HARUKAZEさんの「Monkeys!¡」体験版をプレイしました。
HARUKAZEさんの新作は「Monkeys!¡」。
国内有数のヤンキー校、雑木林東校で番長の浮木々猿吉は、
1学期に1回ある体育祭の騎馬戦で勝利を収めた。
勝利に沸く中、だが、猿吉の8.0ある視力が捉えたのは、廃校計画書。
猿吉は色々調べて、そして走る。
鉢巻きをして、月島大病院の個室で、意識の乏しい黒髪の少女に頼み込む。
「なんか、もういいわ。ちょっと予定を繰り下げるわ」身体につけられた呼吸器や点滴の管を一つずつ外していき、
黒髪の少女、月島カラスは、暇でなくなることを思いつく。
そして。
カラスは、猿吉にジュリアと名を与え、硝子ノ宮女子に通わせる。
……女装をさせて……。
「……。おう、どうだ」
「あはははははは! わははははは!」
カラスは、上機嫌だった。
病院のベッドで寝ていた姿からは想像できない、笑い声をあげて――。
体験版は、860MBでした。
企画脚本は、はとさん。
原画は、cakeさんです。
とても面白かったです。
ちょっとズレたギャグが入り交じる、スラップスティックで息もつかせぬ展開、
それぞれのリアルをも盛り込んで、やはり一気呵成に進行していきます。
一気に進めることが出来るので気付きにくいですが、テキストボリュームもありますし、
何よりビジュアル素材の豊富さ。この物量の多さは、「マルコと銀河竜」でも見られました。
さらに。
今作では、その豊富なビジュアル素材の見せ方を新たなものに変えています。
コミック方式。
コマを少しずつ表示させ、表示したコマにフォーカス、セリフが発されていきます。
このコミック方式の表現が、ユーザ側に、読み進め易さと一文に対する印象付けを生んでいます。クリックする手を止めさせる効果もあると思います。
テンポの良さ、1セリフずつ楔を打ち込み。
セリフだけの会話劇にしない。声優さんの演技にだけ頼らない。ビジュアルのみではサラッと見流されることもある。
互いの表現が相乗効果を生んでいます。
本当のコミックなら、セリフも同じ紙面に置かねばならないところですが、
セリフを置き換えることのテキストウィンドウがあります。
バトルの緊張感、スピード感も演出できていますし、
終わってパッと場の雰囲気が切り替わるのもすごく上手く伝わります。
この急な雰囲気転換は、コミックでは難しいでしょう。
これぞ、ADVならでは。
見事な表現手法を完成させていると思います。
いってみれば、AUTOモードで進めることで、
アニメーションのように楽しむことができるのです。
コマごとにCG1枚の作成コストと、コマだけ別な箇所で用いられることもあるスクリプト管理になりますので、
見る側は賞賛したいのですが、これができるブランドさんはあまり無いだろうな、とも思います。頭が下がりますね。
cakeさんのデザインが素晴らしく良く、スレンダーさとボリューム感と、キャラクタのかわいらしさが併存しています。
なので画面を見ていて楽しい。
また、キャラクタそれぞれの声の配役も素晴らしい。
演技が上手く,声質も良い方ばかり。聴いていてハッとします。
主人公に声を入れないことが多い風潮にありますが、本作では入れて大正解ですね。
さて、それらの表現でどんな物語が進んでいくかというと。
浮木々猿吉(沢澤砂羽さん)は、雑木林東校番長。
廃校は、共学化で道が開ける可能性があると、月島財閥の娘カラスに頼み込みますが、
提示されたのは、猿吉自身が入り込み、硝子ノ宮の皆から信頼を勝ち取り、説得すること。
入り込むために、女装をすること。
信頼を得るためには、形から入り姿勢を整えることが重要であるため。
そして、月島カラスは飽いていたから。
浮木々猿吉はジュリアと名乗り、月島カラスとは共犯ともいえる仲になります。
硝子ノ宮は、月島カラスもそうですが、財閥の娘が多い。
学園運営を握るのは、御三家の三人。
この三人を説得しなくてはなりません。
霧灯ユキ(ゆずはちみつさん)
女子から相当な人気がある、硝子ノ宮女子の憧れの的。
歴史ある演劇部に所属する男装麗人。
