tone work'sさんの「月の彼方で逢いましょう」感想です。

2019年6月発売作品。

tone work'sさんの「月の彼方で逢いましょう」は、”過去と未来をつなぐ恋愛ADV”。
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文藝部に所属し、憧れの先輩の話を聞いて小説を書いた。
バイクで速度違反切符を切られ、女の子と二人で灯台からメッセージを送った。
あまり人と会話しない女の子から、スマートフォンの話を聞いた。
いつも親の帰りをバイト先で待っている子を、帰りに送った。

知っていくごとに、惹かれる彼女たちの隙間。
けれど何かに踏み出すには、黒野奏汰はまだ何も解っていなかった。

少しの後悔と、辿り着かなかった想い。
8年後の黒野奏太は、あの時使っていたスマートフォン、エンデュミオンと再び出会う……。

という流れでした。
それでは感想です。
やや、ネタバレがあります。



素晴らしい作品です。
凄まじい納得感。
ここまでやるのがtone work'sさんなのだと、改めて感じています。

傑作の前作「銀色、遙か」と、どちらか選ばなければならないとしたら、すごく悩んでしまうほど。

発売から1年以上経過しています。
実は、他の方の感想に出くわしてしまって、それが良くないものだったので、少し時間を置いていました。
時間を置いたところでイメージは植え付けられたままでしたが、
それでも、ある特定の時期までにプレイするべきだろうと感じていました。

この作品の中心に位置づけられているイメージテーマとして、月があります。
この月を、登場人物が様々な感情を抱いて見上げていて、印象的だったのです。
現実でも、綺麗な月が見られる頃に合わせてプレイすべきなのかなと思っていました。

ヒロイン総数が7名。
多くて、本当に大丈夫なのかとは思っていました。
しかし、全く不要の怯えでした。
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本当にドラマばかりがあります。
よくこんなストーリーを描けたなと感じるほど。
ここが、前作と同じスタイルを持ちながら、わずかな方向性の違いを生んでいるところです。
仮に前作を、雪の降る地で育まれる温もりのある繋がり、静だとしたら、
今作は、月が象徴する変化に富んだ物語、動といえるでしょうか。

そう、公式サイトで紹介されているとおり、”運命の選択”を、
そして”後悔”を描いているのです。

スクールパートでは、日々を楽しんで過ごす黒野奏汰の学園生活を見ていくことができます。
ちょっとした触れあいが産む鼓動。気になる相手のことが分からない、でも明日は来ると疑わないからそのままにして。
が、そこで何らかの悔いを得ることがあれば、後になっても刺さったまま、時折存在を主張してくるのであれば。
もし、やり直せる機会が得られたら……、
ドラマが生まれるのは、必然といえるのかもしれません。

もちろん、生まれるのは必然でも、様々な演出を固めなければドラマとして成り立ちません。

そのために。
ちょっとした一言が、誰かの琴線に触れる物語となっているのは、さすがといえます。
そういう表現が多いのですよね。作品として見せ場が多い。気になる箇所が多い。
だからセーブファイルは足りません。
200箇所用意してくれているのですが、1キャラクタあたり10ページあっても良いと思うほど。
上書きして消すのが心苦しいのですよね、本当に。
なるべくそういうことがしたくなくて、ギリギリまでセーブするのを抑えたのですが、
それでもダメでした。
素晴らしい物語ばかりが詰まっています。


では、どんなドラマになっているのか。
全体の感想を交えながら各ヒロインの感想を、プレイ順に。

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「…ありがと。いっぱい、ありがと」
佐倉雨音(くすはらゆいさん)

誰とも仲良くしている様子が無い女の子。
月夜の日。雨に濡れているのを見掛けた黒野奏汰は声を掛ける。
次第に仲良くなっていき、プログラミングがすごいことを知る。
彼女の父は、話題のスマートフォン”エンデュミオン”の開発者、ポール・グレイだというのだ……。

このシナリオは、黒野奏汰と二人でがんばっていく物語のように思いました。

出会いのスクールパート。
人と関わり合うのも、生活も。恋も。全て一歩ずつ。
基本的に独りでずっと過ごしてきて、掃除や洗濯は業者任せ。
偏食で、3食ベーグル。たまにレンジアップ料理。
ゲームしながらポテトチップスとルートビア。
コミュニケーションも弱い。

