metalogiqさんの「魔法少女消耗戦線」感想です。
2021年3月発売作品。
metalogiqさんの「魔法少女消耗戦線DeadΩAegis」は、”戦場の魔法少女ADV”。
海洋生物めいた宇宙生物C.Cの襲来により、人類は地球統合軍を編成、
しかしC.Cの侵攻は止められず火星基地を失う。
地球への最終防衛戦と定めた月面で、特殊戦技兵団を投入。
魔法少女のような姿の少女部隊は、物理法則を無視し多大な戦果を挙げた。
そして敵母艦と思しき物体に、月をぶつけるという驚異的な戦法で撃退させる。
その戦いからC.Cの本拠を発見、対峙する巨大基地を建造し、魔法少女部隊を常駐する。
故郷と家族を失った飯塚みのりは、統合軍士官学校の卒業を控えていた。
という導入でした。
それでは感想です。ネタバレはほんの少しあります。
凄まじい作品でした。
恐らくこの作品に手を出した方は、スタッフさんの過去作品に触れた方がほとんどだと思いますが、
タイトルからも、過去に関わっていらした作品からも想像できないと思います。
体験版でさえ。
こんなに密度のある作品だとは。こんなにエンターテイメントな作品だとは。
システムやUIはやや古めかしいところもありますが、それ以外全てのクオリティが凄まじい。
音が、テキストが、ビジュアルが。
そしてストーリーがすごく良いのです。
アピールがすごく難しい作品でもあります。
ハードコアだし、サディスティックだし、表現が合わない人もいると思います。でもそれらを取り込んでなお、こんなまとめ方をしたストーリーは見たことが無い。
パッケージビジュアルを見たのでは、この魅力はわからないと思います。
ミスリードはありません。それほどに深い懐があるのです。
素材単体として見ていっても、クオリティが高い。
体験版をプレイされた方はわかると思いますが、
冒頭で登場するC.Cの精緻なビジュアルにまず圧倒されます。
これは基地カテドラルのビジュアルもそうですし、失楽園もそうです。差分まで美しい。
随所に見られるビジュアル的な演出もかなり良いですね。
よくタイミングを合わせ続けたものです。これは手間に頭が下がります。
音周りがすごくしっかりしています。
他ブランド作品で、音質が悪くてがっかりすることが多いのですが、BGVも含めて音声に問題なし。
音楽も非常に迫力があります。妖しいところの音楽、戦闘中のBGMと。BGMとして最適な曲ばかり。
前に出すぎないけれど、でもその場を確実に盛り上げてくれます。
音楽は宮内信子さんが担当。
テキスト誤植もそう見当たらない。
セリフ発言者が変わる場面でのタイミングも素晴らしい。
意図に気付くと、ああそこまで煮詰めているのかと大きく頷いてしまいます。
モノローグの時に、セリフを入れられそうな場合でも入れない場合がありますが、
これ、わざと入れてないなと感じる演出の強さ。
正直、ぞっとするほどのクオリティです。執念を感じる。
最初に感じたのは、体験版パートで複数の選択肢が現れたこと。
また、その選択肢のうち一つの提示が、あのキニスン司令によって為されたこと。キニスン司令は、月軌道会戦において特殊戦技兵団投入を押し切って投入、最前線基地となるカテドラル建造にも尽力した人物。
リゼット・オージュローが兵としての英雄だとしたら、キニスンは指揮官としての英雄といわれています。
そのキニスン司令の話術が凄く、そうか、人の上に立つ存在ってこういうものなんだと納得させられてしまうのです。
キニスン司令は、飯塚みのりたちの敵ではないのです。
それでも敵になることがある。キニスン司令が見ている先が違うから。
この視座の高さが、司令官なのだと。
キニスン司令は、その評判通り、目的のために徹底しています。
体験版では、地球で放送されているプロパガンダとは顔が全く違い、
そのせいでしょうか、どこか異様な雰囲気を備えています。
鉄の男でありながら、イリューシャ・ペトロヴナをあっけなく手中に収める手練。
若くとも、決してイリューシャ・ペトロヴナは簡単な少女ではありません。
地球ではアイドルとして様々な営業をこなしてきた経験があります。
キニスン司令の鉄の意志は、できることは全部やる徹底を備えているのです。
だからこそ、知覚する。
苦い笑いと共に「女衒の仕事」と客観評価すら為せる、自身の知覚外の何かに。
しかしこのキニスン司令を、物語は意外な扱いをします。
いや、物語上でここまで育てたキニスン司令だからこそ、場が締まるのでしょう。
作品に倣って、育て上げたキャラクタを”消費”したと表現するべきでしょうか。
お陰で、物語の深さがどこまであるのか分からなくなりました。
キニスン司令と同様に、それぞれのキャラクタをしっかりと描写させていく。
散りばめられたものが一気に表現される場面では、そのキャラクタにとってのクライマックス。
読み応えがあります。
体験版をプレイされると分かると思いますが、
飯塚みのりたち統合軍士官学校生は、苛烈な体験を経て魔法少女へと変わります。
宇宙的刺胞生物C.Cの思考や戦力は不明。
魔法少女の力の原理も不明。
分からないけど戦うしかない状況、だというのに、戦って帰還した最前線基地カテドラルでも苛烈な責めを受けます。
酷く重い展開を描いても、八方塞がりの展開を描いても、救うのは仲間たち。
酷い目に遭っても何度でも立ち上がる力となってくれる。
許し認め合う関係。
けれど状況は悪くなっていく。
C.Cの変異。基地内の環境変容。
飯塚みのりたち、魔法少女の不利に納得させられるのです。
これなら仕方ない。
その段階に不自然を覚えないからこそ、この先はどうなるのか?気になって仕方が無い。
じわじわと悪化する状況や描かれた不利、
テキスト、ビジュアルや音声と合わさってこそよく場が伝わるようになっているのです。
辛い目に遭い続けるのは飯塚みのりですが、キャラクタを良く分かっているセリフ選び。
飯塚みのりは、C.Cを倒すという目的のためにずっと努力できる。
それでいて自己評価はどうしても低い。魅力が無いと思っている。
そして、恋への憧れがあるから。
……基地で繰り返される行為には否定的。
そんなキャラクタから、どうして隠語が出て来るのか?
