Lump of Sugarさんの「ゆまほろめ」体験版プレイしました。

Lump of Sugarさんの新作は、「ゆまほろめ~時を停めた館で明日を探す迷子たち~」。

「……どこだ、ここ」
山元歩未は直前の記憶を探る。
確か、1学期の終業式には出ず、サボって電車に乗っていた。
それが、どこかの家の中にいた。とても広く、洋風で、なんだか映画のセットみたいな。

「――あ、起きてた」
山元歩未のいる部屋へ、扉を開けて入ってきたのは、女の子。
かわいらしい笑顔で気さくに話し掛けてくるが、頭の上に耳がある。

姿形、場所に戸惑う山元歩未に、その女の子は話し出す。
「ここはねえ……私は『時を停めた館』って呼んでる」と……。
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体験版は、1.30GBでした。
インストールが必要です。

原画は、萌木原ふみたけさん。
SD原画は、流かさねさん。
シナリオは、中島大河さん。
ディレクターは、水月紗鳥さん。

システムは、Ethornell、なのですが……。
本作「ゆまほろめ」は、ミステリ寄りの作風です。
それなのに、セーブファイルが少なすぎます。

ちょっとした違いやズレ。これらがミステリでは味わいとなります。
今の記述と先程の記述。読み返したい時に戻ることができてこそ、ミステリです。
このシステムにはそれがありません。セーブファイルを自在に記録できる余地が無い。
正直なところ、体験版だけで全てのセーブファイルは埋まりました。クイックセーブファイルもです。

このミステリに、登場するキャラクタたちの関係性が関わっているのは間違いなく、
ならば、キャラクタ心理に繋がるものも記録したくなるものですが、セーブファイルに余裕がありません。

つまり、読み進める楽しさを、システムが減らしているといえます。
どうして改善されないのでしょうね。

もう少しいうと、フォントも気になります。
これ、この作品を見るのにふさわしいフォントでしょうか。
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システムが選んだ、ブランドが選んだとは言い難いですが、イメージを選ばなかったとはいえてしまいます。
そして、急に画面全体がチープに見えてしまう、とも。

例えば多くのアニメーション作品が、スタッフロールのフォントすらきちんと選ぶのは、間違いなく作品イメージを大事にしたいからですよね。

セーブファイル、フォント、どちらもすごくもったいないと感じます。

キャラクタビジュアルの魅力はさらに上がっています。
表情差分に新しい表現が盛り込まれていて、萌木原ふみたけさんはまだまだ進化していくのだなと感じます。
特にミーナ。キャラクタ比較表があるとしたら、ミーナは一番背が低い設定でしょう。
だというのに、表情は豊かというか、成熟した表情を浮かべることが多いです。
口元にそれが現れていて、体験版収録のシーンも含めて、魅力的な表現が追加されています。

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さて。
ランプオブシュガーさんとしては珍しい作風。ブランド初といっていい要素が二つ。
大きな謎、館の存在が物語の場に置かれた、クローズドサークルであること、です。

何よりも、館でしょうか。

窓が無く。光源が見当たらないが明かりがあり、何よりも時間が進まないという。
時間の分かるものが何も置かれて無く、コンセントも無く。持っていたスマホの電源も入らない。
建物に端はあるはずと歩き出しても、廊下の終端が見えない。
歩き疲れて戻っても、出てきたはずの扉が見当たらない。不意に通路が終わったり、別の扉が現れたりする。

食材は尽きることが無さそうだし、お風呂にはお湯がいつも沸いている。
個室にはトイレが備え付けられ、必要な衣類や食器はいつの間にか用意されている。

そして、扉を超えると、意図しない場所へ出ることもある。
無機質な白いだけの部屋。青空ばかりが描かれた部屋。サイコロがびっしり描かれた部屋。
四次元構造的に、出たはずの同じ部屋に戻ってくることさえ。

この館は、構造を変えるといいます。
原理に心理的なものがあるとしたら、山元歩未が館の中で久しぶりに再会した幼馴染みたちにも、何かがあるのでしょうか。
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左から、岩沼鈴(美斎れんとさん)。
料理も得意で、館で滞在中は料理担当に。
過去では、どちらかといえばお転婆で、全員を引っ張っていくタイプだったのに、かなり引っ込み思案に。
一方で、視界内の変化には敏感なようにも。

柴田奏子(相模恋さん)。
口が達者。館でも慌てず堂々としていた。
冷静に物事を見ている様が見て取れ、館の理に迫るような問いを繰り返す。恐らく頭の回転が速い。

川崎純麗(桃山いおんさん)。
やや感情的になりやすく、吊り目差分もあるくらい。館を出たいと一番強く表す。感情を表に出せる性質が、突破の切っ掛けになることもあるかもしれません。

ミーナ(三日月神奈さん)。
山元歩未に声を掛けた娘。獣耳がある。
館の知識は多少あり、ある程度は部屋を自在に行き来できるが、知らないことも多い。
全員に「遊ぼう」と声を掛ける。

