Citrusさんの「保健室のセンセーとシャボン玉中毒の助手」感想です。

2020年11月発売作品。

Citrusさんの「保健室のセンセーとシャボン玉中毒の助手」は、
魂人を還す送り人として、姉を探し出し送るため旅を続ける風見蒼空。
彩香町の女子学園で養護教諭の仕事を得て、この町でも姉を探す。
風見蒼空の旅連れには、シロバナという魂人の少女がいて……。

それでは感想です。
ネタバレは少しあります。



独特の雰囲気に満ちた作品です。
プレイしていると不思議な感覚で、見送る人の気持ちというのでしょうか。
まるで告別式の後のような、どこか静かで穏やかな感覚を得ることができると思います。

この作品の雰囲気は、まず、Arte Refactさんの音楽。
ピアノが主体。ストリングスと共に、優しいハーモニー。
のどかな景色にとても合っていて、彩香町では穏やかな時間が過ごせるのだと感じられます。

そこで生きるキャラクタたちは、素晴らしいグラフィックによって表現されています。
本当に、さんた茉莉さんのデザインが素晴らしいと思います。
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ビジュアルがかわいらしい。
フワフワと柔らかそうな印象。これは輪郭が為せる技なのではないかと思います。
コミカルな差分でも似合っていてかわいいし、
しかし、真面目な表情をしたところで、真剣さが伝わる。瞳のデザインがいいのでしょうね。

これがまた、本作の雰囲気とすごく合っているのです。
かわいらしくコミカルで、それでいて真剣な物語。

音声も豊富でいいですね。
男性キャラクタ、いい声の声優さんを用意してくれました。
もし声が入ってなかったら物足りない印象だったと思います。

シロバナの声でシステム音声が入っているのですが、
キャンセルすると「ちがうのね」とちょっと寂しそうにいうのです。
まあほんとシロバナかわいい。真宮ゆずさんが素晴らしい。

さて。
進行は、体験版を超えると、物語が一気に進みます。
こんなに急激に進んでしまうのかと不安になるほど。

魂人たちがたくさんいる彩香町。人間には誰が魂人なのかは知らされて居らず。
平穏に過ごしていた彩香町の人たちに、しかし、神隠しが発生する。
神隠しとは、魂人が急に姿を消すこと。
誰かが、魂人を探し出し、送り還しているのです。

こうして物語は住人の消失という大きな展開をもって進みますが、まだ終わりでは無い。
風見蒼空が逗留する宿の娘、淡雪瑞海の体調が悪くなってしまいます。
途方もない来歴を持つ、オトヒメが校医として施術をしているのに。
町はまた、大きく動く。

風見蒼空だけでなく過激派に属する送り人も登場し、この町はどうして魂人と同居しているのか、
根幹が解き明かされていきます。

そして、風見蒼空の旅の目的へ。そして、シロバナへ。
中だるみはありません。

シロバナの物語は、キャラクタを描き出そうと掘り下げたストーリー。
シロバナはどうして魂人なのかを描いていきます。
このあたりは体験版の最後でも表現されていますが、目ざとい人は気になった箇所もあったと思います。
その後も何度となく、気になる箇所の提示とその解消が出されます。

ベースとなるのは、人と魂人が交わす気持ち。
死生観。送り人としての姿勢。人と魂人の”心残り”。
心の有り様。

時を越えても流れる想い。
堪能できる密度。
悔いと贖いを、このビジュアルや音楽で描いたのは素晴らしかったと思います。

ただ、少し気になったのは。
シロバナへの物語は良いのですが、その前に、彩香町の物語がとても盛り上がり、いってみればエンディングへ到達しているのですよね。
盛り上がりの後、シロバナの物語へ行くと、エンディングの後として捉えてしまいがちで、
なかなかうまく受け取れませんでした。
それくらい、彩香町の迎えた奇跡は、素晴らしいものだったのです。
風見蒼空の試練にとっても、相応しいものだったのです。
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それでも、シロバナ役の真宮ゆずさんの名演が光ります。
幼い容姿。声もそうですが、すぐに拗ねるし、お姉さん振るし、
なのに、きちんと聴かせにくる。
シロバナの過去、想いをストレートに吐き出す様は、涙腺に訴えるものがあります。
セーブファイルはあっさり埋まってしまうし、ボイス登録機能を駆使しても足りない。

体験版の最後に登場した、過去のシロバナを彩る相手役、優等生を自称する「僕」(月野きいろさん)も好演。
なかなかでした。

全体的に、バランスなのかなと思います。
過去のシロバナは、二人にとって後悔しか生まないのではないかとも思え、
やっぱりフックが産まれて上手いなとも思いました。
この場面を受け入れられないのは、それだけの重さがあるからなのだと。

一方で、風見蒼空はシロバナの望みを叶えますが、スピードが速すぎると思えてしまったり。
本当にそれでシロバナの望みは叶えたことになるのかと。
その望みを叶えている間も、これ以上の言葉は必要ないと風見蒼空は認識するのですが、本当にそうだろうかと。

彩香町でも、風見蒼空は、送り人の流派が穏健派だからではなく、シロバナがいうようにヘタレなのかなとも。
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そんな風見蒼空に、師匠の永遠穂希が、人と魂人についての教えを語ってくれるのですが。
これが、死が身近になった現代に、とても考えさせられるものと感じました。