黒野奏汰は、そんな雨音を学園の課題チームに誘い、バイト、そして家族へ会わせていく。
コミュニケーション、対人スキル、生活能力を学び得ていく。
人と関わってこなかった佐倉雨音が、でも一人でいたいわけでは無かったのが良く伝わります。

アフターパートでは、一緒に過ごせる喜びを味わいながら生活する様が見られます。
いきなりは上手くいかない料理。一緒に部屋を出る朝。同じ通勤電車。
黒野奏汰をダーリンと呼ぶ頃から、何事へも積極的になる雨音は、
関わろうとしなかっただけで、様々な事への才能はあったのでしょう。
次第に開花する姿を見せてくれます。

一方で黒野奏汰は、雨音を第一に考えることを選びます。
だから決断する。
告げた時の雨音は、悲しそうで。
黒野奏汰の夢は、雨音の夢にもなっていたのですよね。

それが二人のスタンス。
一緒に歩んできて、これからもそう。だから訪れる今に立ち向かうことも出来る。

後半もなかなかにドラマティック。
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黒野奏汰は、エンデュミオンのオカルトを聞く。
雨音の父、ポールグレイは、エンデュミオンを過去と繋げるための機器として開発したのだという。
そして、D-WAVEは、未だ繋がっていると知る。

ポール・グレイが掲げる理念、”すべての人が1台の機器で繋がり合い、便利で幸せな世の中を作る”。
二人は、表に出す感情こそ違っても、その理念を信じたのですよね。

だから、黒野奏汰は自分にできることをする。
雨音は複雑な気持ちを抱えながら、様々な人の気持ちに触れ、自分の気持ちをも見つめ直すのです。

思いを伝えなければならない。
直接は相手にできない、根付いてしまった負の風潮だったり。
うまくいかない人生だったり、過去の情念だったり。自分のわだかまりだったり。
もう届かない、誰かに向けて。
解決へは、やはり一歩ずつなのですよね。

雨音が、まず足元のチームを説得する場面もなかなか良かったと思います。
そこを超えても、プレゼンの場が。その先に、マイナスな印象を持つ世間との戦いもある。
辿り着くのは、夢を掴むこと。あの後悔と、成長した今の視点で向き合うこと。

謎も随所に盛り込まれ、なかなか引き込まれました。

雨音のシーンは、結婚前夜がいちばん良いですね。
「ワタシ、今日少しおかしい…すごくフワフワしてて…雲の上に寝転んでるみたい」
「俺もだ。なんていうか、夢の中にいるみたいな」
この場面の到達感は、ほんとに良かったですよね。


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「…どうして満ちたものが、また欠けていってしまうんだろうね」
日紫喜うぐいす(桜川美央さん)

黒野奏汰が所属する文藝部の先輩。
文藝部にいつも最初に居り、物静かに本を読む姿が人気。
文章を書かない読み専だが、書評が的確なため、部員はアドバイスを求めて列を成す。

黒野奏汰も憧れていたが、ある日、副部長が告白していた。
「好意を持たれることは嬉しい。だけど」
気になる言葉があったが、それよりもあくまで良い後輩だと評され、間接的に振られてしまう。

完成させた小説は、今更見せる気にはならない。
あれは告白を盛り込んだものであり、小説としての完成度も低いように思えてきた。
良い後輩で居ようと思った矢先、小説を楽しみに待っていてくれることを知り、せめて完成させようとするが……。

このシナリオも相当好きです。素晴らしいです。
2人目でここまでやってみせるのかと。衝撃を受けましたし、嬉しかったです。

まず、演出が目を惹きます。
俺は知っている。窓辺で物静かに本を読んでいる先輩が、実はページをめくる度に
表情を変えていることを。
スクールパートで、黒野奏汰が、日紫喜うぐいすをどんな風に見ているか。
文藝を題材としたからか、青春文学とでも呼べそうなテキスト。
そして黒野奏汰の慕情を表すかのようなビジュアル演出が。

うぐいすは、小説をお蔵入りにしようとする黒野奏汰に、改めて向き合うための言葉を伝えてくれます。
慕う方からこんな風に伝えられたら、とてもやる気になりますよね。
純文学に向いているなんていわれたら、より加速が付きそう。

