GLOVETYさんの「アインシュタインより愛を込めて」体験版プレイしました。

GLOVETYさんのデビュー作は、”夏のサイエンスラブストーリー”、
「アインシュタインより愛を込めて」。

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出席はするが、寝て過ごす。
教師も改めて注意をしない。
……仕方が無い。眠いのは本当なのだ。

放課後が終わり寝ていても誰も気にかけてこない。

都心から私鉄特急で30分。世界的な大企業主導で作られた先進的都市。
そんな触れ込みで開発された北牧台は、平日でも賑やかなアウトレットモールを駅前に備えているが、
さして大きな街でもない。
駅前を抜けると、同じデザインのマンション、似たようなデザインの建て売り住宅が並ぶ。
華やかなデビューも20年前となれば、ただの退屈なベッドタウンでしかない。

住宅街を通り抜けた、マンションの2階。2LDKの広い部屋に独り暮らし。
1階は洋食店のようだが寄ったことはない。

帰宅すると、ノートパソコンを立ち上げ、ニュースサイトをザッピング。
巨大掲示板では、スレッドの流れにあえて反論する書き込みを放り込む。
その書き込みが集中攻撃を受けたことにほくそ笑む。ある程度相手をして、飽きたら寝てしまう。

人とは関わらない。
何か関わることがあっても、適度に素っ気なく。敵意をもたれないように。
愛内周太は、世の中をそうやって泳いできた。

しかし、迎えた試験結果の上位が発表される日。
アイロンの掛かったシャツを着て、いつもはつけない整髪料を髪になじませて行く。
愛内周太は長らく学年1位を維持してきた。1位には1位の振る舞いがあるのだ。

……ところが。
通う途中で、めまいから歩けなくなった。
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――彗星病。
20年も前のこと。この星に一筋の彗星が落ちてきた。
愛内周太は、その彗星を見たことを覚えている。……産まれてすらいなかったのに。
彗星は、謎のエネルギーをまき散らしながら落ち、今も海の底からこの星に影響を与えているのだという。

それは、この彗星が飛来した以降に産まれた子供だけに見られる病で、1万人に1人の罹患率。
頭痛やめまい、身体麻痺。脳神経機能の障害に苛まれる。
人によってはささやかな副産物、能力を得ることもあるという。
彗星と一緒で世界の好奇を集め、それから20年。未だ何も解明されていない。

しかし今日は晴れ舞台が待っている。
放課後に通院の予約を入れ、揺れる視界が収まるまで休んでから学園に向かった。

学園につくころには、だいぶ気分がマシになってきた。
姿勢を正して昇降口を抜け、廊下の一角に出来ている人だかりを悠然と歩き、順位表の前へ。

さて、定位置に座るのは。
「俺、2位なのか!?」
1位の欄にはこうあった。
――有村ロミ、と。

その名前は知っている。論文サイトに面白い論文を発表して注目していた。
その一つは、”彗星病に関する考察”というもので……。


体験版は、964MBでした。

原画は、きみしま青さん。
アートディレクターとして、志水マサトシさん。
シナリオは、新島夕さん。
音楽は、水月陵さん、竹下智博さん。
オープニング曲の歌唱は、Lunaさんです。

システムはSiglusです。1.0.1.8。
テキストウィンドウにおけるメニューバーは下と右に置かれていて、デフォルトではどちらもロックされています。
クリックアイコン、アインシュタインのヘッドを回転させています。かわいい。
AUTOモードの継続設定がとても良いですね。セーブを呼び出そうとも、そのまま。
これ、間違いなくAUTOモードで読みセリフを聞きながら味わって欲しいという意図だと捉えています。
ただ、セーブファイル200箇所なのですが、恐らく足りないと思われます。

素晴らしい体験版でした。
やっぱりやってくれたと、この4時間近くの体験版だけで感じています。
(Autoモードでのプレイ時間は2時間半程度になります)

