ウグイスカグラさんの「冥契のルペルカリア」体験版プレイしました。

ウグイスカグラさんの新作は、「冥契のルペルカリア」。

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私立マカリオス学園は入学式の喧噪に包まれていたが、
瀬和環と倉科双葉は、逃れるように身を隠していた。
入学早々、人の輪の中には入れなかった、入らなかったのだ。

そこへ、クラスメイトの椎名朧が声をかけてきた。
「これから、新入生歓迎公演をするつもり。もしよかったら、瀬和くんにも来て欲しいなって」
渡されたチラシには、劇団ランビリス、ゲリラ公演、ハムレットと記載があった。
そのままなら断る流れ。だが椎名朧と一緒に、白坂ハナが誘った。
倉科双葉は男嫌いの捻くれ者だが、可愛い女の子に弱いのだ。

誘われて頷いた手前、倉科双葉は尋ねてくる。
「ねえ、環。演劇って、面白いです? 私、初めてだから……」
瀬和環は万感の想いを込めて伝える。
「ああ、もちろん」

劇場へ集まった観客の反応は、冷淡だった。
興味の無いものを長時間見せられている、飽きが伝わってくるほど。
劇とは無縁の雑談、否定的な声がそこかしこで上がっていた。

ウィリアム・シェイクスピア作のハムレットは有名な作品だが、悲劇が悲劇を産む物語なのだ。
瀬和環は、この作品を新入生歓迎公演の演目とするにはミスマッチと思っていた。
しかし。
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「あれが……ハムレット?」
瀬和環の隣にいる倉科双葉は、舞台の上の一点に釘付けだった。
ハムレット王子を演じるのは、同じ学生にして女の子。
その演技に、魅了されたのだ。

数日経っても倉科双葉の熱は冷めなかった。
一緒にやってみたいと、思いを口にした。
「……あのキラキラな世界に近づけるのなら……頑張ろうって、思えます」
演劇の世界は、綺羅びやかで美しい。
だがその背景には、おびただしい数の苦痛と絶望が漂っていることを、瀬和環は知っている。

「未経験者は、厳しいわよ。一応、うちの劇団は実力派をうたっているから」
あのハムレット王子は、クラスメイトだった。
舞台上のイメージとは何もかもが違い、夕焼けが似合う女の子。
匂宮めぐりは、ただ劇団ランビリスの事実を伝えただけ。
その一言に引き下がりかけながらも、しかし、倉科双葉は、情熱の火を自ら絶やそうとはしなかった。
コミュニケーションへの苦手を押し切って劇団を訪れていた。
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「二週間、くれてやる。俺らの前で、演劇をやれ」
そして紹介された座長、天樂来々との面接は、一方的だった。
追い詰められた倉科双葉が反撃し、譲歩の上に引き出せた条件ではあるが、それでも無茶が過ぎた。
素人の倉科双葉に演劇を見せろという。ただし、主演をするな、とも。
天樂来々は、倉科双葉がそれなりの見た目はあるものの、突き抜けた個性が舞台映えしないことを指摘したのだ。
主演女優を他に用意することが条件として加わり、入団テストは難易度を増した。
さらに、演目は、江戸川乱歩の赤い部屋。短編ミステリーだ。
助演となれば、倉科双葉の役どころはメイドとなるが、
主演は自らの犯行を語り続けるT氏になる。演劇に慣れている人物の勧誘が必要だった。

主演を探す瀬和環は、夜の公園で出会う。
月明かりの下で、取り憑かれたように台詞を読み上げる少女と。

ぞくりとした。

それは、先日の劇団ランビリスのハムレットと全く同一だった。
しかも少女は一人であるのに、代わる代わる別な役になりきってさえいたのだ。
「なんて恐ろしい一人芝居だ」
戦慄した一言漏らしてしまうほど……。
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体験版は、1.51GBでした。

原画は、桐葉さん。
サブ原画を、萩野小唄さん、Rukiさん。
シナリオは、ルクルさん。
音楽は、めとさん。

システムは吉里吉里2なのですが、不便な箇所が目立ちます。

ウィンドウサイズは自在に調整可能で記憶もしてくれていますが。
まず、デフォルトで、テキストが瞬間表示の設定にされているのですが、何か理由があるのでしょうか。
ボイス音量を操作すると、キャラクタ個別の音量も一様に操作されてしまいます。
バックログジャンプをすると、バックログが繰り返されて表示されます。
が、こうなる箇所とならない箇所があります。

