではない。
代わりに、彼は別なモノと戦い、勝利しています。

それは運命……、ではなく彼自身に長く根付いていた、”事勿れ主義”です。
人は環境に依存するといいます。
理想を持った人も、環境に置かれたら右へ倣ってしまう。
弥刀凉佑は、学園生に戻されて、そして四ヶ月過ごし、
それでも、やり直した切っ掛けを蔑ろにしなかったのです。

そして、少なくとも一人の女性を救った。
それがアイとの道です。

一番良かったことは、とにかく素晴らしいグラフィッククオリティであること。
それを何度もルート上で味わうことが出来ます。

環境によってしっかり処理されていて、海辺で光を浴びていれば霞むように、
夕刻だったら赤く感じられるように。
このあたりがすごくすばらしい。
グラフィックに関しては満点だと思います。どれの何を観ても隙が無い。

シーンビジュアルのクオリティも、とても高い。
さすがですね。あげきちさん。彩色までも素晴らしい。
関わった彩色メンバーのみなさんも本当にすごいと思います。このクオリティ。
このグレードだけで、かなり突破していると思うのです。

この線画部分であろう箇所の良さ。
何かしているときの表情、口元の表現。
例えば、黛眞優梨。乙名詩那。
この差分があるだなんてすごいですよね。通常、その差分を用意しません。
せいぜい終わった後と違うだけ。そうではないのです。
艶のある彩色。ほんときれいですよね。
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さて、ここからは惜しいところを書きます。
3点ほど挙げますが、
プレイするのであれば、アイルートだけで終わった方が良いのかもしれないと思っています。

「私を見ないで……」
この時のアイを描く指定をしなかったのは、ちょっと失策だと思います。
あれを描くから、ハッピーエンドが比例して重くなるはず。
用意していなかったのが少し不思議でもあります。

体験版の感想で書きましたが、公式サイトのサンプル画像。
意図的に逆にしていたのだと思っていました。
例えば、製品パッケージ。正面と裏面を逆にしていますよね。
これもわざとなのではないか、とか。
公式サイト、サポートページなどを見ても、やっぱりそう思ってしまう。
体験版をプレイすると良く分かると思います。
まあtqitterキャンペーン、といった誤字もあるので全部が意図的とは見做さないほうが良いのでしょう。

意図的と見えてしまうのは、そういうテクニカルな巧さを感じる部分もあるのです。
こういう、まとわりつくような嫌らしさは、まだ作品の雰囲気として受け止めることができます。


ラノベやアニメなどを参考にした部分もあったとのことでしたが、少し疑問に思うところもあります。

弥刀凉佑は、アイを選ぶべき。
……なのですが、他のルートをプレイすると、選ばれない彼女たちに平和は訪れない。
他のキャラクタは、崖っ縁のままなことが判ってしまう。
でもアイを選ばなければ、アイが救われることは決して無い。

つまり、アイを選んでも、オールハッピーエンドとは言い難い。
未来のアイも魅力的なのに、他ルートに進んだ瞬間に霞んでしまいます。
砂上の楼閣なのだと判らされてしまいます。

もったいないことの一つは、この、誰を選んでも残り全員は幸せな終わりを得られないこと。
ラノベ風にいえばやり直しモノですが、圧倒的勝利は掴めないのです。
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これだけ魅力的なビジュアルのキャラクタを用意したのに、もったいない。


2点目は、プレイする側に何を見せたいのか明確ではなく、見せ場に力を掛けていないこと。

弥刀凉佑はやり直しの中で、過去の自分に打ち克ちます。
けれど、己自身の投影敵と戦う時、音声が一切入っていないのです。
ネタバレになりますが、体験版をプレイされた方は判るように、
汀縁であり、学園長であり、瑞希の父が敵に該当します。
弥刀凉佑にも音声が入っていないし、立ち絵もなく、敵と主人公が睨み合うイベントCGもない。
せっかくのやり取りが、乗り越えたものが、
声が入っていないばかりに伝わっていない部分が大きいのだと思います。

テキストをしっかり読むタイプの作品だと思うのですが、
少しやり取りが噛み合っていなさそうな箇所も見受けられました。
葛藤のぶつかり合い、だから言うことをストレートに受け止められてない箇所だと思えば良いのでしょう。
そういう感情の高ぶりこそ、声が入っていて演技してもらうべきなのだと思います。