しかしその憧れの人には、とてつもない秘密がありました。

ここで気付いたのは、スクールパートから登場するヒロインには、一環して重たい展開があること、
そして、SF要素を織り交ぜているのですね。
ドラマを、より上の要素で彩ろうとしているのです。
この恋愛はどうなるのだろう。二人は何をみていくのだろう。
何を見せてくれるのだろうと、とにかく期待ばかりが高まる展開。

このことがずっとうぐいすを悩ませていて。
その嘆きも、すごくすごく染み入りました。
どうしてもできないこと……。

そんなうぐいすとの告白シーン、本当に良いですね。
二人の言葉は、じわーっとくるのです。
黒野奏汰のストレートな言葉は、包み込む気持ちがありました。
そして、手を差し伸べられて、本当に良いのかと感じている。
すごく伝わります。
きっと、うぐいすが本に打ち込んでいたのは、そういう憧れをも閉じ込めていたのかもしれませんよね。
「本の中で知った気分でいるだけの恋というのを、キミとなら知る事ができるんだろうか」
この場面の日紫喜うぐいすの語り。何回聞いても。桜川美央さんすごく良かったです。

それからのうぐいす。グイグイ来るんですよね。ほんと「キャラじゃないだろう?」。
行動理由もキャラクタ付けになっていて、らしさが増します。
黒野奏汰が、恋人だけが見られる日紫喜うぐいすは、不器用で、でも彼女なりの真摯さ。
知らない自分は、二人でいるから見つかっていのです。

シーンに入って大丈夫なのかと、見ていて身が縮んでしまいました。
でもシーン中のうぐいすの表情、とてもいいですね。
私服差分も目を惹きます。
シアーが見事に表現されています。上手いですよね。
バイクの場面ではメット差分もあると良かったかも。
みなとみらいの背景もとにかくきれいで、こんな景色を二人は歩いているんだなと憧れます。

描き込みなのでしょうか。彩色なのでしょうか。
アフターパート後半、夜の室内で描かれているのは、ある場では定番の衣服だとしても、
描き込み、彩色がすごく細かい。キャラクタを自然に見せる彩色。
そして、場面に沿った彩色、表情だというのが、すごい演出になっているなと感じて見入ってしまいます。
それでも美しいのです。うぐいすは。
美しいから、その気持ちが伝わる。

それにしても、この事柄に対してこのドラマ。本当に上手いですね。
謎の置き方もそうですが、引きの作り方、転回も巧い。見事でした。
ネタバレにならないようにぼかしているのですが、うん、これは本当にプレイして読み進めて欲しいです。
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「私は……私の全ての時間をキミと過ごすことに使いたい」
そして、綴られた思い。これを桜川美央さんが好演します。

それでも普通の幸せを望んだ想いが、悔いや希望をない交ぜにして、
それでも物語は進んでいく。
黒野奏汰の気持ちに入り込んで、一緒になってうぐいすさんに声を掛けていたように思います。

描いた重たさから全く逃げていない。
重たいことは、本当に重たく描こうとする。これが良かったのでしょう。

何度も立ち上がろうとする、けれどその度に襲い来る”後悔”。
本当は何もかも間違っていたのではないか。
エンターキーの演出。本当に良かったです。
”あなたはどんな後悔をやり直す?”

プレイ後に語りたい物語って、こういうもののことをいうのですよね。

後発作品の登場がないのですが、どうしてなのでしょうね。
SweetSummerRainbowうぐいすは、あっても良いと思うのですが。
やっぱり、蛇足だからでしょうか。
ならば、再会の場面で、もう少しお互いの気持ちが寄り添っていることを示さないといけないかなと思います。
別々の道を行く切っ掛け、割と良くない状態でしたよね。
これをリカバーさせないといけないので。
繋ぐために、幼い頃見た流れ星の話を繋げるとちょうど良いのかもしれませんよね。
あるいは、wixiの場面を出したり、どんな風に遠くで過ごしていたのかを描くのが良さそう。

とはいえ、気になったのはこの1点のみ。
すごくすごく良かったです。
このシナリオは必ず読んで欲しいと思うほど。
そして、ANZIEさん作曲、中恵光城さんが歌う『月ノ鐘』をじっくり味わって欲しい。