AUTOモードで読み進めたいのですが、セーブしたい箇所でセーブできません。
AUTOモード解除をしても次のセンテンスに進んでしまい、そこでやっと解除されます。
セーブしたい箇所は前のセンテンスですから、バックログジャンプで戻って、やっとセーブ。
この手間、なんとかならないでしょうか。

AUTOモード使わず、クリックで読み進めた方が良いのでしょうか。
しかしながら、ルクルさんの物語は、読むこと、聞くことにに集中した方が良いと思うのですが。

また、セーブファイルも120箇所と、絶対的に足りないと思います。
ブランド初作「紙の上の魔法使い」では、”アパタイトの怠惰現象”が登場した時点で7ページまで埋まってしまいました。

立ち絵の前後列を移動しても、後ろにいたキャラクタが後ろに置かれるままになっています。
これは調整した方が良さそうです。
後ろにいた双葉がセリフを言うタイミングで前に出ているように拡大しても、ハナの後ろに置かれたまま変わらない。

画面の左上、今作では視点の切り替え時に、邪魔にならない程度の表示が為されます。
が、それが本当にそっと置かれすぎていて、気付かないほどです。
もう少しアピールしても良さそう。

一番気になったのは、声の音質が少々悪いこと。
もったいないですね。折角の舞台演劇を扱った作品で、
声優さんたちの、例えば、素晴らしい「ハムレット」を聞くことができるのに。苛烈な命の灯火の演技を。
これはとても残念です。

ウグイスカグラさんは、システム面を本当に何とかして欲しいです。
熱量を感じるテキストが綴られているのに、システムが読むことを許容していない。
今作も、冒頭の作中劇の場面など、演者の力の入りようも凄まじいですよね。
画面に集中していたいのに。
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そうなのです。
聞いていて面白い、演劇の場面だけでなく、体験版は凄まじい展開を見せました。
キャラクタの重要な設定を明かしたのですが、その設定が重すぎて衝撃を受けました。
体験版時点で、これを見せてしまって良かったのかと思うほど。
そして、どうやって纏めるつもりなのかとも。
これを纏めるには、相当の展開が待っていないといけない。そんな期待と共に。

正直、体験版を終えてしまうと、公式サイトのコンセプトはさすがに嘘だろうと感じます。
それくらい、衝撃的でした。


この作品は、主人公の瀬和環と、彼が迷い込んだ演劇の物語。
瀬和環は、ひと頃知られた子役であり、様々なことがあって今は演劇から離れています。
演劇は未だに好きで、語り出す瀬和環は倉科双葉に「演劇オタク」と言われてしまうほど。

入団テストの演目となった「赤い部屋」も、過去に主役を演じたことがあり、世間から絶賛されていました。
幼さを殺した冷たい演技、小学生とは思えないほどの演技だったと。
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瀬和環は、倉科双葉の入団テストをクリアするため、公園で出会った架橋琥珀(奏雨さん)を勧誘します。
空気のように透明でありながら、何色にも染められる役者だと絶賛しながら。
しかし架橋琥珀は演じたことなど無い、あれは反芻だと断ります。
演じることに才能を持ちながら、しているのは自分探しだと。
演技をすることは、未体験の人物になること。その経験で自分を知る可能性があると気づき、参加してくれるようになります。

日常生活にも他人を真似ることで応対しようとするほど、自分を持たない。
だからこそ、世の物事をフラットに見えてしまうのかも知れません。
瀬和環の本当を見抜いた一人は、架橋琥珀でした。

このマカリオス学園と劇団ランビリスでの生活で、
以前、子役時代に関わったことのある人物たちと再会します。

匂宮めぐり(小波すずさん)は、子役時代の瀬和環を知っていました。
劇団ランビリスは、演劇界の巨匠、匂宮王海が立ち上げたもので、
匂宮めぐりは幼い頃からそのスパルタ指導を受けたサラブレッド。
才能もあったのでしょうが、それが今の演技に繋がっているのでしょう。
圧巻のハムレット王子。本当に見事でした。
この演技を冒頭に持ってきたのは作品として大正解だと思います。製品版で改めて楽しみたいと思います。

架橋琥珀と匂宮めぐりは、天才タイプのようです。

そして箱鳥理世(花澤さくらさん)。
瀬和環が子役時代に、役者を目指した同士。
箱鳥理世も努力型であり、そして今は役者を辞めてしまっている。
今は劇団ランビリスで、事務に音響、指導と様々な活躍をしています。

箱鳥理世も、同じ存在を舞台の上で目にしています。
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それが、”常闇の少女”と呼ばれた、折原氷狐(御苑生メイさん)
その登場は、冒頭の語りかけから始まります。
全ての演者たちへの道標であり、気構えともいえるものから。