良いこと言っているのだろうけど、弥刀凉佑の外見、普通の学園生なのですよね?
となると、その言葉にどれほど説得力があるのか。
相手は、メディアで頭角を現し海外組織すら動かす力を持つほどの存在だったり、
多角経営をこなす経営者だったり、裏社会を長く維持してきた存在だったりするのです。
しかし声優さんの声が入れば、それだけでガラッと説得力に変えることができてしまいます。

キャラクタ一つ用意するよりも、重要人物に声を入れてもらったほうが、
総合コストは下がりますよね。
それでいて伝わる物語に変わる。

ADVは、総合芸術なのですから。
テキストシナリオだけでも、グラフィックだけでも、声だけでもない。

アイが乗り移っているときのヒロイン変化が正にそれ。
これは、声が入っていなければ分からないですよね。
入っているから伝わるのです。

7人+サブキャラクタデザインをしてもらうのならば、そこを削って良かったと思います。
こういう選択をしていないこと。


3点目は、ストレスが溜まる進行になっていること。
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まず選択肢。
選択肢の結果が分かるアイコンを付けるのは良いと思います。
けれど、7種類あり、タイプが多くて分からない。
さらにヒロインも7人いて、ルートは4つある。
ハーレム展開があるのなら全員に良い選択肢を選べば良いですが、
恐らくこの画面からすると、ハーレムは無い。

つまり、かなり迷いました。
クリア後にルート固定モードが表示されていない。そこで発覚する。
ベストエンドかと思ったら、ノーマルエンドだったわけですね。
他のルートにいかないよう好感度調整をした上でベストエンドに至らないといけない。
選択肢数が多いから起きているのだと思います。
さらに、ノーマルエンドという存在も必要だったのか首を傾げます。
これは、ストレス。

もう一つは、テキスト。

嵐の日に何かがあった。その謎を解くことが課題となりますが、
良いところで割り込みが入ったり、放置するタイプ。
すれ違い会話が繰り返され、周りを回らないと物事が進まない印象は、螺旋階段を上がるようなイメージです。
一応進んではいる、といいますか。
はっきりハイと応答することもないので、多少の察し合いで進んでいきます。
ストレスが溜まる進行です。

すると、話が分からなくなりやすい。

「はぁ!?正気か?……って、実際そうしてきたんだから……」
「いくら尤もらしく言っても、その結果が現実なら……」

このタイプの会話が、モノローグの地の文でも続くのです。
内容に理解が及ばなくなる。

(気持ちが悪い原因は、”野郎の顔を正面から見ているから”だとしても、
 思い出したいことに限って忘れたままの厄介な頭のクセに、こんな時にどうして……)

さらに、嵐の日の記憶は、何をやっても思い出せない設定のため、
分からないことが読み手の気持ちに積み上がっていく。
で、その度に記憶が無いとか事勿れ主義だとか逐一考えてから応じる。
凄くストレスが溜まりました。

良くないです、これは。
から、だから、なら、……。
そこでセリフなどが切れる。言い切らない。
お互い理解し合っているのか、理解を求めているのか、会話の促しなのか、納得なのか、分かりませんでした。
引っかかるテキストが続いて、ストレスがどんどん溜まっていきます。
だから、何なの?
読んでいて、そんな風に思ってしまうほど。
2ルート目後半までは我慢できましたが、3ルート目からは大変でした。

ここを修正するだけで大分変わると思います。
というか、ですね。
声の入っていて、この言い回しをするキャラクタ、ほぼ居ないのです。

会話文を成功させるコツって何かと言えば、書いたものを声に出して読むことだといわれますが、
それなのかも。
圧倒的にテキストを書ける力はあると思いますし、内容は面白いのに、もったいない。

ということで。
もったいないのは、ルート構成。主要人物に声が入っていない。分岐の多さ。文章のクセ。ヒロインが多い。
でしょうか。

柱がしっかりしていれば細かい部分は無視できてしまいます。

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細かいところ。
アイが入っている乙名詩那がなかなかかわいいですね。
こういうところで、演者さんの力が分かる気がします。八ツ橋きなこさん。
アイとその後のアイもそうですね。さすがの歩サラさん。
乙名莉那役の水霧けいとさん、登場当初から妖しくてすごくよかったです。

