みなとそふとさんの「我が姫君に栄冠を」感想です。
「我が姫君に栄冠を」2021年3月26日発売予定!

2021年3月発売作品。

みなとそふとさんの「我が姫君に栄冠を」は。
天眷を教わった養父から、その技を遺すためにも、嫁を見つけて子供を作れといわれ、
義妹のエビータ、ウ族王のペッターとともに旅にでる。
現在の大陸では、三国が覇権を競っていた。

……という導入です。
それでは感想です。少しネタバレあり。
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すごく面白かったです。
痛快なエンターテイメント。
セリフ全てに声が割り当てられており、しかも素晴らしい声の声優さんばかりを揃えます。
登場キャラクタとの掛け合いが隅々まであり、最初から最後までテンポ良く楽しめる。

みなとそふとさんのウリともいえるところですが、これを用いて今作ではファンタジー世界を描いていること。
掛け合いは過去作をプレイされた方だけでなくとも親しみやすく、新しい世界である新鮮味のある冒険を体験させてくれています。

その中心は、高名な天眷師のピガロに養われ、天眷と拳法を修めたシャオン。
この主人公シャオンの設定が上手いですよね。
シャオンが受け継いだ最大の力は、人造神ミンジャラとの合一。
体験版では、連邦の特殊部隊コルミージョ全員を、高い霊力を用いて、傷つけずに風圧で遠方に送り飛ばします。
相当に高い霊力を備えていますが、ただしこの強さは時限。
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強力な能力はあるけれど3分間制限をつけたのは上手いと思います。
見せ場を作れるけど、不利にもできる。進行に合わせて上手い使い方ができるわけです。

では、決着を譲るのは誰にかといえば、ヒロインキャラクタ。
帝国のノア・グランスター、連邦元首代理のエリン、天魔王クロネ。
やっぱりみなとそふとさんの作品は、強いヒロインを描く物語なのだなと感じますね。

ルートはロックされ進めるには順路がありますが、
それはこのハイクーンに敷かれた謎を徐々に楽しんでいくための方式です。

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ノア・グランスター(夏和小さん)

帝国ルートのメインヒロイン。
若くして皇帝を継いだ人物。
豪剣公と呼ばれるほど歴代最強の武力を誇り、
彼女ならグランスター帝国が長年掛ける目的を成せると、先代が生存中に譲位された。
譲位したノアの父ラニエロは宰相となり、吐血公と呼ばれ身体が弱いものの、内政に才を見せている。

あらゆる天眷の効果を無効にする天眷を代々受け継いでおり、ノアの剣技は純粋な武力。
また様々な家庭教師をつけたことで各種の武芸を身につけており、その一つはシャオンたちが究める龍雲拳。
母ソロミアはノアが生まれた時に死別し、ラニエロが後妻として迎えたパンテーラの子としてネルビオンとマニエラがいる。
ノアは家族全員と楽しく過ごしたいと考えているが、なかなか難しい様子。

帝国には様々な種族が生きていますが、身分や序列に差がある。
帝国五星の家格、帝国創立時代から生きる翼持ちの種族などなど。
闘技場では成り上がりを夢見て戦う闘士たちがいて。闘技場には帝国に滅ぼされた種族もいる。
シャオンの旅の同行者ペッターのウ族は、宿で泊まることを断られる。
警察が組織されていて、優遇されていないリザードやタイガ族間の対立に割って入ったりすることも。
ノアは皇帝でありながら学園にも通っており、そこでは同じ学徒として扱うようにとシャオンにも伝えます。
ジェンマの学園は貴族階級が通っているようですが、肩の力を抜ける場所なのかもしれませんね。
体験版にもありましたが、連邦からエリンが訪れ授業を行っているのに、自分は食べ物のことばかり考えてると思われたくないとか、
妙にかわいらしいところを見せてくれます。

ノアのルートでは、帝国が掲げる目標を一緒に進めていくことになります。
打倒天魔国ランケイジ。
しかしそれも、人が多い帝国ですから一筋縄ではいきません。
帝国組織の人々にも様々な思惑があるし、連邦や天魔族だって考えていることはあります。
最強の武力を備えている、でも皇帝はそれだけで成らないというストーリー展開。
そして天魔王と刃を交える。
バトルも謀略も表現されているのがすごくよかったと思います。

もちろん、ヒロインのかわいらしさもしっかりと。
立ち絵とイベントCGの表情が違いすぎるところはありますが、魅力的。
シーン中のお腹も美しいです。
また、ノア・グランスター役の夏和小さんが良く、シーン中の声も聞き応えあります。
ノアかわいすぎますね。「我がんばった」がお気に入りです。
そして凜々しい号令。新しい夏和小さん、すごく素敵でした。

急展開の連続で、グイグイエンディングまで引っ張っていってくれます。
最初をこそ、グランスター帝国へのルート固定が残念に思いましたが、
素晴らしい展開があり、とても楽しめました。

