CUBEさんの「夏ノ終熄」体験版プレイしました。

CUBEさんの新作は、「夏ノ終熄」。
no5

――限界集落。
そんな表現じゃ生ぬるいほど過疎化したド田舎。
数百メートル以上先のお隣さんは廃墟になっていて、
そこら中にある田畑は、手入れもされずに雑草が生い茂っている。
若者だけじゃなく、年寄りすらも姿を消した、そんな寂れた場所で。
ユウジは、美少女と出会った。

「あの、名前……。ミオ、って言います」
熱中症になりかけ、水も失っていたらしい少女は、
ユウジが差し出した煮沸した湧き水を一気に飲み干すと、名乗ってきた。

恐らく食糧も尽きていたのだろう。
自給自足で生活をしているため、食事を作ることにも準備が要る。
先に出せそうな、湯がいて塩と醤油で味付けしただけの山菜ミズのおひたしもどきを作って出すと、食べ切っていた。

沸かし切っていない、まだ温い薪風呂に身体を沈めながら、ミオはつぶやく。
「もうちょっと生きなさい、ってことかな……」
no6
体験版は、531MBでした。

原画は、うみこさん。
シナリオは、かずきふみさん。
背景は、わいっしゅさん。
音楽は、Peak A Soul+さんです。

体験版は、ほどよく楽しめました。
物語の舞台設定について、色々と想像をしている時は、かなり楽しめていたのです。
商品サイトで紹介されるストーリーに目を通してしまうまでは。

今作は、CUBEブランド初のヒロイン単体作品。
ですので、コンフィグ画面のページ数が少し少ないです。

タイトル画面に流れる静かなピアノの音。
そして、この夏の夕暮れの背景。
何ともいえない時間を感じて、じっくり4ループは聞いてしまいました。
いいですね、この雰囲気は。

さて。
ピアノの優しい楽曲、美しい背景美術が用意された作品ですが、
場は、どこか歪です。

それはヒロイン単体作品だからでなく……。

ともあれ、メインヒロインは、ミオと名乗る少女。

ユウジの居る場所は人の去った集落の外れで、他には誰も居ない陸の孤島であるかのような場所ですが、
対照的に、ミオは街で暮らしていたのだとか。
登場時、スマートフォンのようなものを持っていたり、制服姿があるあたり、
会話からも、街ではそれなりのコミュニティにいたようです。

そして、人間関係が嫌になって出てきたといいます。

コミュニケーションは達者で、自称の陰キャとはまったく逆の印象。
作品設定から、重たくのし掛かるものがあるだろうのに、明るい部分を多く見せてくれます。

このミオを、三咲里奈さんが演じます。
no3

ADVといっても、画面に素材を用意するのはとても大変です。
そこを補うのは声優さんの演技になるわけですが、
三咲里奈さん、さすがに巧いですね。

キャラクタの設定上か、吐息や呼気の演技が多いのですが、
すごく良く伝わる。
なのに、マイクに変な影響を与えたり乗せることがない。

冒頭、ミオが涙ぐむ場面があります。
立ち絵素材としては、通常表情タイプと涙を流している2タイプがあるとして、
その間を繋ぐ、これから泣く、泣き始める演技がすごくいいですね。

さらに。
おにぎりを食べる。これを音で演技してみせるわけですが。
これはすごいですね……。
きちんと歯を打ち合わせた音を乗せてまで、咀嚼を伝えている。

食事をして、少しずつユウジに慣れてくると、生活していく上でやらなければいけないことを一緒にやっていきます。
そこでもミオは表情豊か。
声の演技で表情が豊かになっていくのです。

ビックリするくらい、音を聴いていて楽しいです。


ただ。
繰り返しになりますが、この作品は、舞台が歪です。
ちゃんと学んでおけば良かったな。
みんなが、いなくなってしまう前に。
ユウジは、苦労して就職した会社を辞めて、この場所に来たようです。
土地の人々からはよくされていたのか、
空き家となった家の数々から、自由に使って良いものを示されたり、
自給自足に繋がるような技術や知識を教えてもらっていたり、
それを動画にして稼ごうとしていたりと、なかなか逞しく過ごしているようです。

そうして過ごして半年。
何度となく考えた終わりの前に、ユウジはミオと出会います。

しかし。
no7
体験版の終わりでは、ユウジより先に、ミオに終わりが訪れる示唆がなされています。


何となく、わかってはいたのです。
このカットインからも。そして、かずきふみさんの過去作を思い出しても。no2
ただそれでも、この状況の原因がソレだとは思いませんでした。
いや、ソレを描こうとするとは、踏み切るとは思えませんでした。


難しいところかもしれませんが。
この作品、ジャンルとか、ストーリー紹介とか、公式サイトが掲載しない方が上手いプロモーションになったのではないでしょうか。

面白い作品と捉えていいのかわからなくなってしまっています。

ストーリーに問題があるわけではないのですが、それは、今の現実ともいえるもの。
果たして、フィクションとして楽しめるだろうかという、受け手側の気持ちの問題が沸き上がっています。
現実に終息していれば、また違ったとは思うのですが。
企画は、終息を見込んでいたのかもしれませんね。

描きたいことが、生と死の中にある人との繋がりであるようにも思うので、
そこには期待をしたいとも、思えるのですが。

あとは。希望が描かれているといいな、とも。


2022年8月26日(金)発売予定です。

ダウンロード販売もあります。