また、他ルートに対するネタバレのない、気を遣った進行が素晴らしいなと感じています。
技といってよいでしょう。


このまま進めると、最大の謎、ギミックを持っていそうなセンターヒロインに進んでしまいそうだったので、
アフターパートヒロインストーリーへ移行しました。

満員電車に揺られて、飯田橋のよつば出版社へ。
編集者として、しかも文藝ではない部署に配属。ゴシップ寄りの雑誌。
学園時代の友人、環円(藤澤梅太郎さん)と田島賢斗(九財翼さん)とはたまに会って飲むものの、
あの頃、気になっていた彼女たちとは会っていなかった……、という導入ですが、
アフターパートの満足度が凄まじいです。
隙がなく中だるみのない驚異的な編集なのです。

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「自分が何のためにあの小説を書いているのか、ちょっとわかった気がするわ」
月ヶ洞きらり(手塚りょうこさん)

若手女流作家。
大学生でデビューし、破竹の勢いは衰えず、著作は実写映画化もされている。
ただし、編集者の間では、一緒に仕事をするのはなかなか難しい人だといわれてもいる。
実際、黒野奏汰が企画を送るも、手前のマネージャーに全て弾かれてしまい……。

月ヶ洞きらり先生、すごく美人ですね。
そこにこのキャラクタ設定はずるいなと感じました。

美人。売れっ子作家。しかし周りを振り回しがち。
「よく知りもしない相手に愛想を振りまくのって面倒じゃない?」
テレビ出演は一切断って、男性との噂は枚挙に暇がない。
けれど実は……という部分がとてもずるい。
よくこんな設定に仕上げたなと、強く思います。

美人には、夏の静かな時間が似合うのですね。

魅力的なキャラクタです。見せ場がすごいのです。
黒野奏汰にも、出版社所属の、編集者ならではのドラマがあって。
二人の関係になっていく様も、ドラマティック。
これは絶対プレイして味わって欲しいところです。
サブヒロインのはずなのに、まとまりがすごく良くて。
アフターパートヒロインの最初に、この月ヶ洞きらり先生ルートをプレイして、
こんなにすごいストーリー持ってくるの?こんなに魅力的はヒロインがサブヒロインなの?とびっくりしてしまいました。

なんというか。進行は普通のADV、選択肢を選ぶ形にすぎないのです。
が、選んだ後に描かれる展開が全て、素晴らしい。

月ヶ洞きらり先生、他ルートでも面倒見が良かったりします。
気さくに岬栞菜に声を掛けていたり、アシストしたり。
以前担当編集だった松宮霧子とも仲が良くて。語る相手の心の動かし方、すごく納得しますよね。
倉橋聖衣良と気が合って「甲斐性なし?」「そうよ、甲斐性なしよ」とか。

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「1つの作品を完成させるのに、どれくらいの熱量がいるか…その苦労は、作家を志す人みんなに平等です」
岬栞菜(鈴谷まやさん)

松宮霧子編集長の依頼により、急病になった漫画編集者の代行をすることに。
担当する漫画家の岬栞菜は、連載が始まったとはいえ、なかなか伸び悩んでいる。
アンケートでは7位。その漫画を読んでみたが、確かに納得してしまう。
絵はいいのだが、弱点にも気付いてしまう。何というか、綺麗すぎるのだ。

事前に過去の作品を読んだものの、ヘルプであること、漫画に詳しくないことから、
黒野奏汰は無難に済ませようとしていた。
しかし、岬栞菜は、この連載にある想いがあった……。

すごく真面目で、創作に真摯に向き合う漫画家なのです。
でも、その分、多くの人と関わってこなかったからか、少し繊細。

経験が無いことを憧れに、漫画にしている。
そのことが弱みで、引っかかる場所の取材をする。そして距離が縮まって。

漫画題材だからか、ラブコメ展開もありながら、
そこから恋愛に持っていく流れがすごく上手いですね。

いい。本当にドラマです。すごくいい恋愛だと思います。
あの景色で、二人はお互いに向き合う。
どうすればドラマティックになるのか、分かっているのでしょうね。

ネーム確認と打ち合わせに行くのが、少し彼女の家に通うような雰囲気を匂わせるのも、
なかなか良かったです。

シーンになると、「え? 飲んじゃいけなかったですか…?」と。
どうぞどうぞ、むしろお願いしますと思ったり。
本当に結ばれて良かったという場面でもあるのですが。
公式サイトで公表されているように、アフターパートヒロインにはシーンが2回しかないのですが、
しっとりしたシーンで、良かったです。