山元歩未。
現時点では、ミーナを除く四人と幼馴染み。
ただし、記憶に空隙があり、もう一人居たような気がしている。
女の子のような名前でからかわれた幼少期から、ヒーローに憧れを抱き、空手で体を鍛えてきた。いまだ、変身ポーズなどは瞬時にできる。

四人に共通するのは、館に来た経路がわからないこと。直前の記憶が無いこと。
そして、焦燥感はあること。なのにその理由を忘れていることです。

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山元歩未が記憶に空白を作る直前、謎の建物が一瞬だけ映ります。
モニュメントだとして、何故そんな場所に行こうとしたのか。

モニュメントのある場所は僻地のようで、バスの停留所が木造だったり、蝉の声がうるさかったり。
川崎純麗も電車に乗っていたようですから、同じ場所に集まろうとした可能性もあります。
ヒロイン達はどこかしら、今の自分や自分の環境に納得がいっていないようにも見えます。
岩沼鈴は事あるごとに謝りますし、柴田奏子は熱意を無くしているようです。
山元歩未だって、空手で成果を上げてきたはずなのに、どうして終業式をサボろうとしたのか。

全員が忘れた誰かが、その理由なのか。
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とはいえ。
これまでの作品でも、キャラクタが主となり、そのために舞台が用意されている作風。
そして、そのキャラクタたちにとって美しい世界が用意されていることが多いです。
公式サイトやプロモーションからも、従前と変わらないアプローチに思えますので、心配になる展開は無いと思われます。

ミステリをスパイスに、どうやって夢幻を乗り越え、どんな明日を探すのでしょうか。


2022年6月24日(金)発売予定です。

ダウンロード販売もあります。


全く余談なのですが、少し気になったことを。

「……みんなちょっといいか?」から始まる、山元歩未の呼びかけ。
演出描写が足りないように思います。
セリフ内容は何も大したことをいってないのです。休憩しよう、落ち着こうとだけ。
それを聞くべきは、まず感情を剥き出しに反発した純麗になるかと思います。
浮ついているのは奏子もそうでしょう。鈴を落ち着かせる意図もあるのでしょう。
場面において、キャラクタたちが黙って聞いてくれたことから何か読み取るとしたら、このような感じに、つまり歩未のリーダーシップの発揮、ではあるのですが。
この場面に流されるBGM『ゆらり』からは、歩未の発言を後押しするかのよう。

けど、ユーザにはそれが伝わりにくい。
本当に伝わりにくいのです。画面越しには全く。

読み進めると、「視線がこちらへ集まってくる」との地の文に合わせて、キャラクタたちの表情差分が変わります。聞く姿勢になった、注目を集めたとの表現でしょう。
でも、それだけ。演出が弱いです。

これ、意図をテキストだけで表現するには、地の文が難しそうに思います。歩未視点で進行するため、それがどんな風に注目を惹いたか、何故キャラクタたちが注目したのかを描きにくい。
この場面に歩未の表情を描いたイベントCGがあると、視点を得られて見ている側に共感しやすく説得力も増すと思うのですが、このためにイベントCGをおこすのも難しい。
でも、この状態では、この場面が何か伝わらないのは間違いない。

まず、この伝わりにくいことを、ブランドさんは理解して欲しい。
シンプルな解決のためには、山元歩未に声を付けるしかない展開だと思います。

歩未の意図に気づくのは、少し後。
純麗は、奏子のアシストもあって落ち着きます。
でも、イベントとして、すごくあっさりしています。
満足そうに一息つく声を入れると、納得しやすい場が出来上がると思います。

その後、ミーナが見せる手品を大袈裟に驚いてみせることも、あえて。
場を和ませる目的です。
ですが、やっぱり画面に映るビジュアルを備え、声を有したヒロインに引っ張られてしまい、
なんだかわからない、理解しにくい、どちらかといえばミーナがかわいかったという場に収まってしまいます。

場がもったいないです。

ミステリにおける緩急でもあるのかもしれませんが、その力が無いです。声が無いばかりに。
この場面は何を表しているのだろうと考えてしまいました。

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本編で、漆黒の存在が問い掛けるのは、乗り越えるための言葉でしょう。
それをぶつける相手に声がない……となると、漆黒の存在役、金通夢科斎さんの熱演がどれだけあっても、
聞いていて、いわゆる「スン……」となりませんか。
声を入れたほうが良い作風だと思います。

少なくとも、ヒロイン達が声を出しているので、どんな会話の応答も「スン……」となりやすいのです。

あと。
「散々いってきたように、今の俺には体力に自信がある。」
「誰に」散々言ってきたのでしょう?
主人公主観の地の文で表す場合、多くの場合、自分を信じて力を引き出すためのトリガー。
暗示のようなものだと思います。
でも、している行動は、ミーナと追いかけっこ。そこまで追い込まれているようにも見えません。
それともメタ的でミステリの鍵なのでしょうか。全ては箱庭世界で第三者が見ているような。きっと違いますよね。
ここは少しわかりませんでした。