FAVORITEさんの「ハッピーライヴ ショウアップ!」体験版プレイしました。

FAVORITEさんの新作は、「ハッピーライヴ ショウアップ」。
”絶対、夢を叶えてみせる! 恋と青春のパフォーミングADV”。

雪解けが始まった。
ラーシャ連合共和国の長い冬が終わろうとしている。
ユキハラアキトは、ライカスク駅を始発とするマーブル鉄道の出発に、補習の回避をお願いして歩き出すと、
小さい女の子が泣きじゃくっているのを見つけた。
他の通行人はその子を素通りしていくばかり。
世間の冷たさを感じながら、アキトも行動を起こせなかった。男1人で声をかけると不審者になってしまうかもしれない。
「どう、したの……? 大丈夫……?」
すると、アキトと同じ学園の制服の女子がその子に声を掛けていた。
それでアキトは安心して近づいていくことができた。
泣き止まない女の子に対して、アキトは手を差し出す。
「今から面白いものを見せてあげよう。俺の手を見てて」
そして深い呼吸のあと、掛け声に合わせて、差し出した手のひらに、かわいらしい土人形を出現させた。

「す、すごーい!」
完全に泣き止んでくれた小さな子の隣で、制服姿の女子も何事か呟いていた。
話を聞く内に、探して回っていたらしい母親が現れ、二人は無事に母子を引き合わせることができた。
二人が去ると、制服姿の女子は、
目をつぶって深く呼吸し、自分の髪の毛先をギュッと握りながら、アキトに言った。
「わ、私に、その……魔法を教えてくれませんか!?」元々内気なのか、小さな声と、大きな勢い込んだ声とで……。

体験版は、1.66GBでした。
原画は、ベコ太郎さん。
SD原画に、ミズタマさん。
シナリオは、高山大河さん。
シナリオは、高山大河さん。
うーん。やっぱりFAVORITEさんはすごいですね。
タイトルから、もしかしたら好みのジャンルではないかもしれないなと思っていました。
ですが、やっぱりプレイしてみないとわからないですね。
例えジャンルが合わないとしても、プレイしてみると良さが見つかることがあります。
今作の場合は、素材の良さ。
まず、音楽が途方もなくリッチで、聞いていてゾクゾクします。
スタート時点からしっとり流れる音楽ですが、圧巻だったのは、
ライカスク学園芸術科音楽コース、カーレンティア・ヴェリーベル(澤田なつさん)のヴァイオリン演奏。

本当にリッチで、よくこんな音を築きあげてくれたなと感じます。
厚みがあって、演奏会の中にいるような感じを味合わせてくれるのです。
カーレンティアの演奏は本当にヴァイオリン一本で演奏されているとは思えないほど豊かな音、とテキストで記されています。
その他も、朗らかな軽妙さを感じさせるアコーディオンの曲などは、この街の人々の性質をも表しているかのよう。
素晴らしいですね。音楽の担当はどなたなのでしょう。
SEもかなり良く、鉄道発車のベルは胸躍ります。
そして、背景。
どうして毎作こうも舞台を美しく彩れるのでしょう。
見ていると、旅情感をとにかく掻き立てます。
海外をモチーフとしたものなのでしょうけれど、行ってみたいような、行った気持ちになれるような素晴らしい背景です。
冒頭の、マーブル鉄道が走る背景も素晴らしかったのですが、
アキトの部屋も、美術監督が丹念に創り上げた映画の一コマのよう。
美しさがたまりません。見ているだけでドキドキします。

それで仕上げたラーシャという国が、すごく魅力的な場所と感じられるのです。
だから、そこにいるキャラクタも魅力的に感じる。
キャラクタの魅力が主となることが多いのですが、舞台で引っ張っていると感じました。
一方で、キャラクタビジュアルはもう少しかなと思います。
もう少しはっきりとした彩色のほうが良さそうですね。
さて。
この作品は、春が訪れた厳寒の国を舞台に、様々な芸事を行う人と場が描かれていきます。
その要素の一つとして魔法があります。
この世界では、魔法がインフラを担うような大きな力が無いが、パフォーマンスとしては用いられています。
ユキハラアキトは、偉大な魔法使いの親から魔法の教育を受けるも、反発して親の元を飛び出し、今では魔法と無縁の生活をしています。
そのため、下宿暮らし。学園でも普通科。勉強は身が入らないのか補習ギリギリ。
親への反発はあるものの、魔法に対してはそのままで良いのか分からない、といった姿勢に感じます。
魔法を使うことは無い、けれど、魔法を介して取り交わされる人の気持ちは良く分かっているというか。
明確な自覚があるわけでは無いけれど、そんな理由で関わることになったソフィア・トゥーリナ(米倉沙弥さん)が物語の起点となります。