帝国五星、帝都警察五本槍、闘技場の闘士たち、ジェンマの学園生たち。
層の厚さが帝国らしさを見せてくれていましたね。

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エリン(三咲里奈さん)

連邦ルートのメインヒロイン。
タリオ連邦では元首が亡くなったため、次期選挙まで元首代理を務めている。

大森林生まれのエルフ。
エルフは長命で霊力に満ちた森を守ることを使命としているが、先住していたジュリアンと諍いが起きる。
その流れでジュリアンのフェイブリスと意気投合し、義姉妹となる。
新しいことがしたくて森を出た、エルフにしては革新を好むタイプ。

弓と霊力コントロール、何よりも冷静に判断できることが強さ。
選挙にはエリンも立候補しており、元首代理として手腕は確かなものの、
他の州長の支持を得られておらず、やや不利な状態。
そんな代理として連邦内の様々な事態を収めるエリンに同行し、選挙活動を並行して頑張るルートです。

2ルート目になり、進めると帝国との違いが良く分かります。
世界観が広がるといった形でしょうか。

連邦は様々な種族が闊達に生きており、また経済活動も盛ん。
州によって種族構成が違い、特産があります。
元首選挙で争うイグナシオが治めるアルディラ州では肉料理が人気だったり、
力強く武骨に見える鬼族たちがいるドンドーム州では、強いお酒が好まれます。長のヤーマンも飲むようですが元々無口なのであまり変わらない印象です。

地域特性が良く表現されていて、体験版でも登場していた、蟹の上に乗って海を渡ったり、飛ぶクラゲを気球に空を移動したりもあります。

さらに、連邦はメインヒロインのエリンと同じ職位にあるキャラクタを豊富に見せていきます。
エリンの補佐を行う副元首のメシュガーは連邦内の情報に精通し、本の蒐集家でもあります。
ウルル族のチベッタは若くして州長を担うが、先代の意向を守る。
タイガ族州長ギンは、タリオ連邦の屋台で気さくに食事を取って見せます。
ペッターもウ族王で州長。屋台でも活き活きとおでんを頼んでいます。

それぞれに主義があり、種族としての傾向がある。
争い合うことがあっても、マーメイ族のユーミルの歌には皆一様に聞き惚れたり。
選挙と陰謀、とても面白かったです。

エリン自身が長命なため、シャオンをからかうつもりであれこれするものの、実は惹かれてしまって……という流れ。
興味を持って傍に置いていたのは、もしかしたらその時すでに、ということでしょうね。
あれこれ考えるけれど、ぐっと迫られると弱かったり。
コルミージョの皆と仲が良いシャオンを見てヤキモキしたり。
お酒は生命活動に必要と言い切り、表情豊かに難局を乗り切る姿。
かなり魅力的なお姉さんポジションです。良かったです。

色気が高いのが三咲里奈さんですが、それがフェイブリスに甘えて見せたり、
メシュガーに噛みついて見せたりと表情豊かでしたね。

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クロネ(明羽杏子さん)

天魔王。
ランケイジでは、戦って王を決める習わしがあり、先代を破って王となった。
圧倒的な強さがあり、限定的ながら最強を誇る合体したシャオンすら一撃で沈める。
邪気がなく、我慢ができず、気まぐれ。力はあるが精神的には幼い。

進む先を考えるシャオンが、天魔のことを聞いて引っかかり、ランケイジを目指す流れ。
ランケイジは毒の霧、毒の潮流、それをものともしない魔獣の群れ、
渡りついても天候や地形、重力までもが荒れ狂い、天魔たちが襲ってくる未踏の地。
一方で、ランケイジから天魔は自在に渡ってきており、帝国ではタルタルーガ要塞を構えて襲来に備えている。

ランケイジには天然資源が豊富であり、内地で見る同じ素材でも10倍は性能が高い。
同様に、魔獣のサイズも異常。リスクとリターンが見合っているといえるのかもしれませんね。
冒険者たちは夢の島と呼んでもいるようです。
その、海を渡りランケイジを目指す冒険から描かれています。

そして、天魔は神々の代からの正当な系譜を持つ者たちであり、創世の頃から生きる存在もあり、
ハイクーンが歩んできた歴史を知ることもできます。

そして、全土を揺るがす事態も。
様々なことが明かされていき、帝国や連邦ルートで少しずつ見せていた伏線も一気に使われます。
前段で歴史を明かしたのはこれが理由ですね。
過去に根ざす、そのための前説。

すごく良かったのが、立ちはだかる相手の声の割り当てでしょうか。
あのキャラクタにあの声ですよ。
長らく天魔王の執事をしているエンドゲーム(ほうでん亭ガツさん)もそうですね。
過去の系譜だって割り当てに手を抜かない。恐らく最初の方に決まった声の割り当てではないかなと感じるほどです。

