Wonder Foolさんの「ユキイロサイン」体験版プレイしました。

Wonder Foolさんの新作は、「ユキイロサイン」。

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「えっと……南逢瀬に行くには……」
スヴェトラーナ・グルチェンコは、空港でカートを引きながら、命綱のスマホを握りしめる。
何度も確認した道のり。何度確認しても落ち着くことはない。
これから、数時間のフライト。距離は1,000kmを超え、そこからさらに数時間の移動。
ずっと、行きたいと思っていた国へ。町へ。
「会いに行くからね……必ず」

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「本当によかったの?」
住み慣れた街を後にし、山間の町へ転居する。
もう決まっていて、後は移動するだけという場に至って聞くことではないように思いながら、
高萩香子はつぶやく。
ハンドルを握る父から返される優しい言葉に目を背けながら、思う。
もし、変わることができたら。
他人の善意に臆病にならず、そして、前向きに。
「そう、なりたいな……」

「え? 何を撮っているのって?」
雪国の南逢瀬でも七十年振りという深い降雪へ、カメラを向ける。
勿来美玖の応答は、足元の愛犬に向けたものだ。
飼い主のひいき目かもしれないが、愛犬は言葉を完璧に理解しているような気がするのだ。
合わせたように愛犬が吠える。
ファインダーから目を離さず、吹雪にかき消されそうな声で答える。
「私の心を外の世界が代弁してくれる……そんな瞬間が欲しい」

三人は、何かを待ちながら。
山間の町、南逢瀬で一年を過ごす……。
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体験版は、1.41GBでした。

原画は、うみこさん。
シナリオは、冬野どんぶくさんです。

関わったスタッフさんの組合せ、作品内容の編成から、戯画さんで発売された「アオナツライン」が想起されます。
あの作品は夏でしたが、今作では冬を基調としています。

その冬の雰囲気を彩るのは、背景と音楽。
音楽は、Felion Soundsさんが担当していますので、雰囲気作りはばっちり。

PVも造りは上手いと思いますが、なんというのでしょうか。
幕間に見る映画の番宣を見たのと、同じイメージです。

まず。
この作品、雰囲気が大事だと思うので、もう少しがんばってほしいところがあります。

音楽や背景は良いとしても、欲しいのは声に対するアレンジ。
例えばアイスホッケーをしている場面の、薄広中(芦久比剥巳さん)の声。
テキストが示すように、40秒も稼働していればあっという間に呼吸が干上がるハードスポーツです。
フェイスマスクの奥で、かなりの呼気を出しているものです。
それが全く感じられない。

その場にいる感覚を体感させてくれる、画面のこちらにお裾分けしてくれる演出を強く求めたいです。
この作品は舞台の空気を伝えることこそが大事だと思うから。

後半、役場職員の芳賀沼皐(奏雨さん)が思っていることに声を入れ、エフェクトを掛けて表現している箇所がありますが、
これができるのならとも思います。
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さて。
公式サイトによると、コンセプトとして、
”全てが等身大で全てがありのまま”、”一人一人が主役で脇役の群像劇”とのことですが、
掲げたものと、作品実態がちぐはぐな印象を受けます。

雪深い南逢瀬で過ごす彼らを見ることができる作品、ではあるのでしょうが、
色々感じたことを端的に表すと、キャラクターないしイベントの記号化です。

ブランドさんの意向として通底されたものだと思っていましたが、
今作の方が2.5倍くらいのスピードに感じます。

イベントやエピソードは、何もかもがスムーズなのです。
何かが起きて、でも数クリックで決着する。
イベントの種類も定番と思しきものばかり。
キャラクタをイベントで紹介するのなら、もう少し考慮が欲しいところです。

キャラクタが場に複数いる場合、視点が変わるのですが、
スムーズであるため、目まぐるしい。
舞台は落ち着いているのに。
堪能させずに次の場面に移行する弊害だと思います。

飽きないといえるのかもしれませんが、一つあたりの印象が薄い。
イメージを抱かせるだけならここまで細かく入れ込まなくても良いと思います。
細かすぎて、把握しようとするとセーブファイルが足りないです。
一つのエピソードあたり、オートモードで約2分。
それでも時間が長い方です。

背景や音楽はのどかだけれど、のどかな時間をユーザ体験はできず、わちゃわちゃしすぎている。
余韻や印象を残さない仕様には、何か理由があるのでしょうか。
上滑りしているような印象です。

サービス精神旺盛なのかもしれません。たくさん盛り込んだからどれか気に入って欲しい、という。

これ以上、一つの場面で語ることが無いのでしょうか。
一つ一つを大事にして印象的に残すか、もう少し削ってフォーカスしたほうがより良いと思います。
キャラクタを好きになりたいのですが、ザッピングが強すぎます。