幼い頃に発現して魔法の教育を受けるのが通例ですが、
ソフィアは、魔法の素質が見つかったのが本当に最近で、誰も先生役を受けてくれず困っていたようです。
学園の周りにあるような魔法教室は調べたようで、全部を当たるほどの度胸はないでしょうけれど、受け入れてくれそうなところは掛け合ったのに違いありません。
内気さゆえか、言いたいことを後から言い出す。
その時には自分の髪をギュッと握って、大きな声になってしまう。
妙に魅力的なキャラクタです。
しかし今まで魔法の訓練を受けなかったから、だけでなく、運動そのものをしてこなかったためか、
基礎訓練となるランニングも1kmをこなすことに苦労する。
ソフィアが発現した魔法にこだわる理由は、これまで何も無かったから。
プロになりたいという大それたことまでは考えなくても、変わりたいと思ったから。
この気持ちがとても良いですよね。アキトもそこに共感めいたものを抱いたようです。
アキトに基礎的なレクチャーを受けていると、同じ市民公園で練習をしていたらしいルー・マオに声を掛けられ、ネットTVの大会でパフォーマンスをすることになります。
自信のなさからくる引っ込み思案、でも昂ぶる感情が色々な人に伝わるものなのか、
ソフィアはカーレンティアの勧誘に成功します。
ルー・マオ(八ッ橋しなもんさん)は、対人距離が無いように振る舞う特徴で、
バレエ特定性ながらスランプ気味のクラリス・クローニャ(森崎乃々華さん)を引き込み、
そしてアキトも、演劇部に独りで残っていたペチカ・モニカ(井伊香織さん)の心を動かします。
このあたりの描写は、人と人との気持ちの物語になりそうな期待がありますよね。
そうして集まって、一旦合わせてみたいとルーが誘い、カーレンティアとセッションを行うのですが、
この場面も良いですね。
カーレンティアは学園でのヴァイオリン演奏でトップの座にありながら、ずっと同じ寸評を講師から受けていました。
「本気で弾いたことがない」。
アキトも、最初にカーレンティアの演奏を聴いた時に、非常に巧いが機械的、冷たいと感じ取りました。
テクニカルだけれど、エモーショナルではないということでしょう。
その二人のセッションでは、お互いの技術が高いからこそ、掛け合いのようになってさらにパフォーマンスが高まっていく。
そういう描写も良いですし、何より、機械的だと思われていた、本人もその自覚があったろうカーレンティアが、楽しそうに演奏するのです。

「うふ……! ふふふ……!!」
演奏が終わった直後、カーレンティアが笑い出す。笑うのです。
「こういうことがやりたかったから、人を集めてたんだ!」
ルーも、演奏が終わって、カーレンティアと見合うように笑い出します。
恐らくルーは、出会った彼女たちと一緒にやったなら、ジャンルが違うとしても、新しい体験ができると予感したから誘ったのでしょうね。
ルーは口は達者ではないけれど、そういった勘があるようで、最初にソフィアを誘ったときに、他の人たちは誘おうとは思わなかったと言います。
二人の即興は、確信に至った瞬間だったのでしょう。
体験版はそれほど長さが無いのに、駆け足の雰囲気がなく、今は明かせないからお預けといった物語展開も殆どありません。
進行が巧みだと感じます。
もちろんそれには、前述した素材の良さがあってのことだと思います。
話の進行も巧いのですが、その前段で、背景や音楽の良さを見せ付けているから。
ショーをADVで見せて面白くなるのかなと思っていたところがありましたが、これは素晴らしいですね。
しかし一点、理解が及ばないところがあります。
ソフィアは魔法に、キラキラを見出したのでしょう。
カーレンティアの演奏を観に行く理由も、魔法を使うことでなりたい姿は、キラキラとした自分。
だから、アキトが見せた魔法に憧れたし、アキトに教えて欲しいのはキラキラになれる魔法ですよね。

ただ、アキトの伝手で魔法を習うことが出来る師匠に出向いて、
その師匠が人に教えることが難しい容態だったとして、
もうダメだとソフィアが泣き出す理由、これで終わりと発言する理由がいまいち分からなかったです。
だって、他の師に師に就いても、どのみちアキトにも教わることはソフィア自身が申し出ているわけです。
そこで謝る、断るということは、アキトに教わっても未来が無いと思っていることにならないでしょうか。
うーん。
良く分からなくて3回ほど読み直したのですが、その先にいっても解消にならない。
この箇所の理解の仕方を教えて欲しいです。
後に、「やりたい、やりたいよぉ……」と米倉沙弥さん、すごく良い演技をされているのですが……。
それくらいの気持ちなら、改めてアキトに頼み込む姿勢を取るのではないかと。
ソフィアの性格的に、その日でなく、後日にでも。
誰も魔法を教えてくれなかったわけですよね。でも関わってくれた、憧れの光明を見せてくれた人なのだから。
でないと、憧れに惹かれたという流れと合わない気がしました。
それでも、本当の本当に背景が美しいです。
これは彼女たちが練習を行う学園施設のレッスン棟。
朝時間帯の木床の美しさはたまりません。いい足音がしそうです。
窓から差し込む光で、埃が微かに見える。
夕方差分などは陽光の美しさもありますが、ぜひダンスミラー側に注目してほしい。
鏡に室内が綺麗に映るだけではなくて、柱と壁の塗装剥げに。
歴史深い街並み。この学園も歴史が相当にあるのでしょうね。そういったことが伝わります。
公式サイトを確認すると、まだまだ他にも見応えのあるラーシャの街並みが見られそう。
果たして、ペチカは怒り出さずに、参加を渋っていたクラリスは首を縦に振り、
そして何よりソフィアは魔法を人前で見せることができるようになって、
ハラショーTVへ出演できるようになるのでしょうか。
2021年5月28日(金)発売予定です。
げっちゅ屋特典としてドラマCD「ソフィーとカーチャの大切な日」が付属します。
本当だったら、ブランド合同ライブイベント「Orange Carnival」でも何かできたのでしょうね。
ダウンロード販売もあります。