OP曲『新世界のα』が公開された時にすぐに聴いて、
こんなに疾走感のある青春が描かれるのかと一気に好感を持ったのですが、
本当にその曲のイメージのままの物語が、ありそうです。

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「君の脳に発声しているノイズが、かつてなく強くなっている」

長く入院していた期間もありながら、未だ彗星病に悩まされ、
そして鬱屈した性格となっている愛内周太は、症状が予断を許さないステージだと宣告されます。
主治医は、北牧大病院の医師、郷田。愛内周太の叔父でもあります。
愛内周太が学園で成績表を見て倒れたように、彗星病は、突発的に限界を迎える爆弾なのです。

郷田医師の医療チームは一定の成果を上げているとはいえ、回復した症例が世界にない彗星病。
今回遠方の病院に入れば、恐らく数年はそのまま。あるいは……、一生。

愛内周太は、有村ロミが論ずる突拍子もない方法に賭けることにします。
トンデモに属する論文をいくつも提示する彼女に、少なくとも、会って話をしてみたい。
ところが有村ロミは姿を現さず、電話越しに科学特捜部を創部することを指示します。

全く意味は分からないが、「残された時間は多くない」との見診を下され、
メンバーを集めることにする愛内周太。
しかし、その過程の描き方が面白い。

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愛内周太は、これまで人と関わってきませんでした。
クラスで隣の席の人と話すのも苦手。部活へ勧誘するなど難儀どころではない。
そのそも、何をする部活なのかも分からない。
自分の命を守るため、でもそれとも無縁の事柄に、人を誘うことが出来るか。

学年トップを維持していた学力はあるものの、人に悪態もつくし、ヒロインに暴言も吐く。
電柱に八つ当たりして痛みを返されたりする。
そして上手くいかなければ部屋に閉じこもる。行動に出られない臆病者ともいえます。

愛内周太自身は、過去、”人の気持ちが分からない”といわれたことが気に掛かっているようですが、
本当にその通りなのです。
その誰かは、良く伝えてくれた方だと思います。
普通だったら放って置かれて終わってしまうと思うので。

コミュニケーション下手な描写があるのですが、あまり共感性羞恥がかき立てられることはありませんでした。
とはいえ、愛内周太がやらかしてしまいそうな場面になると、一旦休憩を入れてしまいました。

それが、新田忍との場面。
死ぬかも知れないと思い悩んだ愛内周太は、
新田忍との会話の流れが、興味があったセックスへ至るものだと思い込みます。

実際には全くそんなことはなく、勘違い。
頬を引っぱたくだけで済ませてくれるだなんて、なんて優しいと思ってしまうほど、
迫り方が酷い。
さらにその後、愛内周太は暴言まで吐くのです。
事が上手く進まないのは、相手が悪いのだ、と。

たぶん、見ている側の共感性羞恥が働きにくくなるように、
新田忍の対応をコメディに、マイルドに仕上げてくれているのだと思います。
この場面で流れる音楽が特にそうですよね。落ち着けといわれているように聞こえます。
すごく上手い音楽だと思います。
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こうしたことを他のヒロインたちにも繰り返し、しかしそれでもメンバーは集まります。
愛内周太を含めて、5人。

この過程こそが有村ロミの提唱する治療。

”彗星病に関する考察”によれば、彗星病を引き起こす原因は、脳ではなく別の場所にあり、
彗星病に関わる因子を研究者がどれだけ探しても見つからないのは、無いからだと。

脳は、外部から影響を受けているとする理論。

鍵は、ほぼ解明されている脳の残された謎、自我の存在です。

脳の中枢が不思議な挙動、常に何かとの交信を行っていることが判明しており、
脳はその最奥でどこからか情報を受け取り身体に伝えている。
つまり、脳から命令を下しているのではなく、脳は身体に伝達しているだけ。
脳も中継地点に過ぎず、脳に伝えていたのは、自我は、魂にあるとするもの。