きっとこの二人は、これからも毎日を忙しく過ごしていくのでしょうね。
『僕たちの詩』、竹下智博さん作曲、Ceuiさんの歌声がしっとり響き、似合うエンディングだと思います。


たくさんの場面展開があるのに、セーブファイルは少ない。
本当に困ったものです。
サブヒロイン扱いなのにこのボリュームですから。

ところで、漫画部の女子社員やら、土産物屋店員などを担当している方の声、
あるいは、倉橋聖衣良の母役の方。良いですね。良く通る声です。

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「大切なのは、読者を説得して納得させること。そうすれば自然と人気もついて来てくれるはずよ」
松宮霧子(猫屋敷舞さん)

よつば出版社女性向けコミックの美人編集長。
仕事に生きるつもりだったが、親から再三いわれ、婚活せざるを得なくなる。
企画を立てていた黒野奏汰は、実地で体験したものをまとめることを目指し、婚活を始める。
そして、参加した婚活パーティで、二人は出会ってしまう……。

松宮編集長のこのビジュアル。
それに猫屋敷舞さんの声。バッチリです。素晴らしく良かったです。

そして。うーん、ビリヤード。
公式サイトでイベントCGを見てしまったので、あるのは知ってはいたのですが、
描かれた場面を見て、すごく良いなと思います。
キャラクタ造形の深さです。
主人公より年上の女性、人生経験という新しい世界の提示。そして物事に対する姿勢。
それらキャラクタの魅力を提示しながら、
人が関係性を育む要素、価値観の合致や尊敬に繋げてもいる進行なのです。
ユーザ側、黒野奏汰どちらをも惹き付けている。

さらに隙も。
美人でお酒や遊びの嗜みもあるけれど、親には弱い。
作家の無理をこなして名作を世に出すことに喜びはあるけど、婚活でのストレスは耐えられない。
水着にはなることはできても、泳げない。

良いところと苦手なところの設定、説得力がしっかりしているのです。
で、やっぱり声とのマッチングがすごい。
猫屋敷舞さんで大ストライクです。

「貸しが――」とか、声のトーンが最高です。
寝息も良く分かります。仕事納めた途端の電池切れ、安心感。
黒野奏汰の仕掛けた不意打ちに奇声を上げてしまう「はっ!?」。ついセーブしてしまいますよね。
さらにシーン中の声がとにかく色っぽい。
体験版中から予想していたのですが、本当に聞き応えがあります。
BGVのタイミングも良くて、シーンまでとにかく楽しめました。
二人の秘め事。二人でしている秘め事なのだというのが本当に良く伝わって。

「今日は、積極的ね」。
ちょっと困ったような、でもドキッとさせられているのが分かる声。たまりませんね。
黒野奏汰に飛び込む吐息の表現。凄まじいです。

嘘から始まる関係、というのもアダルトな雰囲気で良いのですが、
進む二人の関係は。
自分の方が年上だから、若い子と話をしていれば気になる。でも言えない。
自分の方が立場が上で経験もあるから、頼ってくれたら手伝える。でも言えない。
これまでのことを考えたら、霧子の側からは、ハッキリと言葉にしない。……できないのです。
このバランス、すごいですよね。
霧子の悩みも良く分かります。リアルです。

本当におめでとう。
生活しながら、何を掴み取るべきか、きちんと悩んだ二人だから、
その到達点は祝福したくなります。

松宮霧子、岬栞菜ルートでも、黒野奏汰を推薦してくれたり、
月ヶ洞きらり先生ルートでは間を取り持ってくれたり。
悩む黒野奏汰にビシッとアドバイスしてくれる場面もあり、やっぱり格好いいなと感じます。
「ときには悪役になってみるのも編集の大事な仕事よ」

でも、部会で最後に質問をしたのって、間違いなく霧子のサポートですよね。
なんて思い遣り。結局優しい人なのです。

あと、霧子さん、私服が結構かわいいです。
下着も似合いすぎていてびっくり。色気立ちすぎです。

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アフターパートは、黒野奏汰が小説を書くことを断念した形で始まります。
SF要素は姿を潜め、スーパームーンに思いを馳せることもありません。
代わりに、リアリティのある、そして大人の恋愛ドラマが描かれていて、
もうこの時点で素晴らしく満足していました。
というより、アフターパートサブヒロインたちこそがメインなのではと思ったほど。
すごく凝っているし、ドラマティック。
だって例えば、日本三大夜景のあの場所、あのルートのあそこにしか出てこないですよね?
それなのにあの背景使います?
月ヶ洞きらり先生に意外性をもたらしたあの背景は?
それを描くことによって、恋愛を盛り上げてくれているのです。
細かく描き込んでいるから、フォーカスにも耐えうる。
必要な舞台に必要な素材をきっちりと用いている。
さすがだなと思うのです、毎作。


