CRYSTALiAさんの「紅月ゆれる恋あかり」感想です。CRYSTALiA『紅月ゆれる恋あかり』応援中!

2020年12月発売作品。

CRYSTALiAさんの「紅月ゆれる恋あかり」は、”近未来カタナ学園活劇ADV”。

村垣伊織は、陸上自衛隊天呪特科群武蔵の隊員であり、
特命、いわゆる”お使い”で、刃道を学ぶ最先端の叢雲学園へ臨時教師として赴任する。
担当するのは、問題児ばかりを寄せ集めた篁組で……。

という導入でした。
それでは感想です。少しネタバレがあります。


うん。素晴らしかったです。
この刃道を扱ったシリーズは四タイトルありますが、一番好きです。

スポーツに懸ける想いは、強く輝く。
このテーマに真っ向勝負を仕掛けてくれたからだと思います。

未来の刀を使ったスポーツ、刃道。
頂点たる刀仕禰宜を誰もが目指すこと。
ここにフォーカスして描いてくれたのが、すごく良かったのだと思います。

こういうのが見たかった、になるでしょうか。

刃道は、武器で相手を打ち倒す個人競技。
仲間はライバルでもある。
強いライバルが立ちはだかり、試合の外でも一触即発。
主人公の村垣伊織は、間を取り持つのではなく、自らの過去と力を武器に、あくまで教師として中立の立場を貫く。

体験版で、村垣伊織の演説時に、村垣伊織を映しても良いのではと思いましたが、
この作品は、戦う刃道競技者たちにピントを合わせ続けたものなのです。
その後も積極的に出張ることがない。これで良かったと思います。

では、その刃道競技はどう描かれているのか。
驚くほどスポーツ根性もの。
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後の時代を描いたシリーズにおいて、常勝と謳われるが、それを求められる朱雀院の長女、紅葉。
朱雀院家が筆頭の佩刀護身会で、影響力を増そうとする風嶺の姉妹。
兄を刀仕禰宜に持つ九鬼旭。
名家から出奔し叢雲学園に来た十部梨々夢。

誰もが刀仕禰宜を真剣に志し、
誰もが、この刃道に懸ける想いをぶつけ合うのです。

これは体験版で見せていますが、篁組の新たな指導者となった村垣伊織は、
個人競技でありながら、一緒に頑張る理由、道を示しますが、
それでも、根は刃をぶつけ合う個人競技者たちであるから、篁組同士の諍いもある。

作品は、その場合、戦うことから逃げない。
想いの全ては、刃の上に乗せて。
ここがとにかく熱いですね。

双方が対峙して、どちらの気持ちも分かる。
分かるが、勝負は決する。勝敗は付ける。

勝って、負けて終わりではなく。
勝った者が得たもの、失ったものがある。
負けたものは失うだけではない。掴むものがある。
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そこまで描いたのが好感です。
これはまさに、体験版で村垣伊織が語った「道は続く」という考えそのものですよね。
だから、この作品は”近未来カタナ学園活劇ADV”になれたのだと、思います。

展開の先が知りたくて、一気に読み通してしまいました。


さて。不満をいくつか。
すごく細かいところですが。

体験版からですが、風嶺蛍雪のボイスが遠いです。
風嶺雪月花のボイスも膜が張ったような音に聞こえることがあります。
本当にもったいない。
源雫もそうですが、タブレットを顔の前に持ってきている立ち絵なので、こちらは合っているのかもしれません。

後半、我流庚型金剛砲のSEはもっと重たくて良かったと思います。
ドシン、と。

キャラクタの会話が続く時に。
一人目の顔アップ表示、セリフ。切り替え。
二人目の顔アップ表示、セリフ。
これ、見ていてテンポが悪いと思います。
人数が多い時はこれが繰り返されてしまう。
何かもうちょっとスムーズに表現できると良いですね。
例えば焼肉コールしている時などは、キャラクタを同時に喋らせて、ワイワイと楽しくやっている雰囲気を出した方が良いと思います。

考えてみると「恋あかり」とは何だったのかな、とは思ったりします。
それを示す箇所が無い。
キャラクタが唐突に恋愛思考を見せるくらい。
例えば、朱雀院紅葉とのサウナ。イベントの唐突感があります。
前提がもう少し欲しいです。

これくらい、なのです。
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目を惹くのはグラフィック、画面の演出。
ここが素晴らしく、抜きん出ていると感じます。
決着を示す演出が何回見ても格好いい。
これも、刃道を描く上で大事な要素。力の掛け方が素晴らしいです。

そのグラフィックでも、刃道武芸者たる彼女たちを描くのですが、
光っていたのは、まず九鬼旭(上原あおいさん)でしょうか。

最後までプレイすると、改めて九鬼旭の魅力を理解できてしまうのですが。
体験版中、村垣伊織に天元齊命流で勝負をお願いしたのは、
今の村垣伊織が、齊命流をどう捉えているのか。
そして何より、兄とのことを知りたかったのかなと思います。