魂人になるほどの情熱は、あるだろうか。
後悔しない生き方なんて、人にはできるだろうか。
悔いて世に残りたいほどの想いは、抱けるだろうか。そんなことをも考えて。


振り返って思うのは、彩香町での物語がとても良かったなと。

魂人たちが集まる彩香町で学園を運営する月森玲子は、蒼空の師匠、永遠と同門の送り人だったのです。
現役時代の学園長のお話も触れてみたいなんて思わせるほど。
素敵な出会いがあったのでしょうから。

副学園長の砂原(蒼樹勇人さん)もほんと素敵ですね。声で彩られたダンディ。
彼は、それだけの悔いがあったから、心から今の仕事を取り組んでいるのですね。
きちんと向き合ったのだと思います。悔いについて考えたのでしょう。

そして。
過激派、鉾流送り人の山代(激坂駆さん)。
彼すら、救う展開が待っているとは思いませんでした。
これ、もう少しビジュアルで、場面のサポートをして欲しかったです。
山代だって、一人の人だったのです。救われるべき人だったのです。

こんな人だって、救われる。この場面がとても温かいものだと思いました。
よかった、って。

振り返ってみれば、山代が盗み聞いた、蒼空とオトヒメとの夢見の話。
それを夏秋冬に伝えたのは、忘れている大切なことを思い出させてやろうと考えたからなのだと思います。
親切心だけではないのは山代らしいとは思います。本人も意識して親切を行うための告げ口ではない。
それでも、顧みたのが良く分かります。

ところで、山代役の激坂駆さん、すごくカッコいいですね。
祝詞がすごくかっこいい。
この声の演技で、彼は間違いなく魂人を幾人も還してきた実力者なのだと知ることができます。
自信に裏打ちされているからの、他者への煽り。
還すための自分の技を信じ、真摯に奏でる祝詞。ほんと素晴らしいです。

そんな男性キャラクタたちと見合うからこそ、囲まれているからこそ、
風見蒼空にも声が入っていて欲しかったと思います。
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体調が悪化してしまう淡雪瑞海(咲野かなでさん)。
彼女のことを描いてくれたのは本当に良かった。線の細さを咲野かなでさんが見事に演じてくれました。
線は細い、けれど瑞海にだって想いはある。悔いはある。
咲羽(五行なずなさん)の秘書っぷりも素晴らしかった。
困ったように眉尻を下げる瑞海と、心配から眦を吊り上げてしまう咲羽。
二人ともまとめて面倒を見るべきだとすら思うほど、二人は魅力的でした。
母の麻衣子さんも含めて、誰もが良かれと思って選ぶのに、良く、ならない。
この、想いの届かなさ。

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月森鈴(桃山いおんさん)は、彩香町の学園長、その娘というだけで、実は背負わされているものが多いこと。
それを理解して、大きな決断をするところは、間違いなく本物でした。
そんな月森鈴に手を差し伸べられたうちの一人、響七菜(御子柴いすきさん)。
うまく芽が出ない蕾だった彼女は、様々な経験を経て、大きく花を咲かせて行くのでしょう。
その道にどんな物語が待っているのか、知りたいような、知りたくないような気持ちです。

オトヒメ(卯衣さん)は、根底に、あるがままにという考えがあるように思います。
だからこそ、出会った魂人たちを受け入れているようにも思いますし、
送り人たる風見蒼空にも様々なことを伝えてくれます。
「恋は乞う、愛は会う」。
経験からの教えの数々は、もしかしたら永遠穂希を超えたものがあるのかもしれないと感じさせます。
あと何故ゴスロリルックなのでしょうね。かわいいから良いのですけど。

そして、此花ゆか(杏花さん)。
本当はもっともっと、その過去を読みたかった。
特定の花のことだけを知る人と、どんな風に接していたのか、とか。
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永遠穂希先生が語る、個人的な死生観だという教え。
今の世なら、多く共感を得るはずです。

永遠先生の声、きしだあいらさん。
本当に説法が似合っていて素晴らしいのですが、やや音質が悪く、リップノイズもあるところが少し残念です。

エンドロールを見ていると、かなり多くの声優さんを用いていたのが改めて分かります。
色気と押しが強めの月森玲子学園長は美月さんが担当ですし、
淡雪姉妹の母、四季彩の里の女将は広深香菜さんですし、
朱鷺野先生もヒロインになりそうな印象だったのですが、花寺香蓮さんが担当ですし、
訪れたカメラマンの夏秋冬も星リルカさんと、
こうして、多くの声優さんたちで彩ってくれたから、素敵な町になったのだと思います。

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冒頭の箇所。道行く魂人と会話するシロバナ。
「だから、シャボン玉は好き」
何気に、シロバナのパーソナリティを明かしてくれているのですよね。

体験版をプレイされた方も、ぜひ、製品版を最後まで進めたら、
冒頭の箇所をもう一度プレイしてほしいと思います。
これがシロバナの考え、概念。
ここが、体験版直後の展開とよく繋がっているのです。
上手いです。
最後まで進めると、最初をもう一度振り返りたくなる。

……歩かないことも、空への憧れも。風に乗せて。