そして成長していくクロネ。
帝国では本を読み、連邦で体験を重ねたクロネは、どんどん変わっていきます。
相手の立場で考える、だなんて、試しもしなかったはずなのに。

明羽杏子さんの今後の活躍、こういうタイプも良いのではと思いましたね。


こんな3ルートで構成されています。
これをのんびりプレイしても40時間余。でも濃い密度に仕上がっている。

何よりも、綴りが上手いのです。進行がうまい。
場面の切り替えはあっさりしているなと思う事もあるのですが、
物語進行における場面の不足を感じません。

そして盛り上げて、見せ場へ続けるのが本当に上手いですね。
キャラクタが豊富で、明るくギャグ混じりで軽妙に楽しめる雰囲気だからこそ、
そのキャラクタたちの意志が1箇所に集まり、ぶつかり合う場面がすごく映える。
暗躍する者たちの罠の巧みさ。
いがみ合いをしていた者たちが同じ敵に向き合う熱い展開もあります。
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そして、繰り返しになりますが、キャラクタボイスの豊富さ。
コンフィグ上3ページもあるのです。
公式サイトを確認されてみると一覧になっていますし視聴もできますが、この密度ですよ。


一部、テキストと声で発せられる言葉が違うことがありますし、
リボルと違うキャラクタが混ざっているところも見えたりします。

メインヒロイン3人以外のルートもあるのですが、おまけという尺。
これはまあ、価格から考えると当たり前なのかなとも思います。
ルートロックが効果的に活きていて、それまでを前提で物語を進行させるため、ルート導入がすごく早いです。
だから、告白からすぐにシーンへ至っても、あまり不自然ではないというか。
前段がしっかりしているからなのでしょうね。


wagiさんの原画、しっかり見るのは久しぶりですが、すごく良いですね。
確かに立ち絵とイベントCGとでキャラクタが違うようには見えるのですが、
これは意図してやっているのだろうなと。
イベントCGでは、キャラクタの表情を大きく動かすようにしている。
立ち絵では様々な場面に適用できるよう汎用なものにしている。
その場に最適な表情がイベントCGでは描かれているといってもいいでしょうか。

フェイブリスさん色気がすごいなと思いましたね。
それでにっこり笑顔が基本で、神谷たたみさんの声。

生まれを鼻に掛ける、貴族よりも上だと自称するヒポリット・ゼンに紀之さん。
いやあ良い声過ぎて。

ナミート、初めてだという割には、声の担当の花丸あすなさんの都合で上手なのですよね、色々と。

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それぞれの事情が、ルートを変えて味方になるとわかる。
これもいいですよね。

コルミージョのメンバーも、帝国ルートではやられ役で悪役だったわけですが、
連邦ルートでは仲良くして良かったなと思えるほど。
あれだけ敵意を露わにしていたガルデニャも、
敵で遊んでいるようにみえたヨークシャも、
相手を絶命させることしか考えてないシュカも、
おちょくりつつオーバーキルしていたようにみえたレイズも。
それぞれ魅力があるのですよね。

ルートロック、こういう見せ方まで考えていたのだとしたら素晴らしいと思います。

ただそれだけに、連邦ルートで、帝国へ使節団として行くわけですが、
そこで会うノア・グランスターは、他人なのですよね。
この距離感がやきもきしてしまったりも。

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シャオンが一緒に過ごしていた義妹のエビータ(夏空ひまわりさん)の登場がよかったのでしょうね。
エビータはシャオンと同様に龍雲拳を修めていますが、目指すのは一流料理人。
このエビータが、食を通じて世界をユーザに伝えてくれているのです。
考えてみたら、食は、その土地で何が育つのか、生きる人々が何を食べるのか、
文化や生態を知ることができるわけですから。

ラストの大団円について本当はあれこれ言いたいところ、書くのを止めていますが、
ラニエロ(猪森天真さん)とマニエロ(七瀬 こよりさん)はとても良かったですね、とだけ。


メタネタはさほど多くなく、体験版でも見られた掛け合いにある程度。
それもブランド関連作に収まっています。
時限選択肢も良い味。音声を聞いて選ばせる選択肢も良かった。

みなとそふとさんの大ヒット作「真剣で私に恋しなさい!」に構成は近く、オマケがたくさんついています。
体験版でも味わえるのは、プログラム終了時の掛け合い。
これがリスト化されていて、コンプリートするまで大変なボリュームがあります。
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堪能しました。

この一作で完結している物語なので、ファンディスク展開は難しいと思います。
でも、何かできないかな、とは思ったりしますね。
「我が姫君に栄冠を」は良いファンタジー世界に仕上がっていて、触れやすくもありましたので。



ダウンロード販売もあります。


チュートリアルでの一コマ。
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数奇者といわれても、黒瀬鷹さんの声でそう言われたら来てしまいますよね。


そうそう。
ディスク、3人のヒロインに合わせて、意図的に3枚にしたのかなと思いました。