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「…私も、クラゲだったら良かったのにな」
新谷灯華(風音さん)

突拍子も無い行動、突然奇声を上げる。
その度に振り回されてばかりの黒野奏汰は、危なっかしさが気になっていた。

黒野奏汰は、日紫喜うぐいすが語ってくれた逸話を題材に小説を書いていること、
日紫喜うぐいすへの憧れまで知られてしまい、より振り回されていく。
しかし次第に、心配だけではなくなっていく。
一緒に行こうと誘った修学旅行。しかし灯華は来なかった。
代わりに、一緒に京都へ行くことを誘って。
そこでも、灯華は灯華だった。
終業式より前に転校すると、やっと聞き出した。

もっと早くに気付いていれば、あの時ああしていたらもっと……。
そして8年後。

このシナリオをセンターヒロインに持ってきた。
チャレンジングだと思います。
これまでの、tone work'sさんのブランドイメージを変えて仕舞いかねない。
でも、やってのけたのです。

体験版では、印象的な場面、踏切の向こう側で手を振る光景を見せてくれたヒロイン。
他ルートだと画面に出て来ず、黒野奏汰の思い出だけにいる存在となります。

そんな新谷灯華は、意外な設定を持っていました。

両親が、あることに熱心だといいます。
風邪を引いた灯華を放って置いて行く……と。
人を避けてきたから、誤魔化しを続けてきたから巧くなる嘘。
きっと黒野奏汰とプレイヤーは、なかなか新谷灯華を掴めなくて、もどかしく感じたはずです。

細やかに伏線が敷かれ、それは新谷灯華のキャラクタをも表していました。
後半の、指切りを回避するためのキス。
体験版でも見られるのは、黒野奏汰が投げ捨てた原稿を、迷わず海に入って回収しようとするところも。
人の気持ちは、伝わるべきだと信じていたのだと思います。
そして、約束は大事にされるべきだと。

中でも、スクールパートで、日紫喜うぐいすとの間を取り持とうするところが少し気になります。
恐らく、自分の居場所を感じての行動かなとも思います。
自分でも何かできる、人の役に立てる、頼ってもらえる。そんな気持ちではないかと。
そして自分に踏み込まれることも回避できる。でも本当は……。
突拍子も無い行動も含めて、新谷灯華というパーソナリティが強く強く出ていたように思います。
その矛盾こそが。

事情を知った黒野奏汰は、新谷灯華をストイックだと評します。
新谷灯華は、そんなつもりはなかったと返しますが、本当にそうなのでしょう。
そんなつもりはなかった。でも、そうなってしまった。
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アフターパートでは、エンデュミオンとスーパームーン、ヒロイン。
全てを巻き込み、そして新谷灯華にフォーカスしていきます。

体験版でも見ることができますが、緩やかな親交のあった日紫喜うぐいすと、
卒業した部室へ本を探しに行くところ。
あったのは、過去のスマートフォン”エンデュミオン”。残された”未来メール”。

「そう、可能性。いまは可能性にすぎない」
リスクコンサルティングを生業としていた佐倉雨音の示唆も、謎を深めてくれました。

内容には納得感があるのですが。
最大のギミックがあると思ったので最後にプレイしたかったのですが、何故かルートに入ってしまって。
ルートロックしてくれたほうが良かったかもしれません。

例えば、(ある意味、これは当然ではあるのですが)アフターパートヒロインはサブキャラクタとして扱われています。
ここでも相変わらず他ルートに対するネタバレがないのは素晴らしいのですが、
先入観となってしまう面もあると思います。
ただ、逆にしても。
日紫喜うぐいすが、このルートではスクールパートから黒野奏汰を励ます側に回っています。
先に日紫喜うぐいすルートを終えていると、何ともいえない気持ちになってしまいました。

