Aino+Linksさんの「創作彼女の恋愛公式」体験版プレイしました。

Aino+Linksさんのデビュー作は、「創作彼女の恋愛公式」。
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「絶対、手紙……書くから」
「うん……わたしも、ちゃんと書く」

それから数年。
月乃美浜市に転居、親戚の元に居候することにした鏡寿季は、
この春から、才華学園に通うことを決めていた。
才華学園は、学生として一般教養を学びながら、クリエイターとしての能力を高められる学園。
講師も現役のクリエイターを多数起用し、設備も最新鋭。建物までが何とも独特な形状だ。

鏡寿季は、入学前に実績を備えている。
2年前に発売した「Create Number Girls」という同人ノベルゲームにおいて、大きなヒットを得た。
青春恋愛モノ。鏡寿季は、CNG制作において音楽と絵以外全てを担当した”toshi”として、名を上げた。
しかし、昨年の夏。
鏡寿季が出したライトノベルが、「True endの描き方」というADVゲームに似てしまっていた。
それで、心が折れてしまった。
ネットで叩かれたから、ではなく。”COLORLESS”という作者との実力差を圧倒的なものと感じて。

絶望していたところ、人気声優、月見桐奈のそのインタビューを聞く。
「未来の自分に任せず、今の自分で解決したい」
その言葉で、もう一度立ち向かおうとして決めた、才華学園への入学初日。
いつまでも引きずっていたらだめだと、この事をも思い切るつもりで手紙を認めた。

彩瀬逢桜。子供の頃からあらゆることで競い合ってきたライバル。
あることをきっかけに、一緒に色々なことをやる同士となった。

「野球がしたい」と彼女の一声で一緒に入部し、エースピッチャーになっていた。
小説を書くと言い出し、入賞していた。
どちらも負けたと納得していた。そして、置いて行かれたくないと思っていた。

一緒に居たかった。
あの頃、間違いなく、鏡寿季は彩瀬逢桜に恋していると意識していた。

転校で距離が離れ、文通の約束をして、ある頃、ぱたりと手紙が届かなくなった相手。
嫌われたと思い、失恋したと思いながらも、ずっとどこかで気になっていた。
その気持ちに、ケジメをつけようと思ったのだ。

意を決してポストへ投函しようとしたその手紙は、春一番ともいえる突風がさらい、
街を一望できる高台にいた、彼女の元へ……。
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体験版は、1.59GBでした。

原画は、有葉さん。
SD原画は、九条だんぼさん。
アートディレクターは、志水マサトシさん。
企画・シナリオ・ディレクション・プロデュースを、工藤啓介さん。
音楽は、樋口秀樹さん、柳英一朗さん、西坂恭平さん。
作中作のイラストがあり、永山ゆうのんさん、TwinBoxさんが担当しています。


うーん。システム、どうしてこんな風になってしまっているのでしょうか。

このあかべぇさん系列のシステムは、従前から少々クセがあります。
ベースは吉里吉里Zですが。
まず、セーブファイルが少ない。セーブしなくて良いタイプの作品なのでしょうか。
体験版部分だけで全てのページが埋まっているのですが。
任意の場所へ振り返ることのできるのがADVの強みだと思いますので、ここは改良が欲しいです。
オートモード。
オートモードを解除しないとセーブ出来ない仕様なのですが、解除しようとするとダイアログが先に進んでしまいます。
セーブしたい箇所は前の行になりますから、バックログを開き、バックログジャンプを実行。
そしてやっとセーブする流れ。手間です。
オートモードボタンをクリックすると、セリフが中断、次のダイアログへ飛ばされてしまいます。
つまりオートモードボタンを押すタイミングが決まっている。
また、ウィンドウサイズの認識がおかしいのか、フルスクリーンより大きな画面となって開いてしまいます。
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これが画面に映る全て。こうなってしまうと強制終了させるしかありません。
さらに、プレイしていると、ウインドウ右側のボタンセットが消失します。
消失したボタンは、バックログジャンプやタイトルへ戻る、CONTINUEの使用では復活しません。
システム終了でもです。
バックログジャンプに問題があるのでしょうか。音楽が鳴らなくなったりもします。
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セーブ箇所からのロードで、やっと復活します。メモリの開放が問題なのでしょうか。
細かいところでいえば、バックログ画面におけるカーソル変化はセリフ全体に設定されていますが、
押したところで音声再生になりません。
再生されるのは、VOICEと記載のある箇所だけです。

SAVEしようと開くと、最後にセーブしたページが後半11~20の場合、そこへ展開してくれない。
一方で、LOADしようと開くと、最後のファイルを表示しつつ、しかしセーブリストは前半1~10のまま。ちぐはぐです。

