CUBEさんの「海と雪のシアンブルー」体験版プレイしました。

CUBEさんの新作は「海と雪のシアンブルー」。

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秋の終わり。
母が再婚し、一緒に暮らす。
新しい父には、娘が居る。

青野志音に、妹ができる。たった2歳差の、新しい妹が。

受け入れる支度も間に合わず、嵐のように片付けをして。
浮かれた母が大量に買っていたソバなんか食べて。
婚姻届を出して、近所のレストランで食事をして。

あっけなく始まった、新しい家族との生活。
義父は丁寧に接してくれる。新しい妹からは、ぎこちなさと壁を感じる。
兄として上手く接しようと試みて、恥ずかしいことを言ってしまったと悔やんだり、
言ったことを悪く取られていないかと後から気にしたり。

けれど、関わること、気にすることに、意味はあるだろうか?

お勧めの本を貸してくれる後輩がいる。
明るいがたまに踏み込ませないラインを感じさせる。

クラスメイトがいる。先生やクラスメイトに良く頼まれ事をしている人気者。
だがあまり喋ったことは無い。たまの会話は遠慮を挟んでいる。

クラス担任は、教壇を降りても合理的な進め方をする人。
復習をしていれば問題無い授業進行だし、話し掛けづらいだけ。

遠ざけるつもりは無いけれど、これからの時間で関わり合いも生まれないはずだ。

2年も続けたコンビニバイト。暮らした町並み。ほど近い海辺。
感傷に浸ることはある。
でも、半年も経たずに、青野志音はこの街を出るのだから。

それはずっと、十年も前から決めていたこと――。
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1.16GBでした。

原画は、兼清みわさん、つるこんにゃくさん、倉澤もこさん。
シナリオは、双葉亮一さん、涼原なつきさん、伏見美咲さん。
音楽は、Peak A Soul+さんです。

システムは、吉里吉里Zの1.4.0.8、ですが。

デフォルト設定では、千木良周人の音声テストが鳴りません。
システム音ページに移動すると、千木良周人の音声がオフと設定されています。
音声、BGV、システム音と、ページ分けされた機能は独立して鳴る仕組みのはずですが、
何故か千木良周人の音声だけは共通、しかもシステム音設定が上位になっています。
システム音ページで千木良周人の音声設定をオンにすると、音声ページでの音声テストも可能になります。
SONORAさんの「僕の未来は、恋と課金と。」体験版から残っているバグですね。
普通にプレイしていると、千木良周人の音声は聞こえてくるので、気付かないのかもしれません。

また、今作は少し音声で気になるところがあります。
キャラクタが遠間にいる音声エフェクト。
例えば、冒頭での菜畑いなばが「こっちです~!」と呼びかける声にこのエフェクトを掛けるのは、
図書棚越しなのかなというイメージが付いて良いと思います。
けれど、空木群青が初登場した商店街では、音声を小さくするほうが良さそう。
廊下で呼び止めた松木先生の反応、ブランコに座る七の声、コンビニの駐車場でカメラを構える萩野夢の声に掛けるのも、一律に処理を掛けてしまっているから不自然に感じるのかもしれません。
エフェクトが効きすぎているのかもしれませんね。

あれこれ書いている部分が細かいところばかりなのは、そもそも素材のクオリティが高すぎるからでしょう。

びっくりしました。
起動時点から、波のSEが優しく耳に届きます。
これすごく良いですね。この作品のオープニングにふさわしい演出。
音楽もリッチで、前説も聴き入ってしまう。
タイトル画面に行くまでに、クオリティの高さを感じさせてくれて、満足してしまいます。
コンフィグ画面の音声テストもぜひ触れてみてください。この音声素材にもキャラクタが宿っていますよね。

テキストフォントも相変わらず潤沢。
テキストウィンドウがアクアブルーなので、デフォルトのハミングが合いそうです。

背景や立ち絵に対する時間帯演出。これもあるのと無いのでは印象度が全く違いますよね。
つい同じキャラクタがある場面を探して見比べてしまいます。
うーん。CUBEさん、本当に良いですね。

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今作も選択肢におけるルートガイドが搭載。
オフにもできますので、志音になりきってプレイしてみよう、なんてことも出来ると思います。

そして、物語進行中の音楽も。相変わらずPeak A Soul+さんによる音楽は華やか。受容に満ちていて、素敵な午前の時間を感じさせてくれます。
曲名が判りませんが、海の場面の音楽など、到達感がしっとりと響きます。

やり取りと音楽からも、とても温かな人間関係の中に青野志音は住んでいるように思えます。

だから、OP曲の曲調は不思議でした。
OP曲は、斜に構えた曲調。シニカルさが残る。
作品のカラー、アクアブルーとホワイトで満ちた景色とが合っていないのです。
これは意図されたミスマッチなのか。

