Cabbitさんの「鍵を隠したカゴのトリ」感想です。



本当は犯人じゃ無い。その理由も自分が知っている。






2020年9月発売作品。
Cabbitさんの「鍵を隠したカゴのトリ」は、”ミステリーADV”。
幼馴染みで恩人の孔雀石透子が殺人の疑いで逮捕される。
川蝉陽太は、釈放されたらしい孔雀石透子と会うことができたが、
「私、今日からここで暮らすの」と洋館を振り返る。
川蝉陽太は「じゃあ。俺もここで暮らす」と自然と言葉が出ていた。
という導入でした。
それでは感想です。
少々ネタバレがあります。
想像以上に楽しめました。納得感も高く、ブランド最高作だと思っています。
が、楽しむためにはプレイ条件があると思います。
まず、最初にシステム。
体験版の時も感じていましたが、ExHIBITで実装されているのですが、操作しづらいです。
AUTOモード中にスクロールを戻すと簡易履歴表示になるのですが、
AUTOモード中であるかのようにボタン色が変わっています。
けれど、AUTOモードは再開されません。
立ち絵がぴょこぴょこ動くのはかわいらしいのですが。
キャラクタビジュアルは良いですよね。
このあたりは見応えがあります。
ただ、背景が少し寂しいのです。
もう少しここは見応えのあるものが欲しかったです。
さて。
突然、幼馴染み、信頼する孔雀石透子が逮捕されたと聞き、生活を支える目的で一緒に暮らす。孔雀石透子が頑なに譲らないのは、殺人事件を起こしたと言い張ること。
合流したクラスメイトたちは、孔雀石透子に悪い感情は抱いていないものの、
それぞれこの事件に間接的な関わりがある……。
体験版はこのあたりまででした。
その後どのように進んでいくのかと思ったのですが、直後、ルート選択が提示されます。
びっくりしましたが、孔雀石透子だけがルートロックされており、
真相に至るには、鍵を開けないといけないのです。
しかしそれまでも。
孔雀石透子の真実に迫るまでにも、他のヒロインキャラクタとのドラマが描かれています。

瑞葉伊鶴(水野七海さん)
孔雀石透子を監視下におく、街の有力者の娘。
孔雀石透子の代わりに犯人になるために鳥籠館に来たという。
なぜ、そんなことを思ったのか……。
ちょっと気になったのは、気優しいのでしょうが、川蝉陽太はぼんやりした少年に思えてしまいます。
そんな彼が、大事と好きとの区別ができているとは思えないんですよね。
恋愛感情が何かを分かっているはずもない。
自覚だけでなく、自問が必要だと思うのですが、それをしていない。
だから、透子をどう思っているのか聞かれ、はっきり否定するのは少し変ですが、
目の前の瑞葉伊鶴を、自覚なく気になっているからなのでしょうかね。
口も達者ではない川蝉陽太が、抱きしめて止めるというのは、
いや、抱きしめられて止められてしまうのは、川蝉陽太へ好意的だからでしょうか。
良い場面なのですが、もう少し何か描写が欲しかったです。
ドライさを装う瑞葉伊鶴。かわいらしいですね。
付き合う前も、付き合ってからも、自分に陽太を求める気持ちはそれほど無いように振る舞いますが、
伊鶴なりに向き合おうとしてくれていますよね。
やはり親との関係が、伊鶴の人間関係志向を築いているのでしょう。悪い方向に。
妾の娘だから。父との関係も良くない。そして母は伊鶴を置いて去ったから。
だから人との関係を作ることに怯えている。
「……私、さ。……陽太のこと、好きかもしれない。……多分、だけどね。よく……わかんないんだけどね」
その伊鶴が、おずおずと言うのがとても良かったなと思います。
考えたら、陽太は事件を解決しなくてもいい立場なのですよね。
なので、このエンディングもむべなるかな。
シーン中、立ち絵もそうですが、表情差分が良いですよね。さすがは、さえき北都さん。
サボり癖のある伊鶴と、叱る燕沢夜との掛け合いが良かったです。他ルートでは、鳥籠館住人随一の察しの良さを披露します。
他人に対してはとても器用なのですよね。