プレイしにくいです。言い切ってしまうと申し訳ないですが、バグだらけ。
このシステムはかなり長い間用いられてきているはずです。
リードユーザーをデバッガーにするのは辞めませんか。
バグの全てを潰せないのはわかりますが、これは試していないのではありませんか。
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開発が大変なのは伝わります。
でも、体験版だから、とは捉えることができません。
ユーザ体験としては、最初に出会った状態こそがコンテンツの印象を決めてしまうものだからです。
読み進めるのがこのタイプのゲームの触れ方です。
そこに障害をもたらし、物語の邪魔をしているのはもったいないです。

(# 追記 体験版ver1.10では、JUMP機能に安定性が出てきました。ウインドウサイズの修正も期待したいです)


では、作品内容。
気になったところが随所にありすぎて、接し方に気づくのに数日要しました。

引っかかり、耐えきれなくなったら読むのを止め、
数日に渡って一通り進めましたが、セーブファイルは、ほぼ全て引っかかりで200埋まりました。
最後の最後になって、やっと接し方に気づけました。
これ、ウソシリーズのニュアンスなのだと思います。

当初。
「創作彼女の恋愛公式」というタイトルで、恋愛が主であるかのように感じていました。
また、エピソードが、志水マサトシさんが関わっていらした「恋×シンアイ彼女」のようにも思えました。
シナリオライター。物書きの鏡寿季。届かない手紙。
幼なじみの彩瀬逢桜は、再会すると大成して名を轟かす恋愛小説家になっていた。
この二人の関係性が、特にその雰囲気がありますよね。

また、次章で登場する作中作「エンラブ」。
告白すると彼女は去って行く、というストーリーが、なお。

そうした視点でこの作品を見てしまったので、とにかく引っかかりが凄まじかったです。

ウソシリーズの良さは、素直になれない表象を前に置き、
でも隠していない気持ちをぶつける形が心地良く。
キャラクタの魅力も強くて、単作4連作なのに、1作終えると次の作品、つまり次のヒロインが気になった。
そして、作風としてはライトな読み物でもありました。

この作品も同じ構造といえるでしょう。
話区切り、話ごと1ヒロインの登板回。
その区切りのため、やや無理をしている箇所も見られますが。

このことに長らく気づかなかったため、とにかく引っかかる箇所が多かったです。
読み進めるのが辛かった。
タイトルやビジュアルの強さ、ピアノを主体にした曲の印象に引っ張られすぎること無く、
細かい箇所を無視し、感動作だと身構えずに読み進めるべきだと思います。
まだ、体験版なのです。
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力を抜いて見てみると、ビジュアルの良さが際立ちます。
目元。ほんとにすごいですね。瞳の描き込みだけでなく眉や瞼あたりにも注目です。
表情の豊かさ、年齢に合わせた表情の描き分け。表情を見ていたくなるのです。

服装のデザイン、選び方。
後半、ヒロイン一堂が水着になる機会がありますが、この肌まわりと水着の描き込み。
そして私服。そうですね、逢桜の立ち絵がわかりやすいでしょうか。
制服と私服、それに和服給仕服の立ち絵を見ると、すごいなと感心します。
服装差分って素体に載せるものだと思うのですが、全然違うものとして受け止められる。
それでいて、すごく服装がかわいい。
有葉さんはまだ先へ行こうとするのだなと強く思えます。
このあたりは、製品版特典の設定資料集でも堪能できそうです。

九条だんぼさんのSDもかなりよくて、画面を見ているだけでも楽しめます。
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恋模様がどうなるのか、といった期待を抱き過ぎずに、
画面に流れる彼らの群像劇を楽しむのも、接し方の一つなのかも知れません。
それこそ、映画のように。
そのほうが素直に物語を受け取れて、最後まで楽しみきることができるはずです。

タイトル画面、ビジュアルから想起されるイメージも良いですし、
予約も好調に向かうと思います。

繰り返しになりますが、システムだけは本当に何とかして欲しいです。

口元の表現の多彩さだけでなく、瞳の描き込みの細緻さだけでなく、指先も綺麗なんですよね。
有葉さんはどんどんレベルアップしていってるのですよね。
凪間ゆめみ、すごくかわいいですね。
くすはらゆいさんは、凪間ゆめみにすごくマッチしていますね。いい配役です。
あと、仲良くなれそうな気がします。
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それとエリスはいいですよね。

どうしても残念に思ってしまうのは、
お嬢様でありながら同人ゲーム作家、そして家の習わしで外出時には和服という獅堂紫音(烏丸そらさん)や、
裏表が激しい人気声優、月見桐奈(夏峰いろはさん)のマネージャーにして、
羽衣石姫子(小鳥居夕花さん)や凪間ちなみ(遠野そよぎさん)の同期でもある、
花咲芽衣(恋羽もこさん)がヒロインにはならなさそうだということ。