AUTOモードでプレイしていて思うのですから、
クリックしながらプレイする方では、より整理が付かないのではないでしょうか。

キャラクタは、皆で過ごしているときは会話が闊達だけれど、独りで居ると、途端に誰もが暗くなる。
これにも強い違和感があります。
この分だと、体験版以降においてキャラクタが何かを語り出す「実は」の部分。
それも、かなり唐突になってしまっていそう。

演出に疑問もあります。
例えば、日付を置く。
振り返るためなのかなとも思います。または、彼らの生活が時限だから。
でも振り返るためならば、そうなるようにシステムを組むべきだと思うのです。
キャラクタたちがしている交換日記をシステム上で起こすとか。
エンディング後にはあるのでしょうか。
しかし搭載しても、残念ながら前述の通りエピソードが薄いので、意味を持たせることができない。
それとも、別視点での追想があるのでしょうか。

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そして。
シーンそのものは無くても問題無い物語に思うので、無理に入れ込まなくても大丈夫だと思いますし、
この5人の関係性でそういう二人ができたとすると、他のメンバーとは距離が生まれるように思います。
もっといえば、男性キャラクタ2人は要らないように思います。

体験版では、羽染宗冬に対しての印象が薄い。
それでも良いと思いますが、そういう作品ではないとばかりに、高萩香子が恋愛の話を振ってくるのも突然です。
急に主人公に仕立ててしまう、恋愛を持ち込むのは不自然に思います。

全体的に、舞台設定はなかなか良いと思うのですが、この場ならではが特にないのです。
雪深い土地に思い入れがあると違うのかも知れませんが。

そして体験版最後はみんなで集まって何かを打ち上げ、タイトルを回収する。
これは様式美とは受け止めにくいです。プロット通りに読まされている感じがしてしまって。


それと、グラフィック。
表情に特徴は出てきていると思いますが。
立ち絵のポーズも、キャラクタデザインサンプルのよう。
特に手の配置にそれを感じます。
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勿来美玖の室内での衣服は、コートを着ているときより着膨れをしているように見えてしまいます。
皺の入れ方なのでしょうか。ちょっともったいない。

ビジュアルから受けるイメージは、キャラクタデザインであって、南逢瀬の住人とは思い難いところもあります。


最後までプレイしたら違和感も収まるのかもしれませんが。
現時点だと、合わない印象が強いです。
残念だけれど、そういう作品もありますよね。
公式サイトオープン時には、とても期待をしていたのですが。

ボイスはどれもこれも、聞き応えあります。
幼なじみで親友にしてライバル、薄広中役の芦久比剥巳さんは、イケメンボイス。冗談を言ってもカチッとはまります。
人からはつっけんどんに思われてしまう勿来美玖役の猫村ゆきさん、すごく良いですね。このツン感は他の人では出しにくい。
スヴェトラーナ・グルチェンコ役の北大路ゆきさん、キャラクタもあるのですが作品のテンションを人一倍引き上げていて素晴らしいですし、
高萩香子役の実羽ゆうきさんは、精神的な線の細さが良く出ていて、だからこそ言い返した時の思いの強さを感じられて。


体験版をプレイし直して感じたのは、やっぱり音周りを充実させて欲しいこと。
場の空気を画面のこちら側にも伝えてくれる、一番の要素だと思いますから。
南逢瀬は山に囲まれた盆地の地形のようですから、空気というか風が違う印象があります。
希にオジロワシなんかも来そうですよね。外に居る時は聞こえたりすると嬉しい。
勿来家は間取りが広く造られているようですから、
独特のしんとした感覚が味わえると嬉しいですが、こちらは難しいでしょうか。
少なくとも、効果音を100、BGMは35程度の調整が良さそうです。
BGMは良いので下げたくは無いのですが、環境音こそ大事だと思います。

そして、これは今更変えることができないとは思いますが、イベントそれぞれを丁寧に描いて欲しかった。
例えば、スヴェトラーナが自転車に乗れるようになることは、本人にとってはとても大事だったのではないのでしょうか。
スヴェトラーナが思う、あの人に辿り着くために。
人は、何かを見ても、やるまでに心理の壁を越えなければ動けません。やらなくていいことは選択から外すもの。
それでも為そうとし、遂げたのだから、相応の想いがあるはずなのです。
そこを、ユーザにも伝えて欲しかった。
後半に明かされる要素なのかもしれませんが、一気にあの人への想いだけを明かすのでは無く、
それがどのようにあの人にとって大事だったのかを、それぞれのイベントで明かして見せておいても良かったはずです。
現時点では、淡々とした記述がなされているだけに思えてしまうのです。


初回限定版には、描き下ろしシーツ(2wayトリコット W:約110cm×H:約220cm)、
設定資料集(全64P、フルカラー仕様)、ボーカル&サントラCD(ボーカル4曲、BGM20曲)が特典になります。
シーツは、ヒロイン3人がセットになったもののようです。

2021年3月26日(金)発売予定です。


公式通販はFANZA GAMESとなりますが、
スヴェの描き下ろしF3(約273mm×220mm)キャンバスアートが特典となります。


ダウンロード販売もあります。