共演者殺しとも呼ばれた折原氷狐は、同世代の共演者を文字通り喰い散らかしてしまいます。
天才を目の当たりにして、それでも続けていられるには、特別な覚悟を維持しないといけない。
悪魔のような天才は、犠牲者を生む。
箱鳥理世も、瀬和環も、折原氷狐を見てしまったのです。


そのうち、噂話が聞こえます。
故人であるはずの折原氷狐を、現在のニュクスで見た、と。
そして、その噂が耳に届く頃にはもう、摩訶不思議は世界を塗り替えてしまっていました。

そして直面する、御伽噺。
折原氷狐は言います。瀬和環と特別な距離感であったために、彼に語りかけるように。
「君の信じる私が、現実よ」
――と。
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一番ゾクッとしたのは。ここから。
ああ、やっぱりこの人の声や演技は素晴らしい。
恐らく、ウグイスカグラさんも充分に解っていて起用されているのだと思います。

そして、この役どころから、演劇という題材からも、
ブランド過去作、「紙の上の魔法使い」の再来という印象を持ちました。
この予感は、ある意味で正しかったのです。

いまは存在しない、誰かのこと。
”オニキスの不在証明”。
あの不思議な図書館に収蔵された書物は、その力を、ここ芸術の街ニュクスにおいても発揮するようです。

しかしながら、衝撃を受けたのは、もっと別なことなのです。
ここからがさらに圧巻なのです。

その書物を使って起きた摩訶不思議は、あくまで現象。
書物は、舞台装置の一つに過ぎません。

世界から、独りの女の子が消えてしまいました。
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「――お前なんか、生まれてこなければよかったのに」
天使奈々菜(梅木ちはるさん)という少女。
繰り返されるこのセリフは、言われた対象が複数居て、それを演じているのでしょう。
再現という形で。
この場面、梅木ちはるさんによる演技で、よく伝わります。
天使奈々菜という少女の境遇が。

どうしてここにいるのか。お前のせいで苦しい。
選べたことではないのに、天使奈々菜は理由にされる。詰られ続ける。
心の痛みから逸らし続け、良い子になろうとします。
「――別にそれは、私のためなんかじゃなかったけれど」
けれど、それを、本当に理解する時には……。

ここからの展開こそが、「紙の上の魔法使い」で感じた痛みと同質でした。

共犯。
こんな展開を描く。こんな設定を創る。
途方もなく暴力的で、それでいて蠱惑的。
本や演劇、そういった何かを下地にした物語における、ルクルさんの冴え。
本当に素晴らしいと思います。
瀬和環のセリフを借りると、「それでこそ、だよ。良い感じに狂ってやがる」になるでしょうか。


だからあとは、演出家。
瀬和環のような存在が、ウグイスカグラさんには必要なのだと思います。

演劇は体力勝負。
そのため、基礎訓練の場面もあるのですが、立ち絵の姿が変わらないのです。
箱鳥理世が、授業を終え稽古場に現れた瀬和環たちに、
「……あなたたち、本当にその格好で良いのかしら?」と窘めます。
立ち絵は制服姿ですから、本来ここは運動着であるべきなのだと思います。
と、言う側の箱鳥理世も制服姿なのですよね。
基礎訓練の場面はもう出て来ないからでしょうか。用意されていないのかもしれません。
となると、画面に立ち絵は登場させず、フェイスだけにした方が良さそう。

赤い部屋の舞台が始まる時になっても、制服のままのフェイスとか。
少し違和感あります。

その他、場面が唐突に感じられる箇所もあります。
エチュードの場面で、架橋琥珀の色が変わるのも、指定したのであれば、ちょっと解りづらい演出に思います。

気になったのは、芸術の街なのですよね。
なのに、ゲリラ公演とはいえ演劇に集まった聴衆の反応が冷淡ばかりというのが少し解せません。

演出とは、全体的な監修も行うものです。
先述したシステム面もそうですが、そういう方が必要だと思います。
伝わり方が大きく違うはずです。
そして、こういう隙を見せてはいけない物語だとも。


音質が悪いからなのかもしれませんが、キャラクタに、明らかな差異を感じてしまいます。

これから輝くであろうキャラクタと、これが上限と感じるキャラクタ。
もちろん役柄の条件もあるでしょうけれど、だからこそ、演技の地力はここまで差が付くのですね。
そう見透かせてしまうので、配役はとても大事だと思います。
ちょうど作中で、龍木悠苑(歩サラさん)が妖艶な女性の役が得意だと、舞台における自らの価値を知っているようなもの。
キャスティングの場合は、これを外から分析した上で発注しないといけない。
この作品こそ、キャラクタに合っている声優さんを用意しないといけないものですよね。