獅堂紫音はスタイルも素晴らしい現代的ツンデレで、toshiのライトノベル新作リリースをチェックするくらいですし、鏡寿季も黒髪清楚タイプは好きなはず。
良家のお嬢様のようですが、双子の兄、獅堂悠真(四葉ヨウさん)は家から放逐される可能性を口にしていますので、エピソードが期待できます。

そして、花咲芽衣は、頑張っていたのは過去だと述べたりします。
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「もっと色んなことに挑戦しておけばよかったとか、もっといっぱい努力しておけばよかったとか……」

この二人も、かなりのエピソードが楽しめそうなキャラクタですし、
ビジュアルも声も良いので、できれば、何か見たいのですが。


2021年9月24日 11月26日(金)発売予定です。

ダウンロード販売もあります。


以下は、引っかかっていた箇所の記録です。

パッケージ特典に彩瀬逢桜の万年筆があることに気付いて、もしかしたら製品版パートで印象をひっくり返してくる可能性があるのです。
いえ、これは、ひっくり返してくれる可能性を期待しているための、メモです。

まず、引っかかりの場所。言葉の選び方。

出そうとした逢桜宛の手紙を風がさらっていくことに、鏡寿季は悪態をつきますが、
「なんで新学期早々こんなことになるんだよ……!」というのは少しおかしく思います。
過去との決別をの意を込めて、手紙を出そうとしたのですよね?
だとしたら自分の意志を邪魔されたことに悪態をつくものではありませんか。
それに、新学期ではなく新入学ですよね。転居までした新天地ですよね。

少し気恥ずかしさが出た逢桜と、学園の課題で組むことになったとき。
プロット作成に手を挙げた鏡寿季が、プロット作成を渋々了承するのは少しおかしく感じます。

場所を変えてプロット作成を試みる鏡寿季が、苦しんでいるところを雪妃エレナ(葉月ひかりさん)に見つかり、
しかし寿季は話すことを避けようとします。
既に他の人にもトラウマの話は聞いてもらい、それで大分軽減した自覚があるはずなのに。クリエイターとしての復活をプロット作成から試そうと意気込んだはずなのに。

鏡寿季が彩坂桜の新作を居候先で読むのに、真新しいベッドと表記されます。
ベッドを新調したのかと思ってしまいます。

茶店をこの場所にした理由を、彩瀬逢桜は、立地はいいけど物価が高いと表現します。
物価というと、地価ではなく仕入原価のことを指しているように思えてしまいます。
経営上、仕入原価は仕入れ先業者の選定で変わるもので、場所で大きく変わることがありませんよね。

執筆に挑むと嘔吐やめまいが起きる、心因性と思しき鏡寿季の症状は、体験版中で回復していきます。
特段大きな切っ掛けは用意されていないけれど、これは周囲に同期がいることで心の休息が取れたという理解で良いでしょうか。

あと鏡寿季、第2話で「エンラブ」への取り組み方に対して、作者の羽石修に対して答え合わせをしています。
最終的には、この仕掛けの発注者、花咲芽衣の要望を満たしているし、作者も答えているので問題無いのですが、
羽石修も花咲芽衣も、自分を消してしまうことや答えを拾ってこようとする姿勢を問題視していたのではありませんか。
ちょっとズレがあるように思います。

長々書いていると落ち込みますので、このあたりで切り上げますが、
あとビジュアル面で唯一気になるのは、彩瀬逢桜、3年前とするには少し幼い発注な気がします。
すごくかわいらしいのですけどね。6~8年くらい前に見えます。

喫茶店Likkaへの初回訪問時に流れるSEパンが非常に短くて、まるで曲が流れているようになっています。フリージャズめいている。

月見坂桐葉が選んだ喫茶店は、地下で目立たないということですが、逆にすごく人気が出そうですよね。
窓から採光があり、料理は意外と美味しい。固定客がかなり居そうです。
……はっきり書きますと、くぐつ草は人気ですよね。客層も幅広くてお子さん連れからラムアイスコーヒーを愛する方まで。
となると、今後の展開として、バレてしまうとしたら、喫茶店での密会でしょうか。

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さて。
この作品の方向性に期待したお話に戻ります。

1話ごとに1ヒロインで、決着がほとんどついた状態です。
体験版では、彩瀬逢桜と月見坂桐葉。
このキャラクタと鏡寿季とは、恋愛関係が成立しない提示に思わせています。

残りの単話で、他のヒロイン達が同じように成立しないとする流れが提示されるとして、
では、誰か特定のヒロインと恋愛関係に至るのか?