篁組で九鬼旭だけ、夢を語っていないのですよね。
刀仕禰宜になりたい、本当の理由。
本心を語らない。抜く時までは、刃を隠す。
これも上手い運びだと思います。

ただ、村垣伊織の新たな指導に手を出したのは何故なのか。
懸ける想いの強さをみるに、それだけはしないと思っていたのです。
村垣伊織に対してもそう。自分から言い出すことでは無い。
少しもやっとしました。
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体験版時点で理解していたのですが、九鬼旭の表情差分がすごくすごくいいですね。
これは、原画のうすめ四郎さん、そして彩色担当された方の素晴らしい仕上げによるものですが、
本当にかっこいい。
製品版部分でもかなり良い表情を見ることができます。

他のキャラクタもそう。彼女たちは刃道武芸者なのです。
真剣という文字の如くに、相手を倒すことに懸けるからこそ、この表情。
CRYSTALiAさんが掲げる”かっこいい女の子が活躍する”ためのものだと思えました。

その九鬼旭も、独りでは光ることができません。
強いライバルがいるからこそ、煌めく。
この配役もすごく上手かったですね。
具体的には言わないで置きますが、相手は、過去の苦しさを今まったく感じさせない、
だからこそいま輝いている、素晴らしい剣士。
彼女の天呪はきっと、過去の重圧から見出した、たった一つの表現方法。
生きる力で支えだったのでしょう。これでやると決め、自分で稼いで。
さらっと書かれていますが、想像以上に苦労人ですよね。だから頂点を目指して、自分を認めたかったのかなと。
そんな二人は、未来でもきっと仲良くしているはずです。

その二人が、この時代では、想いの刃で殴り合うと思しきバトルを繰り広げる。
素晴らしかったです。

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意外な魅力を見せたのが、風嶺蛍雪(あじ秋刀魚さん)。
風嶺姉妹の知略担当。
武芸科ではなく主計科であり、体力的には劣るため、最初から割り切って刃道に接している。
けれど、一度出席すると決めたら最後まで。体力測定のランニングだってやってのけるのです。
「これくらいで音を上げたら、部下にナメられて、しまうわっ……」
もちろん、自分がこれを行うことでどんなメリットがあるかは計算済みですが、
それでも、そのためにきちんと向き合うところが素晴らしい。
最後やや興奮気味になってしまうのは、念願だったからですよね。良いキャラクタでした。

そして何より、朱雀院紅葉(橘まおさん)

強さは孤高を伴う。
当初、村垣伊織に問い掛ける、「仲良くしようというお題目は、刃道とそぐわない」。
これは、ずっと強さ故の孤独を背負ってきた朱雀院家の長女、紅葉だからこそいえるのですよね。
そのことを、最後までプレイして、改めて理解させられました。

だからその朱雀院紅葉と向き合った、風嶺雪月花も素晴らしかった。二人が良かった。
ここはぜひ製品版で味わって欲しいところです。
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橘まおさんで本当に良かったなと思うのは、朱雀院紅葉は脱力しているところを良く見せています。
この部分とすごく合っているのですよね。ばっちり。


ADVゲームとみて、唯一の弱点があるとすれば、シーンの問題。
閲覧可能となるだけで、プレイ中に見ることがありません。

つまり、刃道求道者たちの物語のテンションを下げてしまう。
そのことを良く分かった仕様なのです。

九鬼旭や荒川園美、十部梨々夢などが、どれくらい努力をしているのかを見せてくれていますが、
多くの時間と、他をも投入して、とにかく打ち込んでいるわけです。
誰かに惹かれるタイミングがあったとして、しかし見るべき目標をぶれさせない。
だから良かったのだとも思います。

それに、前述しましたが、村垣伊織の影はさほど見えないのですよね。
そんな相手と、急に想いを交わすのは無理があります。
何となく気になる程度に収まるはずで、この物語と恋愛とが相性が悪くなるのは仕方ないと思います。
これは不満ではありません。

とはいえ、エクストラシーン解放が早くてちょっと驚きました。
体験版の中盤くらいで解放されてしまうのですよね。
もしかしたらあったかもしれないこととして表現されるので、仕方ないでしょうか。

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刀仕禰宜を目指す。
この描き方に一本化したことが良かったのだと思います。
化妖をすら、登場させずに。
勝ちも、負けも、それらの価値をもしっかり描いてくれた。
そして、道は続くのだと。

この熱量は、なかなか味わえないと思います。
かなり、お勧めです。




ダウンロード販売もあります。


そうそう。朱雀院都子(野々村紗夜さん)さん。
朱雀院家の中でも本当に化け物だと思いました。