魂の提唱。
周太の父も、魂の提唱をしていた研究者だったようです。
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有村ロミが提唱する彗星病治癒とは、人との交流を行うこと。

20年前に海中へ落ちた彗星から、正体不明のエネルギーが発信し続けられているのならば、
人との交流によって自我の強化を図り、防衛する。
自我は独立したものではなく、他者との関わりによって形成、固定化されていくものだから。
「『街に灯りがともるなら、空に星が輝くことはない』」
有村ロミの理論は、星からの信号を遮断する事が目的だったようなのです。

新田忍は、愛内周太のコミュニケーションが下手で、すごく失礼な対応をされてしまいますが、
その後も色々と考えてくれていました。
愛内周太の部屋からする物音を気にしてみたり、
愛内周太を訪れる人から、気遣いを見せたり。
大人というだけでなく、ある程度の抜け感がありますね。

事態が好転して余裕が出たのか、経営に貢献しようなんて考えでデザートとドリンクを追加した周太と、
たくさん食べるのは良いことだと思ったのか、サービスしてくれようとする忍。
お互いの思い遣りが噛み合ってない。
うん、この上手くやり取りできていない感じ。すごく良いですね。
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最終的には、愛内周太も「ありがとうございます」と新田忍に言えるようになるのです。
遠回りしたけれど。
面倒だとか、うざいだとか口に出していた愛内周太が、
科学特捜部に勧誘する流れで、人と関わることを受け容れているのです。


そうしたやり取りたちが、有村ロミの論理に沿っている。

それは成功したようにも感じられます。
部員集めの過程で、人と関わることで、愛内周太の体調は良くなっています。
めまいを起こしたり、ふらついたり、眠気が強くなることもなかったのです。

しかし。
愛内周太のことを考えると、このままで良いのかは分かりません。

愛内周太は星に想いを馳せ、過ごしてきていました。
宇宙を思う時、俺という自我は無限の中に溶け込み……大いなる神秘と一体化する。そういう感覚が、俺は好きだった。
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人が、彗星病患者が信号を受け取っている先は、彗星に限らず、宙にある星なのかもしれないのです。

だとしたら、愛内周太の望みは、彗星病の悪化を意味し、彼の命を危険にさらすものとなるわけです。
……けれど、その想いを捨てて生きることは、彼が生の実感を失うことにならないでしょうか。


そして、有村ロミ(月野きいろさん)も。

実は、愛内周太と有村ロミは深く関わっていました。
……当時は、比村茜という名前で。
過去に出会い、愛内周太が友達だと認識していた人物だったのです。

友達がいたなんて。
今の愛内周太からは、部員となってくれたメンバーからも想定しにくいでしょうが、
もしかしたらその頃は、人付き合いをきちんとしていたのかもしれませんね。
そんな匂わせがなされています。

愛内周太が宇宙を望むようになったのは、比村茜との出会いに切っ掛けがあるはずです。
旅行。
二人が大事に思い、けれどそれから一切会わなくなった時。
駅前での、最後の握手。

一体、何があったのか。
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「本当に君に会って良いのか迷っていた」
有村ロミは、愛内周太にアプローチしてこなかった理由を、そう伝えます。
心の問題だと明かしているのです。

7年、会わなかった。
そして名前まで、変わってしまった。

有村ロミは、愛内周太が彗星病であることを知っていたはずです。
そしてロミも彗星病である可能性が高い。
人と関わることが彗星病治療の解だとしながらも、有村ロミは人と関わっているようには思えない。
それはつまり、自分のための研究ではなく、愛内周太のためであるのかもしれません。
しかし、愛内周太の命に関わる問題に、積極的に関わる度胸はなかったとも。

有村ロミは再会ともいえる出会いで、愛内周太にこう言うのです。
「私を、信用して下さい」
この言葉はきっと、過去に根ざすもののはず。
もしかしたら、有村ロミが伝えたのかも知れませんよね。”人の気持ちが分からない”と。