体験版をプレイし終えた今では、物語の山場またはエンディングに繋がる、意図されたものと捉えています。
恐らくそう、プログラム終了時に画面がセピアに変わっていく演出と繋がっているのです。
この物語では、誰も死なない、大きな事件が起きたりしない。
ただ、祝福されるべき出会いと別れがあるだけ。
すごく良い作品になる期待を抱ける体験版でした。

冒頭に表示される、彼らが住む町並み。
その風景にすごく合ったキャラクタたち。
そしてこのキャッチフレーズにそぐう展開。

CUBEさんらしいテンポの良さはあるけれど、体験版以降がどうなるのか、とても気になります。
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物語の視点は、主人公の青野志音から。

青野志音は、今後の進路に集中していて、周囲に気を配る余裕を持とうとしなかったタイプ。
頑なであるとか思慮が浅いわけでもなく、少し大人びた印象もあります。
小説を読むことを苦にせず習慣付いているから、感じ取ったり考えたりするのに慣れているのかもしれません。
逆に、自己完結が癖。
会話も自分なりの結論に至って話したり。
考えてから行動に移すまで、あまり人に頼ることが無かったのかもしれません。
勉強もきちんとこなしていて、必要な努力は自分でする。体験版中に推薦合格も成し遂げています。

その努力は、十年前に出会ってしまった空木群青(さくらはづきさん)に憧れたことにあります。

自己完結してしまい、相手にとっては不思議に思う前後関係の分からないセリフも、
地の文で青野志音の内心を語ってくれているので、良く伝わりますね。
これだと言われた相手の側は困るだろうな、なんて画面のこちらにも分かるのです。
ちょっと頭の良いタイプです。

すごく良いキャラクタだと思います。この青野志音。
これまでの作品の主人公とも違う。
若さと勢いはある。けれど年頃の割に思慮深く、考えたり感じ取ったりもするし、察しも悪くない。
これは企画で決めたのか、それとも双葉亮一さんの筆から生まれたものか。
良いと思います。

そんな青野志音が過ごす、卒業前の数ヶ月。
親の再婚という転機で、様々なことが動き出します。

そこで見えてくる、青野志音を中心としたキャラクタたち。
それぞれの抱えていること、そして関係性に思いを馳せると、期待感がとても高まるのです。

どのヒロインも良いと思いますが、いくつかピックアップしておきますと。

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「私だって、受け持ちの生徒の努力が実ったら喜びますよ」
松木衣良(森谷こころさん)

数学の先生で、青野志音のクラス担任。美人だが冷徹で事務的という評判。
青野志音のバイト先のコンビニエンスストアの常連で、
買うのは、具なしおにぎりとミニサラダに発泡酒といった、洒落っ気のないセレクト。
しかし授業を受けている生徒のことをきちんと見ており、努力が実れば讃え共に喜ぶ。
編入してくる青野七に対し、授業の進捗を確認するなど、対応はきめ細やかに。

いや、デザインがすごく良いですね。これはつるこんにゃくさんの原画ですか。
設定上、冷たく感じる部分がある、けれど微笑まれると見惚れてしまうキャラクタなのですが、
まさにその通りなデザイン。
また服装が良いですね。とてもオシャレです。清楚さが際立ちます。
タイトル画面で見せるコート姿が良いですよね。深みのあるベイクドカラーというセレクト。
そしてこの横顔、見惚れてしまいます。

これに森谷こころさんが声を乗せている。パーフェクトですよね。
後半、一芝居打つ場面で、全く芝居をできていないのも面白かったです。

頑なに隙を見せないので、どんなキャラクタなのかとても気になります。
ただ、ルートに入る前と入った後が短そうに思えてしまうのが、少し怖いですね。

昔、空木群青とも会ったことがあるらしい。

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「いなば古株のほうですからっ! 忘れないでちゃんと丁重に扱ってくださいよ、先輩っ」
菜畑いなば(二葉みんとさん)

青野志音に気さくに声を掛けてくる後輩。
ある切っ掛けで、青野志音に本の貸し出しをしている間柄。その本は純文学が多い。

様々な本を、青野志音の状態に合わせて本の貸し出しをする側で、本の知識も豊富。
また、貸し出す本には手作りの押し花をあしらった栞を挟む。花言葉にも造形が深い。

テンション高くバカな会話をするのは、隙を見せないようにするためだと思われます。
相談すれば、うまく要約して返すほど、頭の回転も速い。
昔は、より達観したような口調だったのだとか。
家に何か問題を抱えているのは、青野志音も気付いては居る様子です。

テンション高い時の二葉みんとさんの声とのマッチング。良いですよね。
そこからトーンダウンして、滲ませる寂しさ。バツの悪そうに隠そうとする声音。上手いですよね。
容姿は幼いですが、闊達に喋るボキャブラリーの潤沢さも光ります。