そこを、そういうものだとばかりに進めてしまわない。前提を無視しない。
きちんと順番がある。こういう丁寧さは本当に素晴らしいですね。
キャラクタを大事にしているなと。
その過程は、これなら飯塚みのりが折れてしまうのも仕方ない、そう思えるのです。
見ていて、ユーザも一緒に折れてしまうほど。
飯塚みのりは、たまたま頑健だった。精神的に。
誰もが死に、誰もが狂っていく中で、まともで在り続けた。
退廃。
C.Cと戦う最前線基地カテドラルに満ちた狂気は、飯塚みのりになんとか生存を許す程度。
いかに同年代最高戦績を誇るチームの一翼であったとしても、事態のコントロールができるわけではない。
地球では政治もある。様々な思惑が動くから現れるバーゲンホルム光臣。
渦中にいた飯塚みのりが心の置き所に定めた相手だとしても、
現れたバーゲンホルム光臣が、何か良いことをいってそれにあっさりなびくのでは、飯塚みのりではない。この狂気のカテドラルではない。ユーザが納得しない。
だからその前段に、もう一人を置くのですね。
上手すぎる。上手すぎます、展開が。
そして士官学校で好成績を残した時代を感じさせる、飯塚みのりの洗練された察知力。
それが例え、自信のなさからもたらされたものであったとしても、気付く飯塚みのりがいるから、物語が面白くなる。
飯塚みのりの同僚である如月七虹。
日頃の如月七虹は、どうにも緊張感の続かず、空気を読むことをせず、
しかし直観的な聡さがある。
ゆるっとした印象の如月七虹、常時ピリッとしている飯塚みのり、余裕を見せるイリューシャ・ペドロワ。
チーム三人のバランスで考えると、意外な役所があります。
それは、如月七虹が飯塚みのりとぶつかり合う場面。
これ、今谷皆美さん、すごく上手いなと感じてしまいました。
この場面のために、如月七虹の日頃の有り様があったのではないかと思うほど。
泣き叫ぶようにぶつける言葉は、目の前の飯塚みのりに対する「どうして」の感情。
言葉にすれば単純で、けれど複雑で様々な感情がない交ぜになっている声。
少なくとも。
この行動に出ながら、如月七虹は飯塚みのりに否定して欲しいと訴えるかのよう。
何かがおかしいとも思っているのです。でもそこは疑えない、そうしてきたから。
それでいて、自分は何をしているんだろう、どうしてこうなったんだろうという嘆きすらあるのです。
後の「みのりちゃんはやっぱり」を聴いて、確信してしまいました。
あと。
ふと気付いたのですが、バーゲンホルム光臣。
士官学校で飯塚みのりと競り合い、そして蛇の一族とすら呼ばれる政治的競争の渦中に居続けたキャラクタですが、
バーゲンホルム光臣と、キニスン司令とは、物事のアプローチが近いものがあるなと。
二人とも、自分の能力の終端が何処かを分かっていて、だから取捨選択していったのかなと。
やれること、やれないことを。やりたいことのために。男性キャラクタの描き方もなかなか良いと思うのですよね。
少なくとも、パッケージを開く前には想像していませんでした。
これだけよいキャラクタを描けるのだから、声を割り当てるとしたら、このスタッフさんたちはどんな声を選ぶのかな?と考えてみたりもしたくらいです。
それら全ての登場人物、魔法少女第一世代のリゼットやキルケ、麗なども巻き込み、
事態は大きく展開していきます。
C.Cの拠点たる失楽園、果ては……。
堪能しました。
壮大なエンターテイメント作品として、多くの方に”消費”してほしいと思います。
エンディング後に冒頭をプレイし直すと、すごい構造だと感じますね。
こんなに綴れるものではない、表現できるものではないと思います。
購入したものが豪華版ではなかったのですが、豪華版特典の「エピソード0」も読んだ方がより楽しめる気がしますね。
ダウンロード販売もあります。