公式サイトを確認すると、過去編で明かされるのでしょうか。
とても楽しみですね。


体験版は、とにかく堪能しました。
改めて思うのですが、要素の合体で、そして一体感が物語になるのですよね。
ビジュアルの凄まじさと、流れる音楽。そこに登場するキャラクタが語ること。
そして紡がれるストーリー。

だからこそ、期待を懸けて、希望したいのは。
改めて見直して欲しいこと。

テキストと音声が合っていない場所もあります。
例えば、北牧大病院、とか。
テキストが変わったり重複したり。
例えば、試験が期末だったり中間となったり。

SEも、愛内が片桐を叩くところとか。
中盤では音が入るので指定忘れだと思います。

細かい部分を見直して、その上で改めて伝わる物語になっているかどうか。
全体を見直して欲しいと思うのです。
素材やキャラクタの動きに足りないものは無いか。

確かに、今はプレイする人が読み飛ばしがちなようです。
音声すら聴いていない方も居るのを知っています。

でも、あれば読む人もいる。伝わる人もいます。

最後に、ボリュームを掛けて欲しいのです。
スピード感が必要な場面もあると思うのですが、だからこそ。
キャラクタたちの動きを、途方もない説得力を出して伝える。
これは演出の部分だと思います。
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というのも。
恐らくですが、今作の中心人物、有村ロミ。
いや、比村茜にも、あるはずなのです。相当の事情が。

そして、比村茜との間にも、あるはずなのです。
幼い頃のノスタルジーだけではない、複雑な思いが全て閉じ込められた、そんな場面が。
きっと、凄まじく美しいビジュアルで彩ってくれることでしょう。

でも、有村ロミは、姫野星奏でないとは言い切れない。
その気持ちの全てを明かさずともよいけれど、ナイーブなキャラクタであるのなら、
そのナイーブさをもっともっと彩る必要があると思います。
伝える必要がある。

対して、愛内周太は精神的にフラジールでありながら、最終的には星を捨てない気がします。
きっと、”人の気持ちが分からない”という印象的なフレーズは。
違う、はずなのです。
本当に分からないわけではなく……。

刺さる作品。
恋×シンアイ彼女」は、まさにそういう作品でした。

間違いなく。これは刺さる作品になるから。
そして数年経っても、思い出す作品になれそうだからこそ。

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多くの方がそうだと良いなと思うのですが……。
愛内周太の言い回しを借りると、
すごい物語に触れた時、生かされている実感があります。

こういう作家性の高い作品って、数年に一度なのですよね。
それこそ、彗星のようなもの。
楽しみです。


音楽が本当に素敵なので、ボーカルコレクションCDだけでなくサウンドトラックも欲しいですね。
見当たらないのですが、できれば同日発売がありがたいですよね。

作中でも曲名表示がされたら良いですよね。
そっと星空を見上げるような曲、とか、アインシュタインを眺める時に流れる音楽とか、
そういう書き方しかできなくて辛いです。どちらも好きな曲なのですが。
本当に、水月陵さんは、予感させる、感じさせる音楽が素敵です。



豪華限定版は、「COMPLETE VOCAL COLLECTION CD」、スペシャル設定資料集、
アクリルアート、オリジナルドラマCD、
こもわた遥華さんによるロミ&アインシュタインのキーホルダーが特典となります。

この設定資料集に、志水マサトシさんのコメントが載っていたらありがたいですね。
あの頃と、今の想いが。


2020年10月30日(金)発売予定です。

ちなみに、通常版にも付く「COMPLETE VOCAL COLLECTION CD」ですが。
どうやらOP『新世界のα』とEDだけでなく、他にも歌唱曲があるようなのです。

それだけドラマティックな作品になっていることが、期待できますね。


ダウンロード販売もあります。


製品版をプレイしました。感想はこちら