テンションの高さで隠しているつもりなのだと思いますが、だからこそ何を抱えているのか気になりますね。

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「もう、こういうことはしなくてもいいですよ」
青野七(鴎和かもめさん)

青野志音の新しい妹。
家庭環境のため、料理が得意。
おでんだとちくわぶが大好き。無ければ自分で作ってもいいくらいに。

きちんと周囲のことを見ているのは、これまでの生活がそうだったからなのか、
それとも、美術を志す観察眼なのか。
青野志音は、内心や表情を見抜かれています。萩野夢の態度も感じ取るほど。
そのせいか、青野志音よりも思慮深く感じますね。

新しく兄となった青野志音は、自分たちと一緒に住むのが辛いから街を出るのだ。
青野七は、そう思っています。
仲良くできるならしたい。でも望んでいることが違うなら相手に譲ってしまう。
だから呼び方は、「志音さん」。

本当に演技が上手くて、漏らさないように聴いてしまうのです。
キャラクタとして抑揚は抑えめですが、表情豊かに演じ上げてくれています。
「ちょっと早く着き過ぎちゃいました」の声に乗るドヤ顔感。楽しみでもあるのでしょうね。
早く行きたいのに遠慮を聴かせる「あ、いえ……大丈夫です」。
よく鴎和かもめさんを起用してくれました、と感じる声をたくさん聴かせてくれます。

だから、「…………」のところも演技を聴かせて欲しい。
例えば、夜の公園で探した七を見つけた後の会話。
ここにも、音声が欲しいですね。これ以外にも無言の場面がありますが、鷗和かもめさんだったら、良い演技を聴かせてくれるはずです。

前髪が特徴で、真剣な表情をすると少し目つきがキツくなるようにも思えるデザイン。
うーん。兼清みわさん、やっぱり良いですね。

七の遠慮を感じ取って、志音もこの街から出て行くこともあり、なかなか踏み込めずにいますが、
体験版中に関係は大きく進展します。

この景色の美しいこと。
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七が生まれた初めて見た海の美しさ、そのままを画面のこちらにも見せてくれていますよね。
海を見たことが無い七を、連れていく。兄として、だなんて会話をしながら。
この景色の前には、七がずっと感じていた申し訳なさも、志音が言えなかった本当の気持ちも、スッと出せてしまうのかも知れません。
少し、わかり合うのです。少し、心が近づくのです。
そうした過程を経て、青野志音は、この街での生活に向き合おうと、関わろうとしていくのです。


良い作品になると思います。
青春していると思います。これこそ、飾らない彼らの群像劇だと思います。

志音の周囲の人たちが繋がりを持つ流れが自然な感じがして、それぞれのキャラクタが無理をしていなくて、とても好感を持ちます。

体験版で、それぞれのヒロインは、青野志音に対し好感を僅かに抱いている程度なのがとても良いですよね。
距離感はまだ縮まる余地があり、これからが盛り上がると思える余地があるのです。
進展が楽しみ。

ただ、不安なのは、共通ルート以降のボリュームがあっさりしていないか。
そこから先がとても大事だと思うのですよね。

それぞれのヒロインの、何か抱えていそうな気配。
いきなりそれを明かすのも、あっさり解決するのも違うと思うのです。
それでは、青野志音たちらしさが無くなってしまう。
それは何も、保健室通学の萩野夢(白雪碧さん)だけではないです。
人と関わることが嫌いではなさそうなのに、親の車で送迎されて保健室通学。
でも、七の観察によると、誰かの発する物音に敏感で、居心地が悪そうにしているようですが、
その理由をあっさり明かしてしまうような展開になっているとしたら、やっぱりそれは違うと思います。
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この空気感にじっくり浸りたいからこその要望なのですが。

出会ってから今まで、ずっと言うことのなかった菜畑いなばの事情。気付いていながら踏み込めなかった青野志音。
恐らく、迷惑を掛けたくないから、恩が既にあるからなのだと思います。
清木琴羽(波奈束風景さん)は、青野志音に気付かせること無くクラスメイトとして過ごしてきています。
恐らく、過去この街に居たことがあり、過去に青野志音と会っているはずなのに。

ぜひ、ここからのボリュームをしっかり取った作品であって欲しいです。
これは、志音とヒロインたちによる、卒業の物語――。
きちんと、空木群青と向き合って、この街を出ることが出来るのか。
街を出たとして、果たして十年後、志音はどうなっているのか。

その場面でも、きっと、波の音とともに。


2021年4月30日(金)発売予定です。

ダウンロード販売もあります。

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ただ、ちょっと気になるのが、毎作、体験版以降のボリューム指定があるのでは無いかなということ。
その枠にゆとりを持たせないと、どのクリエイターさんを起用しても同じ仕上がりになる可能性がありますよね。