至るとしたら、相当な重み付けをしないと納得しづらい構成に思います。
何故、それ以前の登板話で恋愛関係に至らなかったか、何故、今回の話では至るのか。

あるいは。
全ての章において恋愛関係に至らないのか。それもチャレンジングだと思います。在って良いかもしれません。
どんな終わり方になるのかなと、少し興味が沸いています。

でも、恐らくですが、メインヒロインはやはり、彩瀬逢桜(明羽杏子さん)なのでしょう。
そう思ったのは、何とか2回目読み直しを進めていたときです。
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彩瀬逢桜は、3年前に父親の転勤で離れているはず。
転勤ですから、父親の仕事は茶店ではなかったはずです。当時は。

となると、やはり病気か何かが逢桜を襲ったのでしょう。
転勤と覆い隠し療養に移らなければならず、最初のうちは療養先から手紙を返せていた。
そのうち症状が悪化していったのかもしれない。

とまあ、ここまでは分かるはずですが、その視点で改めて読み直してみたのです。

幼い頃はハッピーエンド志向だった逢桜が、恋愛小説家として成功を修め、
しかし作風がビターエンドばかりを書くようになってしまったのは、
逢桜自身では、もう届かないという気持ちがあったからなのかもしれません。
それでも一縷を懸けて、才華学園へ通った。

きっと周囲に頼み込んで回ったのでしょう。約束を果たすために。

逢桜の母は、学園初日に帰宅した逢桜へこう声を掛けています。
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「おかえりなさい。大丈夫だった?」
「うん。特に問題はなく」
~中略~
「まさか寿季くんとまた会えるなんてねぇ……」
逢桜の父も、「オレからするとお前はずっと子供だよ。昔も今も」と話していますが、
これ、意味が分かると、とても深い親子愛のあるセリフなのですね。

このあたり、寿季は気付けないでいますが無理もないと思います。
ユーザに対しても、気付かせつつ、気付かせないようにしているところが上手いですね。
すごく自然に話題を流そうとしている。
こういう所、流石だなと思います。

ともあれ、父母の話し振りからすると、相当に良くない状態だったようです。
だから、その後に逢桜が語る、寿季へ手紙を出せなくなった理由は、”ウソ”なのだと。
「忙しくなってしまって、既に時間が経っていて……今更返すことに気まずさを感じてしまってた」
恐らくそれは、意識すら無い期間、病院のベッドの上で過ごした期間。

それでも、寿季と再会した第1話で、逢桜は再びヘタレてしまった。
聡い逢桜は、寿季の気持ちに気づいてしまったのかも知れない。
あるいは、思ったより悪化したのかもしれない。ビターエンドを描き続けて、妙に引っ込み思案になってしまったのかもしれない。

最初から最後まで、この作品は逢桜と寿季の、二人の物語。
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「――わたし、来週には引っ越すんだ」
幼い容姿ながら、ずっとずっと大人だったのです。
もう、この別れの時点で、ある程度の覚悟を決めた後だったのかも知れません。
「でも、伝えちゃったらいつものトシくんじゃなくなっちゃうかもって思ったから……」
これは本音なのでしょう。

だから、手紙を書く、の後に、「物語を書いていれば繋がっていられるから」という、前後繋がりのないセリフを言うのでしょう。
言えない、言わない。けど、どこかで伝わって欲しい。覚悟と想いが入り交じっていたのだと。

ノベル科なのにノベル業界でセールスを誇ったものを知らないのは、
小説ジャンル専任だからではなく、知るほど情報機器に自由に触れられない状態だったのかもしれません。
半年前までは野球ができていた、これもウソでしょう。
足を怪我をした、のではないけれど、医者に激しい運動は避けるように言われてはいるのでしょう。

彩瀬逢桜は、ウソつきです。
だから、月見坂桐葉のウソに気付く。
ウソをついているから、ウソをついている人に気付きやすいのです。
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このヒロインに、明羽杏子さん。
いや、本当に声と合いますね。素晴らしいです。

純な想い故に、ウソをつき続けている。
隙を見せないように。でも希に、取りこぼして本音が出てしまう。ほんの僅かに。
演技、すごく良いですよね。
例えば、寿季が髪や服を整えるために付き添いに出掛けて、お礼にと寿季から食事に誘われたのも、ほんのり嬉しそうに聞こえてしまいます。

この逢桜との物語を、製品版パートでしっかり描き出してくれるのならば、
それはもう素晴らしいものとなるのではないでしょうか。

ここまで大仰に仕掛けを施したのだから、やってくれていますよね、きっと。

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きっと、あの頃からずっと、大事に想っていた。
未だに、神様にだって願うほど、強い想いとして横たえているのだと。

そんな、彩瀬逢桜と鏡寿季との、物語だと、期待して。