演じることが何よりも好きだなと感じられる、いきいきと輝く方もいて、
突出して光っていると感じる演技を見せてくれる方は、より目立ってもいます。

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現時点では、箱鳥理世が気になります。
ある程度、常識人である彼女なら、真っ当な幸せが見つかると思うのです。
間違いも、全部綺麗に片を付けることができる。そして二人の関係が始まると思えます。

「嘘つき」
何より、体験版で見せる、この一言の重さ。
演劇の世界には帰ってこないと思っていた。そう伝える箱鳥理世は、
瀬和環を良く理解していたのではないかと。だから言うのでしょう。
同じ位置に居たから。どれだけ口では立派に言っても、もがいていたのが解るから。

それにしてもこの一言の演技。グッときました。
あなたは、そうじゃなかった。複雑な気持ちの上で、それでもそう言いたい気持ちが乗っています。

その人でありながら、役によって変えることの出来る。
花澤さくらさんは、そういう素晴らしさがありますね。

だからもしかしたら。
過去、稽古が終わったら、一緒に飲んだ飲み物。
それがミックスジュースだったのかもしれません。
「もう、そういうお年頃じゃないの」と、一瞬の迷い無く紅茶を選ぶとしても。
(本当にそうなら、もう少し匂わせても良いと思いますが)

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ただ、倉科双葉(東シヅさん)がサブヒロインだというのがどう考えても理解できない。
彼女はもう、舞台のヒロインを目指すことで、メインヒロインとなることが約束されていますよね。
双葉をただ舞台に上げてあげることで、コンセプトの青春譚と恋愛譚は満たせると思うのですが。
シンデレラストーリー、良いと思うのです。それが映えるキャラクタです。
他のキャラクタに比べて、唯一、濁りがないのです。
そして、最初の挑戦をすら、仲間にすら認められなかった彼女に、舞台を。

だというのに、早蕨林檎のような予防線、冒頭で張られているのですよね。

気になるといえば。
男性キャラクタたちも気になります。

何故、天樂来々(椨もんじゃさん)は影響を受けなかったのか。
書物だけでなく、白髪赤目の呪いすら効果を受けていません。
特別な力があるようには思えず、先代座長の匂宮王海を立てようとしているだけ。
なのに、存在を直視しても魅力されることなく、瀬和環に注意を与えるくらい自律しているのです。
そして、椎名朧(鏑木真さん)も同様。
影響は受けずに、むしろ、その事象があることを認めてさえいたのです。
瀬和環へ魅了されていると指摘し、なるようになるものだ、と達観さえ感じられる態度は、
全てを把握する、舞台の上吟遊詩人のようでした。

しかし天樂来々、先のハムレット公演で毒を飲んだとのことでした。
もしかして、ガートルード役をしたのでしょうか。怪優クラスですよね。

萩野小唄さんが描く白坂ハナもなかなかにかわいらしい。ふわふわです。
Rukiさんが描く男性キャラクタも美形で良いですね。
体験版では登場しませんでしたが、瀬和環もRukiさんデザインでしょうか。
というのも、画面に出て来ないわけには、いかないはずなのです。


向き合うべき存在の訪れ。

瀬和環が、どうしても舞台に上がらなければならない。
これは、代役を立ててはいけない事柄だから。
彼は既に舞台に上っていて、物語に踊らされているから。

舞台上でこれから披露されるのは、間違いなく、瀬和環の真実。
そして、希代の天才女優の真実とが、ぶつかるのはずなのです。

いや、存在と向き合うのではないかもしれません。
演じることで、演者は自らの内側を覗くといいます。
「虚構に溺れてじたばたしているのは、他ならぬ、あなただよ?」
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だとしても、瀬和環は、決着を付けなければいけないはずです。
幕を、自らの手で引くべきなのです。どんな形でも。
そのための、蛍の名を冠した場のはずです。


そのことに気付いて、どうするのかと物語の行く末を考え盛り上がっていたら。
公式サイトに、こうあるのですね。
―― I(アイ)は未来を求めない。
今作も、なかなかに辛そうです。


2021年2月21日(金)発売予定です。

ダウンロード販売もあります。


”美しく終幕を彩るのなら……欲しかったのは、あの煌めき”。

それでも、匂宮めぐりが言うように、”涙が誰かをの傷を癒やす”物語だって、あってもよいはずなのです。