青葉梟みおん(風鈴みすずさん)
いじめから救ってくれた孔雀石透子を恩人と慕う。
家庭環境は良いが、学園では孔雀石透子以外に特に話が出来る人が居ない。
事件のあった当日も、孔雀石透子と一緒に居たが……。
本当は犯人じゃ無い。その理由も自分が知っている。
だけど自分が犯人だと言い張る孔雀石透子を説得できない。そして本当は何があったのか教えてくれない。
そうした中で、同じ恩人であり、犯人じゃ無いと思っている同士の陽太と仲良くなっていく。
……のですが、気持ちの繋がりが少し早い印象があります。
同士であるだけでなく、孔雀石透子の促しなどがあったのはわかるのですが。
この後の選択への説得力にも掛かるので、もう少しボリュームを増して欲しかったところです。
仲良く過ごしていても時間は過ぎる。迫るのは、将来。
孔雀石透子は変わらず、この館を出ようとはしない。
青葉梟みおんは、孔雀石透子が離れていく選択をしていることを分かって。
体験版で想定していたシナリオの一つです。
後悔を胸に、この洋館を思いながら過ごす。
でも、それだけではありません。
孔雀石透子への依存がやや見える、青葉梟みおんでしたが。
「みおんは、自分の決めた道を……話しましたっ。透子様にも、話していただきたいのです」
青葉梟みおんは、孔雀石透子に対等であることを求めたのです。
友達だと、認めて欲しがって見せたのです。
それはさておき。「みー」がかわいいですね。
犬タイプのキャラクタに見せて、子猫タイプなのだと思います。
いるだけで癒やしがありますが、明るさを振りまいてくれます。
ただ、漬物好きなのか嫌いなのかちょっと分からない子でもありました。
基本的には好きだけれども最上位とは位置づけてないのかも。

燕沢夜(雪村とあさん)
成績優秀な委員長。
事件の被害者が、母親の恋人だった。
以来、親との関係がさらに悪化していることから、逃げ込むように鳥籠館へ。
孔雀石透子との付き合いは、鳥籠館からとなるが、
事件のことになると、仲の良い青葉梟みおんにも冷たく言い放つことから、
無理に聞き出さない方針を提示する。
親が全く愛情を感じさせず登場します。
似ているところが無いと言葉をぶつけてくる。
それでも、男がいないと生きていけないところだけは同じだと、川蝉陽太を横目で見て言うのです。
燕沢夜は、料理など一通りのことが自分で出来てしまう。
それは人に頼ることをしてこなかった経歴を表します。
だから相談なんてしたことはない。
川蝉陽太も、家庭環境や祖母の問題があっても辛いとこぼしたことはなく、
また、母親との関係性が、燕沢夜と似通っている。
似ているから引っ張られすぎないようにと、孔雀石透子が忠告に来るほど。
惹かれ合うのも無理もない。
「陽太くんも、苦しいとき、辛いとき、話してね。一緒に、考えよう? 一緒に、乗り越えよう」
そんな二人だから、思い出を乗せた食事メニューのやり取りが、とても気持ちに響きますね。
食は、家庭を象徴するから。
芯が強そうに見えて、そうじゃない。
雪村とあさんの声質と良く合っていますよね。間違いなくキャスティングが良かったです。
シーン差分の表情もすごく良いです。
腰に手を当てて、眉を上げているのがよく似合う。
笑顔の差分と、声とのマッチがすごくて、
ああ、本当に、強くあろうと前を向いて、だからこそ笑顔を見せているのだなと分かりますよね。
さて、ルートロックされていた、肝心の孔雀石透子。
前に置かれたそれぞれのルートで、手掛かりは少しずつ与えられていました。
実は、瑞葉伊鶴と知り合っていたこと。
実は、無差別殺人を試みたわけでは無いこと。
実は、被害者の人となりを事前に知らされていたこと。
何があったのか。
それは最終、鍵を掛けられたこのルートで明かされます。