男役をこなし、パンツスタイル。2階から颯爽と飛び降りることも様になる。
気分屋という噂もありますが、その力は見ることで相手に言うことをきかせてしまうもの。
番長であるはずのジュリアこと猿吉すら、その力には抗えない。
一緒にサウナに入ることを、断ることができない。
そして、ジュリアが男らしいと興味を持つ。
硝子ノ宮硝子(HIKARIさん)
硝子ノ宮女子たちの模範であるよう、誰よりも早く学校に来て、誰よりも遅く帰宅する。
御三家の三人が一同に介するお茶会を仕切り、
硝子ノ宮女子全ての姉であろうとし、規範や振る舞いを指導する。
能力として、姉として抱きしめた相手の個人情報を全て知り尽くすことができる。
身長、スリーサイズ、昨日の食事から口座番号なども。
最初に、ジュリアが男性であることに気付いてしまうようです。
そして、月島 カラス(美天羽礼さん)
御三家の一人にして、月島財閥の娘。
入院していた病院も、猿吉たちの雑木林東校を駐車場にすることを請け負う建設会社も、
全て月島財閥のもの。
甘い物が大好きで、授業中にマカロンを食べたり、遠足にチョコフォンデュを持ち込んだこともある。
甘い物は、猿吉が常備しているバナナでも可。
姉妹仲というのか、他の御三家との仲は悪くない。
硝子ノ宮女子でも、孤立しているということもない。
なのに、退屈が故に死のうとしていた。
月島カラスは、経済的には問題無さそうですが、
入院時に見舞っていたのは、血縁者でなく叔母であること。
父母について、「自由にしたのだから」と述べています。
そして、幼いカラスは一人で人形遊びをしていた様子。
HARUKAZEさんの作品では、どれもが、家庭環境に問題を抱えた主要人物が登場します。
月島カラスも、その一人なのでしょう。
もちろん、浮木々猿吉(沢澤砂羽さん)も。
名付けの母親は男運が悪く、そのまま蒸発。
蒸発を知らせてきたのは、何人目かの再婚相手。
その義父は新たに再婚して、しかし離婚。
離婚相手との間に娘をもうけ、猿吉はその娘と全く血が繋がっていないが仲は良い。
いまは、生みの母親の最後の相手だという八百屋の義父の家で暮らしている。
「残ったのは知らない家族。よくある話だ」
雑木林東校という大事な場所を守るため、共学化を目指して硝子ノ宮へ潜り込みますが、
男と女が一緒になるとはどういうことなのか、猿吉には見出せないでいます。
沢澤砂羽さんの演技が凄まじくて、違和感が全くありません。
掛け合うこの多い、美天羽礼さんも素晴らしいですね。
体験版では、硝子ノ宮硝子の課したお嬢様として訓練、
ウォーキングの実技と筆記試験をくぐり抜けますが、
硝子の抱きしめる特技のせいか、ジュリアに違和感を抱いてしまいます。
そして。
迂闊にも、疑いを増すような現場を見られてしまい……。
それだけではありません。
硝子ノ宮には夜学があり、メバチ(原ぽぽ子さん)とぐっぴー(朝乃りのさん)は、
ジュリアと成績が同じくらいであるため、何かと行動を共にすることが多くなりますが、
メバチはジュリアこと猿吉と同じくらいの殺気またはオーラを発することできますし、
ぐっぴーもジュリアがヤンキーであると何となくわかってしまいます。
体験版時点で、既に疑われてしまう状況。
本編では、どうなっていくのでしょうか。
廃校を免れることはできるのか。
月島カラスは、暇で死を選ばないようになるのか。
浮木々猿吉が女装して硝子ノ宮女子に通うだけでなく、
月島カラスが男装して雑木林東校に入り込む場面もあるのですが、
ここで、月島カラスはとても楽しそうなのですよね。
「へたっぴ♪」
このまま、生きていれば楽しいと月島カラスが実感できていくと良いなと、この場面で感じました。
本当に素晴らしいです。
これぞ、今のHARUKAZEさんなのだと、納得と確信が抱ける体験版でした。あ、そうそう。
「ノラと皇女と野良猫ハート」の「ネコのお考え」に対し、
「Monkeys!¡」では、「この男子ムリ!!」「この女子ムリ!!」が入っています。
クスッと笑うことのできる幕間、良いですよね。
2021年10月29日(金)発売予定です。
ダウンロード販売もあります。