椹木咲麗子役のあさり☆さん、イントネーションミスがありますね。
「つきまとい」「あの……また明日」とか。
音質が良いので、こういう部分がはっきり分かります。収録時に指摘して欲しかったです。

水着ではしゃいでる眞優梨がかわいらしいのは、ビジュアルの良さもあるでしょうけど、
やっぱり奥川久美子さんの声ですね。とにかく楽しそうだもの。

黛眞優梨が弥刀凉佑に告白されて、
今までずっと欲しかったものが提示された時の感情表現、奥川久美子さん上手いですね。
本当に良いのか、本当なのかという気持ちが良く伝わります。


細かいところとして、各ルートとキャラクタの印象。
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黛眞優梨と椹木咲麗子ルート。
すごく粗が目立ちます。
細かく書きませんが、そのやり取りはさっきもしたことだとか、
前日と違うことを言い出すとか、あらゆる人物が変です。

黛眞優梨のちぐはぐ加減、椹木咲麗子への評価、
他のルートを読んだ後だと、シナリオのための行動に過ぎるし、
弥刀凉佑が自分から罠に入りに行くプロセスも、
二人を相手にしたシナリオに仕立てるため、無理にねじ曲げたように思えてしまいます。
弥刀凉佑から告白された場面、いい演技をしてくれていますが、
キャラクタが魅力的に見えなくなってしまっています。
最後にプレイしたから、いっそう思うのでしょうね。読んでいて疲れてしまいました。
椹木咲麗子など、水着では髪型が違うデザインまでしてくれているのに。
アイルートだと、咲麗子の雪解けが少し簡単すぎますね。

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陵瑞希と神尾花梨ルート。
実は体験版でシーンだけ見てしまい、警戒していたのですが、
それでも陵瑞希は、あげきちさんのビジュアルとよぴこさんの演技で、かなり良いキャラクタでした。
親友ポジションだけどヒロイン。良いですよね。
神尾花梨と弥刀凉佑がしている場面が見られないのがちょっと。
入院中にフラグがあったようなことを示唆しますが、それが全く使われなかったですね。
恐らく複数にすることで、以前の人生とは違いモテモテ、だと描きたい部分もあると思うのですが、
一人当たりの味が薄くなりますよね。

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乙名姉妹ルート。このSDは何回見てもかわいいですよね。SD原画は夏月まりなさん。
ルートに入ってすぐですが。
乙名莉那は、朝早く弥刀凉佑に独りで会いに来て、けれど乙名詩那とは一緒に朝出てきた、のですか?
弥刀凉佑の、時差を考えた振りして喫緊だと思わないから電話を後回しにする、という、
黛眞優梨たちルートで感じた部分は相変わらず見受けられますが、
乙名姉妹ルートはなかなかサスペンスでした。

記憶を持ってないのは、乙名詩那ではなく乙名莉那のほうだった。
何も考えていなさそうにみえて、色々と考えていたから、でもうまくやれなくて。
外見に比べ脆かったり、気持ちにより添ったりする乙名詩那、いいと思います。

メディア誘導型の制圧、本当に上手に描写しますね。
汀女史などはいくつかモデルとなる人物を混ぜていそうな気がします。
ただこれも、声が入っている陵瑞希が語るから、説得力が増すのですよね。

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色々な意味で、まだこれからだと思います。
パーフェクトなレベルの音周りとグラフィック、内容の良さはあるので、あと少し。
全体的にみれば、ここまでのクオリティを持っているブランドさんも少ないですから。
テキスト面での誤字脱字、恐らく10箇所も無いのです。
そして、グラフィックボリュームも含めて、すごい物量だなと感心しています。
通常、水着イベントがあったとして、複数枚用意している作品なんて無いですよ。
せいぜい差分でしょう。
事故に遭うモブキャラを、立ち絵とイベントCGに起こすことってありますか?すごく贅沢です。

この調子で書きたいものをストレートに、あとは見映えと仕上げを調整してくれたら、
次はもっと楽しめると思います。
シナリオ上におけるアイディアは良いものがあると感じますし、少し遠慮が見られるようにも感じます。
もっとアクセルを踏んで良いのではないかとすら。
その上で、監修してくれる方がいると良いのかな。

何を見せたいのか? 考えてくれるとさらに良くなるのかもしれません。



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