とはいえ、なるべくなら読むのを後にした方が良さそうです。
これが「月の彼方で逢いましょう」なのだと、エンディングまでが彩っているのですから。

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「かな兄ちゃんと『同じ』大人だよ」
倉橋聖衣良(白月かなめさん)

進路調査。黒野奏汰は悩む。
なりたいものは、あるのだ。
ただそれを誰にでもはっきりと主張できるかというと、違う。
「ファッションデザイナー!」
将来を口に出していた女の子が思い出される。
幼くてもスケッチブックに打ち込み、迷わず裁縫針を手繰る姿が……。

一途。本当に一途。眩しいヒロインです。

スクールパートでは、おませさん。
ここの描写がとても良くて、笑顔で見ていられます。
でもそれは、家庭環境に由来していました。
人に心配させてはいけないと思っている、わがままを押し殺している部分もあるように見えます。
母子家庭。最初は黒野奏汰にも懐かなかったそうです。
今では遠慮せず話せる、とはいえ、見知らぬ誰かと黒野奏汰が一緒に居たら一気に人見知りが表に出る。
父がいなくて寂しいかと聞かれたら、強がってみせる。心配掛けないように。

それでも分からないのは、人の気持ち。他人の気持ち。
分からないから……、子供扱いされるから、より、大人になろうとするのですね。

驚くのは、ほんの僅かなが作品内時間として進むだけだというのに、衣服も替わること。
夏が終わるからって服は変わらない。用意しないことが多いのに。
特に、聖衣良の場合は子供です。同じでも違和感はない。
でもtone work'sさんはやる。素晴らしいですね。
この小さな変化も、将来成るヒロインのために。

電車移動もそう。
風景を横に流すだけではなく、プリズムを散らしている。
過度にならない、でも印象的な場面となるように仕上げています。

「絶対、びっくりするくらいキレイになるんだから!!」
その宣言から数年後のアフターパート。
不意に黒野奏汰の住まいを訪れた倉橋聖衣良。
夢を忘れ仕事に浸かり、疲れ果てた黒野奏汰には誰なのか分からないほど。

他ルートへ先に進んでしまったので、どうして倉橋聖衣良が羊のスタンプを送ってくるのか分かりませんでしたが、なるほど。
そういうことだったのですね。これは魅力的な設定です。味があります。

アフターパートで見せる羊エプロンがとてもかわいいですね。
倉橋聖衣良が部屋を訪れたことで、黒野奏汰の生活レベルが一気に改善されます。

いるだけで華やぐ。
食生活の改善が生活改善につながり、仕事が上手く回る。
帰宅して、笑うだなんて動作は、黒野奏汰の社会人生活では無かった。
精神的にも改善されていくのです。

黒野奏汰が今は何も書いていないことを寂しがる。
努力する才能がある。黒野奏汰は倉橋聖衣良のことをそう評価しますが、
努力の原動力は、黒野奏汰。
一方で黒野奏汰は、書くことを諦めた側。
年の差だけでなく、夢を捨てた情けなさまで突きつけられているようで。

「でも、わたしって、それだけ?」
この問い掛け、本当に凄まじいですね。セリフを綴ったライターさんも素晴らしいですが、
白月かなめさんもさすがです。このセリフに聖衣良の感情を乗せてくれました。
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気持ちが繋がってからは、同棲する恋人へ。
すごく良いですね。
一緒の空間にいる”恋人”が表現されていっています。
「だって、このお出迎えのタイミング、好きなんだもん」

テキストが脱字しているの珍しいですね。
夜明けの空、と発声していますが。
それと、「楽しみにしてるね」の差分が違うのは、改めて設定しているからなのでしょうか。

この物語でも驚かされたのは、ストーリーのために、サブキャラクタを変化させます。
わざわざ編集長を変える。シルエットこそ出ませんが、わざわざ声優さんを変えるわけです。
すごいですよね。
必然のため。新編集長のキャラクタもそうなのでしょうね。本当にすごい。

「好きな人との幸せの味がするの」
バイクで2人乗りする場面は、本当に良かったなと感じます。
あの頃を、二人で歩く。すごく良いですね。

最後、倉橋聖衣良のモノローグでは、震えるほど響きました。
決して長くは無いのに、スッと刺さる。
でも、これで終わりではない……というのが、倉橋聖衣良との物語の良さ。