孔雀石透子(みよりあつむさん)
他界した両親の遺産で、孤児院の共同経営者に。
川蝉陽太に手を差し伸べた恩人で、青葉梟みおんに向けられたいじめも阻止する。
そんな孔雀石透子が殺人事件を起こすはずも無い。
状況証拠からも孔雀石透子に犯行は無理だった。だから警察から釈放されている。
しかし頑なに言わない。本当は誰をかばっていたのかを。
このルートになると、ボリュームが他ルートの倍くらいでしょうか。
様々なことが明かされていきます。
例えば、川蝉陽太の祖母のこと。
事件当日に外出していて、商店街で瀬戸物茶碗を割った。
どうしてそんなことが起きたのか。でも祖母の体調を考えれば不思議で無いような気もする。
まずこれが事件の一環だというのがとても良かったです。
(祖母のエピソード、なかなかリアリティがあって小説のように読めていました)
そして、陽太が孔雀石透子に祖母のことを伝えたくない理由。
こういう理由を持ってきたところは、本当に素晴らしいと思います。
この作品は、間違いなくヒューマンドラマなのです。素晴らしい。
人と人との関係ってそうですよね。そういうものです。そして孔雀石透子は、そんな陽太のことを分かってもいた。気付いていた。
だから、何も話さなかった……。
陽太の気持ちを暴いてしまうから。秘密にしていたのです。
川蝉陽太は、「それは……」「そんなこと……」というセリフがとても多いです。
読んでいると少し不満を抱いてしまいますが、ただこれは、陽太が疲れ果てていたとすると、正しいのかも知れません。
孔雀石透子もごく希に発しますが、声が入っていること、その後に自分の気持ちをハッキリと言うのです。
そこが大きく違います。
それらをぶつけ合ったとしても、次の場面でのセリフ。
「嘘って言うか……秘密にしてたっていうか」
まだ全てを受け止められないのが分かって、これも良いですよね。巧い。
自責と後悔とが強く根付いてしまっていた。
幼い頃、孔雀石透子に救われたのだとしても、両親や、救われたことで新たに関わった人たちも含めて、
自分のせいではないかとどこかで責め続けていた。人を歪ませるほどの、強い呪いの元に。
そんな人物なのです。
だからこそ、陽太にも声が入っているべきだったかなと思うのです。
陽太は、笑顔で嘘をつく。それがテキストだけでは伝わらないと思うから。
そう。そのテキストです。
境遇の似ている燕沢夜からこんなことを言われます。
「真剣に聞いてくれて嬉しかったよ。もし、透子の話、聞いてなかったら、あたし……ううん。やっぱりなんでもない」
「真剣に聞いてくれて嬉しかったよ。もし、透子の話、聞いてなかったら、あたし……ううん。やっぱりなんでもない」
「え、なに? 途中で止められると気になる」
前のルートを読んでいれば、気持ちを預けていた可能性を伝えたいのかな?と微かに匂わせるもの。でも、そのセリフ単体だけでは伝わらない。
燕沢夜は、川蝉陽太に全く伝える気が無かった、独り言になってしまっているのですよね。
テキストそぎ落としの巧さも感じますが、陽太はそれほど聡いわけでもないので、
もう少し伝えるくらいでも良かったのではないかなと、惜しいなと思います。
あと、競合ではなく迎合、いや共同とかでしょうか?
体験版時点ではもう少しかなと思う部分もありましたが、以降はかなり没頭して楽しめました。
大事な場面で、何故か孔雀石透子の衣装差分がパジャマから通常私服に切り替わるのですよね。
これは意味が分かりませんでした。
他にも、伊鶴の事情を聞いているとき、夜は心配そうな差分なのに、透子はずっと笑顔のままだったりとか。

音楽がとにかくしっとりしていて、館に流れる時間を表してくれています。
体験版にあるような、館の住人たちが生活を楽しんでいる場面でも、
音楽の雰囲気が覆い被さって、どこか幻想的にも思えてしまいます。
コミカルであっても声を出して笑うほどにはならないということもありますが。
ジャンルはミステリーですし、それくらいで良いのかもしれません。
そのお陰で、キャラクタのちょっとした感情の爆発が目立つようになっているのですね。
つまり、音楽が強烈なのです。すごく力がある。
というより、この音楽が無ければ、展開に納得しなかったかもしれません。
デフォルトではBGMボリューム50。
デフォルトではBGMボリューム50。
これでも充分響きますが、ほんの少し調整して、
キャラクタ音声も上げて、それぞれがしっかり聴けるバランスにしてプレイしました。
本当なら、学園や館の環境音があっても良いはずで、より雰囲気が伝わったと思いますが、
それら全てをMANYOさんの音楽が担ってくれているのです。
プレイ条件とはこのこと。
きっとこの物語は、この音楽の支えがあってこそ届くものになっていると思います。
音楽をきちんと聴きながら、キャラクタの発言を聴く。
クリックして進めてしまうと、きっと伝わらないと思います。
エンディングテーマ『一秒の窓』。
柳麻美さんの声に耳を澄ませ、marieさんの描く歌詞に耳を傾け、
しっとり響くMANYOさんのピアノ、渡邉”nabeken”賢一さんのギター、石井康幸さんのベースに酔いしれる。
そんな接し方が、プレイヤーには求められている気がします。
演出部分がかなり弱いので、本当に惜しいです。
選択肢画面、進行でちょっと変化を加えていて、できることをやろうとしてくれているのだなとは感じるのですが、
UIやSEといった部分が弱く、そこも気を遣ってくれていたら、
より素晴らしい作品になったのだろうなと思います。

上手いなと思ったのは、ヒロインの設定と、主人公の川蝉陽太の設定とをうまく噛み合わせていること。
生い立ちの部分と、それによって影響される性格の部分までも合わせているのです。
だから、境遇だけじゃなく、気が合う。これは上手いなと思いました。
こういうところは流石ですよね。
それらで描く、人の想い。
言いたいことって、簡単にいえない。
それを謎の中心に置いたこの物語は、とてもハートフルに思いました。
言いたい。本当は愛したい。
……できなくて。できたとして、そこに幸せが無いとしても。
知って、改めて傷つくとしても。
青葉梟みおんが、良いことを言ってくれます。
これまでは、変わらないから。これから、で。「これから背負う悲しみよりも、いっぱい幸せにしてあげればいいんですよね」
良い作品でした。
お勧めです。
ダウンロード販売もあります。
何気にオマケがすごく充実していますよね。
CGやSDまで単体で見せてくれます。
そしてオマケシナリオ。
「昔はすごく人気だったよね」「まだ居たの?」「すっごく年上」とかもう。
改めて見ると、衣装かわいいアイドルですよね。
でもアイドルだからシーンとかないのですよね、ちょっと残念。