エンディングムービーまでもが傑作。

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こんなに満足できる作品って珍しいですよね。
キャラクタの時間経過を見せる作品がまず珍しいのですが、
ルートによって産まれる細部の違いを、素材に全て反映させているのがさらにすごい。

アフターパートで、スクールパートを振り返ることが一度はあります。
これが見事に効いてくる箇所があります。
良かった時に思い出せば、大事な、そっと手で包み込みたい思い出に。
囚われて動けない、辛い思い出として襲ってくることもある。
時間経過というコンセプトを活かしています。

それらは、こういうのが面白いから、ではなくて、
描きたい物語が軸にあって、そのためにやっているのだと感じる、ストーリーの強靱さ。


SFが映えるように、なるべくリアリティのある要素を盛り込んでいます。
そのお陰か、ドラマ脚本のようにも感じました。
それは、ある場面で日紫喜うぐいすが言っていた言葉通りなのかもしれません。
黒野奏汰の迷いをも見抜いて、助言をくれるうぐいす先輩の優しさが嬉しい……のですが、そうではなくて。
「本当かも知れない嘘」。
このためでしょう。

そうして創られた物語は、読み進める側の心に響くものになっていました。
様々なことを乗り越え、二人の気持ちが繋がる。相手が居るから、今日の一歩を踏み出せる。
そんな二人を見て本当に良かったと思えるし、気付けば表情も柔らかくなっているのを感じます。

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画面がとにかく綺麗ですよね。
フルスクリーンまたはウィンドウ、どちらでも美しく見える。
だからフォーカスして映してもご覧の通り。この部分だけで感動してしまいました。

プールが出て来る場合、同じプールであることが多いですが、
ヒロインによって行く場所を変えており、背景も当然のように違うものを用意しているのです。
本当に手を抜かないですよね。
最初から舞台に江ノ島が登場しているので、背景は同じものを使っても良かったはずが、そうはしない。
確かに、あるヒロインとあるヒロインとでは、キャラクタが違うから、
同じ泳ぐ場であっても、似合う場、やることが違うのです。キャラクタのためでしょう。

音楽も素晴らしいものが多かったです。今作も。
どんまるさん、MANYOさん、水月陵さん、しょうゆさん、Meeonさんが担当です。
『low tide』は前作のような雰囲気を匂わせながらも、開幕を伝えてくれています。
『Over one's』。ギター、味がありますよね。
『窓を開けた風景』。何でもあるし、何でもこれから起きそう。
『夏の夕暮れ』。『Night walk』もですが、アフターパート、ビジネス街の印象が強いです。
『色のない世界』。雨でも、月夜でも。どこにだって孤独はあって。
『high tide』。イントロが素晴らしいです。合わせてじっくりと下りる帳。
『月の祝福』から『混ざり合う心』。気持ちと、身体も。

Meis Clausonさん作曲の『With Tomorrow』。
物語を、ドラマを繋ぐための曲。



アフターパートのサブヒロインでさえも、メインヒロインよりは確かにボリュームが下がるとしても、
同じように愛してもらおうと設計しているのが伝わるのです。
ボリュームは下がるといっても、アフターパートシナリオの一つ一つが、ロープライス作品のそれに匹敵します。

繰り返しになりますが、ドラマティックなのです。
キャラクタにドラマを背負わせて、しっかりと落とし込んでいく。
編集がすごく、中だるみが見えない。
隙を感じさせない。それがまさか、どのヒロインルートでもだなんて思わないじゃないですか。

でも、そうでした。
前作「銀色、遙か」でも、どのルートでも力が入っていないと感じることはなかった。
全てのヒロインが良かった。
これこそが、この力の掛け方こそが、tone work'sさんのブランド志向なのでしょう。

隅々まで気を配り、こだわり抜いているのが本当によく伝わります。
ここまでするのかと、何度となく思いました。

それらは全て、物語のため。
真摯に描かれた恋愛物語を堪能し尽くすことができます。

月夜を感じながら、少し涼しくなった季節、じっくりと読むのに向いている作品だと思います。
(メインヒロインたちは、月のよく見える季節にプレイすることをお勧めします。)

次回作の製作も始まっているように思われます。とても楽しみですね。


ダウンロード販売もあります。

月の彼方で逢いましょう


プレイが終わったので、改めてパッケージを確認していましたが、
箱もこだわっていますよね。
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